「そういう訳で俺の首が真っ赤だけど気にしないでくれ」
「勘助さんに学校で会ったと思えば首がほぼ真っ赤に染まってるのを見て恐怖を覚えました。というか栞子さん独占欲強すぎません?」
「しおにゃんだし、猫みたいなやつだし。もっと言えば妹だから甘えたいんだろうな」
「冷静に受け入れる勘助さんも凄いですね」
「妹だけど愛さえあれば関係ないよね」
「危ないのでその発言は控えて下さい」
「お前の影響で第四真祖って栞子が言ったのも危ないけどな」
「栞子さんが吸血鬼のラブコメが見たいと言ったので」
「だからってあのアニメを推すなよ」
誰かと付き合おうが付き合わなかろうがやはり頼れるのは幼馴染の菜々……今は優木せつ菜の姿だが勘助は気にせず駄弁っていた。
駄弁っているというか、今回はせつ菜に呼ばれて勘助は話を聞く事にしたのだが、アイスブレーキングというやつで世間話をしようとしたら恋人の話になっただけである。
「それで、今日はどうした? 依頼なんて久しぶりだが」
「近々栞子さんのライブがあるのですが、虹ヶ咲でお二人が付き合っているのはみなさん知っているのもあってですね、是非夫婦共演して欲しいと言う声が」
「俺が『決意の光』でも歌えば良いのか? 髪飾り強く結び直して、髪飾り強く結んで、髪飾りを強く結び直してってやつ」
「決意どころかその前の髪飾り結ぶだけの歌じゃないですか。しかも語呂が良すぎません?」
「髪飾り強く結んでゆけ!」
「結局サビ全部が髪飾り結ぶだけで終わりましたね。まぁ、それでも良いんですが、栞子さんがラブソングの『咬福論』を歌いたいと」
「あぁ、あのヤンデレエロソングか」
「勘助さんは栞子さんのことなんだと思っているんですか?」
「ネットでヤンデレとかいやらしくて萌香……萌えるって声があったから一言でまとめただけだぞ」
「誰ですか萌香さん……まぁ、確かにそんな意見もありましたけど……というか勘助さんが作った曲よりはマシですよ。何ですかあの次回のシングルに出てくる曲名は」
「『初心者が作るヒップでポップなラップ調』の事か?」
勘助の作った曲名に頭を抱えるせつ菜。正直言うとダサかった。それでも、普通にそこそこ売れているのだから世の中よく分からない。
因みにその前に作った曲名は『どうして? いや何で? 本当に知らない!』である。どうやら全く身に覚えのない事を責められた人の心の声を歌った歌だが、この曲名を許さない者が1人いた。世界のミア・テイラーである。
『君は曲のタイトルを馬鹿にしてるのか!? 売れる訳ないだろこんなタイトルで!』
という感じに怒られたと勘助は言った。という感じと言ってたのも、ミアがあまりに感情的になりこのセリフは全て英語で言われた事であり、勘助が大体こんな感じだと訳したものである。
それでも、勘助は売れなかったら自分の実力不足だからとりあえず出してみると言って無理を承知で出した。結果はまさかの大バズり。
ミアや勘助のタイトルにお世辞にも良い顔をしなかった同好会のメンバーは開いた口が塞がらなかった。
今もその歌は若者を中心に大人達にまで聞かれる始末である。
「前回のアレがあるので強く言いませんが、もう少しタイトルにも重きを置いてもらわないと……栞子さんともし子宝が出来たら名前とかどうするんですか?」
「その時は薫子さんと栞子に任せよう。音と娘でねこって名前にしたいんだが殴られそうだ」
「サラッと人任せにしないでください……はぁ、とりあえず……話を戻しますが勘助さんには栞子さんのヤンデレエロソングを歌って頂きます」
「言っといてあれだけどせつ菜もこっち側に来るんだな。『咬福論』だろ? 別に構わないぞ」
「それじゃあ侑さんに伝えときますね、侑さんがファンの皆さんの声を聞いて提案したので」
「栞子本人は?」
「断る訳ないじゃないですか。寧ろユニコーンで弾かせる気満々でしたよ」
「嫌だなロックバージョンの『咬福論』なんて」
「噛み跡残すどころか噛みちぎる勢いですもんね」
せつ菜の言葉に不甲斐なくお茶を口から吹き出した勘助だったが、話し合いは簡単に終わった。
☆
「ただそれだけで、幸せです」
勘助は同好会の活動中に栞子の曲を歌っていた。演奏はエレキギターではなくアコースティックギターのデストロイモードで。
アコギの音色じゃないとやはり合わないなと勘助は考えながら、栞子の歌い方を真似して歌う。
「なんだか勘助先輩の歌を聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど」
「分かる。栞子さんも色っぽく歌ってたけど勘助さんも栞子さんにない色っぽさでドキドキしてる」
「ねぇ、勘助。お姉さんと一緒にセクシー路線で活動しないかしら?」
「私はセクシーではなくギャラクシー派なので遠慮します」
「つれないわね」
「私が果林さんの立ち位置とっていいならやりますけど」
「生意気だから一回叩いていい?」
「果林さんに叩かれた如きじゃ痛くありませんよ。こっちは毎日栞子に首噛まれてんだ」
「あら、お熱いのね」
「エマさんにお世話されている果林さんの方がお熱い事だと思いますけど?」
「へぇ……」
「ははっ……」
かすみとしずくが意見してくれてる中で今日も今日とて勘助は果林と口喧嘩である。正直勘助と果林の口喧嘩はそこまで場の空気を壊さない。なぜなら2人は同好会でも事務所でも廊下や食堂でも売り言葉に買い言葉。
エマや栞子は表面上止めるが、口喧嘩している時の勘助と果林の表情を見てそれ以上は何も言わない。だって楽しそうだから。
現に今もこうして言い争っているが、2人の雰囲気は決して悪いものではなく挨拶がわりというか、またやるのかよ仕方ねぇなという感じの雰囲気だった。
「まぁ、でも悪くはないわ。その色っぽい歌い方わざとらしさが意外に無いから気に入ったわ」
「果林さんと栞子を参考にしてるので、参考は尊敬しないと出来ないですから」
「あら、私を参考にしてくれてるの?」
「当然ですよ。なんやかんや尊敬してますし」
最終的にはこうして褒めあって言い争いが終わるので、聞いてるみんなは笑顔である。
「勘助さんが私の歌を歌っているという事は、私の気持ちや行動、仕草が勘助さんの中に入っているという事ですよね。という事は勘助さんの中に私の一部が入っているなら実質一心同体……即ち性行為……」
「大変、栞子ちゃんがしずくちゃんみたいに妄想しだした。璃奈ちゃんボード『妄想系ヤンデレ』」
「璃奈さんは私の事なんだと思ってるの?」
「この前台本にせつ菜さんと歩夢さんがキスしたり性行……モゴモゴ」
「璃奈さん、お話ししようか?」
「しず子本当にいつも何妄想してるのさ」
「かすみさんもお仕置きね」
「なんでかすみんも!?」
最終的に璃奈とかすみはしずくに連れて行かれた。
一年生組が栞子しかいなくなったので、とりあえず勘助は栞子を呼んで歌い方の確認をする。
「勘助さんは勘助さんの歌い方がありますのでその適性を沿って頂ければ」
「その適性をぶち壊す。栞子の曲に俺の適性入れても仕方がないだろ」
「右手一つで殴りまくる不幸な男の真似をしないでください」
「せつ菜々さんもう栞子にアニメを布教しないでください」
「勘助さん何故です!? せっかく栞子さんを魔改造……いえ、堅物な自分を変えて勘助さんとうまく付き合いたいと相談して来たから多少のアニメ知識を分け与えてあげただけですのに!」
「魔改造で本音バレてる。しかも分け与えるってなんだ、お前は神か何かか?」
「神様とか人類の創始者とか、人はそんなものになれませんよ!」
「どうしよう、初めて幼馴染を殴りそうだ」
「そういう時は勘助さんもガブっといってみたらどうですか?」
「仮に俺がせつ菜の首をガブっとしたらどうするんだ?」
「勘助さんの首を噛み千切ります」
「あかんて」
3人のやり取りに同好会のみんなが笑顔で微笑ましく見ていた。侑に関しては机を叩いてまで爆笑している。曰く、コントでもしてるのかと。
気を取り直して勘助と栞子は2人で歌い続けるのだった。
「誰だからわからねぇが後ろの奴、頼もしいぜ」
「勘助お兄ちゃん勘助お兄ちゃん勘助お兄ちゃん勘助お兄ちゃん勘助お兄ちゃん勘助お兄ちゃん」
「待ってサーカスアニメまで布教されてんの?」
「ええ、私とせつ菜さんは愛さんの言葉を借りればマブダチってやつです」
「え! 愛さんが俺と栞子のご飯奢ってくれるって? いやぁ悪いね!」
「ちょ!? カンスケそんな事愛さん一度も言ってないよ!」
「栞子に変な言葉教えた罰だ」
「えぇ……そこまで変な言葉じゃないじゃんか」
「そう言えば愛さんからは恋のABCというやつも習いましたよ」
「奢れ、異論は認めん」
「すみませんでした」
その日の夕食が決まった。同好会メンバーの宮下愛は実家がもんじゃ屋である。今日の2人のご飯はもんじゃになったが、愛は勘助の食欲に恐怖しているので少し怯えていた。
「奢られるのにそんな食わんて。安心しろ」
「でもこの前カンスケ1番量が多いパーティ用の巨大もんじゃ10分で平らげてなかった?」
「今日は普通サイズで問題ないよ」
「勘助さんの食欲は人間ではありませんからね。大食いタレントの適性があるのでは?」
「この前ローカル番組の罰ゲームで超巨大パフェ食べさせられたけど平らげたぞ。テレビ泣かせだからスタッフさん達と私には大食いを罰ゲームにしない方がいいと提案した」
「カンスケって人間? しおってぃー家計持ったら大変そうだね」
「毎日その量だと困りますが、勘助さんは普段もやしを食べてますから大丈夫だと思いますよ」
「え? 足りるの?」
「気合いで」
勘助の言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった愛と栞子である。
☆
結論から話すと栞子と勘助の合同ライブは大成功だった。本当は栞子のライブに勘助が少しパフォーマンスをする予定だったが、マネージャーの高咲侑がどうせライブするなら勘助とコラボライブで長く時間を取ろうと提案したのもあり、合同ライブになったのだ。
ライブを見た人達は全員勘助と栞子の歌を絶賛しながらも、あそこまで色っぽい歌い方をされて照れない人はいないだろうという評価である。
「それでですね……ガブガブ……クラスの方から……ガブガブ……勘助さんと私の恋路について質問責めされました」
「俺の腕食いながら喋るな。ってかなんで噛む」
「私なりの愛情表現です。何なら今からでもキスして勘助の舌を噛んでもいいんですよ?」
「舌噛みちぎられたら死ぬらしいぞ?」
「千切りませんよ。ハムハムするだけです」
「せつ菜助けろ、コイツオープンな方の変態だ」
「栞子さん、この前貸す予定だった健全な18禁ラノベです」
「ありがとうございますせつ菜さん」
「一瞬で言葉が矛盾したラノベってなに?」
「高校のDDとその血はストライク、後は神殺しの神ってタイトルのラノベです。悪魔とか吸血鬼とか出てくるのでたまにしずくさんの演劇台本の糧にもなってます」
「わぁ、全然健全じゃねぇラノベだ」
「ご存じなのですか?」
「アニメだけ見た。刺激強すぎて5話も見てないけど」
「勘助さんにアニオタの道は遠いようですね」
「あの完璧超人の勘助さんでもR18の適性が無いみたいですね」
「そんな適性はいらないし、その2つ見なかったくらいでアニオタの道遠くなるなら厳しすぎるだろ」
「そういえば栞子さんはもう勘助さんと……」
「勘助さんが眠ってる時にしてるキスくらいです。その先は勘助さんと話してからやろうと思ってます」
「ちょっとまって? 俺知らないけど寝てる間にキスされてたの?」
「勘助さんからキスする時いつも顔を真っ赤にしてバードキスしかしないので、寝てる時にこっそりと長く接吻をさせてもらってます」
「うっ……い、言ってくれれば努力するのに」
「言いましたね? それじゃあ今日はのうちに何処かでお願いします」
「ふえぇ……せつ菜この生徒会長怖いよぉ……」
「貴方の嫁でしょう? 何とかしてください……というか、璃奈さんの発明の件で一緒にお風呂に入った話を聞いていたのでもうヤったと思ったんですけどまだ何ですね」
「私はやはり……魅力が無いのでしょうか?」
「いや、俺言ったよね。栞子に言われたら何とか努力するからそのうちなって言ったよね?」
「人間の男性はそのうちとかいつかとか曖昧にして女の子を捨てていくんです。私は悲しいです。ぴえんです」
「愛さんは後でしばくか。ってか泣くなよ、栞子とはずっと一緒にいるって決めてんだからいつかもそのうちも近いと思うぞ」
「それじゃあ今月中にお願いしますね」
「嘘泣きかよ!?」
「勘助さんは大人しい女の子が夜になると頬を赤くしながらも妖艶な顔をして男性を性的に襲う逆レ物の方がそそると言ってましたよ」
「ちょっと待って!? 俺そんなこと言ってないよ!?」
「え? 昔アニメのキャラで好きな子を語ってた時まんま栞子さんのような人を好きになりまくってたじゃないですか」
「そ、それは言ったけど……」
「こんな人と結婚したいなって言った後、ボソッと、鼻血出そうって言ってましたよね」
「可愛過ぎて恥ずかしくなったんだよ!」
「女性を見るだけで鼻血出すって言うのもとてつもないお話しだと思うのですが……勘助さんは女性恐怖症か何かですか?」
「だったら同好会に参加できないだろ」
「昔は私と遊んでた時たまにプールとか行ってたんですけど、すぐ私の水着見た後毎回意識失ってるんですよ」
「女性耐性の適性は無いですね」
「今はマシになりましたけど、昔の勘助さんなら同好会すら来れなかったと思います」
「なので勘助とスル時は眼を隠して栞子さんがリードをするのが1番です。勘助さんも早く耐性つけておかないと夫婦になる時困りますよ」
「何で俺説教されてんの?」
このライブから学校の中で、生徒達が勘助の首に噛み付く生徒会長を目撃する事が多くなったらしい。