「勘助先輩、一個聞いてもいいですか?」
「おう、どうしたかすみさん?」
同好会の部室で勘助は侑と練習メニューを考えていた。練習が終わったスクールアイドル組は疲れからか机に伏して寝る人や、談笑をする人、差し入れでお菓子を作ってみんなで食べている人など存在していた。
そんな中で部長の中須かすみから勘助へ質問が飛んだ。きっとスクールアイドルの話でもするのだろうと思って軽い気持ちで聞いていたが、かすみから飛んだ質問は違うものだった。
「何でせつ菜先輩は勘助先輩を後ろから抱きしめてるんですか?」
「知らん、菜々に聞け」
「勘助、癒して」
「敬語抜けてんぞ菜々」
「いいじゃない、付き合ってるんだから」
「ダメとは言わんが、菜々のキャラ壊れてるぞ」
「じゃあそこのソファで膝枕して」
「何一つ因果関係が無いんだが」
「かすみちゃん、多分この2人に何言っても無駄だと思うよ」
「ぐぬぬ……せつ菜先輩! アイドルとしてそういうのは終わってからやってくださいよ!」
「かすみさん、私知ってるんですよ? 練習後たまにどさくさに紛れて侑さんだけでなく勘助さんにも頭撫でてもらってるの」
「なっ!? どこでそれを!?」
「かすみさんバレてらぁ」
「私が一番に部室来たと思ったら部屋の中で彼氏が他の女の子の頭撫でている光景を見たんですよ。どう思うか分かりますよね?」
「ご、ごめんなさい! コッペパンあげるんで……」
「勘助さんの作ったパンの方が美味しいです」
「勘助先輩!?」
「菜々がかすみさんに嫉妬してコッペパン作れって言ったから作った。申し訳ないが好評だったぞ」
淡々と告げる勘助に対して自分のアイデンティティを奪われかけたかすみは侑に泣きついた。侑もかすみを撫でながら勘助と菜々を見ることしか出来なかった。
「とりあえず部活中だから我慢してくれ。終わったら好きにしろ」
「勘助君のそういうとこ大好き」
「本当お前って甘えん坊だよな。中学の時も俺が1日だけ忙しくて構わなかった時、裾引っ張って今日は遊ばないの? って言った時マジで惚れたもん」
「昔の話しないで下さい、恥ずかしいから」
「敬語かタメかどっちかにしろよ」
「とりあえず勘助君は改めて向き合って菜々ちゃんの頭撫でるのやめようか。3年生以外みんな顔赤いから」
「侑さん知ってるか? 菜々の髪の毛サラサラで撫でやすいんだぞ」
「何言ってるんですか、勘助君の方がシャンプーしか使ってないとは思えないくらいサラサラじゃないですか。しかも黒髪短髪だけじゃなくほんの少しだけカッコいい白い髪混じってますし」
「白髪だ白髪。母親が白い髪混じってたからな」
「確かに勘助君って男の子みたいに運動とか頭脳戦とか得意だけど、料理とか裁縫とか女の子のスペックも総取りしてるよね。顔も童顔だけどカッコいいし」
「侑さん、付き合うなら勘助君じゃなくて歩夢さんにして下さいね?」
「侑ちゃん、幼馴染として少しお願いがあるんだけど、
「それは少しじゃないよ!? というかどこで貰ったのさ!?」
「市役所で貰えるよ?」
「歩夢先輩達はいつも通りですね」
「あ、勘助君私もお願いが……」
「便乗するな。卒業したらいくらでもサインしてやる」
「わーい」
「勘助先輩達は軽すぎません!?」
かすみの突っ込みで笑いが起きるが、菜々と勘助の会話に赤くなった頬は元には戻らない。それでも、決して空気が悪いわけでは無かった。
「そいえば明日菜々の料理食べたいから作ってくれないか?」
「良いよ、何が食べたいの?」
「オムライスだな」
「待って勘助さん、璃奈ちゃんボード『死ぬ気か?』」
「璃奈さんどういう事ですか?」
「大丈夫だよ璃奈さん。最近親父と母さんに会って無いから会いに行こうかなって。菜々の料理食べたらすぐ会えるんだ」
「アウトですよ!? 確実に死にかけてるじゃないですか!?」
「かすみさん?」
「勘助さん、ご両親に会いたい気持ちはわかりますが、せつ菜さんの料理で擬似的に死んじゃダメです!」
「しずくさん?」
「この前はな、母さんが菜々を泣かせるなと散々注意を受けたんだ。親父は微笑んで祝福してくれたけどな。後、久しぶりにギター弾いて来たよ」
「勘助君は死神か何かなの?」
「侑ちゃん、多分勘助君は冥王なんだよ」
「寧ろ菜々ちゃんの料理食べて生きているから人間じゃないよね」
「侑さん? え? 私の料理ってそんなにヤバいんですか? 璃奈さんは合宿の時は驚くほど美味しいってリアクションしてくれたのに」
「せつ菜さん落ち着いて。璃奈ちゃんボード『何も言えねぇ』」
多種多様の意見に対して菜々は未だに自分は料理が得意だと言う。勘助は菜々からわざと離れてギターのメンテナンスをする事で誤魔化したし、他の人は菜々と眼を合わせずに苦笑いしていた。
☆
「勘助君はどっちの私が好き?」
部活の後、帰り道を歩く途中で菜々が勘助にそう聞いた。
「菜々もせつ菜もお前と言う中川菜々に過ぎん」
「そういうことを聞いてるんじゃないんですけど」
勘助の答えに対して納得がいかない菜々だが、菜々自身は菜々とせつ菜のどちらが好きか、どちらに重きを置いて愛してくれるかを知りたかった。だが、勘助も菜々の質問の意図に気がついたので答える。
「俺はな、中川菜々を愛した瞬間に2人の女性を愛することにした。中川菜々も優木せつ菜もどちらも大切な彼女だからな」
「浮気じゃん、二股だよ」
「お前が決めた設定だろ!? 無茶苦茶言うなよ!」
「えへへ」
そんな事を言う彼女だが、勘助もこうした話は幼馴染である関係もあり、じゃれ合いだと思っている。現に勘助も菜々も笑いながら話をしていた。
「勘助、好きだよ」
「急だな、どうしたよ?」
「むぅ……せっかく敬語キャラの幼馴染がタメ口になったんだからもう少しときめいてくれないとヤダです」
「あぁ、そういう事か。愛してるに決まっているだろう」
「首に痕つけるよ?」
「最近テレビには出てないからアレだけど、生徒会で栞子さん達からとてつもない視線向けられるからほどほどにな」
「テレビに出るなら我慢する……やっぱり我慢出来ません」
「我儘過ぎやしませんかね?」
「こんな事するの勘助君くらいだよ」
そう言って菜々は勘助の腕に自分の身体をくっつけた。勘助は菜々の頭を撫でながら、自分の腕にくっついている膨らみを指摘しようとしたが
「当ててるから」
「まだ何も言ってねぇけど」
「先手必勝だよ」
「まぁ……俺以外やるなよ」
「OK.命に換えても」
「換えるな、怖いから」
「勘助君以外に触られたら自分の首を切ります。ついでに勘助君の首も切ります」
「何でさ?」
「妻が死ぬなら旦那も死ぬ。それが物事の道理なのです」
「絶対なんかのアニメに影響されただろ」
「影響されてません。私には勘助君しかいないの」
「それは俺の好きなアニメキャラの台詞じゃねぇか」
「今度勘助君のギター貸してください。私も勘助君の色に染まりたいので」
「普通に恋人と同じことしてみたいですで良いだろ」
そう言って、勘助は片方のアコースティックギターをケース毎菜々に渡した。菜々は少し恐る恐るギターを受け取ったが、小さい身体でしっかりとギターを抱きしめた。
「エレキよりはアコギの方が良いだろ。たまに暴走して近づく物も者も全て破壊するシステム作動するから気をつけろよ」
「何でそんな物簡単に渡してるんですか!?」
急に敬語口調に戻った菜々に対して、まぁデストロイモードだしなと、笑いながら言う勘助。
「因みにあんま言いたくないけど、それ9万するから気をつけてな」
「だから何でそんな物を!? え!? きゅ、九万!?」
「因みにエレキの方が高いぞ、親父がオーダーメイドで1から作ったもんだから30万はくだらん」
「えぇ……嘘でしょう?」
「残念ながら本当だ。俺も最初親父に聞かされた時は手が震えて演奏どころじゃなかった」
「でしょうね。私も初めて聞きました」
「言ったら俺の家が金持ちだとか風評被害受けるから言ってないんだ。現に俺は貧乏学生だからな。事務所の仕事のおかげでマシになったけど」
「そう言えば、寮生活だからあまり知らなかったけど、一人暮らしの時はご飯食べてたんだよね?」
「もやしと粉物と米と調味料。叔父さんも野菜とかくれたからそれで何とか。あ、みんなとご飯行った時とかはちゃんと払ってるからな?」
「それは分かってるけど……え? 本当にそれしか食べてないんですか?」
「俺は貧乏人、貧乏人よ」
「変なリズムでそんな悲しいこと歌わないで下さい。勘助君って体重何キロなんですか?」
「ついこの前測ったら見たことない数字出たよ。鏡見たらお腹だけ一反木綿みたいなやついた」
「えっと……50とかですか?」
「48」
「食べなさい!! 私が作ってあげるから!! だから食べて! 勘助君が死んじゃう!!」
「んじゃ、菜々の料理食べたらもう一度三途の川で親父達と遊んでくるわ」
「思ったんだけど……本当にそれはどういう意味なんですか?」
「菜々の料理が死ぬほど美味いって事だよ」
そう言って勘助は菜々の腕を解いて、手を絡ませる。恋人繋ぎにされた菜々は驚きながらも微笑んで、今夜は私の家で食べてくれと、勘助を誘ったのだった。