「勘助さん、お待たせしました!」
「待ってないよ、それじゃあ行くか菜々」
とある休日、山本勘助は幼馴染の中川菜々とデートに出かけた。
菜々達から告白された後、勘助は菜々を選び付き合った。幼馴染だからこそ趣味も合い、2人は恋人として楽しい時を過ごしながら今日もデートに出かけている。
行くところは大体アニメショップだが、菜々や勘助の提案で、ゲーセンや水族館などに行く事も増えお互いに退屈しない様に心がけていた。
「勘助さんは何を買うんですか?」
「ライブのDVDだな」
「それって確か勘助さんの好きなアニメでしたよね?」
「ああ。俺がギターを嫌いになった時に見たアニメだ。彼女のおかげでまだギターを弾いている」
「なんか恋人以前に幼馴染として負けますね」
「勿論菜々にも感謝している。両親共々葬られた時は心が死んだからな、菜々がいなければ最悪この世にいなかったかもしれん」
「何と言うか……ありえない話では無いですよね」
「ありがとう菜々」
勘助はそう言って菜々に笑いかける。あの時菜々が勘助を励ましたからこそ、そばに居たからこそ勘助が立ち上がれたのは事実。
だからこそ勘助は菜々を絶対的に信頼しているし、好きになった。元々菜々に好意はあったが、最大のキッカケはこの出来事である。
そんな話をしながら2人はアニメショップに行って、それぞれ好きな物を買い、2人で笑いながら店を出た。その時に1つ呼びかける声が聞こえた。
「すみません、優木せつ菜さんですよね?」
2人が声のする方を見ると女子高生何人かが菜々について話していた。菜々は優木せつ菜としてスクールアイドルをしている。虹ヶ咲で正体をバラしてからは優木せつ菜の格好で菜々になる事が多く、眼鏡をかけていないので変装もしてなかった。
「優木せつ菜は私ですが?」
「本物だ! あの、サイン貰って良いですか?」
「わ、私も握手して下さい!」
「え、えっと……」
「良いんじゃないか、そこまで時間も取らんだろ? 俺は少し離れておくよ」
困った顔で勘助を見た菜々だが、勘助に促されファン対応をする事にした。
勘助は少し離れたところから菜々を寂しそうな眼で見ていたが、やはり有名人なんだなと自分に言い聞かせて彼女を見ていた。
「あの……山本勘助さんですよね?」
「え? ああ、そうだけど菜々……優木せつ菜ならあっちに居るからサイン欲しかったらあちらで並んで下さい」
勘助にも1人の女性が話しかけてきた。勘助は菜々とデートしていたのもありマネージャーか何かと間違われてると考え菜々のいる場所を指さしてサインが欲しければ並ぶ様に指示を出したが……
「いえ、私は勘助様のファンなんです。サイン頂けませんか?」
「え? 俺……いや私の?」
「はい。お願いします」
どうやら彼女は勘助自身のファンであったらしい。少し戸惑いながらも勘助は彼女の出した色紙にサインをした。ついでに握手もしてあげれば女性は満足そうに去っていった。
「珍しい人もいたもんだな、あんまりテレビには出てないからファンなんて虹ヶ咲の軽音部くらいかと思ったが」
そう1人で言いながら勘助は菜々の方を見る、少しだけ苦しそうな笑顔を浮かべた菜々と眼があったが、少しだけ多くいた人のファン対応が大変なんだろうなと気にしなかった。
「勘助さん……」
☆
「侑さん、相談があるのですが」
「勘助君の事?」
翌日勘助が不在の時、同じ同好会のマネージャーである高咲侑に相談したのは中川菜々である。
侑は一瞬で何の相談か口にしたので菜々は少し声を大にして何で分かったのかと、彼女に言った。
「いや、菜々ちゃんが相談するのってスクールアイドルか勘助君がらみだし、でもスクールアイドルに関して同好会の時に話をしてるから消去法かな。どのみち勘助の悩みってのは珍しいけどね、喧嘩でもした?」
「なるほど……いえ、勘助さんとは仲は良いですよ。昨日もデートの後、私の家で過ごしましたから」
「じゃあ……避妊失敗した?」
「侑さん!?」
侑の衝撃な一言に顔を赤くする菜々、対して侑は冗談だよと、デリカシーの無い言葉に対して一言謝った。
「か、勘助さんとは……その……たまになら私から誘ってシますけど……でもそう言うのはしっかり注意してると言いますか、むしろ勘助さんが慎重過ぎるので私がリードしてると言いますか……」
「ストップ菜々ちゃん。私が悪かった、というかそれ聞いて私は勘助君達とこれからどう接すれば良いの……」
「と、とにかく勘助さんとシてるときは心配無いんです! というかもっと違う話でして……」
「違う話?」
「私は勘助さんと釣り合うのでしょうか?」
菜々から告げられた言葉にかなり驚いた侑。一瞬菜々が何を言っているのかわからなかった。
菜々と勘助は幼馴染である。いついかなる時もほとんど一緒で、スクールアイドルをする人とそれをサポートする人の二人三脚で虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のエースと中須かすみ部長にも呼ばれている菜々、そしてそのパートナーに相応しい人間だと同好会全員が満場一致で答える勘助。
それだけでは無い。普段の日常もアレやソレの一言で伝え合い、スクールアイドル同好会としてケジメをつける為、虹ヶ咲学園の全員に交際を発表した際は批判どころか応援や歓声に包まれ、日常生活では山本勘助と中川菜々を見守る会(別名、幼馴染応援団)も立ち上げられた。ファンの間で2人のプライベート中のサインや握手などのファン対応についてルールが作られるほど、多くの生徒は見守っているのだ。
そんな事は梅雨知らずの2人ではあるが、菜々が勘助に対してそう思っているのが侑は意外であった。
「何かあったの?」
「先日勘助さんとデート中にある女性が勘助さんにサインをねだってまして。ほら、勘助さんって果林さんと同じ事務所にいてたまにテレビに出てるじゃ無いですか? たまに有名なバンドの方とかに曲を作ってますし、方や学校の中だけのアイドルで、方や世界を目指すシンガーソングライターって考えたら釣り合わないと思ってしまって……」
「菜々ちゃん、それ言っちゃったら仮に同好会の菜々ちゃん以外の人と付き合っても全く同じ話になるよ。それが一般人ならもっとそうなるんじゃない?」
「うっ……それは確かにそうですが……」
「というか勘助君も全く気にしてないと思うよ? 菜々ちゃんは勘助君の支えになってあげれば勘助君も喜ぶと思うけど」
冷静に考えて言った侑の正論が菜々の胸にブッ刺さった。菜々は確かにとは頷いたが、心の底ではやはり不安になる。
そんな様子を見かねて侑が放った言葉は……
「そこまで不安なら押し倒せば? 私だけの勘助でいて! って」
「正直に言うともう何回か私が我慢出来ずに押し倒してます。性的に」
「それは今聞きたくなかったなぁ……そうじゃなくてさ、真剣に勘助君に向き合って、不安だって事言ってみたらって事なんだけど」
「た、確かにそれはアリだと思います。と言うか、侑さんにしては少々過激ですね」
「一線越えまくってる菜々ちゃんには言われたくないよ。まぁ、私も色々経験してるからね」
「もしかして実体験ですか?」
「ノーコメントで。でも、大好きを貫くなら面と向かって言わないとダメじゃない?」
目を逸らした侑がその答えであった。侑の言葉を少し考えて、押し倒すかどうかはさておきやってみると菜々はお礼を言って、侑と別れた。
「それにしても菜々ちゃん保健体育苦手とか少し言ってた気がするけど……あ、勘助君が奥手すぎて克服したんだっけ。それにしても……」
まさか真面目同士の2人がもう恋人との一線を超えているとはと侑は驚いたが、同時に、付き合ってる男女であるのもあり性的な事もお互いに同意ならば一種のコミュニケーションでもあると考えた。
「侑さん、お疲れ様」
「あ、勘助君。お疲れ様。生徒会は?」
「終わったよ、所で一つ相談があるんだが良いか?」
「勘助君が? 言っておくけど音楽関係は無理だよ?」
侑が練習メニューを考えようとしていたら、生徒会で同好会に不在だった勘助が来た。勘助曰く侑に相談があるらしいが、音楽関係なら勘助やミアが侑より優れているので力になれないと言っておいた。
「侑さん、音楽科なんだから少しは質問に答えられないと苦しいぞ?」
「いや、まぁそうだけど勘助君やミアちゃんには負けるからね」
「まぁ、今回は音楽とかじゃなくてな、菜々の事なんだ」
「菜々ちゃん? 何かあったの?」
先程相談に乗った相手、中川菜々の名前を言われて動揺するが、顔には出さず相談に乗ることにした。
「私は菜々と釣り合ってるか?」
侑は頭を抱えた。菜々も勘助も全く同じことで悩んでいることに対してバカップルだと思ってしまったからだ。
「えっと、一応聞くけどどういうこと?」
「菜々がサイン求められていてな、方や有名なスクールアイドルで同好会のエース、方やまだ売れてもいないただの自称シンガーソングライター、釣り合わんと思わないか?」
「勘助君って菜々ちゃんの話絡んだらバカだよね」
「侑さん!?」
勘助の話を聞いてついストレートに言葉が出てきてしまった侑。勘助も急な暴言に驚いてしまった。
「大体私からみたら、売れる売れないはさておき果林さんと同じ事務所に受かるだけでもすごいのに、テレビ出てたり有名バンドに曲作ったりしてる勘助君も、スクールアイドルとして活躍してる菜々ちゃんも雲の上の存在だよ」
「侑さんだって菜々やスクールアイドルにときめいたってだけで独学でピアノマスターしてるだろ。側から見たらバケモンだぞ」
「そういう勘助君だって、ただのシンガーソングライターとか言ってるけどテイラー家のミアちゃんと抜きつ抜かれつの張り合いしてる時点で化け物だと思うよ」
「ミアさんは私の宿敵だからな。勿論侑さんだって……いや、音楽を愛してる人全員ライバルで仲間だ。みんな友達、みんなライバル」
勘助の言葉に感嘆の声を上げながらも、不安になる事はないと侑は話す。それでも勘助からしたら不安の種は取れないので、侑は先に謝っておくと前置いてから話をする。
「あまりこう言ってもアレだけどさ、菜々ちゃんがスクールアイドルしてもグッズの代金とかは部費や学校に当てられるって知ってるよね?」
「ああ、あくまで部活であってバイトではないからな。それがどうした?」
「対して勘助君は事務所にし所属してる分音楽でお金を稼いでるよね」
「まぁ、そこまで多くはないがな……ああ」
なるほどと、勘助が言ったが表情は晴れない。侑も恐らく自分がそうなると考えたから謝ったのだろうと思いながら結論を出した。
「金銭的な面では私の方が優れてるってか?」
「ごめんね、あまり良い気持ちじゃなかったよね。でも、釣り合う釣り合わないって話はこういうのにも多少はあると思うからさ」
「いや、まぁ確かに侑さんの言うとおりなんだと思う。だけど……」
「うん。多分勘助君もそう言う話じゃないんだろうなとは思うけどね」
「金銭的な話では私も菜々も納得はしないな」
「つまりそう言う事なんじゃないかな?」
「はい?」
流石の勘助も話が見えなかったが、侑は続ける。
「金銭的な話でも、音楽の話でも、きっとどんな話をしても立場とかって上下つけられないと思うんだ。勘助には勘助君の凄さがあるし、菜々ちゃんには菜々ちゃんの凄さがある」
「だから勘助君はただ菜々ちゃんがどこかに行かないように、愛してあげれば良いと思うよ」
「侑さんってさ……なんでモテないんだ?」
「しばくよ?」
「怖」
せっかく良い話をしてあげたのに勘助の一言で台無しであった。
「私がフリーだったら侑さんに告ってたな」
「その場合、菜々ちゃんとしずくちゃんと璃奈ちゃんに刺されるよ。後歩夢」
「侑さんが彼氏作るの大変そうだな」
「サラッと話逸らさないで、後私だってその気になれば……」
「歩夢さんがキレるぞ」
「無理かもしれない。でも、勘助君ならワンチャン?」
「悪いが私は菜々に一生を予約されてるんでね、ありがたいけどごめんな」
「もし私と歩夢と勘助君が幼馴染だったらどうしてた?」
「さぁ? でも、その時は歩夢さんか侑さんになるんじゃないか? 私に好かれるのが嫌じゃなければな」
勘助の言葉にそれはないと断言しながらも笑ってくれた侑。改めて勘助は侑の眼を見て言った。
「とにかく、侑さんの言うとおり菜々を信じることにするよ。私は私、菜々も私だと考えて」
「菜々ちゃんは菜々ちゃんでしょ、なんか怖いよ」
「この前菜々が私は山本勘助ですって意味不明なこと言ってたぞ。私のギター無断で引っ提げて。弦が切れたから交換しないといけなくなった」
「何してるの菜々ちゃん……というかやっぱ本当だったんだ、勘助君以外の人が弦に触れると切れるって」
「そうだよ。ユニコーンって吠えたかったんじゃないか? あいつもあのアニメ好きだし」
「やっぱり幼馴染だけあって勘助君も菜々ちゃんに対してだけあいつとかお前とか言うよね、私たちの時は貴方なのに」
「あいつに関しては会話内で指し示す言葉だから使うけど、お前はあまり使いたくないぞ。ごく稀だな、呆れた時とか突っ込みくらいしか使わん」
「例えば私がときめかないよって言って宙吊りになりながらパンツ見せてたらお前何してんだ言うの?」
「何か言う前に救急車呼ぶだろ普通」
勘助は侑の例えに呆れながらも当然の措置を取ることを約束した。
「それじゃあ、私は菜々の元に向かうわ。侑さんもあまり無理するなよ。何かあったら私に言え、ミアさんでも良いが、少なくとも私たちなら解決出来ない事はない」
「ありがとう。でも、すごい自信だね」
「私だけならともかくミアさんがいる。それに、悩んでいても侑さんだって悩むだけで解決しない人ではないだろ? 3人揃えば若手の知恵だ」
「文殊の知恵では?」
「文殊なんて古い、今は若手だよ」
そんな冗談を言いながら勘助はお礼を言って去っていった。
「勘助君って本当凄い人だなぁ、菜々ちゃんもあんな幼馴染が彼氏なんて幸せだろうなぁ……あれ?」
勘助が去った後、侑はふとポケットの中に何かが入ってる事に気がついた、ポケットから出てきたのはキットな切り方をしたチョコレート菓子、その裏のメッセージ欄にはボールペンで
『私は信じてる、侑さんの可能性を。不安になるな、其方は素晴らしい』
そう書かれていただけだったが、勘助と会話した誰が優れていて劣っているかの話を考えた時、勘助が侑を励ましてくれている事が分かってしまった。
「本当……勘助君が私の彼氏なら良かったのに……」
そう言いながら少し口角が上がっていた侑だった。