皆さんの分からない英語は勘助の分からない単語なので暇があればお調べ下さい。
「なるほど、とりあえずミアさんの出番が最初とかトリではなくて良かったです」
「ああ、このギターがどうしました? なんか宿ってる? 多分ユニコーンでしょう」
世界的音楽家テイラー家の娘であるミア・テイラーは頭を抱えていた。部屋の奥まで案内して待っていたのは自分の父だった。
最初こそ勘助は緊張気味に慣れない英語で自己紹介をしていたが、今日の父はかなり気さくであり、日本人という珍しい人間をミアが連れてきたのもあって打ち合わせは割とスムーズに進行していた。
勘助も勘助で意味が分からない言葉はミアに聞いて、自分なりに一生懸命に英語で伝える。
どうやら今回のイベントはミアが一度歌えなかったステージ以外何も問題なく、もしもミアとステージに出るなら勘助の弾ける楽器を持って行くようにと指示された。
事の話は安心なのだが、ミアからしたら気さくに話している父に多少恐怖を感じる。音楽に関しては厳格な父である事は知っているので、こうした打ち合わせに関してはかなり厳かな雰囲気でやると思っていたからだ。
「ミアさん、曲はどうするんだ?」
「え?」
「歌う曲だよ、ミアさんのスクールアイドルの歌でも良いけど……」
そんな勘助の言葉にハッキリとNoと言ったのはミアの父である。勘助とミアは顔を見合わせてその父の条件を聞く事になった。
☆
「Furious!! ふざけるなよ!? どうして僕の歌じゃダメなんだ!?」
「まぁ、そこまで怒ることはないだろう。少し落ち着け」
「勘助も勘助だ! 何であんな提案を受け入れた!?」
ミアが激昂している理由。それはミアが歌う歌をミアの父が提案した事である。その曲が、完全なるクラシック音楽。勘助のエレキギターではとても表現がしづらく、まるでミア1人に歌わせると言われているようなものであった。
「正直何かあるとは思っていた。ユニコーンも警戒してたからな」
「それでも、僕は自分の歌を歌いたかったよ……」
ミアの言葉に対して勘助はミアの頭を撫でながら落ち着かせようとする。驚いたミアに勘助は言った。
「プロの音楽家ってのはビジネスで歌いたくない歌も歌わなければいけない。大事なのは歌と向き合って歌う事だ。それを知らないお前ではあるまい」
「それは……そうだけど……」
「正直俺だってミアさんにはミアさんが安心して歌える曲を歌わせたい。だが、今回はミアの父親のご好意でもう一度ミアさんにチャンスをくれたんだ。断るわけにはいかん」
「でも、勘助は良いの? 正直、クラシックの曲をエレキギターでアレンジするなんて出来っこないよ……僕だったら諦めて違う楽器にする」
「知らん、だがやる」
勘助は少し黙ってから改めて口を開く。
「俺はな、ミア。今回の結果でスタンディングオベーションなんていらねぇんだよ」
「え?」
「俺はただの助っ人だからな。ミアがもう一度あのステージでしっかり歌ってくれればそれで良い」
「今回の俺の目的はミアのリベンジと……そうだな、客席の誰かの足くらい止められる演奏が出来ればそれで良いんだ。あわよくばミアの父親を止めたいが、俺自身こんな大舞台で大成功なんて出来るとは思わねえから」
「君は……そんなんで良いのかよ。ギタリストだろ!? だったら目に物くらい見せてみろよ!」
「目に物か……そんなものは段階を踏んでから見せるものだ。ただの学生で、テレビ番組に少し出たりしてるだけで、世界の舞台に立てるか?」
「それは……でも、僕だってそうだ」
「だから目に物までとは言わんが引っ掻き傷くらいはつけてやろうと言っているんだ。俺とミアが日本で有名になったり、世界にちょくちょく歌いに行ったとしたら引っ掻くどころか蹴り飛ばしてやろうと思うがな」
「身の程は弁えるのをふまえて、喧嘩しに行く。それで少しでも良い方向に傾いたら充分だろ。今はな」
勘助の言葉に少し考えるミアだが、ふと発した今はな、という言葉に反応すると勘助は答えた。
「別に一回だけじゃないだろ。ミアが俺を呼ぶ限り、こうしてついていってやる。演奏もするし、観光にも付き合う。それくらい俺はミアの事は好きだからな」
勘助のせいでミアとしては顔が熱かった。勘助が疑問に思うが、君のせいだと、一言言って顔を自身の音楽ノートに埋めた。
「勘助はさ……僕の事どう思ってるの?」
「好きだけど?」
「そうじゃなくて!」
「えぇ……えっと……普段身の丈に伴わずとも大人な考えを持ってたり、アメリカ育ちなのに日本語ペラペラな所って確かに天才だけど努力もしてるだろ? 音楽知識だけじゃなくてそこにも憧れや尊敬もあり、かといってハンバーガー貪ってる時は子供のようなあどけない笑顔なのも素敵だなって思うし……あ、後璃奈さんと一緒にいたらすごく楽しそうだから本当にスクールアイドル同好会に入部してくれて良かったなぁって……どうしたミアさん顔真っ赤だぞ!?」
「You’re making me blush」
勘助は褒め上手である。流石のミアも耐えきれなかった。ミアが英語で少し返したが、聞き慣れない言葉だったので勘助は疑問に思うだけである。
「とにかくさ、そう考えたら時間はある。今回はミアの父親のご好意だが、次は俺達がもっと実力をつけてここに呼ばれるくらい成長したらさらにやる事や目標が増えるだろ? そこまで悲観をするなよ」
「う、うん……分かったよ」
「後、ミアさんは不安だろうけどユニコーンはやる気だぞ」
「え? それってどういう……ってなんか凄く光ってない!?」
ミアが悲観して気が付かなかったが、勘助のエレキギターは青白く光っていた。ギターケースからも漏れるような輝きを見てミアは驚く。
勘助はユニコーンの名を呼んで自分の両手で掴む。
「ユニコーン、今回お前に分が悪い。それでも、俺達はミアのために逃げるわけにはいかん。俺も全力で演奏できるコードを考えてお前を弾くから、お前も俺を支えてくれ」
勘助がそう言った瞬間、ミアと勘助の脳内に、誰かの声が聞こえた気がした。
『ヤルゾ、フタリトモ』
そう言ったような感覚がした後、青白く輝いていたエレキギターはすぐに元のエレキギターに戻ったのだった。
「ねぇ、勘助。聞こえた?」
「なんの話? まぁでも、こいつもやる気だぞ。そんな気がする」
「そうだね……ごめん勘助。僕、弱気になってた」
「気にすんな、ミアさんが怒ってないなら私が怒っていたと思うから」
「そう、それじゃあ……改めてよろしく。勘助」
そしてミアは勘助の手を握って
「I’m crazy about you」
「へ? 狂ってる? 何それ?」
「さぁ? ところで勘助、ilyって知ってる?」
「知らないけど……」
「そう……まぁ、そういうことだからよろしく」
「何が!?」
「早く演奏しろよって事」
「ほぉ……言ってくれるな。やってやるよ、つか、やるぞユニコーン」
こうして、勘助とミアの今の本気と全てをかけた練習が始まった。そんな2人を見ている影は彼らを見ながら少しばかり笑っていた。
「勘助ってさ、何で俺って言わないの? 僕のことを呼び捨てにしたのはともかくそっちの方がカッコいいと思うけど」
「会社の面接で俺なんて言えるかよ。練習として私って言ってたらこれに慣れただけだ」
「へぇ、まぁたまには勘助も素を出したら? 少なくとも僕なら構わないよ」
「え? いいのか? じゃあたまには使わせてもらうわ」
「まぁ、良いんじゃない?」
勘助の言葉に少しガッツポーズしたミアには当然気が付いていない勘助だった。