かなり前から考えて作っていたルート別です。
「ねぇ、勘助君。この曲ってさ、なんか盛り上がりに欠けない?」
「サビ前から音を高くしてやれば盛り上がるぞ。例えばこんな風にな」
侑の言葉にギターの音で返したのは勘助である。2人は共に音楽科の授業を受けており、同じ課題を片付けていた。
こうして2人で課題をやるのは初めてではないので、侑も勘助も違和感無く話を続けられた。
「成る程、やっぱり勘助君はすごいね。私なんかまだまだだよ」
「私は好きだぞ、侑さんの曲」
勘助の言葉に赤面する侑。勘助は侑がよくこの手の発言をするのは知っていたのだが、実際の所果林の事務所で音楽の仕事をしている勘助とは差があった。
侑も同好会や授業などを通して曲作りに対して成長が著しいのだが、勘助やミアが言うと嫌味にしか聞こえない可能性もある。
だからこそ勘助は自分の好みで話をする事にした。侑はかなり戸惑っていたが、勘助はしっかりと自分の意見を述べる。
「侑さんは自分が思っている以上に努力家だよ。いつも分からない時は私やミアさんの元に来て聞いてくれるだろ、今時同世代の人間に教えて下さいなんて下らないプライドが邪魔して言えないもんだよ」
「勘助君も今時では?」
「よせやい、ただのシンガーソン軍師だよ」
「充分な肩書きだよね?」
そう言って2人は笑っている。そこで見ている同好会の人達がコソコソ話しているのも知らずに。
「最近侑ちゃんと勘助君が仲良いんだよね、処す?」
「笑顔で何てこと言ってるんですか歩夢さん」
殺意マシマシの上原歩夢の言葉に突っ込んだのは勘助と幼馴染のスクールアイドル優木せつ菜こと本名中川菜々。歩夢は侑と幼馴染であり、尚且つ侑LOVEである。
それもあってか、勘助と侑の仲に嫉妬していた。
「でも確かに勘助先輩と侑先輩ってなんか付き合っててもおかしくないですよね」
「かすみちゃん?」
「ひぃ!? ……だ、だって考えてみて下さいよ歩夢先輩! 侑先輩いつも曲で悩んだ時かすみん達よりも真っ先に勘助先輩の元に向かうじゃないですか」
「それは確かにそうだけど……」
「それに、ミア子から聞きましたけど、最近侑先輩の居残りに勘助先輩が付き合ってあげてるって話しも……」
「は?」
上原歩夢、マジもんの低音ボイスが炸裂した。『悲報』中須かすみガチ泣きであった。せつ菜も勘助と幼馴染ではあるが、そんな事実は聞いていなかった。
「そんな事私も勘助さんから聞いてません! 勘助さん!」
「うぉっと!? 何だせつ菜、どうしたんだ?」
「勘助さん、侑さんと放課後居残りしてるって本当ですか!?」
「そうだよ」
便乗が出てきそうな言葉を発した勘助に絶句するせつ菜と苦笑する侑。
「そう言えば、いつも勘助君私が教えてって言ったら残って教えてくれるよね? たまにでも忙しいとかで断らないのはなんで?」
「え? まぁ、本当に予定無いのが理由だけど。まぁ、予定があっても侑さんの頼みなら聞くよ」
勘助の言葉に侑もありがとうと、言って改めて何で自分のことを気にするのかを聞いてみた。それに対して勘助は……
「侑さんだからな」
「ごめんよく分からない」
「私も分からん。でも、なんか侑さんなら足止められても不愉快とかじゃ無いんだよな」
まぁ、同好会の人達なら喜んでって感じだけどと、勘助は付け足した。
☆
「ねぇ侑ちゃん、勘助君のこと好き?」
「え? ええ!? 急になにさ歩夢?」
帰り際、侑が歩夢と帰っていた時歩夢から質問が飛んだ。
「だって侑ちゃんあんなに勘助君と話して勘助君喋って勘助君と勘助君……」
「歩夢落ち着いて!?」
前言撤回、
「うーん、何でだろうね?」
「え?」
「いや、私もよく分からないんだよね。最初はミアちゃんや勘助君の2人頼りだったけど、いつの間にか曲の事になると勘助君に頼りたいなって思っちゃうんだ。あ、別にミアちゃんが嫌とかそんなんじゃないんだよ?」
「ただ、なんて言うかな……勘助君に私の曲を最初に聴いて欲しいなって思っちゃうんだ」
「同好会のみんなより?」
「同好会のみんなにはしっかりした曲を渡したいから後にしたいんだけど、勘助君には私のありのままの曲を聴かせたいんだよね。そこで勘助君が褒めながらももっと良くなるアドバイスをくれたりしてさ……あれ? 何で私は勘助君に頼りたいって思ったんだろう?」
「侑ちゃんからみて勘助君はどんな人?」
「勘助君は優しくて、周りを見てて、いつでも頼りになる人かな?」
そんな話のキャッチボールを数回しているうちに、歩夢は気づく。侑は確実に勘助に惚れている事。それを侑自身気づいていないこと。
いつも歩夢といるばかりで、異性との恋を一切してこなかった侑に少しばかり生えた心。恐らく勘助もあの様子じゃ気がついてない。お互いがお互いを深層心理では想っているのに。
歩夢は迷う、このまま気づかせず自分だけの侑にするか、少しばかり侑に気づかせるか。散々迷った末、侑の言葉で決意した。
「でも、勘助君ってさ、やっぱりカッコいいよね! ……偶に、せつ菜ちゃんや璃奈ちゃんと話してたら私も混ぜて欲しいけど」
「嫉妬じゃん」
「え?」
「嫉妬だよ!」
決意では無かった。決壊した。こうなれば歩夢は止まらない。
「侑ちゃん! それは恋だよ! 恋! 勘助君の事好きすぎだよ! 私よりも、幼馴染の私よりも! 大好きじゃん!」
「え? ええ!?」
恋という言葉に赤面するが、歩夢は続ける。
「侑ちゃん、質問です! 勘助君含めて同好会のみんなが一斉に質問してきたらどうしますか?」
「とりあえず勘助君は最後かなぁ」
「え? 1番じゃないの?」
「いや、だってあの天才の勘助君だよ? 質問の内容解決するのに絶対時間かかるでしょ? だから最後にして先にみんなを解決してからゆっくり2人きりになっても話し合うんだよ」
「成る程、好きな物は最後に取っておくんだね。じゃあ次! 同好会のみんなが勘助君の取り合いしてたらどうする?」
「みんなを引き剥がして勘助君を避難させるよ? そして、勘助君と2人きりになって落ち着かせたらこう言うの」
「勘助君に近づくなら私に言ってからねって」
「もう独占欲むき出しじゃん!? え? もしかして侑ちゃんって私より重い?」
「重いなんて失礼だね。勘助君が困ってたら私が1番に救いたいだけだよ」
「私よりも酷かった!? ね、ねぇ侑ちゃん。勘助君の事どう思ってるの?」
「勘助君? 優しくて、周りをよく見てて、カッコよくて、みんなにモテて……はぁ、私だけにその顔向けてくれればいいのに」
「アウトじゃないかなぁ!? 侑ちゃんやっぱり恋愛として好き?」
「え? 私が? 勘助君を恋愛として? なんで?」
「さっきまでの言葉を思い返してよぉ!?」
「えへへ……なんてね、ごめん歩夢。私、勘助君の事好きだよ」
「え?」
さっきまでのおふざけはどこへやら、歩夢が侑の方を見ると、顔がほんのりと赤くなっている侑がいた。その後、歩夢の言葉で気づかされたとお礼を言った侑。
「最初はね、本当に分からなかったんだ。でも、勘助君に頼りたいなとか、勘助君を支えたいなとか、勘助君が誰かと話してるから処そうかなとか、思ってたら段々と自分の想いはトキメキとは違うって分かっちゃった」
「でも、璃奈ちゃんとしずくちゃん、ましてや幼馴染のせつ菜ちゃんも告白してるから私なんかが入る隙ないからさ……気づかないフリしてたんだ」
「侑ちゃん……」
歩夢は自虐的に笑う侑を見つめる。侑が自分の心を抑えていた事に驚きと共に自分だけを見なくなった彼女に少しショックを受けた。
それでも、侑の気持ちを聞いて幼馴染として何か声をかけたいって思ってしまったからかこう言った。
「侑ちゃんはね、私だけの侑ちゃんなの」
「歩夢?」
「侑ちゃんはね、幼馴染LOVEにならないといけないの。上原歩夢LOVEにならないと侑ちゃんは偽物なの」
「歩夢!?」
「だからね、今勘助君に惚れてる侑ちゃんは偽物。だから勘助君と付き合ったら、私の事は放っておいて」
「放っておくって……」
「うるさいよ、偽物なら偽物らしく勘助君に告白の一つもしたらどうなの!」
「私は本物の侑ちゃんを見つけるもん。今私が話してる侑ちゃんは偽物だから勘助君と結ばれて、デートして、結婚して、私以外の侑ちゃんになりなよ」
「だから侑ちゃん……偽物なら偽物らしく私以外の侑ちゃんになって!」
無茶苦茶なことを言う歩夢に侑は何も言えなかった。歩夢の眼には涙が一つ以上流れ続けた。少し笑顔になりながら頑張れと、台詞を言っていた。
「ダメだね私……幼馴染失格だ」
「本当だよ、侑ちゃんは失格。でも、偽物の侑ちゃんは私の事より大切な人がいるでしょ?」
「うん。ごめんね歩夢。歩夢だけの私にはなれそうにない」
「じゃあ早く勘助君と付き合って。じゃないと私、偽物でも侑ちゃんのこと貰うから」
「無茶苦茶な幼馴染だなぁ」
涙を流しながらムスッとしている歩夢に苦笑いを浮かべる侑。歩夢は侑とは逆の方向を見ながらこれからどうするかを聞いた。
「とりあえず……私が出来る限りアピールしようかな。勘助君告白しないと気づかなさそうだし、かと言って大したアピールも効かなさそうだし、あれ? どうしよう?」
「私だけの勘助君でいてっていう作戦は?」
「歩夢以外は恥ずかしいかな」
こうして、侑の勘助に対する気持ちを自覚したところで物語は始まる。