とある日の午後、同好会にて。
「演劇に興味はありませんか?」
「え? どうした急に?」
「ありますよね?」
「はぁ?」
☆
「というわけで、今回の劇はスクールアイドル同好会から助っ人を呼んでやることになったから」
「はい?」
「勘助さん、自己紹介お願いします」
「ちょ、待って……何!?」
勘助は先程のしずくの問いに興味あると答えただけである。まさか演劇部に助っ人として連れてこられるとは思ってなかった。
「勘助さんが演劇に興味があるとおっしゃったので助っ人としてお呼びしました」
「見るのは興味あるけどやった事ないぞ!?」
「しずく、もしかして何も伝えずに連れて来たの?」
「はい!」
「はいじゃねぇよ」
とりあえず勘助は軽く名前だけ言って演劇部の部長から話を聞いた。どうやら欠員が出たので助っ人としてしずくが勘助を推薦したらしい。
「演技なんてやった事ないですけど……」
「セリフも少ないしそこまで重要な役ではないから大丈夫。でも、1つやって欲しい事があって……」
「やって欲しい事?」
「出来れば臨場感を出すために泣く演技をしてほしい」
「はぁ……はい。出来ました」
「出来るんですか!?」
無茶振りにも程があったが、勘助は普通に涙を流していた。演技の中で1番難しいともされる喜怒哀楽の『哀』即ち悲しみという感情は涙を伴って演技として成立する。
感情的な面において女性の方が泣きの演技がやりやすいという話もあるが、勘助は普通に泣けた。その事実に、部長だけで無く他の演劇部員やしずくですらも驚き賞賛する。
「君は何を思って泣いているの?」
「unicornの名シーンです」
「そこ亡くなったご両親じゃないんですか!?」
アニメの感動的シーンを想像して泣いた勘助にしずくが多少呆れ顔である。
「確かに両親が死んで悲しかったけど、unicornの方が泣ける。何度も見られるシーンだから記憶に新しいしな。両親が死んだのは少し前だし、たまに詳しく覚えてないのもあるから上手く泣けない」
「本当にとんでもない人ですね」
「うん……決めた。予定変更だ」
「はい?」
「山本勘助君だっけ。君にはもう少し重要性のあるキャラを演じてもらうよ」
「何度も言いますけど、私演技した事ないんですけど」
「大丈夫、その実力があれば練習あるのみだから」
「念のため聞きますけど私はどんな役を?」
勘助の問いに部長は答えた。
「悪役のボスかな」
「大根のボスなら出来ます」
「それ演技出来ないってストレートに言ってますよね」
勘助が行うのは悪役か、大根役か……
☆
『やっと見つけたわ、罪人エルダ。早く人質を解放しなさい!』
『ふん、断る。何をしにここに来た剣聖サリア』
『貴方の計画を止めるためよ。人質に残虐非道な調教をしたという証拠、忘れたわけではないでしょう』
『随分とデカい口を聞くな小娘。良いだろう、俺が相手をしてやる』
『すぐに膝をつかせて、人質を解放するわ』
その言葉が合図となり、エルダとサリアは剣で叩き合う。程々に台詞を言いながら約30合ほど叩き合い、鍔迫り合う。
『何故ここまでの剣の腕を持ちながらこんな事を!』
『俺は愛の代わりにこの剣技を手に入れたに過ぎん』
『愛の……代わり?』
『愛とは俺にとっては滅びの象徴。愛故に人は悲しみ、そして苦しまなければならん。愛が無ければ、俺は真っ当に生きられたものを……砕けろ、【極天一撃、真蜘蛛殺し】!』
会話での隙をついて、少し距離を取ったエルダは刀を右の腰に一瞬引っ込ませて居合切りの様な切り方をサリアにくらわせる。何とか刀でガードしながらも体勢を崩されたサリアだが、エルダが追撃する前にすぐ立て直した。
『やるな。この技を見切ったのはお前が初めてだ』
『くっ……何という速さなの……それでも、貴方が愛を捨てると言うのなら、私は愛のために戦う!』
『ならば滅びるがいい、愛と共に』
そうして、2人の刃は交差していく……
☆
「お疲れ様でした勘助さん」
「お疲れ様、しずく。名演技だな」
「勘助さんこそ本当に演劇は初めてなのか疑問に思うレベルでしたよ」
「初めてだ。だが、楽しかったよ」
「部長が誘ってましたけど」
「しずくが断ってくれたろ?」
「ええ、一応は。ですが、勘助さんの元にも来るかも」
「因みになんて答えたんだ?」
「ええっと……」
そうしてしずくは部長との会話を思い返す。
『しずく、山本君に伝えてほしい。演劇に興味ないかって』
『その前に、名前は勘助さんで良いらしいですよ。本人曰く山本は沢山いるからだそうです。それと、その返事ですがその前に一つ質問です……』
『部長はどうして演劇をやるのですか?』
『え? そりゃ、楽しいし演技に魅了されたからだけど……』
『それなら勘助さんもそうなんです。あの人と部長の違いはそれが演劇か音楽かっていうこと』
『勘助さんは音楽に魅了されているんです。だからギターを弾いたり、歌ったりしてます。部長が演劇に全てをかけている様に勘助さんも音楽に全てをかけている。だから演劇はやらないんです』
『それは……彼が言ったの?』
『勘助さんなら言います。演劇を通しての人を見る目を使って、スクールアイドルとして見て来た彼の姿を知ってるからこそ私は勘助さんがこう言うと信じてます』
しずくの言葉に部長はなるほどと、口にした。
『一応彼自身にも声をかけてみるけど、恐らく無駄だね』
『分かりますか?』
『演技を通して気づいた、彼は真剣に演技をしながらも何処か遠い目をしていたし、何だか少し落ち着かない様な素振りだった。きっと彼はギターを持ってないと気が済まないんだと思うよ』
『確かに出番が終わってすぐにユニコーンの元に駆け出してすぐ肩に担ぎましたからね』
クスクスとしずくは笑いながら勘助の行動を思い出す。出番が終わっても劇の途中であったのに、すぐさま舞台裏に置いていたエレキギターを肩に担いで残りの舞台劇を眺めていた。
時折ユニコーンに話しかけながら舞台を見る姿は他の演劇部のメンバーからすれば変人である。
『彼を見た時、一瞬違和感があった。何かが取り憑いてる感じなんだけど、あいにく私には霊感は無いから。でも、もしかしたらあの子には強い守護霊みたいなのが憑いてると思ってるよ』
『私もその手の話はあまり信じてはいませんが、恐らく伝説のユニコーンかと。勘助さんのギターはお父さんからのプレゼントだそうで、多分お父さんがユニコーンになって勘助さんを見守ってると思います』
『伝説の一角獣を持つシンガーソングライターか……演劇部にとっちゃロマン溢れる肩書きだね』
『ええ、全く。彼は生き物に好かれますから。伝説だろうが野良猫だろうが野良鴉だろうが懐きますよ』
『とにかく、彼に関しては私からも誘っておく。あの才能は正直助っ人だけでも欲しいから』
そうして、しずくはこう言った会話をしたと言ってあらかたの話を終えた。
「ユニコーンなんて伝説だからいないって」
「今までの行動を思い返してもユニコーンを否定できますか?」
「実はちょっと思ってる」
「ですよね」
「後、俺が言いたいことをある程度言ってくれてありがとう」
「いえいえ、ある程度って事は他に伝える事でも?」
「偶になら助っ人として参加させてくれたらありがたい」
勘助の言葉に少し驚きながらもしずくは本当にいいのかと、問いかけた。
「シンガーソングライターだけで食べていける様な世界じゃないからな。少しばかりでもドラマのエキストラくらいに出て、稼いだりしないと、それだけで売れてもバイト生活だし」
「そのための経験が欲しいと?」
「そっちが欲しいものを手に入れたいなら俺もそれを利用させてもらう」
「流石ですね。悪い言葉を使いながらも誰も傷つけない提案をつける。これほど天才軍師という言葉がぴったりな人はいません」
「よせやい、ただのシンガーソングライターだよ」
勘助としずくはお互いに笑いながら、この後今日の演劇の感想を言い合うのだった。
「勘助さん、演劇に興味はありませんか?」
「そうだな……楽しかったよ」
その翌日、演劇部部長からのスカウトに助っ人の話をしたところ驚きながらも笑ってくれたという。