虹ヶ咲のシンガーソン軍師 ifルート編   作:初見さん

45 / 62
ミアルート4

「この山本勘助。もはや天才軍師とシンガーソングライターの名は要らぬ」

「いや、Singer-song writerは捨てちゃダメだろ」

「俺が握るのは天ではなく死兆星だ」

「し、しちょう……なにそれ?」

「見たものは早いうちに死ぬという星だ」

「それ握っちゃダメだろ!?」

 

 勘助は少しばかり壊れていた。ステージ発表当日を迎え、舞台裏で見たのは勘助の学校ライブ以上の人、人、人の集合体。テイラー家が出るのもあり、観客席は満席である。

 

「ミアさんはどうだ?」

「やっぱり、いっぱい人がいる。歌えなかった時もそうだったけど、僕は大勢の人とこのテイラー家という名前に圧倒されてしまったんだ」

「俺なら絶対無理だな。もしかしたら舞台裏から出られないかもしれん。歌えなかったとしても、ステージの前に立てただけでもミアさん褒めてやりたいな」

「歌わなきゃ意味無いだろ?」

「それでもだ、一歩踏むか踏まないかは割と違うもんだぜ」

 

 勘助は笑いながらミアにそう言って、ふと、一枚の紙切れを渡した。

 

「これ持ってるか?」

「これって……帰りのチケット? どうして今……」

「本当はブレスレットとか装飾品でもあげてミアさんは1人じゃないって格好付けたかったんだが、俺は貧乏人だからこんな物しか渡せん。アメリカのショップで選んでもよかったんだが、英語もそこまで話せんしな。買えなかった」

「これあれば今回2人で来たって思えるだろ。1人じゃないって分かれば多少は戦えるんじゃないか?」

「勘助ってさ……やっぱり格好悪いよね」

「し、仕方ないだろ!? 正直菜々がアニメグッズしか興味なかったから、女の子にあげる装飾品なんて知らないんだよ!」

「全く、君ってやつは……でも」

「こんな日本人に惚れた僕も僕だな」

「は、はい?」

 

 勘助が意味を聞く前に、出番を余儀なくされたので真意はわからなかった。

 ステージに立ってみると、やっぱアメリカ凄いなという感想しかない。そんな勘助を見ている観客席はクラシックにも関わらずエレキギター一本をぶら下げてミアの準備を見ている彼を訝しく思う。

 中にはブーイングですらも飛び出すが、勘助はニヤニヤしながらミアの準備を待った。

 

「こっちは平気、勘助は?」

「ブーイングの内容聞いてるからちょっと待って。今後の参考にする」

「バカな事してないで早く歌うよ!」

「成る程、ユニコーン、お前の事が気に食わないらしいぞ。ギターとかバッドとか聞こえる」

「本番だぞ!? 本当に何やってるのさ!」

「ミアさん、落ち着け。やるぞ」

 

 ミアの突っ込みに対して真剣に答えた。ミアは最初から真面目にやれと憤慨しながらもふと自分が前よりも緊張していない事に気がついた。

 足も震えてなければ声も震えてない、何なら自分から早く歌うぞという始末である。もしかして勘助はこれを見越していたのかと考えるが、天才的な彼でもそこまで考えないだろうと鼻で笑う事にした。

 そして、ミアが英語で少しだけ観客席に挨拶をしようとした瞬間だった。

 

「すぅ……ユニコォォォォォォォォォォォォォン!!」

「うるさっ!?」

 

 マイクも持たずに腹式の声量だけで叫んだバカ軍師に対してクラシックコンサートの割に散々嘲笑やブーイングしていた観客席が黙りこくった。その瞬間、勘助のギターケースから脱獄した青白いエレキギターが2〜3回中を回って彼の両手に収まる。それを肩に担いでピックを左手の親指で弾く。

 

 一枚のピックは時にギターを演奏する道具になり

 

 時に人の心を打ちぬく弾丸となる

 

「やれるな、ミア、ユニコーン」

「全く……一言でこの観衆を黙らせるなんて無茶苦茶だよ……でも、燃えてきた」

 

 勘助の言葉に俄然やる気を出したミアと何故か光輝き出したユニコーン。そこからはもう、歌うだけだった。

 勘助が掻き鳴らすギターの音はクラシック音楽の割にかなり独特だが、クラシックだからこその優しい音色であった。本人は力強く弾いているつもりだが、今回は1人ではなくミアのためを思いながら弾いているのもあり、協調性を持たせた音色を弾き続ける。

 ミアもミアで歌い出しに問題はなく、昔の姿からはかけ離れた姿であった。父親が指定したクラシックだが、そこまで難しい歌詞ではなく、しっかりとした声で歌えていた。

 先程まで散々言っていた観客席も静かになり、みんなは耳を傾けている。誰1人としてこの場からいなくなる者はいなかった。

 

「It’s an amazing day」

 

 舞台裏で彼はこう言っていたそうだが、その目に映るのはミアと勘助。その姿は誰が見てもbest partnerであった。

 

 ☆

 

「I’m very frustrated!! どういう事だよ!? 悪くは無かったはずなのに!」

「まぁまぁ、落ち着けミアさん。仕方ないよ」

「君は悔しくないのか!?」

「悔しいっちゃ悔しいが、やるだけやってこれだろ。実力不足を嘆くよりは過ちを次に生かす事が大事なんじゃないか?」

「それはそうだけど……それでもやっぱり黙ってられないよ!!」

 

 ミアが激昂している理由は単純明快で、賞の受賞は無かった事である。

 あのステージの後、多くの観客席から拍手の音が聞こえた。一応ステージの発表と言うこともあって、賞も用意されていたが、受賞を逃した。

 ミアは完璧だと勘助に言い続けながらワクワクして何かしらの賞を待ったが、2人は呼ばれなかった。

 2人でいる舞台裏の部屋で勘助はゆっくりと話す。

 

「そもそもエレキでクラシックやる事にここまで受け入れてくれたんだ。それ以上望むのは野暮ってやつだと思うがな」

「むっ……勘助! 君がそんな薄情な奴だとは思わなかったよ」

「薄情ねぇ……正直言うと俺たちの実力は賞に値しないってことだったんだろ? そこに異議を唱えても仕方ないと言ってるだけなんだがな」

「そ、それでも……せっかくここまで頑張って来たのに……」

「勝負なんてそんなもんだ。ほら、反省会は帰ってやるぞ。とりあえず片付けろ、そのドレスはとっても似合っていた」

 

 勘助の言葉にミアも少しだけ落ち着きを戻しながら、静かに頷いた。勘助が着替えを待つために外に出ようとしたら、不意に誰かがノックをした。少し2人で顔を見合わせてからどうぞと促す。

 入って来たのは彼であった。

 

「That’s good.良いStageだった」

「賞も取れないのにですか?」

「勘助!?」

 

 急に自分の父親が部屋に訪ねて来た事に対して驚きながらも、勘助の言葉に突っ込んだミア。ミアの父は少し笑って言った。

 

「賞や客席に興味はない。ミアとStageに立ち、リベンジする事が1番の目的だと言った人は、誰だったか?」

「まぁ、そうですね。でも、人間とは欲深いもので、もっと欲しくなるんですよ」

「私からすると充分だと思う。現に君が言った通り、ミアのステージは成功。客席も最初こそは話し声があったが、君達の曲でかき消した挙句、誰1人踵を返すと言うことをさせなかった」

「ここの人々はかなり耳が肥えている。多少の実力がある音楽家が演奏しても何人かは確実に何処かに去ってしまうよ」

「私から言わせれば、最高だった。Classic音楽をGuitar一本でここまで表現出来る者は恐らく今まで見たGuitaristの中では君だけだ」

「Thanks.お世辞と言えど世界の人にそう言われたなら、やった甲斐はあったなミアさん」

 

 そう言いながら、勘助は部屋を出ようとしたので、ミアとその父は親子で引き止めようとした。勘助は1つ笑って

 

「テイラーさん。褒めてやってください、自分の娘でしょう。ミアさん、先に出てるぜ、そこまで時間もないけど親子で久しぶりに話してみろよ」

 

 こう言って部屋を出た。勘助だって賞を取らなかった事を悔しいと感じていた事をミアはここで初めて知った。ミア達はお互い見合って、少しだけ笑った。以下は勘助がいない間に話した、英語の内容である。

 

『彼は不思議な少年だ。人を想う優しい人間かと思えば、ギターを弾いた瞬間、力強くハッキリと自分をアピールする。本音を言えば経験はまだ浅いが、いつか彼の本気を見たい』

『勘助は僕より凄いよ。ギターが1番なのもそうだけど、勘助の歌い方は人を巻き込む何かがあるんだ。今度、歌の方も聞いてみてよ。勘助が歌う僕のお気に入り聞かせるからさ』

『あぁ、楽しみにしてる。そうだ、ミア』

『歌、良かったよ。最高だった』

『ありがとう、パパ』

『今度、彼と飲もうか。ミアとの婚約が決まり次第だけど』

『か、勘助とはそんなんじゃないから!』

『嫌いか?』

『うっ……いや、好きだけど……まだ違くて……』

『ハハッ……私の予想だが、彼は人たらしだと思う。いつか取られるぞ』

『それは嫌だ! それなら僕が……』

『僕が……なんだ?』

『ぼ、僕が、勘助を……ろ、牢に閉じ込めてでも貰い受ける!』

『私の娘はいつからここまで逞しくなったんだろうね……全く、テイラー家を振り回す日本人か……面白い男だ』

 

 そう言ってミアの父はエレキギター一本で世界に立ち向かった男を考えながら、ミアを頼むと心の中で祈っていたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。