とある日の昼過ぎ、世間一般よりもかなり大きい家の中にいる男女2人がいた。
男は黒髪の短髪だが、左目が青くオッドアイになっている彼は、女性の家にお邪魔している身でありながらも許可を得て静かにアコースティックギターを弾いている。
対する女は男と同じ黒髪だが、ポニーテールにしており留めている髪留めは大きな赤色のリボンをトレードマークにしている。そんな彼女は恋人である男のギター演奏を静かに聴いて、自分で少しばかり考えた歌詞を口ずさんでいた。
一通り演奏が終わると、彼女は男にこう聴いた。
「逆レイプはお好きですか?」
「この作品を殺す気か?」
男は彼女の問いに対して戸惑うしかなかった。というかピー音が欲しい。規約的な意味では消される。
☆
「女の子がそんな事を言ってはいけません」
「別に言いたくて言っている訳ではありませんよ」
「ただ、勘助さんは奥手なので、女性からリードされるのがお好きなのかと思っただけです」
「別に……そう言う訳ではないけど」
というか俺はと、一言言って続ける。
「その、キスとか性的なやつが恥ずかしいだけで決して女性の方から攻められたいとかそんな話ではないぞ」
「それを話すだけで顔を赤くするのはとても可愛いですね」
「年上を揶揄うなよ」
「お付き合いすれば対等なのでは?」
しずくの言葉に確かにそう言ったなと、同意する勘助。
「ですが、勘助さんからキスをされたのは告白を返してくれた時の一回のみです。それ以降は私からじゃないですか」
「それは……確かに良くないな」
「勘助さんは私の王子様ですから、白馬に乗って私にキスするべきかと」
「キスは頑張るけど、乗馬は出来ないからギターに乗っても良いか?」
「逆にそれ出来るのが凄いと思います。ユニコーンでしたっけ?」
勘助の冗談にしずくが少し本気で聞き返した。勘助の言うユニコーンとは通称エレキギターである。
ギターをくれた両親が獰猛で力強い演奏が出来るようになると勘助にくれたものだが、ユニコーンという伝説上の生き物が色も音の特徴も似ていることと、白と水色の色彩などが勘助と彼の幼馴染である中川菜々が見ていた大好きなロボットアニメのユニコーンにそっくりだったため命名したのである。
「アイツなんか俺が呼んだら勝手にギターケース開いて勝手に俺の左手に収まるんだがなんなんだあれ?」
「分かりませんよ。ですけど、勘助さんの叔父様が璃奈さんの両親が作った事、壊れた時に直した話を聞いたので恐らく何か細工してるのでは?」
「じゃあ俺以外の人が触ったら弦が切れるのも」
「指紋認証か何か入れてそうですよね」
「何それ怖い」
ユニコーンの謎が少しだけ真実に近づいたところで閑話休題。
「話を戻しますが、勘助さんはどのような女の子が好みですか? 私にとってはツンデレ、ヤンデレはお手のものですけど」
「そのままのしずくが好き。演技してるしずくも良いけど、真面目そうに見えて時々俺がしずくのお菓子間違えて食べた時に子供みたいに頬を膨らませたり、俺の名前呼びながら犬みたいにくっついてきて甘えて来たりしているしずくが大好き」
「勘助さん……本当に女性殺しですね。刺されますよ?」
「なんでさ!?」
勘助にとってはしずくをどれだけ愛しているか言っているつもりなだけだが、大抵の女性は口説いていると思っても仕方のない言い方である。
勘助に悪気はなくて、しずくと付き合う前はスクールアイドル同好会のみんなにも似たような事を言い続けていたため救いようがなかった。
「コホンッ……とにかく、恋人や夫婦である男女はいつか倦怠期という名の飽きが生じます。私はそうなりたくないのです。そのためには演技でも勘助さんの望む私を目指したり、好きなシチュエーションでキスなどをしたりするのも大切かと」
「じゃあ、しずくさんも好きなシチュエーション言ってくれるか? 理想の俺でも良いぞ。こういうのはお互いの努力だろ」
「勘助さんはそのままでもかっこいいです」
「しずくもそのままが可愛いよ」
「そういうことでは……」
このままだと八方塞がりのしずくは自分の部屋から一冊のノートを取り出して勘助に見せた。簡単に言うと彼女が作った演劇の台本である。
「見ていいのか?」
「はい。理想とは違いますが、たまにはこういうシチュエーションも2人の関係を継続させるために必要だと思うんです」
「成る程。んじゃ、拝読する」
そして勘助はしずくのノートを見た。そこに書かれていたのは……
『大人しい後輩が獣のような目で彼の事を見つめている。何かと思った彼は彼女に聞くと彼女はこう言った。
「先輩、私に搾り取られて貰っていいですか?」』
『久しぶりに昔付き合っていた後輩に会った、少し話すと家に誘われたので行ってみると、ベッドに押し倒されてこう言われた。
「フフフッ、やっと捕まえましたよ先輩……これで一生私からはニゲラレナイんです。覚悟して下さいね?」
そう言った彼女は悪魔のような笑みで笑ったが、僕にとっては可愛い小悪魔にしか見えなかった。ああ、ゾクゾクする』
「成る程……しずくさんはこういうのがお好きなのですね……」
「か、勘助さん? どうして敬語になっているんですか?」
「いえ、別にしずくさんの趣味にどうこう言う気はありません。むしろしずくさんには妄想癖の適性があると思います」
「妄想癖の適性ってなに!? 勘助さんが栞子さんみたいになっちゃってる!?」
「しずくさんには反省文ですね」
「しかも声はともかく雰囲気が完璧に似てる!? 勘助さん……演劇やりませんか?」
「いえ、私にはそのような適性はありませんよ」
「あの、勘助先輩の演技がとっても似ているんですけど……本気で演劇の適性ないって言ってます?」
ええ、そうですよと、勘助は少しだけ片方の歯を見せるが、その姿は生徒会活動と同好会で共に過ごしている三船栞子そのものだった。
「とりあえずしずくさんの趣味は分かったが実践は無理かも。ごめんなさい」
「いえ、勘助さんの反応と読んでる箇所を見た瞬間ヤバいところ見られたと思いましたから大丈夫です……」
「しずく……こっち向け」
「え?」
少し暗い顔をしたしずくを見た勘助は、しずくを呼んで顔を自身の方に向かせる。その瞬間、勘助はしずくにスピーディーにキスをした。キスした後すぐ顔を赤くしてしまったが少し照れ笑いしながら
「まぁ……たまには男らしく振る舞ってみる……凄く恥ずかしいけど……」
「勘助さん……」
「あ、あはは……ごめんな、情け無い彼氏で……」
「襲いますね」
「え、ちょっとしずく?」
「優しくしますから」
襲われた。(優しく)された。
☆
「そんな訳でしずくに大声で言えないあんな事やこんな事をされました。生徒会長止めてくれ」
「とりあえず勘助さんは反省文書いて下さい」
「なんでさ!?」
「タイトルは私の真似をした件です。2枚ほどで構いませんので書いてください」
「凄く根に持っとる?」
「それか……今ここで私の真似をやって下さい。これから副会長達もいらっしゃいますのでお早めに」
「しずくが言ってるから間違いではないんだろうけどさ……そんなに似てんのかね」
「それを確かめるためのものです」
しずくに普通に襲われた翌日。少しやつれながら思い出すだけで顔を赤くしてしまう勘助は生徒会室で生徒会長三船栞子と話をしていた。
栞子は勘助の演技に対してツッコミしかなかったらしく、是非ここで真似をしろ。出来なければ反省文を書けととてつもない二択を繰り出した。
勘助は観念して、一つ咳払いをした後ゆっくりと口を開いた。
「虹ヶ咲学園生徒会長の三船栞子です。あなた達にはある適性が備わっています」
「なんですか?」
「それは、この生徒会活動を有意義にする適性です」
勘助がとりあえず栞子のコールアンドレスポンスを真似したみたところ、生徒会室のドアが開いた。
「お疲れ様です、会長。なぜコールアンドレスポンスをなさっているのですか?」
「おや、副会長。お疲れ様です」
「え? あ、あれ? 勘助庶務?」
「ええ、どうかなさいましたか?」
「み、三船会長はどちらに?」
「栞子は死にました」
「はい!?」
「勝手に殺さないで下さい。私ならここにいます」
勘助の冗談に驚く副会長だが、彼の後ろに被っていた栞子が、副会長側に顔を出した。
「か、会長! お疲れ様です。ところで、なぜコールアンドレスポンスを?」
「私はやってませんよ?」
「え? でも今さっき……」
「虹ヶ咲学園生徒会長の三船栞子です」
「え? 勘助庶務?」
「なんやかんやあってな、栞子さんの演技をしてたんだ。コールアンドレスポンスは私がやった」
「な、なるほど? というか本当に雰囲気が会長でしたけど……」
「さすがしずくだな。アイツには演技の良し悪しを決める適性がある」
「しずくさんのお墨付きならと私の真似をして頂いたのですが、成る程。私はみなさんから見てそんな雰囲気なのですね」
「どうだ? 真面目で可愛い女の子だろ?」
「堅物で面白くも何ともないコールアンドレスポンスだと思いました」
「そうか? 私は好きだけどな、副会長は?」
「わ、私も良いと思いますよ。ただ、私はせつ菜ちゃんが好きなので……」
「今度副会長が菜々とご飯行きたいって言ってた事を伝えとくわ」
「そんな!! 恐れ多いです!」
「飯くらいいいだろ別に……そんなにアレなら菜々の姿で飯食えば大丈夫さ」
勘助達3人がそんなやり取りをしている中で残りのメンバーである右月と左月がやって来た。結局その2人にも栞子の演技を見せる事になったが、声はともかく雰囲気がとても似ていると好評だったので栞子本人に今度デュオで歌えと命令されたのだった。