「わんわん!」
「にゃん?」
「わふぅ!」
「にゃ?」
「わん!」
「ふしゃー!」
「ね、ねぇしずくちゃん、勘助君、何してるの?」
「知らない。しずくが急に犬になったから猫で返した」
「なんか凄い勢いで勘助君を抱きしめて頭撫で回してるんだけど」
「ナデナデナデナデ……」
「しずく髪の毛千切れる」
「侑ちゃんもやる?」
「遠慮しておくよ」
同好会で勘助が曲を作っていた時、恋人であるしずくが犬語を話しながら彼の頭を撫でる姿に、同じメンバーである上原歩夢と高咲侑に突っ込まれた。
勘助も何が何だかわからないので、何があったのかとしずくに聞いた。
「甘えたいだけです」
「それなら俺の膝に座ればいいのに」
「勘助さん良い子良い子」
「まぁ……甘えるって色んな種類あるしな」
「納得しちゃうんだ……」
少しばかり苦笑いする侑を見ながら勘助はしずくと話す。
「急に撫でてくるのは驚いたぞ」
「最近勘助さんがオフィーリアと仲が良いので」
「俺はしずくに構いたいのにオフィーリアが離してくれないんだよ」
「そういえば勘助君はんぺんとか動物に好かれるよね」
「この前も勘助君がしずくちゃんとご飯食べてた時、はんぺんが勘助君の膝で寝てたよね」
ここでいうはんぺんというのは虹ヶ咲学園の野良猫である。元生徒会長の菜々が生徒会お散歩係に任命する事で、野良猫といえども虹ヶ咲学園への侵入及び滞在を許した猫であった。
勘助はそのはんぺんやしずくの家にいる大型犬のオフィーリアなどの動物に懐かれる。先日も勘助がベンチでギターを弾いていたところ、カラスやスズメの鳥類が肩に止まって弾きづらそうにしていたのを虹ヶ咲生徒が目撃していたほど懐かれる。
そんな話を侑と歩夢にされて苦笑いを浮かべる勘助と、頬を膨らませるしずくがいた。
「しずぴょんは構ってくれないと死んじゃうぴょん」
「ゴフッ!? し……しずくちゃん? どうしてそれを知ってるの?」
「え? 何がですか? 私は勘助さんに構ってほしいだけですけど」
「なんだ、あゆぴょんしてる訳じゃないんだ」
「侑ちゃん!?」
「あゆぴょんって何だ?」
「な、なんでもない! 本当に何でもないの! ね? 侑ちゃん?」
「あゆぴょんだぴょん」
「侑ちゃん?」
【悲報】高咲侑、上原歩夢に連れて行かれる。
「何だったんだ?」
「さぁ? 分かりませんけど、寂しいです」
「よしよし、ごめんな」
「わふぅ……」
「しず子が犬になってる」
もはや飼い主と忠犬である。しずくを撫でながら勘助は彼女がまだ高校に上がったばかりで実は寂しがりでとても健気な子である事を再認識した。
☆
「勘助さんは犬と猫どちらが好みですか?」
「猫」
「へぇ……」
「ほぼ無言で包丁出さないで。ってかどこから持って来た!?」
「私は犬派です。猫派の勘助さんは浮気者です。なので貴方を殺して私も死んだら身体と血が混じって未来永劫一緒ですよ」
「普通に結婚して一緒にいたいんだけど」
「勘助さんと繋がってる時が1番幸せだと感じてます」
「演劇してる時であってくれ。ってかその時ほぼ気絶してるから記憶無いし」
「お可愛いこと」
「少しドキッとした」
「成る程。勘助さんは年下にドSか小悪魔ムーブかまされるのが好きと」
「やめて、メモらないで。確かにゾクっときたけど」
「興奮して下さい」
「それはあまりなかった。でもなんか心を揺さぶられたけどこれって何?」
「それは発情です。勘助さんの性癖がこの話にしてやっと明るみに」
「なってないからね。とりあえずオフィーリアおいで」
「あ、逃げましたね?」
勘助は少し顔を赤くしながらしずくの家で飼っているオフィーリアを撫で回す。オフィーリアも勘助の事が大好きなのか頬を舐め回していた。
「こら! オフィーリアずるい! 私も勘助さんを舐める!」
「お前人間だろ!?」
「関係ないね!」
「シバタのキョウヘイさん並みの関係ないねが出た」
「勘助さん年おいくつですか?」
「こっちのセリフだ。何でそんな懐かしい俳優さん知ってる?」
「私は変な子なので、昔の演劇や俳優さんは好きですから……」
「話題振った俺も悪いけど泣くなよ!?」
「勘助さんに傷物にされました……責任取ってくださいね」
「既に俺を性的に襲っておいて責任も何も無いだろ!?」
「勘助さんをゲッチュしたかったんです」
「古いわ!」
勘助と話すしずくは割と素で話している。勘助なら別に古い演劇の話や俳優の話をしても、興味深く聞いて来たり、知らなくても突っ込んできたりしてくれるので反応に困らなかった。
「それにしてもしずくの両親って凄くお金持ちだよな。家も大きいし……掃除してるお母さん凄いわ」
「そういえば勘助さんのご両親はどんな人でしたか?」
「どんな人か……親父はギターや歌になると真剣になるけど、基本的には母さんに酒を無理矢理勧められて酔っ払ったり、俺に勉強教えてくれる時は例え話に毎回音楽系の例え出して来たぞ。図形問題に音の単位のヘルツとか使い出してちんぷんかんぷんだったけど」
「結構面白い方だったんですね……お母様は?」
「小学生の記憶しかないが……うん。豪快だったな」
「豪快ですか?」
「家の中にデカい蝉1匹部屋に放り込んできて、この環境で宿題を終わらせなければ親父みたいに色んな環境で曲作りは出来ないぞって言いやがったり」
「日本酒をビンで2本飲んでから親父とカルーアミルク数杯飲み干して親父をダウンさせたり」
「笑う時は大体大声でハッハッハッ! って言って頭ガシガシ撫でて来たりしてた」
「それはもう前世男性なのでは!? しかもお父様の方じゃないんですか!?」
「間違いなく母さんだ。そんなことしても俺の両親はどっちも身長170センチくらいで50〜60キロくらいだから痩せてたよ。酒飲みすぎだけどな」
「勘助さんの家系って本当にどうなってるんですか……」
「因みに親父はギターと歌が得意だが、母さんは日本舞踊とかお茶を点てるとかが得意だったな。小さい時は日本舞踊を知らないからただの舞かダンスの一種だと思ってたが、栞子さんから母さんがもしかしたら日本舞踊を三船家に教えていた三条家の人間だったんじゃないかと言われな。もしかしたらと思ったけど」
「方や音楽界の賞を総なめしたシンガーソングライターで方や栞子さんの財閥と同等の家柄の娘さん……だから勘助さんも天才なんですね」
「ただのシンガーソングライターです」
「ただのシンガーソングライターは勉強とスクールアイドルマネージャーと生徒会庶務と事務所のお仕事を同時に出来ません。しかも生徒会どころか先生方すら頭を悩ませたスクールアイドルフェスティバルの問題を貴方1人の案だけでほぼ完全解決まで持ち込んだ挙句、成績に関してはテイラー家であるミアさんと同等の成績なんですよ?」
「よせやいただの男だよ」
「虹ヶ咲学園の天才軍師系アイドルとは的を得てますね」
「仮に天才軍師は妥協するとしてだ、アイドルって何なの?」
「一応学校祭などでライブしてますし、果林さんと事務所で働いてテレビなども出てますから、みんなとしては男性版のアイドルと言いますか……憧れの意味でつけられてるのではないでしょうか?」
「あぁ……そういうことか」
しずくの言葉に納得しながらもやっぱり納得はいかない。
勘助はただの人間である。偶々音楽界の家に生まれ、偶々シンガーソングライターをしているだけに過ぎないと語るが、しずくからすればそれも運命であり、それを実行している勘助には憧れの目を向けている。
「全部偶然なんだよ」
戸惑いながらそう言った勘助にしずくははっきりと言った。
「例えばなんですけど、私のお母さんは演劇を見るくらいです。私が誘う時がありますからたまに2人で見たりしてます。ですが、私のように演劇部でも女優を目指している訳でもありません」
「勘助さんもそうです。お父様は音楽界の者ですが、勘助さんは違います。生徒会庶務の仕事を通して、大学で学んでいけばエンジニアとか、音楽とは関係ない職種につけるはずです」
「でも、勘助さんはそれをせずに音楽の道に進んだんです。それだって才能ですし勘助さんの努力です」
「勘助さんは大した事がないと思ってますが、他者から見れば努力の天才ですし、スクールアイドル同好会にとっては軍師のような存在でもあるんです」
「隣の芝生は青いってやつか?」
「そうかもしれません。でも、勘助さんが努力しているそれは紛れも無く事実なんですよ」
そう笑顔で話すしずくは勘助に憧れていた。勘助はしずくをじっと見ながら少しだけ微笑む。
「俺は……なんやかんや言ってるけど親父の事は尊敬してんだ。確かに勝手に被害妄想曝け出して死んでった愚か者だけどさ、それでも俺にとっては父親で師匠だった」
「親父が売れてない時、居酒屋で母さんに会って焼酎とワインを1本ずつラッパ飲みさせられてぶっ倒れたのが出会いらしい。その時に母さんが檄を入れて親父が死ぬほど努力したんだと。昔聞いた」
「とんでもないお母様ですね」
「そいつと付き合える親父もとんでもないさ……まぁ、キッカケはともかく俺も努力してないかと言われたらそうじゃないかもしれん」
「勘助さんは努力家ですよ」
「頭撫でながら言うなよ」
「良い子良い子」
「生意気な後輩だな! 俺にも撫でさせろ!」
「うわっ!? やりましたね勘助さん!」
「オフィーリアも来い! 撫で回してやる!」
結局しずくの母親が部屋を訪ねるまでお互いに頭を撫で続けて髪の毛がボサボサになったのだが、お互いに笑いながら撫でていたので、オフィーリアも2人の間に挟まれて撫でられていた。
「勘助さん」
「どうした?」
「勘助さんの夢は叶いますよ」
「それならしずくも叶うだろ」
「私はやれば出来る子なので」
「奇遇だな、俺もだ」