虹ヶ咲学園生徒会長三船栞子は頭を抱えた。事の発端は自分の昔からの幼馴染、鐘嵐珠のせいである。
ある日、生徒会もない日にランジュのお願いに付き合った。ランジュのお願いといえば大体何かをしたいとか、どこかに行きたいだとか、そんな誘いのお願いが多いのだが、今回は相談があるとランジュの口から滅多に出ない言葉だった。
だからこそ幼馴染が珍しく悩んでいると真剣に考えて、少しでもランジュの話を聞いた自分に数十枚の反省文を書きたい。
ランジュの相談というのは主に栞子と共に生徒会に入っている庶務、山本勘助の事であったのだが……
「勘助といると胸がドキドキして、抱きしめられたら温かい気持ちになるの。もっと勘助と一緒にいたいわ。コレって何なのかしら?」
明らかに恋です、本当にありがとうございましたと、口で言いたくもないセリフを吐き出しそうになった栞子。相談と言うより、勘助に恋してますというただの宣言である。
何がタチが悪いって、それを勘助にも言ってしまっていることである。これで勘助が気づかないならランジュに恋だと言って勘助と付き合う算段を考えるのだが、勘助はそれに気がついているだろう。彼は聡明なのだから。
だからこそ、ランジュは勘助に恋をしている。それを勘助本人に暴露してるだけだと言った時、プライドの塊のランジュが恥ずかしさでオーバーヒートをするのは目に見えている。
だからこそ、栞子は冷静に、落ち着いて、もし自分が天才軍師ならどうするかを考えた結果……
「その感情から察するに、ランジュは勘助さんに恋をしてます。しかもそれを貴方は勘助さん本人にお伝えしたという事です」
「え……哎呀!?」
三船栞子、彼女は幼馴染に対して血も涙もなかった。文字通り『あぁ!』と叫びながらオーバーヒートした彼女を落ち着かせる事はしたが、ランジュ自身恥ずかしさで机に顔を伏せている。
「ま、まさか勘助を虜にするために仕掛けたアタシが勘助の虜になってるなんて……」
「全くもってどういう事かは存じませんが、少なくともランジュの負けでしょう」
「ランジュはどうしたらいいの!?」
「さっさと付き合えば良いのでは? 少なくとも勘助さんもランジュなら断らないでしょう?」
「うぅ……それで上手くいくならランジュだってそうしてるわよぉ……あんな勝負しなければよかったわ……」
「勝負?」
ランジュはこの際なので勘助との会話を包み隠さず話した。側から見たら独りぼっちだった者同士が傷を舐め合うついでに仕掛けた勝負内容だが、勘助とランジュの心情やランジュの過去を知っている栞子にとっては情が湧く内容である。
一つ溜息を吐いて、栞子は言った。
「もう、普通に言えばいいじゃないですか。勘助さんが好きです、付き合って下さいと。知り合ってそこまで短いわけでもないでしょう?」
「それでもせつ菜や侑達よりもぽっと出なのよ? 負けヒロインに決まってるじゃない」
「せつ菜さんにはランジュに変な日本語を教えないで下さいとお伝えするとして、ランジュ、貴方は勘助さんが好きなんですよね?」
「ええ、好きよ」
「それならやる事なんてそれを伝える以外無いと思いますけど」
「勘助の答えが怖いわ」
「少なくとも私の知っているランジュは傲慢で我儘で破天荒ですよ」
「それ褒めてるの?」
「そんなランジュが怖気付くなんて信じないです。貴方はパーフェクトな人間でしょう? そんな不安なんてデストロイすればいいんですよ」
「し、栞子? 貴方がデストロイなんて言葉使うのね……」
「貴方が惚れたどこかのシンガーソングライターがうるさいので」
「し、栞子も勘助が好き……なの?」
「好きと言ったら、譲ってくれますか?」
「それは、だ、ダメよ! 勘助はランジュのの虜にするって決めたの!」
「それならねだらず勝ち取って下さい」
「栞子もせつ菜から変な日本語学んでない?」
「せつ菜さんが貸してくれるライトノベルって面白いんですよね」
そう言ってくすりと笑う栞子につられて、ランジュも笑ってしまった。
☆
「そんなわけでせつ菜々助けて」
「自業自得です。諦めて下さい」
「酷い返事だな」
「私達を自分の都合で振っておいて、違う女の子を自分の都合で好きになってる勘助さんにかける言葉はありません。後、私の名前を混ぜないで下さい」
「本当にすみません」
勘助は幼馴染の中川菜々に相談を持ちかけたが、帰ってきたのはこの言葉だった。
勘助も勘助で事実もあったので何も返す言葉がない。
それでも、何とか宥めながら、謝りながら菜々に話をしながら解決策をお願いする。
「全く……やっぱり勘助さんは私がいないとダメなんですから」
「それ確かヤンデレになりそうな女子が話す言葉ベスト10くらいの言葉じゃない?」
「あなたは悪くない、あの女が悪い」
「怖いわ」
「まぁ……今回は勘助さんが悪いんですけどね」
「ごもっともです」
「といっても、勘助さんがランジュさんと付き合えば解決なんですけど。勘助さんはランジュさんの事どう思ってるんですか?」
菜々の言葉に勘助は少し考えて
「好きか嫌いかと言われれば好きだ。ただ……」
「恋愛としては一歩踏み込めないと」
「まぁな、私が嵐珠さんとはそこまで関わりがない分、親友までにはなるが、恋愛となれば話は変わる」
「その割にはランジュさんと一緒に出かけたり、練習してますけど?」
「さっきも説明したが、そういう関係なんだよ」
「その割には勘助さん楽しそうですけど?」
「まぁ、悪い気はしない」
「鏡いります? 貴方がランジュさんの話してる時、凄く笑顔ですよ?」
「嘘だろ?」
「凄くまではいきませんけど、ニヤけてます」
「何を言っている、私はいつでもPoker face &お願い! Fairyだぞ」
「私達の曲名で遊ばないで下さい、はい、勘助鏡」
急にタメ口で名前を呼ばれた勘助は驚いていたが、菜々から手鏡を見せられて今の自分の状況を把握した。
「酷い……顔だな」
「ええ、貴方は赤鬼ですか?」
「赤鬼か……私は軍師なんだがな」
「いっそのこと改名します? 情熱系スクールアイドルとして」
「私はスクールアイドルじゃねぇ。それ言うなら侑さんにトキメキ系スクールアイドルの称号くれてやればいい」
「侑さん可愛いですよね」
「分かる。一回ライブ衣装着せたい」
急に思わぬ方向から被弾を受けた侑。大事な話から急にそんな下らない話をしながら2人で笑うのも幼馴染だった。
「それで、どうするんですか? ランジュさんはきっと貴方がどの様な態度を取っても諦めませんよ?」
「前門の嵐珠さん、後門の嵐珠さん……全部嵐珠さんじゃねぇか……まぁ、逃げられんな」
「初めてじゃないですか? 天才軍師と言われた勘助さんが追い詰められるどころか敗北宣言なんて」
「元々天才軍師なんて虹ヶ咲の誰かが歴史上の山本勘助からつけただけだよ。私はただの人間で、シンガーソングライターだ。負ける事がないのはおかしいだろ?」
「私達では到底考えつかない意見と、生徒会での仕事の早さ、挙句ミアさんと同等かそれ以上の順位で音楽科を牛耳る勘助さんですよ? 私からすればそれだけで偉大な人ですし、負けるなんて思いません」
「だが、それでも、お前の幼馴染だ。私からすればただの健全な男子高校生だ」
「健全な男子高校生は下ネタ一つで顔を真っ赤に染めませんよ」
「私からすればスクールアイドルが下ネタ言うなんて考えられないけどな」
「女の子に夢見すぎでは? 元々女子校ですからそんなものですよ。私は勘助さんがあまりにもウブ過ぎて私が何とかしないとと思ったので」
「うっ……菜々だって、男が下ネタばかり言うわけないだろ。夢見すぎだ」
「勘助さんは特別過ぎます! 普通本は証拠が残るのでアレですけど、パソコンやスマホの履歴ですらもそういうオカズが無いのはどうしてですか!?」
「アイドルがオカズとか言うな!!」
「ほら、また顔真っ赤ですよ! 赤鬼さん!」
「名前変わってるわ! 恥ずかしいんだからしょうがないだろ! それに、ギターなんて弾いてたらそんな欲無くなってるんだよ。よく言うだろ、筋トレしてたら性欲無くなるって」
「なんか聞いたことありますけど……それでも! 珍しいのは珍しいです……もしかして保健体育とかあまり知らなかったり?」
「満点に決まってんだろ何言ってんだ?」
「うわぁ……ムッツリ?」
「違うて、テスト取らないと成績響くだろ? それに、そういう教育は両親が生き生きと説明するからなんか……反面教師というか、聞いてるこっちが恥ずかしくてダメなんだよ」
「実の両親が息子に対して生き生きと性教育してる家庭って何なんですか?」
「作詞とかに必要だからって。よくあるじゃん、違う言葉使ってるけど実は男女の情事でしたみたいなやつ」
「それは分かりますけど……それでも、勘助さんが……」
「だけどな菜々……」
話がかなり脱線してきたので閑話休題。会話が少し落ち着いてから、再び菜々が話す。
「それで? 結局ランジュさんはどうするんですか? まぁ、その様子なら答え出てるようなものですけど」
「嵐珠さんの件は……まぁ、なるようになれとしか……いや、ダメだな。私が仕掛けることにしよう」
「そうですか……そう言えば、栞子さんから勘助さんにお伝えくださいと」
「栞子さん? なんて言ってたんだ?」
「えっと……拝啓、山本勘助様。今年も少しばかり葉が赤みがかってきた候、いかがお過ごしでしょうか……」
「栞子さん固いよ!? 菜々も全部伝えなくてもいいだろ!」
「一応一字一句お伝えくださいと言われましたので……ええっと、この度は破天荒で自己中で迷惑しかかけないおつむの弱いランジュですが……」
「あの人嵐珠さんと幼馴染だよな? ボロッカス言うじゃん」
「私たちでは考えられませんよね……あ、続き言いますね……勘助さんがお世話してあげて下さい。あの反省文の塊を宜しくお願い致します。との事です」
「もはや人間じゃなくて笑うんだけど。反省文の塊って……」
「でも、栞子さんらしいです。こんな事言っても、ランジュさんが大事なんですよ」
「本当に大事なら人間を紙の塊にするのやめようぜ?」
「それでも、この前栞子さんから相談がありまして、ミアさんとランジュさんで組んでいるユニットなんですけど……」
「R3BIRTHの事か? 何か不満でも?」
「いえ、栞子さん曰く……やべぇやつに囲まれてると……恐らく能力的な意味かと」
「あぁ……英語に中国語だもんな。栞子さんも多少話せるとはいえ、やはり壁を感じるか……」
「何とかなりませんかね?」
「私が栞子さんに教えるからいいよ。嵐珠さんと一緒になったら嫌でも中国語会話させられるんだろうし」
「ミアさんから英語も学んでいるのにランジュさんからは中国語ですか……幼馴染がどんどん遠くにいってしまうのですが」
「一応エマさんからもスイスの言葉学んでる。でも、私は菜々を1人にはしないと約束しよう」
「破ったら?」
「この両手か首のどちらかを持っていけ」
「武士ですか貴方は。そんなことはしません、泣き喚くだけです」
「絶対に1人にしない」
結局ランジュの話を真剣にしようとした勘助だが、菜々という幼馴染がいると脱線しまくる。それでも、本当に大事な話は出来たので、しばらく勘助は菜々とバッドコミュニケーションを楽しむ事にした。
「私との会話はボーナスステージですよ」
「何の話?」
「いえ、こちらの話です」