すみませんでした。
「ミアさん、少しいいか?」
「勘助……どうしたの?」
「理由なんて分かると思うけどな」
「まぁ……そうだけどさ」
同好会での練習中、勘助はミアを呼び出していた。今日のミアは何かがおかしい。ダンスレッスン中や発声練習中、テンポの遅れや音のバラけなどがありメンバーから心配されていたのだ。本人は平気だと言っていたが、流石に勘助も気になったため、こうして呼び出してみた。
「なにか難しいか?」
「いや……少し考え事だよ」
「そうか、ならいい」
「え?」
「え?」
「ちょっと待って、普通そういうのって聞くんじゃないの?」
「ミアさんの事だからプライドが邪魔して言わないだろ。だから本当にどうしようもなくなったらいつか話してくれると信じるだけだ」
「It'll be too late if something happens.」
「えっと……何かあったら遅い?」
「よ、よく分かったね……」
「何となくだ。というかそんな急ぎの話ならみんなに言うべきじゃないのか?」
勘助の言葉にミアはかなり悩みながらも勘助に恐る恐る聞く。
「もし……もしもだよ? 僕と一緒にstatesに来てって言ったらどうする?」
「いつ行くんだ? 予定空けとくぞ」
「How come!?」
ミアは勘助の返答に驚愕した。もしもと言った話だが、すぐに肯定した彼の意図が全く分からない。
「ど、どうしてそんな簡単に?」
「いや、ミアさんが1人でウキウキ気分でアメリカ行くならまだしもだ。そんなに難しい顔して誰かについて来て欲しいなんて言われたら行くしかないだろ」
「英語話せないのに?」
「英語はミアさんがいるだろ。通訳がてら問題事があるなら行ってやるよ」
「どうしてそこまで……」
「は? 大事な人が困ってんだ、アメリカだろうが中国だろうが行ってやるよ。なぁ、ユニコーン」
ミアの言葉に返答した勘助の手元には何処からか現れたエレキギターが青白く輝いていた。まるで勘助に呼応して『やるぞ、勘助』と言っているような感じがミアにはした。
「そうだ……うん。勘助はそんな人だった……ねぇ、勘助頼みがあるんだ」
「おう、言ってみろ」
ミアは少しばかり明るくなって勘助に頼み事をした。これが勘助とミアの伝説になるのは後ほど分かる。
☆
「ええ!? アメリカに行く!?」
同好会のみんなから一斉に驚きの声が聞こえるが、勘助はああそうだよと、あっけらかんと答えた。
「ど、どう言う事ですか勘助先輩!?」
「ミアさんのお父上に殴り込みに参上するだけだけど」
「敬語使うかタメ口使うかどっちかはっきりしなさいよ」
「果林さん敬語使えるんですか?」
「この子本気で叩いていいかしら?」
「果林先輩の気持ちは分かりますけどとりあえず話を聞くのが先です!」
「珍しくかすみさんが正論言ってる」
とりあえずと、勘助はみんなを落ち着かせて話をする。ミアにも許可を取って事を説明したのだが、簡単に言うとミアのリベンジであった。
ミアがスクールアイドルで活躍している姿を見たミアの父が、もう一度ミアをアメリカのステージに立たせて歌わせたいとミアに連絡した。
だが、その舞台はミアが過去に一度立って歌えなかった舞台と全く同じ場所だった。ミアとしてはリベンジを果たしたいと肯定したのだが、やはり不安な気持ちは拭えずにいる。
だからこそ誰か信用できる人と一緒に支えて欲しかったらしい。アメリカでは大学生とか虹ヶ咲では三年生だとか言っても年齢的には14歳である事に変わりなく、やはり精神的にも少しばかりマイナスだった。
かといって誰か連れていくにしても先程言った通りミアの故郷はアメリカ。英語が出来ない人を連れていくのは相手も不安になるので、ミアにとっても心もとなかった。
「そこで私が喧嘩しに行く事になったのよな」
「まぁ、勘助先輩なら確かに……というか英語話せるんですか?」
「知らん。だが、ミアさんが通訳出来るし、私は堂々としながら歩いてれば問題ないだろ」
「凄い自信ね」
「英語話せないからといってビクビクして怯える人連れて行くよりかはマシでしょう? それに……」
「それに、何かしら?」
果林とかすみに対して勘助は少し笑みを浮かべて言葉を言った。
「誰が呼んだか知らないが、俺は天才軍師だ。英語ごとき簡単なものなら爆速で覚えてやるよ」
そう言い放つ勘助に対して多くのメンバーは声をあげて拍手をした。
「勘助……やっぱり僕には……アイツがいないと……」
そんな中でミアがボソッと呟いた言葉は勘助達には聞こえていなかった。
☆
「ミアさん、英語教えて」
「That’s great.任せてよ」
ミアのアメリカ帰国までの間に勘助は英語を覚える事にした。教えてもらうと言っても時間も無いので、簡単な挨拶だとか、言い回しだとかを学ぶつもりである。
もしも躓いたらミアがいるので、問題無いが、多少なりとも聞いて意味を理解出来るようにはなっておきたかった。
「そんな感じで、『調子はどうだ』って聞く時は5つくらい言い回しがあるんだ。全部覚える必要は無いけど、Japaneseの授業で学ぶのは一つの単語だけだから、本場の言い方は複数あるってことだけ分かってくれ」
「なるほど。How are you? 以外にもそんなにあるのか」
「後、日本人の敬語? ってやつみたいに、こっちでも目上の人に言う言い回しがある。僕の父親と会うのなら今回はコレを重点的に覚えた方が良い」
「Yes.Master.」
「何で主人?」
「教えて貰ってるし」
「Teacherで良いだろ」
「確かに。英語って難しいな」
「結論を先に言わない日本語の方が世界各国と比較して難しいと思うけど」
そりゃ、そうかと、勘助は笑いながら
「今度ミアさんに日本語と日本文化でも教えてやるよ」
なんて冗談で言ってみたところ、とても楽しみだとミアは笑ってくれたのだった。
☆
「勘助君、少し良いかな?」
「侑さん。どうした?」
出発の少し前、勘助は侑に呼ばれて少し話す事になった。
「えっと、まずはごめんなさい」
「何でさ?」
「いや、本当はミアちゃんの問題なら私達も助けてあげたいんだけど……色々あって勘助君だけに任せちゃってるから」
それに対して気にするなと、勘助は言うが侑はそういうわけにはいかないと返す。
「勘助君が色々な事をやりすぎてみんな心配してるからね。いつ休んでるんだろうって意味だけど」
「休みとかリラックスとか無い。私はみんなに必要とされたいだけなんだ」
「死んじゃうよ?」
「菜々がいるから死ぬわけにはいかん」
「最近菜々ちゃんが勘助君を監獄に入れる計画立ててるけど」
「何それ怖」
侑曰く、頑張りすぎて勘助が倒れるなら監獄に閉じ込めてしばらく休ませようと画策しているらしい。
「それくらい心配なんだよ。反省したら?」
「それでも! 私はミアさんの為に動く。監獄云々は終わったらだ」
「どうしてそこまで……」
「私はミアさんに必要とされたいだけなんだ」
「それってミアちゃんの事好きって事?」
「そりゃそうだろ? 何言ってんだ?」
「いや、多分私の思ってる好きと勘助君の好きって違う気がする」
「どっちでも良いだろ、そんなの。私はミアさんの力になりたい。理由もキッカケも、それで充分だ」
「とにかく、この件は私がやる。いや、俺とユニコーンでミアを助ける。みんなは結果を楽しみに待ってろ」
「うん……ありがとう、勘助君」
アメリカに行く前に侑と深く話したのはこの時が最後であった。
☆
「ここがミアさんの故郷か」
「どう? 結構人いるでしょ?」
「いや、まぁアメリカだから人はいると思うが、まさかここまでいるとはな」
「勘助なんか楽しそうだね」
「いつかここで演奏出来る日が俺の実力次第で来るんだ。楽しみにもなる」
「やっぱり勘助はとんでもないね」
同好会のメンバーからミアを頼むとエールを受けた勘助はミアと上陸したアメリカでときめいていた。
ミアに案内されながら、勘助は道を歩いて行くが、歩きながら少しだけミアと話をした。しばらく歩くとミアの家が見えてくるが、かなりの豪邸に驚く勘助。
「デカくね?」
「だから言ってるだろ、世界のテイラー家なんだから古民家になんて住まないよ」
「いや、わかってんだけど……しずくさんの家の倍くらいデカいな」
家を見た段階で、スクールアイドル同好会のお金持ちが順位付けまで行かなくではっきり分かった。ミア、ランジュ、しずくはおそらく勘助が知っている中でトップクラスだろう。そんな事を考えて中に入るとテイラー家の使用人が英語で話しかけてくる。勘助は少し困った顔をしたが、ミアは普通に話していた。
「何て言ってたんだ?」
「僕の隣は誰だって言われたから仲間って答えただけ。行くよ、勘助」
「お、おう」
ミアに仲間と言われて少しだけ照れる勘助だったが、ミアとしては特に思うところは無い。事実勘助を同好会の仲間だと思っているのは事実であった。
「What brought you here?」
「え?」
「勘助がどうしてここに来たかだって。僕が伝えるから日本語でいいよ」
「ミアのためです」
「Oh!? 勘助!? 急に何を……」
「事実だろ。伝えてくれ。俺はミアのためにここに来た。俺は彼女に必要とされたからここに来ただけだと」
勘助の真っ直ぐな言葉に驚き照れながらも、ミアは勘助が話た一字一句を英語で伝えていく。使用人は頷きながらも勘助を真っ直ぐ見て、ミアが言い終わった後に一言だけ言った。
使用人の言葉にミアはまたしても照れるが勘助は何を言ったのか見当もついてないので聞いてみる。
「僕の事を……宜しく頼むって」
「Of course.さて、この先にミアさんの父親があるんだな?」
「うん。多分そこで、勘助を待ってる」
そうして勘助は対峙する。ミアテイラーを育て上げたテイラー家の長と。