侑と勘助が腹と心を決めた日から数日経つ。最初の1日目は確かこんな感じだった。
「お、おはよう勘助君。ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」
「おう……おはよう侑さん。どうしたんだ?」
「今日の課題曲出来てるんだけど、その、勘助君に先に聞いてもらえないかなって」
「評価するのは先生だけど?」
勘助完全にアウト。察しろ勘助、侑は勘助に一番最初に曲を聴いてほしいのだ。
「え、ええっと……ちょ、ちょっと不安でさぁ! ほら、時間も少しあるから今のうちにでも勘助君から意見聞いて、手直しできるところはやろうかなって!」
よく言った。さぁ、勘助聞け。聞かないと刺されるぞ。
「成る程、そう言う事なら遠慮なく。音源貸してくれ、イヤホンに繋げる」
「うん! ありがとう」
そう言って勘助は自分のイヤホンをデータに差し込み、曲を再生する。眼を閉じて聞いてすぐに左耳から音が聞こえなくなった。何かあったかと、不安になり、違和感を感じた左耳に眼をやると、左耳にはイヤホンではなく侑がいた。
「私も自分の曲だし、聞きたいから聞いて良い?」
「あ……あぁ、私のイヤホンでよければ」
勘助の言葉に喜びながら左耳にイヤホンを入れて曲を聞く侑。はたから見ると2人の姿は同じ曲を同じイヤホンで聞いている恋人であった。
同じ同好会のミア・テイラー含めてクラス中がザワザワし始めるが、勘助は侑の頼みで真剣に、侑は隣にいる想い人、山本勘助に内心ドキドキしながら聴いていたのでクラスのノイズは聞こえない。
しばらく聴いて曲が止まる。勘助と侑はイヤホンを外して、再び会話に戻る。
「結論言えば最高だった。侑さんには珍しいラブソングだったが、音に対して違和感はなかった。強いて言うなら、『これで貴方は私を含めて4人に愛される』って歌詞、主人公モテすぎじゃねぇか? って思ったくらいだな。現実の恋愛にしたいならこんな漫画みたいな事は起こらないだろうし」
「実際に起こってるんだけどね」
「え? ちょっと待って……ねぇ、待ってそれ誰?」
「さぁね? 少なくとも私の身近にいるよ」
「えぇ……」
閑話休題。
その後、勘助も念の為と、そう言って自分の曲を侑に聞かせた。その時の侑の反応は以下同文。
「流石勘助君。臨場感が凄いね、でも、『3人の好意の否定は怖い。ただ、君の幼馴染に存在を消される前に僕の想いを伝えたい』ってどんな修羅場? 好きな人の幼馴染に存在を消されるとかせつ菜ちゃんの好きなバトルものじゃ無いんだから」
「実体験です」
「へぇ、実体験……え? 嘘でしょ!?」
「ははっ……冗談だよ」
「ほっ……ならよかった」
「冗談が冗談だとは言わないでおくか……」
その後、席に戻った2人は歌詞を書き直すのはしなかったそうだ。
☆
そこから数日後、色んなことをお互いにしてた。
珍しくカリキュラムにあった調理実習では侑と勘助はお互いの班の元(どちらかと言うと2人のいる場所)に向かい、出来た料理を味見させた。
同好会では音楽科の教室でやった1つのイヤホンを2人で使う事。
放課後には歩夢を連れて楽器屋に行ったり、ファストフード店に行ったりもした。連れ出された歩夢は最初こそ遠慮したが2人はこう言った。
「歩夢さんがいないとダメだろ。歩夢さんの侑さんなんだから、幼馴染としてしっかり侑さんの面倒見てくれないと」
「歩夢がいないとダメだよ、歩夢だけの私にはなれそうに無いけど、歩夢の幼馴染は私しかいないんだから。歩夢も一緒に行こ?」
「勘助君、侑ちゃん……脅してごめんね!」
「いや侑さんに何したの貴方」
「いや勘助君に何したの歩夢」
歩夢の衝撃的な一言に2人同時に突っ込んだ侑と勘助だった。その時2人の心の中では、
(歩夢さんがいないと侑さんと何話せば良いか分からんからな。侑さんとの思い出話から侑さんの好きな事とか聞いて話題を広げたいな)
(歩夢がいないと音楽以外の会話で間がもたないから一緒に来てもらおう。自分で好きな物とか言うの自慢話みたいになっちゃうから、歩夢に思い出話してもらって間接的に私のこと知ってもらおうかな)
とんでもない策士であった。そんな事を考えていても、歩夢と侑が欠かせない関係である事を勘助は知っているし、自分にとって歩夢も大切である事は侑も分かっている。ただ、この場合、裏はあっても口も正直だった。
☆
「最近侑さんと勘助さん仲良いですよね? もしかして付き合ったりしてますか?」
ある日の同好会で口を開いたのはせつ菜だった。勘助と幼馴染であり勘助に告白していた彼女はずっと彼らの行動を見ていた。
イヤホンシェアの件や廊下で仲良く話す姿、最近は歩夢を連れて3人で出かけてもいるとなると、この結論が一番納得できた。
そしてせつ菜のせいか、原因は別の所か、恐らく2人は人生最大のやらかしをしてしまったと後に反省する。その返答がこれだ。1,2,3……
「いや、まだ付き合ってないよな」
「うん、まだ付き合ってないよね」
「……え?」
「……はい?」
侑と勘助がお互い口を開けば、またお互いが疑問で口を開く。それを見てた同好会メンバーは……
「へぇ、まだ……ねぇ?」
「果林さん、今のはえっとですね」
「まだって事は侑先輩は勘助さんといつか付き合うんですね!」
「しずくちゃん!? えっと、そういう話じゃなくてね?」
「じゃあどういう話ですか? 勘助先輩、侑先輩」
ニヤニヤしながら言葉を発する朝香果林を制した勘助、コレはスクープだと、次の演劇の脚本にしようとノートを構える桜坂しずくを制した侑だったが、純粋に疑問で聞いてきた中須かすみの一言で何も言えなくなった。そして、完全にトドメを刺したのは……
「みんな、練習しようか。侑ちゃんと勘助君はマネージャーとして飲み物作るらしいからここに残るって言ったよね?」
「えっと……」
「言ったよね?」
「あ……はい」
2人が同時に返事した対象は
ちなみにドリンクの件に関してはこの前にみんなに事前説明しているので完全な事実。文字通り事実からは逃れられなかった。
そそくさとみんなが部室から出て、同好会史上最速で2人きりにされた部室で侑は勘助に聞いた。
「えーと、つまりどういう事かな?」
「どういうことも……分かりきってるだろ……私は、侑さんが好きなんだよ。異性として」
「そういうこと……だよね……それで、私も勘助君が好きなんだ。異性として」
「2人してボロ出してどうすんだよぉ……」
「あ、あはは……なんか、変な感じだね」
「まぁな。なんか照れるけど……大事な事を片付けてから仕事するか」
「大事な事ってまさか……」
侑の言葉に一つ返事をして勘助は侑の前に立った。そして、俺から言わせてくれと、一言前置いて伝える。
「侑さん、俺は貴方が好きだ。歩夢さんに切り刻まれようと、璃奈さんやしずくさん、せつ菜に愛想尽かされようと、この想いだけは伝える。付き合って下さい」
「はい……私も、勘助君が好きです。もしも……その、勘助君に告白しま3人に恨まれても、この想いは伝えるよ。私と付き合ってほしいな」
そうして2人はお互いを見て、もしかしてと、言った。
「あの曲って俺の事なの?」
「あの曲って私の事なの?」
あの曲というのは、想い人の幼馴染に存在を消されるとか、3人から好意を向けられてるから自分含めて4人だとか。そう歌詞に入れていた歌を2人は思い出して、結果、爆笑した。
「アッハハハハ!! 嘘でしょ!? 歩夢なら確かにやりかねないけどさぁ!」
「ハハハハハハ!! 嘘だろ!? 確かに考えたら俺3人から好意を向けられてるから侑も合わせて4人か! いや、気づかないもんだなぁ!」
「そうか……なぁ、侑」
「えっと……どうしたの? 勘助」
「俺は侑と付き合いたいからよろしくな」
「うん、私も勘助と付き合いたい。よろしくね」
そして、2人は幸せなキスして終了……
「さて、ドリンク作るか」
「そうだね、みんな待ってる」
あ、違うこいつら真面目だから無いわそんな展開。
「あ、勘助忘れ物だよ」
「忘れ物? ギターはいらない……」
勘助が振り向いた瞬間勢いよく走って飛び跳ねた侑の唇が軽く勘助の唇に当たった。少し間を置いて侑は恥ずかしがりながら、
「やっぱ定番かなって……ダメだった?」
「いや……トキメキました……」
その後はお互い顔を赤くしてドリンク作りを行なった2人。その頬の熱は今日の同好会が終わるまで祝福と嫉妬と幼馴染の呪いのせいで下がらなかったという。