「勘助先輩。聞きたいことがあるんですけど」
「なんだ、部長」
「なんでかすみんのことたまに部長って呼ぶんですか?」
「え? 部長だよな?」
かすみんこと中須かすみは疑問だった。ここにいるスクールアイドル同好会マネージャー山本勘助がかすみに対して部長と言っていることである。
確かにかすみは部長だ。だからこそ勘助は部長と呼ぶのだが、かすみが疑問に思ったのは、何故他のメンバーが使わない呼び方で呼ぶのかである。
同好会メンバーはかすみとしか呼ばない。たまにかすかすと言う人もいるがかすみが怒るのであまり言わない。
だが勘助は、勘助だけはかすみを部長とい呼ぶのだ。それがよくわからない。
「部長と言われて悪い気はしません。実際かすみんが部長なので間違ってないんですけど……違和感があると言いますか」
「私はかすみさんを部長だと思っているからそう呼んでいる。勿論みんな忘れてるわけではないと思うけどな」
「それに、言っただろ。頑張って部長らしくならなくても、かすみさんは部長だと」
「どうして勘助先輩はそんなに優しいんですか?」
「優しいとか知らないけど、私は思った事を言っているだけさ」
「かすみんは……やっぱり勘助先輩の事好きです」
「急だな、どうしたよ?」
「勘助先輩がいなかったら、同好会はどうなってたか分かりません。それに、勘助先輩のおかげでせつ菜先輩と仲直り出来ました」
「かすみんだけじゃなくて一人一人に言葉を掛けてくれたり、自分も上を目指すのをやめない勘助先輩だから好きなんですよ」
「そうか……まぁ、私もかすみさんは好きだぞ。じゃないとこうやって話もしないからな」
「そういう事じゃ……無いんだけどな……」
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもないですよ!」
そんな会話を勘助とかすみは続けるがかすみの好きと勘助の好きは違うと断定したかすみは、勘助に聞く。
「今は……しず子とりな子、後せつ菜先輩ですか」
「な、何がだ?」
「保留にしている人です。動揺してる時点で分かっていますよね?」
「ま、まぁな」
「私も頑張りますね」
「え? どういう事?」
「内緒です。ところで勘助先輩は学年トップでしたよね?」
「まぁ、一応は。それがどうした?」
「いえ、参考にするだけです。無理ゲーですけど、やれるだけやってみます」
「何する気だ?」
「答えは言ったようなものですよ」
そんな言葉を言いながら、きししと、笑うかすみと困惑しか出来ない勘助であった。
☆
「勘助さん。助けて」
「いきなり音楽科の教室まで来て助けを求めてくるって事は相当やばい事でも起きてるのか?」
翌日の放課後、情報処理学科であり同好会メンバーの天王寺璃奈がいつものボードも持たず勘助がいる音楽科に突撃ヘルプをしてきた。
勘助も初めての事だったので内心本気で焦っている。
「誰か虐められたとかか?」
「かすみちゃんがぶっ壊れた」
「かすみさんが? ぶっ壊れたなんて穏やかじゃないけど具体的には?」
「赤点常習犯がめっちゃ勉強してるの」
「そりゃマジでぶっ壊れたな。侑さん、ミアさん、私今日部長と面談するから練習先にやっててくれ」
勘助の言葉に肯定した侑とミア。同じ音楽科の中に同好会メンバーがいるのは報連相が出来て楽だった。
「最近勘助が子犬ちゃんの事結構気にかけてるよね」
「まぁ、部長と副部長だから何か話してるってのもあると思うけど、最近かすみちゃんが勘助君に絡みに行くからね。仲が悪いよりはいいんじゃないかな?」
「にしても、あの子犬ちゃんが勉強なんてするの?」
「ごめん、それは同意するかも」
みんなからすればかすみは赤点の常習犯であるので、信じられなかったらしい。
☆
「これより軍議を開始する」
「久しぶりに聞きましたけど、どうして勘助先輩とかすみんの2人きりなんですか?」
「璃奈さんからかすみさんがぶっ壊れたと聞いたから何かあったのかと思ってな」
「ストレートに失礼な事言ってません? というかかすみんは壊れてませんけど?」
「璃奈さん曰く、かすみさんが勉強してたって」
「それだけでぶっ壊れたって言われたんですか!?」
「まぁ……璃奈さんがな。かすみさんが勉強するのは分かるけど、大体赤点取った補修の時とか、宿題ギリギリの時とかって言っててな。今回は何も無いのに昼休みに参考書見てたかすみさんが怖かったんだと思うぞ?」
「まさかの心霊扱いされてる!?」
かすみは項垂れた。まさか自分がやった事が逆に気味悪がられるとは思ってなかったからだ。でも、普通は何も思わない。かすみが赤点を取らなければ普通の話なのだ。
「いや、別に勉強するのは構わんさ。学生の仕事だからな。でも、勉強嫌いです、やりたくありませんって嫌悪してる人が急に勉強したら心配にもなるだろう。心配は行きすぎか、何かあったのかなって思うのは当然だと思うが?」
「勘助先輩は……どうしてかすみんが勉強してると思います?」
「それが分からんから聞いているんだ。言いたく無いなら言わないでもいいが、璃奈さんとしずくさんが心配してた事は理解してくれ」
「分かりました……でも、理由は言えません。次のテストが終わったらお話ししますから」
「おう……分かった。一応2人にはなんとか言っておくわ」
「いえ、私から言うので大丈夫ですよ」
「なら問題ないな」
「後、お願いなんですけど」
「どうした?」
「少しでいいので、勉強教えて下さい」
かすみの言葉に驚いた勘助だったが、笑みをこぼして了承した。
「これ全部なんですけど……」
「なんか……50問以上無いか?」
「だって分からないんですもん」
「はぁ……分かった。ただ、今日は5問までにしよう。時間もそうだが、かすみさんの集中力も持たんだろう」
「す、すみません。ありがとうございます、勘助先輩」
「礼には及ばん、ただ、終わったら絶対聞かせてもらうぞ」
「はい!」
こうして何が目的か分からないかすみの勉強を勘助が見る事になった。
(絶対認めてもらうんだ)
かすみが心の中でそう思っていたのだが、勘助は一切知る由もなかった。