狩人の夢、その館にて。
セイアは、テーブルに置かれたモニターを見ていた。
「そうか。やはり老婆も……」
『如何に街を知っていようとも、今宵出歩くのは難しかったようだ』
「……助けに戻れば……いや、過ぎてしまったことか」
今、セイアが見ているのはカオリが歩くヤーナムの街並み。
セイアの因果が断ち切られヤーナムへと赴けなくなった代わりに、カオリ自身がヤーナムの街を散策していた。
どうやっているのか、モニターに映るカオリの姿も見えるように三人称視点……まるでゲームだ。
「ギルバートも、まさか獣になっているとは……」
『彼が患っていたのは獣の病ではなかった……が、後からなど幾らでも機会はあってしまうからね』
因果が断たれたことでもはや獣たちも復活することはなく、凄惨な死体の山が築かれた街並みを彼女は歩いていく。
オドン教会から出ればそこは聖堂街、しかしそこにももはや生き残りなどいない。
『この後は旧市街に行くとしよう。にしても、神秘が濃いな……あんなインフレをするわけだ』
「何か言ったかい?」
『いや、何も』
カオリの呟きをよそに、ヤーナムを巡る旅は続く。
***
一方、狩人の夢の庭園にて。
イズは、ヒトミに手ほどきを受けていた。
「イズさん、いいですか。キヴォトスでは、近接攻撃は主流ではありません。代わりに、銃を使います」
「銃、ですか……私もお父さんのを持っていますけど、あんまり使ったことないですね」
「キヴォトスの銃はヤーナムのものよりも遥かに進歩していて、それだけで獣が狩れそうなほどのものもいくつかあります……とはいえ、イズさんの持つ散弾短銃も十分オーバーテクノロジーなもの。性能は気にしなくても大丈夫ですよ」
「そうなんですか……」
「とりあえず、イズさんは当たらないように気をつけてください。身体強度は狩人基準ではありますが、普通に戻ってしまっているので当たれば十分なダメージになり得ます」
「わかりました!」
「では、実戦です」
ヒトミが消えると同時に、遠い場所で出現する。
その手に持つのは一般的なハンドガン、それがイズへと向けられ、弾が発射された。
「キャッ!?」
飛んできた弾を
しかし身体は追いついていないのか、よろけそうになっていた。
イズは獣ではなくなったとはいえ、その経験はしっかりと蓄積されている。
また、名残としてその身体機能はある程度残されていた。
音を超える程の身体能力についていけるよう、発達した動体視力は音速を超える物体でも目で追えるほど。
遅くなったとはいえ、100m走は5秒ほどだろう。
そんなスペックを無自覚な彼女は、少女時代、もしくは獣化前の感覚で動かしてしまい、身体能力に振り回されてしまっていた。
「……とりあえず慣れましょうか」
「は、はい……」
この後は一般的な小学生レベルの6年間を圧縮して行われるスパルタ勉強タイムが待っている。
残念ながら、手加減などは存在していなかった。
***
ヴァルトールは狩人の悪夢にて一人歩いていた。
もはや獣も生きていない、更地となった聖堂街を抜け、実験棟下の地下牢へと。
その最奥の地下牢をこじ開ければ、そこにいたのは獣の皮を被った男。
「……ほう、これはこれは……ようこそ、寝室に、お主がはじめての賓客だよ……『連盟』の」
「わざとらしいな、『教会の刺客』。別に恨みはないのだが……」 「私を殺すのかね?貴様は……鐘の音が聞こえているわけではない筈だが。なぜ、私の元へきた」
「もはやこの街に生きているのも、お前と俺の二人だけ……殺しはするが、その前に世間話でもと思ってな」
「フハハハ……ハハッ!あの『獣喰らい』が世間話と!笑えるな」
二人は互いに殺気を浴びせつつも、向き合って座った。
獣の皮を被った男、又の名を『教会の刺客』ブラドー。
今となっては意味のなくなってしまった、漁村という秘密を隠す存在。
「あの獣のような狩人はお前の知り合いか、『獣喰らい』。あのような形での混ざり物は見たことがない……あの偽りの英雄が持っていた欺瞞の聖剣を振り回して、いい気なものだ」
「負けた男の世迷言か。情けないな」
「……」
基本、二人の相性は良くない。
しかし二人とも寛容ではあるために、話が終わるまでは殺し合いもしないだろう。
まだまだ夜は永く、朝はやってこない。
ならば語らいも、永く続くのだろう。
「そこに幽閉されているメンシスのはどうする」
「あれは既に気狂いだ、ここを出たら消しておけ」
「ではあそこの大女は……あれはもしかして『ガラシャ』か」
「そうだ……『のろまのガラシャ』。最後まで矜持を貫いたようだが、結局は物言わぬ骸となった」
「あれが死ぬとはな……それもよりによって、獣ではなく人の手でとは……」
そんな話を、彼らはいつまでも続けていた。
ずっと、ずっと……いつか、ヴァルトールが飽きるまで。
***
「ところでだ。聖杯には行ったかね?」
『聖杯?いや、行っていないね』
ヤーナムを散策しながら、カオリはセイアに問いかける。
聖杯……トゥメル、僻墓、ローラン、そして
終わりなき地底へと足を踏み入れる狂人たちの集う場所。
「聖杯はいいところだ。君もいずれ行くといい……イズを連れ立ってね」
『ふむ……そうだね、いつか行ってみることにしようか。キヴォトスのあれこれが済んだらね』
「落ち着けるほど余裕が生まれるといいがな」
セイアは自身の予知夢により見た未来を、カオリは原作知識を思い出し、当分はこなさそうだと思ったのだが。
「ああ、そうだ……セイア、君に予知夢を返そう」
『ん?ああ、そういえば封じてもらっていたのだったね』
今のセイアは神秘に卓越している……それこそキヴォトス1を争えるほどに。
今更になって予知夢に振り回されるわけもない。
『ふふ、今ならば……これも使いこなせるか』
「遠い未来を見るのは、逆に難しくなっただろうがね。あれは神秘の暴走によるものだ」
『未熟な私でも暴走させれば見れたのだから、今ならばさほど難しくもないさ』
「……尤もだな」
そんな雑談を交わしながらも、カオリは残党を狩りつつ街を歩いて行った。