「嵐珠さん。今日は誘ってくれてありがとう」
「いいのよ、これはランジュから勘助へのお礼だし」
「それにしても一曲作っただけでスペアリブだけじゃなくてお肉の食べ放題に招待してくれるとは思わなかった」
「作っただけでは無いでしょう? アタシの意見を取り入れながら、夜遅くまで作ってた事、せつ菜に聞いたわよ」
「事務所の仕事もあるからやってただけだ。とりあえずありがたく頂くよ」
ランジュと軽く話をしながら勘助は肉料理を平らげていく。最初は食べ放題だからたくさん食べてねと、ニコニコしながら言っていたが、肉料理を平らげて空になった皿が30皿を越え出した時からランジュの顔が青くなり始めた。
「か、勘助? ちょっと食べ過ぎじゃ無いかしら? お腹大丈夫なの?」
「まだ半分も食べてないけど……」
「ねぇ、勘助いつもの食事って確かもやしだけよね? 実は今まで足りてなかったり?」
「まぁ、物足りないけど貧乏人は我慢が大事だろ。言っちゃ悪いけど栞子さんやしずくさん、嵐珠さんみたいにお金があるわけじゃ無いしな」
「お金が欲しいって思わないの?」
「確かにあればそれに越したことはないけど、私が本当に必要なのは起きて半畳寝て一畳、飯は食っても5合半って思ってるから別に良いかな。一か月必要最低限貯金出来るくらいのお金で満足なんだよ」
「5合半は食べ過ぎよ……アナタはお金じゃないなら何を目標に生きてるの?」
ランジュの質問にかならいい笑顔で、勘助は答えた。
「死んだ親父の過去の栄光を完膚なきまでに叩き潰して頂点を目指す。その為にはミアテイラーでも容赦はしない、私の敵に回るならユニコーンと一緒に貫くだけだ」
「お金よりも夢のために生きてるの?」
その言葉に静かに頷く勘助をランジュはもの珍しく思ってしまう。人間は欲に忠実であるのは分かりきってるが、勘助ほど身近な欲よりも遠くの夢を追いかけている人間は少ないのだ。
「別にお金が悪いとか思ってないからな。私だって人間だから欲しいもんは欲しいけど、それよりも大事な事があるんだよ」
「そう……ランジュはね、昔からお金だけはあったからみんなより色んな物を持ってたわ」
「そうなんだな。まぁ、かすみさんが嵐珠さんの家に行った話聞いてたからそうだとは思ってたけど……」
「でも、勘助の言うことも分かるの。アタシはずっと自分が1番だと思って1人でスクールアイドルの高みを目指してた」
「結局スクールアイドル同好会のみんなを見てランジュが間違ってたって思ったの。仲間と一緒に協力した方が大きな力を得られるって気が付いたのよ」
「だから、勘助の言うとおりお金だけが全てじゃないわ」
そう答えるランジュに対して、勘助は静かに語ることにした。自分もランジュと同じ考えがあった事を。
「私の親父が嵐珠さんと同じで1人で頂点に立てる人間だったんだ。そのせいで母さんを蔑ろにしてたから反面教師にしてたのが私」
「だから勘助はみんなと音楽を作ってるの?」
「ああ。でも、なんでもかんでもみんなに意見求めてはいそうですかってのは違うって思った。多少なりとも自分の力でやらないとなって、ミアさんと嵐珠さんを見て気づいたんだ」
「勘助なら1人でも上手く出来そうだけど?」
「私は根っからの菜々っ子……まぁ幼馴染LOVEだったから1人で過ごすのは違和感しかないんだ」
「アタシが栞子の事好きなのと一緒なのかしら」
「おう、そう言う事だ」
「後、私も嵐珠さんと同じで1人だった可能性はある」
そう言って45皿目を食べ尽くし、水を口に含む勘助。
「私は昔からギター弾いてたから小学生の頃はあまり外で遊ばなかった。外で遊ぶ年頃の同級生からは勉強の質問以外話してないからな」
「中学は? せつ菜がいたんでしょ?」
「中学は母親がいないからな、片親しかいない私は異端児扱いで菜々がいなければ1人だったよ。何で菜々に声をかけたのか私にも分からんけど、恐らくお互いに1人だったから親近感が湧いたんだろうな」
「優しくのね、勘助は」
「優しくはない、私は為すべきと思った事をやるんだ。それが偶々プラスに動いただけ。マイナスに動き続けたら、菜々は私の事を嫌っていたし、今も上手くいってない」
ランジュは勘助は菜々が好きなのねと、言った後少し考えて言葉を出す。
「勘助は……ランジュの事好き?」
「あぁ、当然だとも。嵐珠さんだけじゃなくて、スクールアイドル同好会のみんな全員が好きだ」
「そういうのじゃなくて、勘助は恋愛とかした事ある?」
「一応言うがみんなをそういう眼では見てないぞ、3人例外はあるがな」
「それを踏まえて言うと恋愛した事はない。でも……」
「でも?」
「菜々は好きだった」
そう、勘助はポツリと言った。ランジュはその一言で過去の話だと理解したが、菜々ことせつ菜が勘助に告白してる事は知っていた。だからこそ、少し顔を歪めた。
「今は? 違うの?」
「嵐珠さんそんな顔をするなよ、別に菜々が嫌いになったとか喧嘩別れしたとかじゃないんだから」
「そうだけど……勘助は誰かを好きになる事はないの? 他の人は?」
「正直怖いから私は告白は受けない事にした。大事な両親も死んでるから、私より先に旅立たれたりしたら立ち直れないから……」
「きっと将来、私は独り身でギター弾いてると思うぞ。菜々達もいるとは思うけど、頂点を目指す私についてくる人はいない。いつかはみんな別れていくものだよ」
そんな事を言う勘助だが、眼は笑っていなかった。勘助が恋愛を諦めたのは大事な人に先立たれたくない。ただそれだけだった、それでも勘助にとって余程それが大切だったのだ。
だからこそ、ランジュが突拍子もない事を言う。
「それじゃあ、ランジュはどうかしら?」
「嵐珠さんが……ちょ、なんだって?」
「アタシはいなくならないわ、少なくとも勘助以上に生きる自信があるもの」
「いや、色々と言いたい事しかないんだけどとりあえず恋人って好きな人同士でなるものじゃ……」
「ランジュは勘助の事好きよ? 勘助もランジュの事が好きならそれで無問題ラ!」
「仮に、嵐珠さんと私が好きだから付き合うとしてだ、私と嵐珠さんが釣り合わない可能性だってあればすぐ別れるんじゃ」
「ランジュが勘助を離すと思う? こう見えてもランジュは一度欲しいと思ったものは絶対に手に入れないと気が済まないの。それに……」
「それに?」
「さっきも言ったけどランジュは誰よりも勘助を不安にさせないわ。ランジュの言葉で信用出来ないなら試してみない?」
「試すって……まさか」
「お試しで付き合うっていうのが最近の日本文化ってテレビで聞いたわよ、それをアタシ達もやってみるの!」
「それが日本文化なら世も末だろ。申し訳ないが私は降りさせて貰うぞ、そんな半端な気持ちで誰かと付き合うのはごめんだ」
「あら、それじゃあ本気なら良いの?」
「はぁ?」
ランジュの言葉に勘助は少しだけ睨みつける。それでもランジュはきゃあ怖いと、少し戯けながら話を続ける。
「勘助が言ったんじゃない、半端な気持ちで付き合えないって。だからランジュが勘助を惚れさせる事にしたわ。ランジュが本気でそうすれば勘助と付き合っても良いってことよね?」
「嵐珠さん、落ち着け。早まるなよ、お互い恋愛対象として興味はないだろう? せいぜい私達は同好会の仲間として好いているんだ。そんな気持ちで恋人までいけるとおもうか?」
「薫子が言ってたわ、最近日本では好きでもない人と身体の関係から恋愛に繋がるって。流石にそれは勘助も嫌だろうから、友達同士の好きをもっと進展させれば恋愛が出来ると思うのよ?」
「よし、明日は薫子先生をユニコーンで一発殴るとしようか。というか、それをやって嵐珠さんにメリットはあるのか?」
「ランジュも恋愛とかした事ないのよ、恋に落ちるってどんな感覚か知りたいわ! 勘助はランジュという女の子が恋人になるのよ、光栄でしょう?」
ランジュの言葉に勘助は考える間もなくそうだなと、肯定した。確かにランジュは可愛いし少し自意識過剰な所を抜けば恋仲になっても誰しもが羨ましがる女であった。
それでも勘助はまだ納得の行かないとこが多い。それをランジュが言葉で言いくるめる状況が続いた。勘助は初めて口でランジュに負けそうになったので、こう提案する。
「今の嵐珠さんに何言っても無駄な様だな……それなら、1つ考えがある」
「どんな考え?」
「嵐珠さんが私を何処かに誘ったりして引っ張ってくれ、私は引っ張られたら無理難題以外は断らずに提案を乗る。それで嵐珠さんが私に飽きたらそれで終わり、私が嵐珠さんに惚れたらそのまま恋人になるって事でどうだ?」
「それってさっきランジュが言ったお試しで恋人って事よね?」
「恋人というか遊び友達みたいな感じでやってみるんだよ。恋人だったら手とか繋ぐフリとかしないといけないしな。こっちの方が手も繋がなくていいし、お試しで恋人です、なんてちょっと世間が納得しない様な話をしなくて良いからな」
「それじゃあ、ランジュ達は一応友達以上恋人未満って事かしら?」
「思ったんだけど嵐珠さんってどこでそんな日本語覚えてくるんだ? 出身って中国だよな?」
「こう見えても香港と日本のハーフなのよ。でも、小さい頃は薫子と栞子と遊んでいたから日本語なんて無問題ラ!」
「そうだったのか。私は少しロシアの血が混じっているが、ロシア語はさっぱりなんだ。両方話せるのはカッコいいな」
「え? 勘助もなの?」
勘助はランジュに青い左眼を見せて、母親がロシアのクォーターだと言った。ランジュはその眼を見て納得する。
「確かに前に少し青っぽい眼をしてるなとは思ったけれど、勘助もランジュと同じなのね」
「嵐珠さんのハーフとクォーターの母親の息子は全然同じではないけどな」
「ねぇ、異種族の恋人って素敵じゃない?」
「その話まだ続くの? ってかそれ絶対菜々が教えた日本語だろ、私はバケモノか何かかよ」
「勘助って天才だからランジュと同じでバケモノみたいな者だと思うわよ」
「私は天才じゃない。軍師だ」
「大概よ。後、ランジュはその話乗ったわ。明日から勘助に容赦はしないから、諦めてランジュの虜になりなさい!」
「仕事や生徒会がある日とかは断るからな」
「無問題ラ!」
ランジュの言葉に勘助は一つ溜息を吐いたが、ランジュの事は出会ってからあまり知らないのもあり、少しだけ、ほんの少しだけ楽しみが増えたと感じた勘助がいた。因みに勘助が食べた肉料理の皿の数がいつのまにか60皿を超えていた事に恐怖するのはランジュだけである。