虹ヶ咲のシンガーソン軍師 ifルート編   作:初見さん

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栞子ルート2

「というわけで、相変わらず栞子が可愛いんですよ薫子先生」

「まさか栞子が勘助と付き合ってたとは驚いたけどね、というかアタシの方が栞子のこと知り尽くしてるんだけど?」

 

 それはそうだと勘助が苦笑いをして言葉を返した相手は、虹ヶ咲学園の教育実習生にして、栞子の実姉三船薫子である。

 勘助はたまに休み時間の時、薫子と昼食を食べながらこうして栞子の話をする。流石に同好会のみんなには言っていないとはいえ、栞子の肉親に黙っているわけにはいかないと、考えた勘助は、栞子に頼んで薫子に話す事を許してもらったのだ。

 それを良いことに勘助は薫子と一緒に栞子の何が可愛いかとかどこが愛おしいかとかを話し合う始末である。

 

「そういえばこれ、小さい時に蝉から逃げる栞子の写真。いる?」

「下さい。その代わりこの前デートした時にクレープめっちゃ美味しそうに食べる栞子の写真あげます」

「本当? そう! これこれ! こういうのめっちゃ欲しかったのよね」

「それにしても薫子先生の方から来るとは思いませんでした。幼い頃の栞子の写真あげるから、今の栞子のベストショットをくれなんて」

「いやぁ、まああの子も思春期みたいなもんだからさ。アタシに昔みたいに懐かないのよ」

「なるほど」

 

 勘助は学食のお茶を口に含み相槌を打った。

 

「そういえばどうします?」

「何が?」

「お会計。薫子さんが払ってくれるっておっしゃいましたけど……」

 

 勘助の言葉にふと、薫子が勘助の横を見た。そこにあるのは恐らく30皿くらいあるであろう学食の唐揚げやサラダなどのおかずが乗っていた空っぽの皿の数々。

 流石の薫子も顔を青ざめるしかなかった。

 

「えっと……は、払うわよ?」

「無理しないでください。私の分は私が払いますから」

「で、でも、大人として一度言ったことは曲げられないというか……」

「大人だからこそ計画立てずに口を出して、無理して金銭を払うのはやめた方がいいですよ」

「ご、ごもっとも……」

「それじゃあ、お会計は別々で」

「というか、あんたお金あるの?」

「バイトしてるので。基本食費と日用品にしか使いませんし」

「栞子とデートの時は?」

「栞子も栞子でお小遣いの範囲なので、そこまでかかりません。シンガーソングライターではありますが、侑さんやミアさんみたいに新しい楽器やパソコンを買わなくても、作詞作曲は紙と鉛筆とギターがあるので充分です」

「新しいの買ってないの?」

「不思議なことに私のユニコーンは毎日新品のように綺麗です。音も形も。アコギはまぁ、たまにユニコーンと一緒に叔父に見てもらいますけど、今は変える必要もないですから」

「そういえばユニコーンってなんだっけ?」

「エレキギターですね。私以外が弦に触ると弦が切れるので触らない事をお勧めします。叔父も栞子も同好会のみんなも全員弦に触って切りましたので、一時期だけ弦のお金がかかり過ぎて毎日もやし食ってました」

「何それ呪いか何か?」

「知りません」

「まぁ……いいや。とりあえず、栞子の事よろしくね」

「分かりました姉貴」

「姉貴って……」

「すみません。まだ先生でいいですね」

「あんたが栞子に本気なら、いつか呼ばせてあげる」

「ありがとうございます」

 

 そんな話をしながら、今日も栞子の姉である薫子と楽しく話せたなと思う勘助だった。

 

 ☆

 

「というわけで中川さん経由で皆さんにバレました」

「勘助さん。隠し事ダメ」

「勘助さん! なんで黙っていたんですか!?」

「勘助先輩! いつからしお子と付き合ってるんですか!」

「わぁ、修羅場」

 

 授業終わりに同好会へ顔を出した勘助を待ち受けていたのは一年生組からの質問、どらタヌキだった。

 勘助は苦笑いしながらも、3人に頭を下げる。

 

「ごめんな、栞子に告白したのは私で、生徒会室で2人きりになった時なんだ。栞子が好きだと相談もしてなかったのもあって同好会の誰にも伝えてなくてな。タイミングを逃したという言い訳しか出来ん」

「それでも、私達に言うべき。告白したのは私としずくちゃん、せつ菜さんだから、少なくともこのメンバーには言うべきだった。璃奈ちゃんボード『ふざけるなマジで』」

「すみませんでした」

 

 璃奈がここまで怒ってるのを勘助は申し訳なく思った。一年生にほぼ土下座せんとばかりの勢いで謝罪をする勘助に対して、しずくとせつ菜は逆に申し訳なく思う。

 

「璃奈さん、もう良いよ。勘助さんも意地悪で黙ってたわけじゃないから……」

「璃奈さん、そろそろ許しませんか? 勘助さんが年下に縮こまっているのを見るとなんだかこっちまで申し訳なく思いますから……」

「むぅ……でも、確かに2人の言うとおり……勘助さん、私も言い過ぎた。ごめんなさい」

「いや、私も悪かった。3人とも改めてごめん」

 

 お互い謝る姿を見た栞子は我慢出来ずに声を出した。

 

「皆さん。本当にすみません。黙っていて欲しいと言ったのは私なんです」

「栞子さんが?」

「はい。いきなり皆さんに申し上げると混乱したり質問責めにあったりするのは目に見えてましたので、私達が落ち着いて話すためには1人1人とか多くて3人程の方にお話しした方が混乱は避けられると思ったので……ですが、そのせいで皆さんには逆に不信感を与えてしまいました。本当にすみません」

「まぁ、確かにいきなり言われたら驚いて質問しまくるかすみさんがいるから落ち着いて対処出来なかったかもしれないね」

「しず子!? かすみんのことなんだと思ってるのさ!」

「でも確かにかすみさんなら大声で驚いて質問責めしますよね」

「せつ菜先輩まで!」

「冷静に考えると確かに愛さんも多分はしゃぐから2人が黙っていたのも頷ける」

「ちょ!? りなりーなんでアタシまで!?」

「3人のおっしゃる通りですが、うちの同好会には鐘嵐珠という破天荒もいますので、恐らくもっとうるさくなりますよ」

「栞子!? ランジュもなの!?」

「それではお聞きしますけど、3人は私達が交際しましたと言ったら、はい分かりましたと、交際を認めます、または認めませんと、この2つを言うだけで後の言葉は我慢出来ますか?」

 

 栞子の言葉に無言を貫いた3人が答えを示した。結局は無理なのだ。この2人が付き合っている事は嬉しい事だが、質問責めするなと言う苦行はこの3人には出来っこない話である。

 3人の様子を見た璃奈は改めて勘助と向き合って謝罪した。

 

「栞子ちゃん達の気持ち考えてなかった。勘助さん、栞子ちゃん、ごめんなさい。璃奈ちゃんボード……は今は出さない。ごめんなさい」

「わかってくれたなら言う事ない。私達も悪かったとしか言えない」

 

 修羅場は解決したが、結局少しばかり質問責めにあう栞子と勘助であった。

 

 ☆

 

「わかっていたけど面倒だったな」

「そんな事言わないでください。友人と思っている方々に無関心であるよりはマシだと思います」

 

 帰り際、栞子の言葉にそれもそうだと、返した勘助は先ほどの質問責めを思い出していた。

 

「それにしても……栞子が淡々ととんでもない事言ったのは耐えられなかったぞ」

「私は逆に、勘助さんがここまで顔を真っ赤にするとは思いませんでしたよ」

 

 いつから付き合ったかとか、お互いのどこに惚れたかとか付き合った2人には予想していた質問を勘助や栞子が淡々と答えた後、勘助と同じ事務所で働きながらもスクールアイドルとして活動している朝香果林がどこまで行ったのかと言う質問に対して栞子は淡々と答えた。

 

『キスと性行為はまだです。ですが、中川さんからエールを頂いたので、近々私からお誘いしようと思っています』

 

 これを聞いた勘助、ほぼ気絶状態である。

 

「年頃の男性ってそういう話に興味しかないと思ったのですが」

「俺は普通の男じゃないんだよ……菜々に言われて気づいたけど」

「その……1人でスルのは……?」

「生涯に渡って無いです」

「三大欲求の1つ死んでませんか? 逆に心配なんですけど」

「なんなら睡眠はショートスリーパーだからあんまりいらない」

「2つ目すらも……そう言えば中川さんから伺いましたけど、勘助さんはわんこそばというものを300杯食べるとおっしゃってました。どれくらいの量なんですか?」

「15杯で大体そば一人前らしいから20人分くらいか?」

「もしかしたら勘助さんは三大欲求の全てを食欲で埋め尽くしてるのでは?」

「そうかもしれない」

 

 20人分と聞いてドン引きする栞子に対して肯定する勘助。

 

「栞子、今栞子は薫子先生にご飯誘われた時のような顔してるな」

「どんな顔ですか?」

「俺が唐揚げとかのおかずを大量に平らげた皿を見る顔。要は青ざめてる」

「20人前はちょっとどころか食べ過ぎです。食い尽くし系男子ですか」

「月一くらいしかしない。栞子が困るならしない。最近値上げも激しいから一人暮らしの俺が死にかけてるのもあるから気持ちはわかる」

「まぁ……勘助さんが健康ならそれで良いです。それよりも……」

「それよりもなんだ?」

 

 栞子は勘助の腕にしがみつき自分の身体を思いっきり勘助に当てる。勘助は一瞬照れたが栞子の言葉に慌てることになる。

 

「最近姉さんと仲が良いのは気に入りません」

「そ、それはだな栞子」

「恋人は私です。どうして恋人の私を差し置いてその姉と2人で食事をしているのですか。いえ、理由は分かってますけど……」

「えっと、理由はだな……」

「何枚、受け取ったのですか? 何枚、渡したのですか?」

「な、何の事かさっぱりで……」

「そんなに私の小さい時の写真が大事なのですか? 今の私には興味がないと?」

「いや、そ、そんな事は!」

「確かに昔の私の方が純粋で笑顔で可愛いですよね。今の私はこの世の果てを知っていますので、あの時みたいに純粋な笑顔を浮かべることもできず、言葉遣いもまるでオリハルコンのように硬く、頭も表情も言葉も、まるでこの世界に絶望した地獄の死者のような……」

「栞子は菜々としずくさんから何を教わったんだ!? 俺は今の栞子が好きなことに変わりはない!」

「それじゃあ私の幼少期の写真を集めないでくださいこのロリコン!」

「ろ、ロリコンじゃねぇから! 栞子の写真しか興味ねぇから!」

「姉さんが言ってました。小さい時の方が笑顔だと」

「ぐっ……それは確かに言ったが、それでも俺だって幼少期の方ががいいって人も……いねぇ、家族死んでる……友達も菜々しかいない……」

「自分で言って自分でショック受けるのやめて下さいってか本当に泣かないでくれません!?」

 

 勘助は涙を流しながらも栞子に謝る。少し落ち着いてから、勘助は栞子に言った。

 

「小さい頃は誰もが可愛いって思うさ。栞子だけじゃなくて菜々もかすみさんも侑さんも、何なら薫子先生だって小さい時は可愛いんだろうよ」

「可愛い好きっていうのと生涯愛してるってのは違うからな。俺は今の栞子と時間を共にしたいんだ」

「勘助さん……本当に貴方は仕方ない人です。いつ浮気されるか私はとっても不安ですよ」

「栞子以外愛さないって」

「いつか中川さんや璃奈さん、しずくさんに取られるか不安です」

「それは……」

「ハッキリ肯定しない勘助も不安です。なので明日から貴方の首に跡をつけます」

「何がなのでなのか分からない!」

「ありていに言うとキスマってやつです。異論は認めません」

「貴方が誰のものなのか、はっきり示す必要があります。大丈夫ですよ。見えないところにつけてあげますので」

「ならいいか」

 

 栞子の提案を普通に飲み込んだ勘助だが、一般的な恋人にしては重すぎるのではないか? 

 そして勘助の肯定の言葉に栞子は勘助の首を手で押さえて、そのまま首に……ガリッっと

 

「痛い!?」

「すみません、噛みました」

「お前今本気で嚙んだろ!?」

「かみまみた」

「わざとじゃない!?」

「勘助さんの血、美味しいです」

「君は吸血鬼か何か?」

「何を意味の分からないこと言ってるんですか?」

「だ、だよな。栞子は人間だよな……」

「第四真祖ですよ」

「菜々に毒されとる!?」

 

 勘助は栞子の発言にツッコミを入れながらも、栞子が堅物な人間だと言う発言を信じられなかった。

 正直本人はそう言っているが、彼女の姉は豪放磊落と栞子自身が言う人間で、幼馴染は鐘嵐珠という破天荒な女の子。そんな人に囲まれた栞子が純度100%堅物で敬語しか話さない真面目過ぎるキャラかと言われればそうではないと勘助は思う。

 同好会のメンバーもクセがある人もいるのでいい意味で影響されたんだなと思った。

 

「とりあえず……話は戻すけど、俺は栞子が好きなんだ。その想いに嘘偽りはない」

「分かっているつもりです。勿論、色んな女性とお話しすることも我慢してます。それでも、やはり不安はありますよ」

「栞子……」

「きっと、人間はそう言った不安からは逃れられないのでしょうね。話は逸れますが、私も姉に憧れてスクールアイドルを始めた身です。それでも、姉に並べるようなスクールアイドルとか、皆さんに良い意味で影響を与えられるスクールアイドルになれるかなんていつまでも不安に思うのでしょう」

「もし、不安になるなら俺から一言アドバイスをあげようか?」

 

 栞子に対して言った勘助の言葉は彼女に興味を持たせるのに充分だった。勘助は栞子から教えて欲しいと言われて、その言葉を言った。

 

「どんなに辛くても、悩んでも、『それでも』と言い続けろ」

「『それでも』ですか?」

「ああ、姉に近づけるか不安だ、それでも一歩踏み出してスクールアイドルになって今ここにいる」

「みんなに影響与えられるか不安だ、それでも、今自分のパフォーマンスで喜んでくれる人がいる」

「このように、逆説で最後良い意味にしてやれば少しばかりは楽になるし楽しくなる」

「なるほど……良いアドバイスですね」

「母さんからの言葉だ、すぐに亡くなったけど、その言葉だけは覚えている」

「勘助さんのお母さんとは三条家の……」

「俺は三条家に対してあまり知らんけどな、母さんは母さんだ」

 

 勘助の母親の旧姓は三条、過去から今まで三船家に対して日本舞踊を教え続けた三条家の1人である。

 勘助は本人から一切三条家に対して聞いてないので母親が家出して結婚した以外は知らなかったが、栞子から予想で教えてくれた。真相は不明である。

 

「まぁ、だからさ。なんかあったらそれを言ってみろ。どうしても無理なら俺に言え、軍師背負ってきてんねんぞ」

「それは了承しますけど、何故関西弁……?」

「何となくだ」

「ふふっ……そうですか。それでは今、その言葉言いましょうか」

「何か不安でもあるのか?」

「先ほど言ったじゃありませんか。勘助さんの周りは女性しかいないので私だけを愛してくれるか不安だ、それでも、勘助さんを監獄に閉じ込めてしまえば問題ありませんよね」

「俺に問題しかない」

「それではどうしますか? 首を私の歯形で血まみれにしますか? それとも四六時中私が勘助さんにくっついて見せつけますか? それともいっそのこと……」

「いっそのこと……なんだ?」

「今度、私の家に来て下さい。姉も両親もいないので。貴方が誰のものかその身に刻んであげます。勿論身体で」

「この栞子偽物だろ!? 本物はそんなこと言わない!」

「私は今幸せです」

「何で言った!? 何でその言葉今言った!? 怖いよ!」

「それじゃあ、帰りましょうか。よろしくお願いします勘助さん」

「それは末永くって意味だと信じたい。決してR18ではない方であって欲しい」

「あまり私の顔を見ないでください。想像だけでニヤニヤしてます」

「その想像が何かは突っ込まないけど、俺は栞子と2人で料理している姿に想像してると信じてる」

「勘助さんは奥手なので私から誘う事にします。中川さんからそう伺ってますので、とりあえず1発どうですか?」

「はいストップ! 帰るぞ偽物栞子!」

 

 色んな人に影響され過ぎるのも栞子にとって毒だなと思った勘助である。

 

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