「勘助さん、……に興味はありませんか?」
「すまない、聞こえなかった何に興味はありませんかって言ったんだ? なんか嫌な予感がするんだけど」
「失礼な。勘助さんのタメになる事ですよ」
「あぁ、そうなのか、ごめんな。それで……何に興味ないかって?」
「女装に興味はありませんか?」
「ねぇよ」
☆
「というわけで女装させました」
「させられました」
「うっそ!? 勘助君なの!? とっても可愛いYO!」
「勘助君にそんな才能が……」
「勘助さんには女装の適性もあったのですね」
「ねぇよ」
しずくの提案により勘助は女装させられた。そもそもの理由としては以下の通りだ。
『何で女装なんだ?』
『勘助さんの声が声優のヒダカのヒナさんに似ているので』
『ヒダカさんって……あの有名声優の?』
『ええ。有名声優さんですよ、勘助さん歌声も地声も姿も中性的なので』
『声はともかく姿もかぁ……』
そんな訳でやらされた女装だが、見事である。髪はせつ菜と勘助本人から聞いた勘助の母親と同じ長い白髪のウィッグをつけた。男子高校生だが髭はそこまで濃くなく、剃っている分短いのでコンシーラーで隠しただけ。顔は中性的でイケてる方なのでほぼそのままにして、服装は骨格を隠せる上着に下はロングスカートを着た。
同好会のメンバー曰く、背の高さ的にボーイッシュ女子を目指すという事で、靴はわざと明るいスポーツシューズを履かせてみるとあら不思議。モデルの朝香果林ですらも感嘆する程のイケメン女子の完成だった。
「勘助さん……お美しいです」
「泣くな菜々なんか複雑だ」
「だって……昔のことですけど勘助さんの姿を見たら貴方のお母様を思い出したんです」
「あぁ……鏡見たけど鮮明に思い出して来たよ。母さんに似てたわマジで」
「この人が勘助さんのお母様なんですか?」
「しずくさん? 俺だよ?」
「はい、勘助さんのお母様です」
「違います息子です」
「勘助、今度私とモデルやらない?」
「女装はご勘弁下さい」
「あら、いいじゃない。えっとせつ菜から聞いた……何だったかしら? おっぱいのついたイケメン?」
「ついてないです。後、菜々は何を教えてるんだ」
無茶苦茶である。みんなからは女装が似合うと言われた勘助も複雑ではあったが、服装がマッチしている意味として似合うということなら素直に嬉しかった。
「勘助さん、このままライブして。璃奈ちゃんボード『お前がママになるんだよ』」
「璃奈さんボードのIQめっちゃ下がっとる」
「璃奈ちゃんボード。『大丈夫だ、問題無い』」
「無問題ラ!」
「嵐珠さんはどこから湧いた」
「とっても可愛いわよ! ね、栞子!」
「ええ、そのまま日本舞踊を踊って頂ければ、きっと全ての殿方の心を撃ち抜くかと」
「しずくの心だけ撃てればいい。しずく、似合うか?」
「似合いますばい」
「ばい?」
「すみません、つい方言が」
「しずくって九州生まれ?」
「いえ、鎌倉です。私は」
「倒置法やめて、怖いから」
急にボケ出したしずくに少し怖さを思いながらも、勘助は彼女に改めてどうして自分が女装をするのかと聞く。その答えは、しずく個人の趣味だけではなかった。
「実は最近勘助君のライブ含めて同好会のファンが虹ヶ咲学園ならず全国に広がってるのを知ってる?」
「あぁ、道歩いてたらサイン求められた」
「勘助さん、その人は男性ですか? 女性ですか?」
「女性だ……って怖いからしずく無言でリボン取らないで」
「勘助さんは少し長めの黒髪がお好きでしたよね、ならこのリボン取っちゃいますね」
「トレードマークを消すな。どうせ菜々から聞いたんだろ、今はしずくが好きだから落ち着け」
「わふぅ」
「犬じゃん」
「もっと撫でてお姉ちゃん!」
「ごめんな、女装趣味のおっさんだよ」
「勘助さんがどんな趣味を持ってても受け入れます」
「2度としねぇからな」
勘助としずくのやり取りに果林含めて何人かはコーヒーを飲んだ。笑って吹きこぼした人もいるが。気を取り直して先程発言した侑が続きを話す。
「はいはい、そこまで。それでね、ファン還元というか、ファン感謝の様な企画を考えてたんだ」
「それで、私の女装と何の関係が?」
「少し前にやったシャッフルフェスの様な感じで、みんなでくじ引いて曲を交換しようかなって。でも、勘助君はスクールアイドルじゃないから交換する歌がないじゃん? だからせめて性別だけ変えてライブして欲しいって言ったら……」
「なるほど、しずく含めてみんなグルか」
「観念して下さい勘助ちゃん」
「菜々お前今度覚えてろ」
「私はどんなことにも屈しません!」
「栞子さん、生徒会室の掃除用具ロッカーの後ろに箱がある。菜々の集めたエロ同人、どうするかは貴方次第だ」
「大変申し訳ございませんでした」
「せつ菜ちゃん……生徒会室に何置いてるの……」
「因みにその同人誌は私の鞄の中ですよ、そうですね……このまま燃やすのと、皆さんでご覧になるのどちらが宜しいですか?」
「私が言っておいてあれだけど鬼かお前」
「ご覧なって下さい!」
「誰が見るかぁ!」
結果同好会で回し読みした。勘助は鼻血出して死んだ。
閑話休題。
「シャッフルやるならしずくの曲私に貸してくれ、私の曲をしずくに貸すから」
「え? いいの?」
「勘助ちゃん良いんですか?」
「私の事をちゃん付けで呼ぶな」
「まさかあの吸血鬼の教師が言うセリフをここで発するとは、流石勘助ちゃん!」
「菜々、エロ同人燃やすから」
「もう言いません」
「せつ菜ちゃんが土下座してる」
「せつ菜さんは勘助さんに弱いのですね」
「愛ゆえにです」
「その愛は一方通行でなければ良いですね」
「はぁ?」
「しずく煽るなややこしい」
話が進まないので、勘助はさっさと話を続ける。しずくは説明が終わった後、何の曲と交換するのか聞いた。
「しずくには小悪魔LOVEを借りる」
「嘘でしょ!?」
「勘助さん……私以外に好きな人が……」
「落ち着け侑さん、しずく。理由はあるから」
「聞きましょう」
「私は今女装しているのを忘れた訳ではあるまい。今回のライブは男の山本勘助ではなく女の山本勘助。ハルって名前でやってみる事にする。クールビューティーな女性がこの歌歌ってみろ、多分ウケるぞ」
「ハルって誰ですか?」
「勘助さんの好きなアニメのキャラの声優さんの名前から取りました?」
「おう、ハルカさんにしたいんだがそれだと彼方さんの妹と被るし」
「しずくさんにもお話ししたと思いますけどサヨさんって名前のキャラクターの声優さんですよ」
「あ! あの水色の髪の女の人ですね、ギターがとても上手な」
「そうだ。だから、男が小悪魔LOVEを歌うんじゃなくて、女が小悪魔LOVEを歌うって考えたら面白いだろ」
「なるほど、良いじゃん! やってみよう!」
「でも、しずくちゃんの曲はどうするの?」
勘助の歌が決まったが、しずくの歌が決まってない事を歩夢が指摘すると、勘助は少し考えて曲を言う。
「しずく、『カゼバヤシのヒヤマ』歌う気はないか?」
「それって勘助さんの最初のライブで歌った曲ですよね?」
「ああ、これは俺が親父の曲コードを少しだけ貰ってアレンジしたものだ。時にしなやかに、時に力強く歌う技をしずくに歌って欲しい」
「勘助さんは良いんですか、私なんかが歌って」
「しずくが歌ってくれ」
勘助がしずくに少し頭を下げたのを見て、しずくは目を閉じて、すぐに開き勘助を見た。
「はい。桜坂しずく、勘助さんの亡き魂を継ぎます」
「死んでない」
「その格好で死んだのは男性としての勘助さんです。いわばメス堕ち……」
「中川菜々さん、大至急生徒会室へ来てもらって良いですか?」
「勘助本気でごめんなさい」
「せつ菜ちゃんが敬語やめた……」
そんな訳で本番が始まった。
☆
「やぁ、みんな初めまして、ハルです。今日はスクールアイドル同好会の皆さんに協力を仰いで私もスクールアイドルやってみます。それじゃあ、お願いねユニコーン」
観客は混乱した。同好会は知っているが全く知らないスクールアイドルがいる事とその子がめちゃくちゃ可愛い事、さらにはあの山本勘助の代名詞であるユニコーンというエレキギターを弾きながら、桜坂しずくの曲を歌っている事。
要は無茶苦茶な情報過多である。シャッフルフェスの様な形をする事を知らされてた事だけは救いであった。
何も知らない観客達は目の前の人が誰なのか全く分からなかったが、彼女が歌う小悪魔LOVEは可愛い過ぎたし魅了された。
「皆さんこんにちは、桜坂しずくです。今日は私の勘助さんから曲をお借りしたので、歌わせて頂きます」
そしてしずく。勘助としずくが付き合っていた事はトラブル防止も兼ねて多少報告していたのです学園内では周知の事実である。
今回の選曲に関しては恋人である勘助を想っての歌なのだろうが、肝心の勘助がいない事にみんなはさらに疑問であった。
勘助本人は、舞台裏で観客の混乱を思い出し、苦笑いしていたが。
しずくが歌い終わった後、拍手を聞いた後、サプライズの報告をする。
「お聞きくださってありがとうございました。今回のネタバラシですが、先ほどのハルさんは、私の恋人である山本勘助さんです」
観客の脳と性癖が破壊された瞬間である。勘助はしずくの元に向い再び挨拶をした。
「えっと、ハルです。本名は山本勘助です。コイツは相棒のユニコーン、伝説上の生き物です」
もう一度言う。観客の性癖がぶっ壊れた。その後、混乱している観客に追い討ちをかけるかの如く、しずくと勘助がデュエットしたりとシャッフルイベントを成功させた。
☆
「勘助お姉ちゃん、もっと撫でて」
「しずく、いつまで俺はこの格好なんだ」
「今日一日中」
「何故だ」
フェス終了後、勘助としずくは少しだけイチャついていた。なんでも、しずくと勘助に対して握手などを求める人が多かったので疲れたらしい。
みんなの方にもファンは来ていたが、1番来ていたのは……
「流石勘助ちゃん、1番人気だったね」
「侑さん、私の事をちゃん付けで呼ぶな」
「勘助……お姉ちゃん」
「よしよし、璃奈さんは可愛いな」
「私の時と反応違くない!?」
「貴方同い年だろ」
「勘助さん、私も撫でて!」
「落ち着けしずく、よしよし」
「勘助さん……私もお願いします」
「菜々もかよ全く……オラ! 菜々ちゃんアンタも来な!」
「お母様ぁぁぁぁぁ!!」
「何この絵面」
侑から見ると白髪のボーイッシュ少女がしずくと璃奈、せつ菜の3人を撫で回している百合営業風景だった。
菜々は勘助の母親を見た事があったので、勘助が口振だけ真似をしたら泣きじゃくって撫でられていた。
「誰か助けてください」
「良いじゃないお母様。私も撫でてくれないかしら?」
「しずく……璃奈、菜々、少しどけろ……果林さん、言いましたからね?」
勘助少しキレた。勘助のオーラを感じ取った3人は顔を青ざめて離れると、勘助はゆらり、ゆらりとゆっくり果林に近づく。果林は果林でやばいと思ったのか少しずつ勘助から後退りしていくが、すぐ追い詰められて……
「果林、おいで」
「きゃあ!?」
勘助は果林の頭を自分の胸に抱き寄せてゆっくりと優しく撫で始めた。熟した果林は真っ赤である。勘助はすっかりお母様モードになり、可愛いねぇ! と豪快な声で言いながら手は優しく髪を撫でていた。
「果林さんが堕ちた」
「堕ちましたね」
「堕ちたわね」
三者三様というか、同好会で果林以外が初めてメス堕ちを見たという。しずくはしずくで少しムッとしながらもこう言った。
「まぁ、彼女は私のものですから。正妻は余裕を持ちましょう」
「俺は彼女じゃねぇ」
一日中勘助の女装が有名になった日の事である。