「Good morning勘助」
「おう、Good morningミアさん」
アメリカでテイラー家にホームステイのような形になってから約3日程。勘助はいつものように朝起きてミアに挨拶をする。
「ごめんね僕と同じ部屋で」
「構わん。こっちもご好意でパスポートから何まで任せっきりだしな」
「アメリカには慣れた?」
「食事以外はな」
ミアと同じ部屋で眠っているが、勘助もミアも嫌とは思わない。勘助は勘助でミアについて行くと許可をもらった際に学校の了承やパスポートから英語の勉強まで全部ミア含めたテイラー家に任せきりであったのでミアと同室に関しては特に何とも思わなかった。
ミアとしても勘助と共に同じ部屋で眠るくらい特段問題ないし、むしろ嬉しさが勝っている。勘助からすると1人部屋であるか否かに思う節が無いという意味だが。
「アメリカってご飯デカいんだな。昨日の夕食なんだアレ。ハンバーガーにしてはデカ過ぎるだろ」
「それを難なく3日間も食べ切って体重変わってない勘助もとんでもないけど」
「俺はこういう体質だからな」
「Monsterみたいな男だね」
「誰がゴリラサイクロプスじゃい」
「そこまで言ってないよ」
「化け物も相当だよ」
軽く話しながら洗面台で洗顔と歯磨きを済ませて食卓に向かう。食卓に入ると、朝ご飯というレベルでは無い量の食事が出されていた。
「いつも思ってるんだけど朝はそんなに食べられないんだが……」
「Don’t worry.一応勘助は昼くらいしか大食い出来ないよとは言っておいたから食べられる量で良いよ」
「Thanks.助かるぜ」
「勘助って前から思ってたけど発音良いよね」
「そうか? あんまり意識はしてないんだが……」
「僕と一緒にアメリカに住まないかい?」
「1人ならともかくミアさんがいるなら悪くねぇかもな」
ミアの提案に少しばかり本気で返した勘助だが、ミアはまさか本当に頷かれると思わなかったので慌ててしまう。そんなミアを見ながらも勘助は自分の食べ切れる分だけ自分の皿に料理を入れるのだった。
☆
「練習は上手くいっているか?」
「はい。というか、日本語上手ですね」
食事を終えてミアと編曲しながらステージの練習をしている時、ミアの父が勘助を読んだ。ミアは気が気ではなかったが、勘助はギターを置いて丸腰で彼について行った。
通されたのは自室というよりかは仕事場のような部屋で、ミアの父が座った後、その対面に勘助は座る。その瞬間、彼の口から聞こえたのは勘助でも理解できる日本語であった。勘助が問いに答えると彼は少し笑って答えた。
「Japan……失礼、日本ではConcertをしていたから、少しは話せる」
「でも、私はやはり言葉は母国語が話しやすい。特に英語は」
勘助は彼の言葉にそうなんですかと、日本語で答えながら、彼が言うコンサート等英語の発音のネイティブさを単純にカッコいいと思った。
所々日本語の文法では勘助に一長の長が流石にあるが、それでも聞き取りやすく、とても日本語が上手い人だと思う。
「ミアから聞いたよ。彼女のために来てくれた事」
「えっと……はい。ミアさんが私を頼ってくれました……relyの方です」
「彼女は君を信頼してる。電話で話してるよ、君の事を」
「そうですか。私も嬉しいです。I’m very happy」
日本語で話すミアの父に対して、どこまで日本語で話して良いのか分からない勘助は所々英語も話しながら答えて行く。
「Sorry.Mr.テイラー」
ふと、勘助が彼に謝った。彼は急だったのか驚いた顔をした。
「What’s wrong?」
「えっと……I can’t speak english.but I can understand english.……あまり話せませんけど意味はある程度分かります。もしかしたら、私の話した英語が失礼になるかもしれませんから。だから謝っておこうと思って」
「なるほど。ミアが言ってたように君は他人の事を大事にできる存在なんだな」
「あ、あっと……Thanks……と、ところで私に用とは何ですか?」
急に褒められて慌てる勘助かだが、このままでは情けなく意味不明な英語を発音しそうで怖かったのもあり、勘助は彼に用件を聞いた。彼は少しだけ笑みを浮かべてこう話す。
「ミアは君のDollか?」
「に、人形? いや……違うか……えっと意味は?」
「失礼、少しややこしく伝えた。Girl friend.これで伝わるか?」
「あぁ……恋人ですか。答えを言うとNoです」
「ただ、私はミアさんの事好きです。彼女のためならアメリカでも中国……Chineseでもどこへでも付き合います。私はミアさんに必要とされたいので」
ハッキリとミアの父の目を見て勘助は言った。彼は勘助の目を見て本気だと分かると、今度は逆にハッキリと伝えた。
「ミアは一度ステージで失敗している。そんな彼女を私はもう一度ステージに立たせようとしたのは決して彼女が嫌いだからではない」
「School idol.ミアの姿を見て試したくなった。彼女が成長しているかどうかを……君はその手伝いをすると言ったが、自信はあるのか?」
「自信とか技術は正直無い。私は場違いだから、ミアさんの助っ人をするだとか、ステージを見てくれるお客さんからスタンディングオベーションして貰うを狙って演奏するとか考えてません」
「それでも! ミアさんは俺に一緒にアメリカに来てくれと言ってくれた。俺と一緒に歌うって言ってくれたんです。俺は彼女の力になりたい。彼女の望む事なら何でもします。流石に犯罪はしませんけど」
「だから、俺はミアさんとステージに立つ。テイラー家の立場とか、お客さんの事とか、俺にとっては二の次だ。俺の目的はたった一つ。ミアさんがリベンジして、楽しく人の前で歌えるように支えたい」
ただ、それだけだ。勘助の言葉は一字一句ミアの父に伝わった。彼は色々言っても世界的に活躍する音楽家。日本語の歌詞だって聞き取れるため勘助の言う多少難しい日本語でも難なく聞き取れる。
だからこそ伝わる。勘助の本気の想いを。同時に何か勘助とは違った感覚が彼を襲った。
彼に霊感の様なものは無い。だが、勘助が真剣に話して訴えた瞬間、勘助の言葉を後ろから強く押し出すような念らしきものを感じ取った。
「君には……君の後ろには何かがいる。これは何だろう?」
「後ろ? さぁ? 私は霊感……spiritualは無いですけど、多分死んだ両親かユニコーンじゃないですか?」
「unicorn?」
「幽霊は信じれば憑いてくるみたいな感じです。私は一角獣のユニコーンを信じてるので……勿論伝説上の生き物ですけど」
「不思議な男だ……君の両親は何をしていた?」
「母は主婦……えっと英語のスペルは……」
「大丈夫だ、主婦くらいは知っている。父親は?」
「シンガーソングライターって英語ですか?」
「singer-song writerかな?」
「あるんですね。それです」
「私も1人の音楽家として興味がある。差し支えなければ名前を教えて欲しい」
差し支えなければ、なんて単語を外国の人が話すのはかなり珍しいと感じながらも、もしかしたらこの人は説明しなくても全部日本語で伝わるのでは無いかと勘助は考えた。
少しばかり考えてから勘助は父親の名を口にする。するとミアの父は少し眉を動かしながら理解したような顔をした。
「シンゲン……懐かしいな」
「知ってるんですか?」
「一度だけ、たまたまJapanで顔を合わせた」
「知らなかった……親父はなんて言ってました?」
「特に何も話してないが……表情は暗かったよ」
彼の言葉に成る程と、言った後少しばかり親の話をした。母が癌で死んだことと父親がタバコをこっそり吸っていたから酷く自分を責めて半分くらい引きこもっていたと。
彼は少しばかり同情したが、勘助は続けた。
「親父は悪くないんです。タイミングが親父を狂わせただけで、だから、なんかごめんなさい」
「そう言う事情なら仕方ない。ただ、彼の演奏は少しばかりしか聴いていないが、本物だった」
「本物?」
「何かしらの賞が取れる実力だ。世界的には程遠いが、彼は日本では上の方だと思ったよ」
「まぁ、私が言うのもアレですけどああ見えて音楽の最優秀賞とか取りましたからね。確か1年の伝説?」
「そこまで凄かったのか。生きていたら演奏が出来たものを……」
「クラシックとギターって合うんですか?」
「本来なら合わないだろう。でも、それをしようとしてる人が私の目の前にいる」
そう言って勘助を見る彼には少しばかり期待が込められていた。勘助は苦笑いしながら話す。
「私はミアさんのためにやるだけです。ミアさんと演奏したいので」
「もし……もしもだ」
「はい?」
「このStageが上手くいって、君がミアのpartnerになったら、実力をつけて私の元に訪ねてきて欲しい。カンスケ……上の名前は何だ?」
「山本です」
「ヤマモトカンスケ。Stageの出来次第ではいつか君と戦う日があるかもしれない。その時はよろしく」
「私は世界とかどうでもいい。ミアさんや日本のスクールアイドルの仲間達に助けられながら、私が作った曲を歌い、他の人に歌わせて、いつか私の曲を歌ってよかったとか、私の曲で救われたとか、そんな事を誰かが言ってくれるだけで満足なんです」
「ですが、もしも貴方が私の演奏を聴いて、本気で相手をしたいと一瞬たりとも考えてくれるのならば、私はテイラーさん。貴方だけは堕とす」
「俺とユニコーンで勝ちに行きます」
勘助は正直自分の言った事の訴えよりも相手が自分の言葉の意味をわかってるか不安であったが、彼が少し笑っているのを見ると全て伝わったんだなと改めて安心した。
「君が良ければ、ミアも連れてきてくれ。ミアと君、そして君の武器で私と演奏して欲しい」
彼の言葉に、ステージが成功したらと、1つ条件を言ってから勘助は大きく頷いたのだった。
☆
「Heyミアさん。待たせてごめん」
「勘助! 大丈夫だった?」
「別に虐められたわけじゃない。単純に進捗の話をしただけだ」
勘助の言葉に安心したミアが、少し休めと椅子に案内した。勘助は座りながらエレキを手に収めて軽くピッキングをする。
「ミアさん」
「どうしたの?」
「好きだ」
勘助の言葉に数秒フリーズした後すぐに顔を赤らめて、勘助には理解出来ない英語をペラペラと言い続ける。落ち着けと、勘助はミアを諭しながら深呼吸させる。
ミアが少し落ち着いて、涙目で勘助を睨むと、勘助はあっけらかんと伝えた。
「アメリカではこういうの普通なんだろ? 俺はミアさんが好きだからそう伝えただけだよ」
「な、なんだよ……それならそうって言ってくれる?」
「悪かったな。でもテイラーさんこっそりだけど言ってたぞよかったら貰ってくれって」
またも勘助の言葉に理解出来ない英語以下略。閑話休題。
「ぼ、僕だって勘助事好きだ。でも、まずは他にやることがあるだろ!?」
「ステージだろ、わかってる。菜々がよく言ってたんだよ、王道なアニメでは大事な戦いの前に愛を誓えばどんな困難も乗り越えられるって。たまには格好くらいつけさせてくれ、いつも俺がミアを尊敬する役だから、たまには俺がミアを引っ張っても良いだろ?」
やれやれと、ミアは少し頭を振りながらも勘助の話を聞く。勘助は一通り話を終えた後、ミアの方を見た。
「やるぞミア。リベンジマッチは俺達と共にだ」
「ああ、任せてよ。絶対成功させるんだからな」
かくして、ステージの準備を進めながらミアと勘助はまた一つ絆を深める事となる。