「勘助さん……そろそろ倒されてくれても……良いんじゃないですか?」
「菜々……お前が何をしようとしてるか分からんが……どうせ碌でもない事だろう? 倒れるわけには行かない」
現在菜々と勘助は菜々の家の中であり、菜々の部屋の中で右手と左手をお互いに絡ませ合いながら、恋人らしく……取っ組み合っていた。
話の最初は休日の前に遡る。菜々が勘助を家に誘ったのが始まり。勘助は虹ヶ咲の寮であり、女子寮に男子が入れないのと同様に、男子寮もよほどの事がない限り女子が入る事はできない。だから家デートをする時は基本的に菜々が勘助を招待するのだ。
今回も菜々が勘助を家に招待した。勘助も最愛の彼女の家に行くのは嬉しいので断らず、当日少し高めのお茶菓子を持って挨拶ついでに遊びにいった。
菜々の母親に茶菓子を渡すと彼女から娘を頼むと、一言。最初に遊びに行った時、菜々の彼氏だと菜々の母親に言った時は少し驚かれながらも勘助ならと許された。その際も娘を頼むと言われた。
今回の娘を頼むというのは私は出かけるから娘が暴走したら止めてくれと言う意味だった。というのも、前に遊びに行った時、菜々が勘助の貞操を全力で奪おうとして、勘助と菜々の母親で止めたことがあったからだ。
菜々が勘助をこれからは幼馴染として見て欲しいのではなく恋人として見て欲しいと言う願望の元、あろうことか菜々の母親がいる時に勘助に襲いかかった。その時は暴走を止めてから勘助と菜々の母親が説得をしたが、勘助はこっそりと菜々の母親が居ない時ならと線引きをしっかりと約束させたことがあったのだ。
線引きの約束に関しては知らない菜々の母親は勘助の事を信用しているので、出かける前に勘助にその言葉を残した。対する勘助もお邪魔しますと、言いながらどうにか安心させておいた。
そして現在、勘助が菜々に案内され部屋に入った瞬間、菜々に腕を引かれベッドに押し倒されそうになったので全力で阻止をする事になったのだった。
「菜々、一旦落ち着け。私に何を望む?」
「こうでもしないと勘助さんは私だけの勘助になりません。私の事だけを見て、私の事だけを愛してください」
「何が何やらだが、俺は菜々が大好きだしお前に性的に襲われても無抵抗で受け入れるほど愛しているだろ」
勘助の言葉に対してまだ納得いかず取っ組み合う菜々。しばらくすると菜々が足を滑らせた。
「あっ!」
「うおっ!?」
2人が声を上げた瞬間にベッドに倒れ込んだ。そして運が良いのか悪いのか菜々が勘助を押し倒す体制になってしまう。
顔を赤くする両者だが、勘助の方が耳まで赤くなっている。
「やっと……捕まえましたよ」
「その前に一つ聞かせてくれ……何でこんなことしたんだ?」
「勘助がどこにも行かないようにするためです」
「どういうことか説明してくれないか?」
「怒りませんか?」
「内容によるだろ」
勘助はあまり刺激しないようにしっかりと菜々の話を聞く。菜々も菜々で勘助に一言一言、ポツリポツリと話し出した。
勘助にファンがいるのを見て不安になったことを第一として、これからも一緒にいてくれるのか、彼女が自分で良いのかなどゆっくりと話した。
一通り聞いた勘助、その反応は……
「菜々、ごめん。爆笑するわ」
「はい?」
その瞬間勘助は声を上げて大笑いした。菜々は何が何やら分からず戸惑うばかりである。一通り笑い通した後、勘助も菜々に言葉を返した。
「俺と同じ事を考えてたのか」
「同じ事……どういうことですか?」
「俺も菜々のファンが多くて不安だったぞ。こちとら売れないシンガーソングライターだからな」
「もしかしてですけど……侑さんに相談しました?」
「その様子だと菜々もしてたようだな。菜々がスクールアイドルとして有名になったから遠くに行きそうで不安だと話した」
「嘘でしょう……まさかそんな……」
「侑さんは菜々になんて言ったんだ?」
「押し倒して私だけを見ろって言えと」
「なるほどな……策士が策に溺れたわ」
「はい?」
まさか以前に侑がどこかに行きそうで不安だと相談してきた歩夢に対して考えついた策を、そのまま同じ幼馴染である菜々にやられるとは思っていなかった。
一息吐いて、勘助は菜々を呼んで話をする。
「菜々、俺は菜々を愛してる。お前に話しかけて一緒に遊んでいた時から、俺は菜々に惚れていたんだろう。だからこそ菜々の告白を受け取った」
「だが、菜々がスクールアイドルとして有名になるにつれて俺は菜々が離れてしまうと怖くなったのだ」
「そんな事ありませんよ、私も勘助さんを愛してますから」
「今、その言葉を聞いて安心した。良かった」
勘助は優しく菜々に微笑みかける。
「というか、勘助さんの方こそ私を置いていくのではないですか? 勘助さんは収入得てますし女性を養うとかカリスマ性あるなら女性を選びたい放題だと思いますけど」
「仮に選びたい放題出来ても菜々を選ぶよ」
「それを聞いて安心できるとでも?」
「何だよ? 安心しないのか?」
「璃奈さん」
「おっと、それ以上はダメだ」
「しずくさん。大穴で侑さん、ミアさん、栞子さん」
「やめろ、そんな眼で俺を見るな!」
ジト目で勘助を見る菜々と眼を逸らしながら反論する勘助。どうすれば良いと、勘助は菜々に聞くが……
「愛してください」
「えっと……お母さん帰ってくるぞ?」
「母は今日父と食事するそうです」
「えっと……今日は何も持ってきてないぞ」
「ここに3箱あります。何がとは言いませんがゴムです」
「やめろその追い打ちは逃げられない……というか何でそんなあるんだ!?」
「勘助さんに愛してもらうために用意しました。いつもは私が勘助さんを愛してるので」
「お前さてはムッツリだな?」
「失礼な、純愛です」
「純愛に謝れ」
勘助の言葉をあまり聞かず、菜々は勘助の唇にキスをした。
「勘助さん……お願いがあります」
「一応聞くが何だ?」
「今日は本気で私を愛して」
「菜々……お前」
「不安なんです、どれだけ勘助さんが言葉にしても、行動が欲しいんです。ダメですか?」
菜々は不安そうに勘助を見る、勘助は結局自分は何も分かってなかったと少し反省した。幼馴染だからと言っても、恋人だと言っても、自分が惚れた女を不安にさせたのだ。軍師だとかギタリストだとか高く評価されていても、所詮はただの男として、1人の女を不安にさせた事に対して許せなかった。
だからこそ、勘助は菜々を見て
「分かった……今日は2人で過ごそうか」
「うん!」
菜々も勘助の言葉に顔を明るくしながら、返事を返した。
☆
「おはよう……侑さん、ミアさん」
「おはよう勘助……うわぁ……やばいねそれ」
「Good morning.勘助、その首の周りの湿布はどうしたの?」
その翌朝、音楽科の教室で挨拶をした勘助だが、その首には全体的に湿布が貼られていた。ミアの悪気はない問いに勘助は眼を逸らしながら聞かないでくれと、一言。
「もしかして菜々ちゃん?」
「気をつけろ侑さん、あいつマジで恐ろしい」
「何となくそんな気がしてた。でも、話したんだね?」
「押し倒されて策士策に溺れだがな。今より深い仲にはなったな」
「その結果がその湿布?」
侑にはお見通しらしい。勘助は少し笑いながら侑に少し湿布を剥がしてみせた。そこにはさまざまな箇所に赤い跡があった。世に言うキスマークである。
「菜々は意外と寂しがりらしい」
「そこまでされてその感想は勘助君もやばい人だよね」
「純愛なんだとよ」
「嘘だ!?」
「ね、ねぇ、さっきから何の話してるの? 僕も混ぜてよ」
「勘助君と菜々ちゃんがお互いを好きすぎる話だよ」
「後、菜々がど変態って事だな」
「ああ……なるほど。じゃあ勘助の首って……」
そう聞いたミアに少し見せたのだが、見た瞬間顔を真っ赤にして、僕にはまだ早いと、逃げていった。
その後は、生徒会と同好会で色んな人に指摘されたが、勘助は誤魔化した。それでも、気がついた同好会の人には指先を鼻に当てるしか無かったのだった。