「かすみん、今日この曲の歌詞考えて欲しいんだけど」
「勘助先輩が考えて下さいよ、かすみんが考えるよりはいい歌詞出来るんじゃないですか?」
「お前と考えないと意味ないだろ、お前の曲だぞ」
「そうですけど……」
「別に語彙力なくても俺が訂正するから良いだろ、2人で作れば共同作業だぞ」
「それじゃあやります」
「早いな」
かすみと勘助がそんな事を話しながら歌詞作りをしている中、みんなもダンスレッスンなどをして汗を流した後休憩を挟んでいる。そんな時1人だけこの状況に疑問を持つ人がいた。かすみとは大親友の桜坂しずくである。
「しずくさん、何かあったのですか?」
「栞子さん……いや、かすみさんと勘助さんって本当に付き合ってるのかなって」
「略奪ってやつですか?」
「いや、そうじゃなくてね? かすみさんの事だからアイドルが恋愛なんてとか文句言いながらもいざ付き合ったらデレッデレになって、お金貸しそうなダメ人間になりそうなのに……」
「確かにかすみちゃんならお金云々はともかくデレッデレになりそう。璃奈ちゃんボード『仕方ないですねぇ、お金くらいかすみんが出しますよぉ!』」
「3人でかすみんの話してるの?」
「かすみさんが付き合ったらチョロそうって話」
「しず子どういう事!?」
「正直勘助さんとかすみちゃんが付き合ってる感じがしない。イチャイチャし過ぎるのもアレだけど、かすみちゃんたちが手を繋ぐとか2人きりで話すくらいで、そこまで恋人って雰囲気ではないから」
「あぁ、そういう事……でも勘助先輩をちょくちょく家に呼んでるよ?」
「何をなさってるのです?」
「えっと、振り付けとか歌詞の話し合いとか勉強とか?」
「かすみさんが死んじゃった」
「死んでないよ!? しず子さっきからどういう事!?」
「しずくちゃんの中のかすみちゃんはスクールアイドルに真剣だけど、勉強は一切しないから。璃奈ちゃんボード『お前のような中須かすみがいるか、剣王の手下だな』」
「まぁ、確かに……って、りな子そのボードなんなの!」
そんな話をしていると、勘助が一年生組に声をかける。
「まぁまぁ、そのくらいにしておけ。確かに付き合って間もなければ、多少なりとも浮かれて何処でもイチャつくカップルは多々いるが、私とかすみさんはそうではなかったというだけだ」
「それでもキス一つしない恋人っていますか?」
「それはしたよ。ですよね、勘助先輩」
「うっす」
「勘助さん相変わらず不意打ち弱い。顔真っ赤」
「接吻1つでそれって大丈夫なのですか?」
「勘助先輩は純粋だからかすみんが守らないといけない」
「うわぁ、普段のかすみさんからは想像できないやる気に満ちた目」
「そういえば勉強云々で思い出しましたけどど、最近かすみさんの赤点が減っていると通報がありました」
「え? それ通報ものなの? 褒めてよ」
「しずくさんと璃奈さんが生徒会110を」
「それ生徒会にいる私も知らない。なんだ110って」
生徒会110とは一年生でありながら生徒会長である三船栞子にヘルプを求める事である。一年生というのもあり上級生も話しかけやすく、相談しやすいと評判だった。
「勘助先輩と勉強してたら楽しくて。分かりやすいし」
「それは分かります」
「はぁ? なんでしお子が?」
「ごめんかすみん、生徒会ついでに教えてた」
「家帰って頭撫でてくれたら許します」
「分かった」
「もしかして家でイチャつく系?」
「どちらかというとそうかもな」
☆
「とりあえず今日はここまでだな」
「すみません、かすみんがバカなばかりに全然進んでなくて」
「0ならともかく5問も解けたんだ。解けないよりは解ける方がいいだろ」
「どうして勘助先輩ってそんなに優しいんですか?」
「優しいとか知らない。思った事を言っただけだ」
「勘助先輩って優しいし一方的に怒らないで理由聞くし、なんだかお兄ちゃんみたいですよね」
「俺が兄ならかすみんに膝枕してもらってないさ」
「教えながらかすみんの膝で寝るって考えたら凄いですよね」
勘助とかすみは恋人である。表ではサバサバしている風に見えるが、家の中ではイチャイチャしていた。
実を言うと、キスやハグは既に手を付けているし、こうして2人でほのぼのと過ごすのが性に合っているのだ。
「俺はかすみんに驚いてるぞ。しずくさんの言うとおり、かすみんなら学校でも結構がっついて来るかと思ったんだが」
「かすみんはアイドルですから公式を混ぜるやつもしないといけないですからね」
「公式を混ぜる……あぁ、公私混同か?」
「それです。我慢してると言われたらそうかもしれないですけど、それって人間の理性ってのと同じでそこまで強く我慢してるわけではないです。今も家に呼べば勘助先輩とこうしていられますしね」
「俺が寮でごめんな、一人暮らしなら呼べるんだけどよ」
「勘助先輩の事情はしっかり分かってますし、それに言ってくれたじゃないですか。大学行ったら一人暮らしするからその時一緒に同棲しようって」
「忘れた」
「嘘でしょ!?」
「冗談だ。言ったよ、その時は宜しくな」
かすみは騙されやすいので心配になった勘助だが、こうして冗談を言って困らせるのも楽しいと思う。
変に依存的な関係をするよりかはこうして冗談や雑談が出来る感覚というのが……
「夫婦ってこんな感じなのか」
「夫婦!?」
「お、やっと俺より顔が真っ赤になったな」
「勘助先輩が変なこと言うからじゃないですか!」
「たまには良いだろ、それくらいは愛してるぞ」
「ぐっ……それじゃあ勘助先輩、キスして下さい」
「俺が悪かった」
「諦めが早い!? というかそろそろ先輩からやって下さいよ!」
「くっ……確かに格好はつかねぇ……それでも! 男が全部決める亭主関白の時代は俺が滅ぼした!」
「冷静に考えて自分からキスするの恥ずかしいからですよね」
「はい」
「鼻血出しながら言わないで下さい」
勘助の態度に呆れるかすみだが、勘助が本気で嫌がっているわけではないのはわかる。本気で恥ずかしいだけなのだ。その証拠に勘助の深呼吸の音がめちゃくちゃ聞こえる。うるさい。
「山本勘助、ユニコーンエレキ、行きます!」
「声うるさ! せつ菜先輩じゃないんですから!」
「俺より菜々の方がうるさい」
「というかキス一つにそこまで気合い入れなくても。初めてならまだしも何回かしてますよね、私から」
「やれるな、ユニコーン」
「遠い目しないでください。後、勘助先輩今日エレキギター持ってきてないでしょう」
「やれるな、俺」
「主役変わった!?」
「主役は侑さんだろ?」
「勘助先輩でしょ!?」
どちらも間違いでは無い。かすみのツッコミを無視して、彼女の両肩に手を置いた勘助。両手がガタガタ震えているのを見て、かすみも真剣に勘助の目を見る。
ゆっくりと、ゆっくりと勘助は顔を近づけて、かすみの唇に自身の唇を乗せて……
「限界」
「え? ちょっ!?」
そのままかすみの胸元にぶっ倒れた。かすみは驚いて勘助を支えるが……
「軽!? なんですかこの人!? 男性ですよね!」
勘助の体重は軽すぎた。かすみでも持てるくらいであるが、最近勘助が体重減ったと言っていたのを思い出した。確か、50キロ……
「ちょっと待ってくださいもしかして勘助先輩かすみんより軽いんじゃ……」
そんなかすみのつぶやきにも反応しない勘助。かすみは勘助が少しでも握ったら壊れるくらいの身体だとまるで男性が女性に言う台詞を心で思いながら、少し笑みを浮かべた。
「まぁ、妥協点でしょう。今度はもう少し、長くしてくれたら嬉しいな、勘助」
かすみの声に対してしばらく返事はしなかったが、かすみに聞こえないギリギリの声で……
「うっす」
そう返事した人は誰だったかな。