「カンスケ、運動部手伝って!」
「おう」
「カンスケ、今日うちでもんじゃ食べに来てよ!」
「それじゃあお邪魔する」
「カンスケ、今日の愛さんどうだった?」
「相変わらず眩しい笑顔だ。ダジャレもしっかりと場を凍らせてた……和ませてたぞ」
「今凍らせてたって言わなかった!?」
「言ってない言ってない、はいはい、もんじゃもんじゃ」
「適当過ぎない!?」
勘助の恋愛心理戦宣言から数日後、愛は勘助の事をよく誘い、勘助の側にいることが多くなった。それに気づいた侑は璃奈やかすみと話している。
「なんか愛ちゃん勘助君にすごい懐いてない?」
「愛さんはもう勘助さんの手に落ちた。璃奈ちゃんボード『即落ち2コマ』」
「りな子絵面危ないからやめて」
「カンスケ、今日の練習なんだけどさ」
「ボイストレーニングなら任せろ。こっちは見習いと言っても歌で金貰ってるんだ。やるなら頂点を目指すぞ」
「サンキューカンスケ!」
「練習終わったらタピオカ食おうぜ」
「え……た、タピオカはちょっと……」
「何でさ? 愛さんも好きだっただろ?」
「いや、好きなんだけど……カンスケが毎回行くたびに10杯飲んでるの見て……体重が……」
「運動すれば落ちる。むしろ愛さんはもっと食べてもいいと思う、私は関係無いけど」
「カンスケは何で体重増えないの!?」
「体重管理も軍師としての仕事のうちだ。自分の事ができなくて他者に指示出来るかよ」
「ちなみに……体重どれくらい?」
「50」
「おかしいよ!? 身長170くらいだよね!?」
「ああ。170センチの50キロ」
「愛さんがおかしいのかな……いや、でもカンスケが女の子ならワンチャン?」
「俺は男だ」
たわいもない会話からまるでコントの様な会話が出てきた。聞いていた周りの人も勘助の体重を聞いて絶望する少女達ばかりである。だが、それと同時に愛と勘助の会話内容は聞いていて飽きなかった。
「なぁ、愛さん」
「どうしたのカンスケ?」
「いや、何でもないわ」
勘助はそろそろ付き合って欲しいと言いたかった。だが、まだ早いのと愛のタイミングを待つ事を決めて口を閉じた。愛は勘助の言葉が気になって何度か聞いたが、勘助はしらを切ったのだった。
☆
「ようこそカンスケ」
「一名様です」
「いや、そうなんだけど、そうじゃない」
「何で言えばいいんだ? 友人の家が店だった時にお邪魔しますって変じゃないか?」
「ええっと……まぁ確かに。でも、愛さんはお邪魔します。でいいと思うよ」
そんな会話をしながら勘助は愛に誘われたので愛の店に放課後来ていた。何度か同好会のメンバーで来た事はあるが、1人で来たのは初めてである。勘助はとりあえずと、一言言って客としてもんじゃを頼む。
「愛さんのオススメのもんじゃと、このメガ盛りお好み焼きを頂こう」
「オッケー! 愛さんのオススメと……え!? メガ盛り!?」
「腹減ってるんだ」
「いや、そう言うんじゃなくてコレ、パーティとか宴会用の10人前お好み焼きだけど……」
「らしいな、一つ頼むぜ」
「の、残さないでよ?」
「無論だ」
そう言った勘助に驚きながら愛は注文通りに持ってこようとして裏に行った。
「貴方、そのメニュー食べ切れるの?」
不意に、隣のテーブルから声が聞こえた。勘助が見ると、若く、大人しそうな女性がテーブルに座り勘助を見ている。
「まぁ、言葉じゃなくて行動で示しますよ」
ハッキリと、女性に対してそう言った。しばらくして、愛が勘助のオーダーを持って来た。勘助は愛の手本通りにお好み焼きともんじゃを焼いていく。
「流石10人前だな、ひっくり返せねぇ」
「こういうのは割と勢いも大事だよ」
「よこい……しょういちっと!」
愛の言葉通りに勢いよく返したお好み焼きは形が崩れる事なく、綺麗にひっくり返った。しばらくして、焼き上がり実食の時間だ。
勘助は何も気にせず次々と切り分けたお好み焼きを平らげながらまるでご飯とおかずを食べる様に、お好み焼きを食べてもんじゃを口に含んでいく。
愛も、テーブルの女性も他の客も勘助に釘付けである。
「うん……ご馳走様。やっぱ店で食べると美味しいな」
「本当に全部食べちゃった……」
「カンスケ大食い大会出れば?」
「昼しかここまで食べないから無理」
それよりも勘助は隣のテーブルにいる女性が気になった。念のため話しかけてみたところ、女性は少し笑いながら言った。
「愛ちゃんの彼氏さんが気になったの」
「愛さん知り合い?」
「そういえば紹介してなかったね。アタシのお姉ちゃんだよ」
「お姉ちゃん?」
「川本美里です。愛ちゃんとは血は繋がってないけど姉妹みたいなものなのよ」
「なるほど。私は山本勘助です。愛さんとは友達以上恋人未満だと信じてます」
「ちょっとカンスケ!?」
「愛ちゃんから話は聞いてるわ。同好会で頼れる人だってよく話してるもの」
「それにテレビでもたまに顔を見かけるから、私としては初めましてって感じでもないかな」
「まだ新米なのでテレビは偶にしか出てませんが、知ってくれて嬉しいですね」
少しながら顔を赤くする愛を見ながら、美里と勘助は話す。美里から愛との関係を聞かれたので、一応告白したと勘助は言った。
「まぁいつか惚れさせるので、その時はよろしくお願いします」
「良かったわね愛ちゃん。私に弟が出来るわ」
「よ、よくは……うん、良いんだけど……」
「早く返事しないと逃げられるわよ」
珍しく美里が愛を諭す。それを見た勘助は本当の姉妹の様に見えたので微笑ましく笑ってしまったのだった。
☆
「本当に泊まって良かったのか?」
「うん。お姉ちゃんもあんな調子だし、今日は愛さんの部屋で泊まってよ」
「それに、怖いから……さ」
カンスケはご飯を食べた後、そのまま帰ろうとしたら愛と美里に止められた。理由は色々あるが、1番は勘助が帰ろうとした瞬間、大雨が降り注いだからである。
勘助も悩みに悩んだが、稲妻が一つ走った瞬間、雷が苦手な愛に抱きつかれた。そのせいで、愛を悲しませる様なことは出来ないと思った勘助はそのまま泊まって愛の恐怖心を減らす事を1番とした。
「愛さん、私はここにいる。もし雷が嫌になったらこいつで掻き消してやろう」
近所迷惑にあるがなと、勘助は練習帰りのため偶々持っていたアコギ(デストロイモード)を指差した。勘助なりの冗談ではあったが、愛は心底安心していた。
「うん……ありがとう、カンスケ」
「貴方だからそう言うんだ」
勘助は愛の安心した姿に笑顔を浮かべる。少し経ってふ愛から借りた布団の上に座って、愛と向き合った。
「ねぇ、カンスケ」
先に話し出したのは愛。
「カンスケはさ、何でギター弾いてんの?」
「話は見えないけど……まぁ、自分のためだろ」
「えっと、カンスケってお父さんが亡くなったじゃん。でも、お父さんのギターって気に入らなかったんでしょ? それならギターにも手出さないんじゃ……」
「ああ、親父を反面教師として見なかったかってことか……」
「まぁ、少しは考えた事はある。それに、ギターを弾きたくなかった時もある」
「じゃあ、どうして? やっぱせっつー?」
愛の問いに勘助は答える。
「実はな、私には憧れの人がいたんだ。親父と菜々以外にな」
「え?」
初めての話だった。勘助は菜々と父親、そして今の音楽科の仲間である侑とミア。この4人が勘助のライバルだと愛は考えていた(菜々は幼馴染なので、憧れというよりは仲間だと思うが)
そこから本格的な音楽というジャンルから考えると、ミアか勘助の父親だと愛は信じていた。それでも勘助はその人たちでは無いと言う。
「アニメのキャラでな。真面目で真っ直ぐなギタリストがいたんだ。設定では大学生だから私より年上なんだがな。妹に負けたくない一心でギタリストになった女の子キャラがいたんだ。それを私は親父に負けたくない自分に照らしてた。だからかな、ギターを辞めるにやめられなかった。その人の言葉を借りるとしたらだ」
「私にはギターしかないのって感じだ」
「へぇ……そんなに凄い人なの?」
「まぁ、アニメだからと言われれば終わりなんだが……昔の、いや、今の私もまだ追いつけない凄い人だと思っている」
「アタシかは見て、カンスケもカンスケで凄いと思うよ」
「私が?」
愛はしっかりと頷き、勘助に自分の思うところを言った。
「カンスケのギターだけじゃなくてさ、カンスケがいつも周りを見てるの知ってるよ。普段はゆうゆと話したりギター弾いてて落ち着いてる様に見えるけど、アタシ達含めた何個かに分かれたグループの会話に一言ずつ思った事を言ってくれるし、カナちゃんやカリンが行方不明になっても秒で見つけてくるし、りなりーの表情もある程度分かってるんでしょ? それに、カンスケに話しかけたら絶対にギターを置いてまっすぐ眼を見て話してくれる。それって実は凄いことなんだよ」
「果林さんは迷子常習犯だし、彼方さんは寝そべり人間だから集中しないと消えてるんだよ。グループ会話は必ずと言っていいほど突っ込まないといけない会話を1グループ1人してるから手に負えないし、眼を見るなんて当たり前だ」
「カンスケ知らないと思うけど、カンスケ以外の男子って愛さんが話しかけると眼を逸らすし、身体ばかり見てるよ」
「眼を逸らすのは愛さんの距離が近くて恥ずかしいからだろ。身体は……まぁ、偶に愛さん際どい格好してるからな。私はあまり見せないで欲しいが」
勘助の言葉に少しだけ動揺して顔を赤くする愛。ちなみに勘助は幼馴染の菜々が異性というのもあって視線には気をつけていたと話している。
「確かにせっつーは脱いだら凄いよね。羨ましいよ」
「貴方も負けてないと思うぞ。人には人の乳酸菌のように、人には人に合う体格ってのがあるしな」
「カンスケって本当に健全な男の子?」
「無論だ。とにかく、自然に視線には気をつける。どうだ、偶にはシャレを効かせられるだろ?」
「微妙かなぁ」
「笑えよ!?」
嘘嘘冗談と、四字熟語の様な発言で笑い出す愛。勘助も愛と一緒に笑っていた。
「カンスケ、ありがとう」
「何が?」
「愛さんが雷怖いって言ったから笑わせてくれたんでしょ?」
「いくら軍師でもそんなこと出来るかよ。でも、私は怯えてる愛さんより、笑ってくれる愛さんの方が好きだ。勿論怯えてる愛さんもそれは愛さんだから好きだけどな」
「カンスケが3人に告られた理由がよく分かったよ浮気者」
「失礼な愛さんに対して純愛だよ」
「愛だけに?」
「愛ゆえに。それと、別に親父のギターが嫌いな訳じゃないぞ」
「え? そうなの?」
「私が嫌いなのは自分のせいで母さんが癌になったと言い張って引き篭もった挙句、私に構ってくれなかったからだぞ」
「拗ねてたって事?」
「まぁな。親の脛齧りながら拗ねてた」
「上手くないよ」
「そろそろ泣くよ?」
勘助はあまりダジャレは言えないが、今のは狙って言えたと思っている。だが愛に論破された。少し悲しくなっていたら、突然自分のいる場所から音がしたので、見てみる。愛が勘助の隣に来ていた。
いきなり近くまで来た愛に対して驚きながらも好きな人が目の前にいるドキドキで顔が赤くなる。
「おっ、照れてるね」
「当たり前だ! 私は告白したんだぞ!?」
「うん。だからそろそろアタシも答えを出そうかなって」
「え……ちょ、緊張するって」
「いいじゃん、カンスケもそろそろ待ちきれないでしょ? ごめんね待たせて」
愛の言葉に勘助はかなり鼓動が速くなっていた。同時にかなり不安になる。ここまで待たされたというと聞こえは悪いが、待ったのは事実。時間が過ぎれば過ぎるほど勘助は不安になったのは言うまでもない。
愛はそれを分かっていたので、一言謝った。
「あ、愛さん。私は……その、凄く、怖い」
「だよね、散々待たせたからそうなっちゃうよね。本当にごめん」
「いや……それでも、もう一度、私から……俺から言わせてくれないか?」
「え?」
愛が返事をする前に、勘助は愛の眼を見て
「愛さん、今でも俺は愛さんが好き。付き合って下さい」
ハッキリと口にした言葉に愛は勘助の眼を見て
「うん。こちらこそよろしく。カンスケ」
こちらもハッキリと返した。
「え……え?」
「どうしたのさ、そんな顔して」
困惑した勘助だが、少し黙りこくった後
「少し……本気で泣くわ」
「カンスケ!?」
号泣した。愛が急に泣いた勘助に驚きながらどうしていいかわからずオロオロしていたが勘助は泣きながら話す。
「悪い……嬉しくてな」
「普通逆じゃない!? アタシが告白されて泣くとかじゃないの?」
「そんなの……漫画や……アニメだけ……ぐっ……別に、男が泣いても……いいだろ」
最後まで何とか言葉を紡ぎ涙を流し続けた勘助。愛は、そんな勘助の頭に手を乗せて、撫でた。
「なんか、カンスケ子供みたいだね。あんなに学校では大人っぽいのに」
「高校生は……子供だ。育ててくれた親も……今はいないから子供のまま、姿だけ大人になっただけだ」
「そっか」
「愛さん……好きだ……ありがとう」
「うん。アタシも、やっぱカンスケが好きだよ。ずっと返事待たせて、ごめんね」
結局、この日は勘助が泣き止む事はなく、愛も雷が怖いのもあったので、一緒の布団で寝ることにしたのだった。