「果林さん。今日は宜しくお願いします」
「ええ、といっても別に緊張する事ないじゃない」
「誰であろうと先輩と仕事するのは緊張するものですよ」
「少なくとも私を先輩として見てくれてるのは嬉しいわ」
「まぁ、生意気なと先頭に付きますけど」
「叩くわよ」
事務所の仕事で同じインタビューを受ける事になった山本勘助と朝香果林。同じ虹ヶ咲学園であり、部活もスクールアイドル同好会という場所で活動する2人に学校インタビューと称して取材を受ける事になった。
今日は宜しくお願いしますの「今日は」をわざと強調した勘助に少しばかり突っ込んだ果林だったが、実際勘助の方が果林より日常生活はちゃんとしているので溜息しか漏れなかった。
「それじゃあやりましょうか」
「ええ、そうね」
宜しくお願いしますと担当者に挨拶する2人はまるで演技のようにピッタリと言葉が合った。
☆
「見て見てみんな! 果林さんと勘助君がインタビューに答えてる記事!」
「果林ちゃんちゃんと答えてて偉いね」
「エマ、それは流石に馬鹿にしすぎじゃない?」
「おぉ、勘助君もカッコいいですなぁ」
「彼方さんに言われたらなんか照れますね」
「正直、インタビューの最初の自己紹介でDiver Diveですって答えた時はどうしようかと思ったわ」
「ちょ!? カンスケ愛さん達のユニット取らないでよ!?」
「どうしても場を和ませたかった。まぁ、果林さんなら突っ込んでくれると信じてたから場は凍らず済んだけど」
「勘助先輩って意外とお茶目なんですか?」
「中学の時教室で昼寝してる私の腕に落書きするくらいはイタズラ好きですよ」
そう言えばそんな事もあったと勘助はせつ菜に言う。何を書いたのかしずくに聞かれると、
「えっと、白菜、豆腐、白滝、肉団子、椎茸……」
「ただの買い物メモじゃん」
「しかも鍋だったんですね……」
「菜々の母さんが久しぶりに私を家に呼んでくれたから料理くらい作りますって言って鍋にした時だな」
「勘助さんの作る鍋とっても美味しいんですよね。というか何作っても美味しいです。アニメ見放題ですから嫁に来てよ」
「勘助さん。私の嫁になったら高級消音マンションに住めるからギター弾き放題。璃奈ちゃんボード『お買い得』」
「私のお嫁さんになってくれたら夜のどんなプレイもシ放題ですよ、ツンデレ、ヤンデレ、何でもどうぞ」
「この中なら璃奈さんだな。ギター弾き放題に惹かれる」
「やった。勘助さん大好き」
「お、そうだ。唐突ですけど、果林さんってどんなご飯食べてるんですか?」
「わ、私?」
「インタビューでは健康食品とか答えてたので、それ以外が気になりまして……」
「そ、そうねぇ……美容にいいフルーツとかかしら?」
「他は?」
「あまり食べないわね」
果林の言葉に勘助の何かがキレた。
「果林さん、飯行きましょう」
「え、えっと勘助急にどうしたの?」
「果林さんの食生活は異常です。何なら私が作ります」
「え、良いわよそんな」
「黙って食え」
「うっ……か、彼方助けて」
「勘助君のいうとおりだよ。ちゃんと食べないとダメでしょ〜」
「今回は流石にわたしも庇えないかなぁ。勘助君、果林ちゃんを宜しくね」
「そんなわけで保護者からは許可を得ております。ほら、練習終わったら行きますよ」
「か、勘助顔が怖いわよ?」
「誰のせいだと?」
食に関しては勘助に長がある。貧乏人として節約料理を作るだけでなく、おいしさと満足度を追求した食事作りは今の勘助を作っている。
体調を崩さないようにと考慮して作っている勘助からして果林の食生活は黙っておけないのだった。
「いいな、果林さん。私も勘助さんに作って欲しい」
「そういえば最近果林さんと勘助さん昔より凄く仲良くなってるよね」
「事務所のお仕事も一緒ですから自然とくっついてるんじゃないですか?」
「ねぇ……璃奈さん。果林さんってスタイル良いよね」
「勘助さんもスタイルいい。カッコいいし」
「お二人とも美男美女ですよね……」
そう言って3人は溜息を吐いたのだった。
☆
「おはよう果林ちゃん。これ、勘助君から」
「まさか本当に作ってくるとは思わなかったわ」
あの会話の後、勘助はエマに相談をして果林の食生活改善プログラムを実施する。といっても、果林が嫌になったら辞めるつもりだとも言っていた。
『無理してやるものでもないですしね。ただ、俺の本気の料理から逃げられたらの話ですけど』
そう言った勘助だが、料理に関して本気モードであった。エマと相談した結果、勘助が作り置きした鍋で出来そうな物を作り、朝エマに渡して起こすついでに果林に届けてもらうという策であった。
寮にお互い入れないのもあったので手渡しは外ではあるが、そこそこ寒くなってきたのもあり、すぐ腐る事は無いと考えた勘助はこの策で果林に渡す事にした。
「記念すべき最初は鍋だってさ」
「鍋ね。確かに栄養も取れるしありがたいわね」
「それとこれ。一応レンジで温めて食べてって」
エマが果林に渡したのはおにぎり2つ。今朝勘助が握ってきたと言っていたらしい。
「ちゃんとラップで握ったって言ってたよ?」
「徹底してるわね……ありがとうエマ」
「お礼なら勘助君に言ってね」
それを受け取った果林は部屋に戻り、すぐ顔を洗って食事の準備をした。鍋とおにぎりも温めて、鍋の中身を皿に移して実食の準備は整った。
「それにしてもおにぎりの形綺麗ね。本当にラップで握ったのかしら?」
良い意味で素手で握ったのではないかというくらい形が綺麗な三角形のおにぎりであった。
先におにぎりを一口食べると、すぐに口の中で溶けた。溶けたは言い過ぎかもしれないが、手で持っても崩れなかったのにいざ歯で噛んでみるとすぐに形が崩れて、口の中ですぐ飲み込める状態まで米がバラバラになる不思議な食感。
「何よこれ……美味しすぎない? あれ、でも塩は少し薄いわ……いやしょっぱい!? ってこれ鮭?」
塩の味はそこまでしなかったものの中身が塩味の強い紅鮭であった。そのため塩が薄くても強烈な鮭の塩気でご飯が進んだ。
「なるほど……だから塩があまり振られてないのね……とっても美味しいわ」
ふと鍋の存在に気がついて、汁を少しばかり啜ると、味がやはり薄かった。だが、全く薄いわけでもなく、ほんのりと塩気が感じられ少しブラックペッパーの辛さが引き立つ味付けであった。
恐らく、紅鮭が思いのほか塩が強かったのもあり、鍋も米も薄く味を付けたのだろうと果林は予想した。それでも、温かい。
「誰かの料理なんていつぶりかしらね……」
正直寮生活の果林も多少は料理は出来るが、基本はダイエット食品やフルーツ、カット野菜などで済まし、たまに学食などで食べるくらいである。
だからこそ勘助の料理に感動したのも事実だった。
「美味しい……本当に美味しい……何やかんや生意気だけど、勘助って優しいのよね」
ふと、果林はダイバーフェスの事を思い出す。みんなに推薦されたから任せておけと啖呵を切ったのは良いが、本番を前にしたら怖くなったあの時。勘助がみんなより先に果林を見つけて話をしてくれた。
『俺はステージに上がったことはありませんから、果林さんのことを悪く言う資格なんてないんです』
そう言って話してくれた彼の過去。母親を亡くし、父親も亡くした。父親自身が同じ事をするなと言った独りよがりの演奏を反面教師にした事で、色々考えすぎて人前で歌えなかった勘助。自分の代わりとは言わなかったものの、果林がみんなの想いを背負ってステージに出て欲しいと頼んだあの日。
『いつか、上がりなさい。私と同じ舞台に』
正直なところこの台詞はどうして果林にその過去を話したのかと、そう言う思いがあった。簡単に言うと勘助だって本当は誰かに助けて欲しかったんだろと。そうでなければ自分の過去なんて話さない。
だからこそ果林は少しムカついた。自分にあれだけ言っておいて自分だけ逃げるなと、そんな思いもあって発したこの言葉で勘助もステージに上がってくれた。
「結局その後私と同じ事務所に入るなんて思ってもなかったけど……本当、凄いわよね勘助は」
そう言って、あの生意気な後輩を思い浮かべる。鍋を食べてふと、気がついたら完食していた。
「最近勘助の事ばかり考えるわね。勘助と話してる時は本当の自分を出してる気がするわ」
今日勘助に会ったら、少しだけ優しくしてあげようかなんて思った果林である。