「勘助さん! お待たせしました!」
息を切らして1人の少女が勘助の元に来た。明るい茶色のツインテールが特徴で笑顔が可愛い女の子である。
名を近江遥。勘助の所属する同好会仲間兼先輩、近江彼方の妹である。
「待ってないよ、そこまで急ぐ必要も無い。どちらかと言うと無理して怪我しないで欲しいな」
「うぅ、すみません。勘助さんとデートするから少し髪のセットに時間がかかってしまって……」
「だから今日の髪、いつもより艶があるのか。遥さんは着飾らなくても可愛いぞ」
「あ、ありがとうございます……っていうか勘助さん、呼び方直してください」
「あ、あぁ、ごめん……遥。それじゃあ行こうか」
勘助が遥を呼び捨てにするのは単純明快で付き合っているからである。勘助が近江家の喧嘩に関わった時、遥が彼方の手伝いがしたいと言う思いを汲み取り料理教室などを開催して、遥の家事力をあげた。
それをきっかけに姉である彼方のためにプレゼントを買ったりして2人で出かけていたのだが、次第に2人は惹かれ合い付き合い出した。
そして、今日デートした目的が……
「お姉ちゃん許してくれますかね?」
「その為に説得するんだろ。とりあえず、家行くからお土産買おうか」
そう、姉である近江彼方に付き合っている事を伝える。これがデートの目的である。
彼方は超がつくほどのシスコンである。遥が同好会に見学に来ただけでランニングの記録を自己ベスト更新するくらい遥に良いところを見せようとする筋金入りのシスコンである。
そんな彼方に付き合っている事を公言したらどうなるか。泣かれるとか一言二言文句や小言を言われるならともかく、勘助の命を取ろうものなら修羅場になるのだ。
ただでさえ彼方は妹の事になると活発になる、いつ鬼神化してもおかしく無い。
「もし、彼方さんが怒って俺に会いたくねぇって言っても諦める気はない。そうでもしないと、何のために君と付き合ったのかわからなくなる」
「その話は聞きました……私を選んでくれて、本当にありがとうございます」
2人が言うのは、勘助が同好会の3人の女の子に告白されていたのをフッた事である。勘助にとって1番最初の彼女は遥であるので、付き合う前にこの話はしておいた。
遥も最初は驚いていたが、それでも自分を選んでくれた事が嬉しかった。
少しだけ高いお菓子を買って、遥の案内を受けながら近江家に入っていった。
「おかえり、遥ちゃん、勘助君もいらっしゃい〜」
間延びした声で迎えてくれたのは勘助と遥の会話の中心である近江彼方本人である。
「お邪魔します。彼方さん」
「そんな固くなるのはよしておくれ、彼方ちゃんと勘助君の仲じゃないか」
「そうですよ、勘助さんにはいつもお世話になってますし」
「遥……さん、彼方さん、ありがとうございます」
一緒遥の事を呼び捨てにしかけてすぐ繋げた。彼方が怪しむ前に手土産を渡すと、彼方は目を輝かせながら喜んだ。
「わぁ! これ結構高いお菓子じゃ……」
「大丈夫です。一応これくらい買える生活は出来てます」
「ありがとう勘助君、今お茶出すからね〜」
そう言ってキッチンに戻る彼方。勘助と遥は靴を脱いで茶の間に行く。
しばらくすると彼方がお茶を持ってきた。
「安い市販のお茶だけどどうぞ〜」
「いえ、お構いなく。頂きますね」
「それで、今日はどうしたの? 遥ちゃんと勘助君が大事な話があるって言うから彼方ちゃん緊張して朝しか眠れなかったよ」
「朝寝られたら充分じゃない?」
彼方の発言に遥が突っ込み、勘助も少し笑った。先に仕掛けたのは勘助であった。
「そうですね、実は彼方さんにはしっかり言っておかないとと思いまして、この場をお借りした次第です」
「勘助君がとっても真面目って事は本当に大事な話なんだね」
そう言う彼方の目も真剣なものになった。心臓がうるさいが勘助は言うしかないと思い、ハッキリと口にした。
「私は……俺は遥さんと付き合ってます」
言った瞬間一瞬彼方の目が開く。何を言う前に遥が言う。
「お姉ちゃん、ごめんなさい。隠すつもりはなかったの……でも、お姉ちゃんが私を大切にしてるって知ってたから。勘助さんにお願いして付き合ってからしっかりと説得出来るように考えたら、時間が過ぎちゃっただけなの」
「報告が遅くなったのは謝ります。ただ、彼方さんのことを考えると付き合ってすぐ言うのは……いや、言い訳になりますね。すみません、本音言うと彼方さんに殺されるのが嫌だったので黙ってました」
「勘助さん!?」
「事実だろ。遥さんを大切にしてる彼方さんだぞ、それくらいの覚悟がないと付き合わない」
勘助と遥が慌てながらもしっかりと彼方に説明する。彼方は無言で話を聞いているだけだった。
「彼方さん。俺と遥の交際を認めてください」
「お姉ちゃん、お願いします」
2人が頭を下げた後、彼方は口を挟んだがそれは衝撃的な内容だった。
「えっとね……言いづらいんだけど……私知ってるんだ。遥ちゃんと勘助君が付き合ってるの」
「え?」
急に言われた言葉に脳が追いつかない2人、改めて話を聞いた。
「勘助君の場合はねしずくちゃん達から聞いてたの、遥ちゃんが好きだからって断られたってね。刺そうかなって思ったよ〜」
「怖!?」
「遥ちゃんはね、勘助君とちょくちょく電話してるでしょ? その時に何となく勘助君の事好きなのかなって思ってたんだ、本気で遥ちゃんを監禁しようかと思ったよ〜」
「お姉ちゃん!?」
「何なら2人が手を繋いでデートしてる姿も尾行して見てたんだよねぇ、それで2人の様子見てたら認めるしかないかなって」
2人は絶句する、何もかもバレていたのに彼方は何も言わなかったのだ。その理由を勘助が指摘すると、
「みんなから言われたけど、彼方ちゃんシスコン過ぎるから少しだけ遥ちゃんの事見守ろうかなぁって、何でもかんでも兄弟のする事に口を出すのは良くないってエマちゃんからも言われたから」
「エマさんも兄弟いましたね8人くらいでしたっけ?」
「9人じゃなかったかなぁ〜忘れちゃったよ」
「まぁ、それだけ多いと忘れるわな……ってそんな話は良いんですよ。えっと……ごめんなさい、黙ってて」
「いいってことよ、その代わり遥ちゃんを泣かせたら分かるよね〜?」
「当然です、今日も首取られる覚悟で来たんですから、遥さんを大事にするのは絶対ですよ」
そう言った勘助に彼方が少し笑って、これからは私の事をお姉ちゃんと呼びなさいと、無茶難題を仕掛けてきたのは言うまでもない。
☆
「そんなわけで今日は作曲の見学として近江遥さんが来てくれました」
「よろしくお願いします!」
「わぁ! 遥ちゃんだ!」
その翌日、スクールアイドル同好会に遥が見学しに来た。前回から何度か見学に来た事もあり違和感はなかったが、一つだけ部長の中須かすみが質問した。
「あれ? 貴方って歌って踊る方ですよね? どうして作曲を見学するんですか?」
「えっと……それは」
「遥ちゃんはね〜彼氏君の勇姿を見に来たのだよ〜」
「彼方先輩!? え? 彼氏って誰ですか?」
かすみがキョロキョロと探すと、少しばかり顔を赤らめてギターのチューニングをしている勘助がいた。かすみは勘助を指さして、
「ま、まさか。勘助先輩ですか?」
その言葉に同じく顔を赤くして頷く遥。その後必死になって、スクールアイドルに必要な曲を作るためにアイデアが欲しいからなどと真っ当な理由を言うが、聞いているみんなはニヤニヤしている。
「ほら、勘助。彼女が待ってるわよ。侑と一緒に教えてあげたら?」
「果林さん、絶対楽しんでますよね」
「当たり前でしょ、せっかく生意気な後輩の弱点見つけたんだから」
「お礼に今度パンダのぬいぐるみあげますね」
「え!? ちょ、ちょっと待ちなさい! どうしてその事を……」
「エマさん、今度果林さんにあげるパンダのぬいぐるみ探しましょうね」
「うん! 果林ちゃんと勘助君とお出かけなんて初めてかも、楽しみにしてるね!」
「え、エマァ!?」
少しだけ先輩をからかった後、遥と侑の元に向かった。
「勘助、作曲なら僕も出来るぞ」
「ミアさんにもお願いするよ、私は……ユニコォォォォーン!!」
勘助の叫びに何事かと遥は思ったが、すぐ勘助の元に愛用のエレキギターが飛んできた。それを左手で掴み取り肩に担ぐ。
「本当、そのギターどうなってるの?」
「昔はワイヤーで繋げてただけだよ?」
「それはライブ中でしょ? 今のどうやったのさ?」
「最近ユニコーンの名前呼んだら俺の左手に収まってるんだよな」
「何それ怖い」
勘助は侑への衝撃発言の後そのままギターをかき鳴らして遥に作曲について教えてあげた。遥は目を輝かせながら勘助を見ていた。
「ねぇ、ミアちゃん勘助君の所に私達いらないよね?」
「girl friendの事は勘助に任せて僕達は違う作曲しようか」
「勘助さん! 今の音ってどうやって弾いたんですか?」
「ペットボトルを弦に当てて弾く技だけどあんましないからな。やるならカポの位置変えてこの音出したら出来る」
「勘助さんギター上手ですね……感動します」
「悪い気はしないな。ほら、コレ今作った曲。録音したから遥の学校のスクールアイドルの人に渡して見てくれ。使えたら使っていいぞ」
「良いんですか!?」
「ちょ、勘助先輩が裏切った!? 私達というものがありながら他校のスクールアイドルに味噌を送るなんて!」
「かすみさん、それを言うなら味噌じゃなくて塩だよ」
「しず子は黙ってて!」
「かすみさんの理論からいくと私は仕事でめちゃくちゃ曲作って渡してるけど良いのか? 私はそれの延長線だと思ってるが」
「うっ……確かにそうですけど」
「それに安心しろ、私の曲が誰かに取られたところでスクールアイドルのみんなのパフォーマンスが取られたわけでもあるまい。車で例えれば曲はエンジンだ。どれだけエンジンが良くても車体の色がダサイ色だったら買う人いない」
「東雲もそうだがよ、私の知っている虹ヶ咲学園のスクールアイドルは例えばエンジンが取られたごときでダサく見える容姿も歌もパフォーマンスもしてないだろ」
「任せろ、エンジンくらいならユニコーンと一緒なら量産してやる。だからお前らは練習を頑張れ、サポートは侑さんと私に任せてな」
勘助のその言葉にかすみは何も言い返せず、寧ろ泣きながら感動していた。それを聞いてた他のみんなも勘助の言葉に嬉し笑いをする。遥は改めて勘助の凄さを見た。勘助の強さは人を纏める言葉もそうだが、それが出来る実力を持っているということ。
だからこそ遥は決意する。
「勘助さん」
「どうした遥」
「私、お姉ちゃんを超えます。その時はもっと私の事を愛して下さい!」
遥の言葉に周りの時が止まる。何よりも驚いたのは彼方本人である。
「そうか、遥ちゃんに勝ち続ければ遥ちゃんは彼方ちゃんの物だ! そうと決まれば勝負だよ遥ちゃん!」
「お姉ちゃんには負けない! 絶対勝って勘助さんに愛してもらう! そしてあわよくば結婚するんだから!」
「そこまでは彼方ちゃんも許してないよ! 勘助君! 遥ちゃんに勝てる曲作って!」
「勘助さん! 私に勘助さんの曲作りの極意を教えて下さい! お姉ちゃんに負けない曲を作ります!」
「エンジンも良いけど練習して己を高めていくのも大事ですよ。後、彼方さんにはそんな目的なら味方出来ません」
「遥ちゃんと付き合うの許さないよ?」
「どうにも出来ねぇじゃん、なんだこの姉妹仲良いなぁ」
「勘助君!」
「勘助さん!」
勘助の両腕に近江姉妹がくっつくがどうする事も出来ない勘助はミアと侑に見捨てられながらもユニコーンを見つめることしか出来なかった。