「カンスケ! 今日こそりなりーを返してもらうよ!」
「また勝負か? 本当に体力尽きないな愛さん」
「当たり前じゃん、アタシのりなりーを誑かしておいてその告白の返事もしないとか許せないよ」
「ごもっともすぎて頭が痛い」
「だから少しでも反省してもらえるように愛さんが勝負してコテンパンにしてやろうと思ったのに! なんで! 愛さんが連敗してるのさ!」
「だってスポーツとか頭脳戦とか得意だし」
音楽科の教室でそんな会話が響いた。授業が終わった勘助が生徒会室か同好会に行こうとすると、ほぼ毎回のようにここに攻め込んでくる宮下愛。そして勘助を引っ張っては、やれ卓球やらバスケやらのスポーツだけでなく将棋やチェスなどの勝負を挑んでくる。
そもそもの始まりはここにいない第三者である天王寺璃奈という女の子が勘助に告白した事から始まった。
愛と璃奈は互いに親友である。勘助の中川菜々LOVE(幼馴染として)と上原歩夢の高咲侑LOVEに続いて(幼馴染以上として)に続いて第三勢力である宮下愛の天王寺璃奈LOVE(大親友として)が生まれている今、その大親友が同好会のメンバーに告白して愛は寂しくなったのだ。
だからこそと言ってはよく分からない話だが、愛は勘助をライバル視して毎度の様に勘助に勝負を挑んでくる。こうした空き時間のスポーツ勝負だけでなく、学科以外の二年生基礎科目テスト勝負や、同好会内での練習にマネージャーの勘助を連れ回してランニング勝負やダンス勝負など、あげたらキリがないくらいライバル視して勘助と戦っていた。
宮下愛は部室練のヒーローと呼ばれるほどスポーツ万能でありながらも、頭脳も明晰である。ギャルらしく高いコミュニケーションを持ち合わせているので人間として完璧であった。
それでも、勘助は強かった。誰が呼んだか分からないが、彼は虹ヶ咲スクールアイドル同好会のマネージャー兼天才軍師と呼ばれた男。学力では当然の如くオール満点の成績を叩き出し、軍師とは呼べない程の運動神経(幼馴染の菜々と遊び尽くしてた時に成長させた運動神経である)を持ち、球技だろうがダンスだろうが歌だろうが一切関係なく愛を倒した。(ダンスと歌に関してはアイドルとシンガーソングライターの勝敗基準もあったのでそこだけは健闘を讃えるだけだったが)
ただ、愛の場合あまりにも負けまくってるので悔しさも兼ねてリベンジをしている。
「それで? 今日は何するんだ?」
「今日は将棋! りなりーに相応しいのは頭脳明晰な人だから、それで勝負やろう!」
「分かった」
愛のハイテンションに対して軽く頷く勘助、愛は約束をしてそのまま教室を出た。
「相変わらずライバル視されてるね勘助君」
「おう、侑さん。別に璃奈さんともっと仲良くなれば良いものを、なんでライバルを減らす事にしてるのか分からないけどな。そんなわけで少しだけ練習遅れるわ」
「まぁ、勘助君も愛ちゃんも練習はしっかりやるから問題視してないよ。ただ、やる気過ぎてみんなが戸惑ってるけどね」
「本当だよ、勘助と愛がランニングのペース上げるから、せつ菜が練習メニュー過酷にするって言いだしてみんな悲鳴をあげてるんだからな」
愛が教室を出てから侑とミアが勘助の元に来て話をした。勘助はミアの言葉に苦笑いをして、謝る。
「でも、勘助君と戦ってる時の愛ちゃん楽しそうだよ」
「そうか? ライバル視されてるのに?」
「ライバルだからこそ戦ってる時楽しいって思えるんじゃない? 僕だって……」
「僕だってなんだ?」
「いや、なんでもないさ」
ミアの気持ちとしては音楽科で争えるライバルの勘助に会えてよかったと思っていた。テイラー家の1人娘として自分の力だけで作曲をし続けた彼女だが、勘助のみんなの力を借りて作曲するという新しい流儀に最終的には心を打たれた。
それ以降彼女は勘助の曲を認めながら、1人のライバルとして切磋琢磨出来たことに口では恥ずかしくて言えないが、心の底では喜んでいたのだ。
「実際勘助は愛ちゃんの事どう思ってるの?」
「まぁ、正直好きだよ。愛さんとこうして過ごすの」
「付き合いたいって思わないの?」
「どうかな……」
侑に対しての勘助の返事は曖昧なものだった。勘助曰く、向こうから見れば親友の心を奪った人間だから。そうは言っていたが、少しだけソワソワしていたのをミアは見逃さなかった。
「勘助」
「どうしたミアさん?」
「勝ち続けろよ」
「はい?」
「愛にさ。きっと勘助の気持ちはいつかきっと愛に届くよ。君が曲に対して考える大切な事を僕も教えられたんだ、だから、Don’t worry.大丈夫」
「な……何を……」
何を言っているんだ。そう言いかけて、少し黙った。
「まぁ……うん。まだ、私もはっきりしてねぇけどな」
「勘助君って可愛いよね」
「どういう事だよ!?」
「いや、男の子ってもう少し恋愛にガツガツ行くかと思ってたから。勘助君みたいにピュアな男の子ってあんまりいない……よね?」
「僕に聞くなよベイビーちゃん……でも、勘助は確かにアレだよね、えっと……ウブ?」
「私本当に嵐珠さんとミアさんってどうやって日本語学んできたのか気になるんだが」
勘助の言葉に侑も同意しながら和やかに話した。ミアは、勘助の問いに対して内緒だと言って教室を去っていった。
☆
「ねぇ、カンスケ」
「どうした愛さん?」
「なんでりなりーと付き合わないの?」
パチッ、パチッ、と盤の上で将棋を指す音が響き渡る中、愛が勘助に話しかける。勘助は愛の問いに対して
「璃奈さん達にはまだ言ってないが、少し気になる人が出来たんだ」
「は? 処刑だね」
「ちょっと待て、なんでさ?」
勘助がそういうと愛がキレた。
「あんなに可愛いりなりーを差し置いて他に好きな人出来たとかありえないんだけど!」
「愛さん、落ち着いて……」
「落ち着けないよ!? せっつーにしずくだって可愛いじゃん! 何でその子達差し置いてんのさ! 同好会以外の女の子好きになったら愛さん許さないよ!」
「大丈夫、同好会の女の子だから」
「絶対に許さな……え? 同好会なの?」
「おう」
まだはっきりとしないけどなと、笑いながら王手を掛けた。愛は愛で勘助の好きな人を根掘り葉掘り探ろうとしたが、完全に避けられた挙句、将棋の盤面を詰み寸前まで追い込まれた。
「勘助! 教えてよ!」
「私に覚悟が出来たらな。ほら、この一手で詰みだ」
「え、ちょっ、ああ!! 負けた!?」
「最後の差しが甘いよ。でも、最初と中盤は危なかったな」
「悔しい! 勘助もう一回!」
「同好会終わったらな、私これから作曲するから」
「またやるよ、約束だからね!」
「ああ……絶対やるぞ」
そう言って2人で片付けて同好会に向かった。勘助は愛の約束という言葉に対して、嬉しそうに絶対をつけて約束をやり返した。
☆
「それでさ、カンスケ結局教えてくれなかったんだよ」
「そうなんだ」
宮下愛は昼休みに親友である天王寺璃奈と昼食をとりながら、勘助の話をしていた。愛はいつまでも自分の好きな人を言わずにのうのうとしている勘助に少しだけ腹を立たせながら璃奈に話をする。
「こんなに可愛いりなりーの告白に返事もしないなんてカンスケ酷すぎない?」
「可愛いって言われたら照れる。璃奈ちゃんボード『てれてれ』」
いつものようなやり取りをして愛が璃奈を抱きしめた時、璃奈は愛のことを呼んで一言言った。
「でも、私は勘助さんが好きな人分かるよ」
「え? りなりー、カンスケの好きな人分かるの!?」
「うん。私やしずくちゃん。せつ菜さんよりも一緒にいたら楽しそうにしてる」
「誰!? 教えてよ!」
「ええと、多分コレは愛さんには言っちゃダメな気がする」
「どうしてさ?」
「自分で考えて欲しい。こっちはフラれてるようなものだからその話をしないで」
「えぇ……気になるな。でも、りなりーがあまり聞かれたくないなら我慢する」
「うん。それが愛さんの良いところ。でも、一つだけ愛さんにヒントあげる」
「ヒント?」
「灯台下暗し」
「はぁ?」
納得も意味もよく分かっていない愛に対して、灯台の絵を描いたボードを顔につける璃奈。愛はそのまま納得行かずに、昼休みが過ぎていった。