虹ヶ咲のシンガーソン軍師 ifルート編   作:初見さん

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侑ルート 完結

「おはよう、ミアさん」

「good morning.勘助、今日はベイビーちゃんと一緒じゃないんだ」

「今日は会ってないんだよな。多分歩夢さんと登校してるんじゃないか?」

 

 音楽科の教室に入った勘助はミアと挨拶を交わす。教室内では何人かの生徒がミアや勘助、侑のファンであるので、勘助はクラスのみんなにも何人か挨拶する。

 侑と付き合ってから数週間が経過した。同好会には侑と付き合う事は伝えた。何故か音楽科の生徒すらも知っていたのはいささか謎ではあったが。恐らく侑と手を繋いでいたとか、一緒に登校してるのを見られてそれが広まったのだろうと勘助は思っていた。元々女子校だったらしいので女子生徒の方が人数が多い、噂話が回ったのだろうとあまり気にしていない。

 それよりも今日は珍しく侑と会っていなかった。恐らく遅刻ギリギリにでもなっているのだろうと考える。侑の幼馴染である歩夢曰く、彼女はああ見えて寝坊助らしい。そこも可愛い魅力だと惚気たのは惚れた弱みに違いなかった。

 しばらくすると、ガラッという音と共に見覚えのある毛先が緑色のツインテールを勘助の視線が捉える。侑が登校してきた。

 

「おはよう、侑。遅かったな」

 

 勘助がそう挨拶するも侑は下を向いたまま何も話さない。寝ぼけて聞こえなかったかと思い、もう一度彼女の名前を呼んで挨拶をすると急に侑が勘助に抱きついてきた。

 

「ゆ、侑!? どうした?」

「うわぁ……ベイビーちゃんって意外と大胆?」

「そういう話じゃないだろミアさん。侑、どうした? どこか痛むのか?」

「ごめん……今は何も聞かないで」

 

 侑の言葉に勘助は少し黙り、息を呑む。一体何があったのか、歩夢と喧嘩でもしたかとか、何か事件に巻き込まれたとか悪い予感が勘助の胸をよぎる。それでも本人は何も聞くなと言っているのでどうすることも出来ない。しばらくすると侑から声を出す。

 

「勘助、頭撫でて」

「え?」

「いいから撫でて」

「お、おう」

 

 そう言って勘助は侑の頭を撫でる。教室からは興奮冷めやらぬ声が聞こえるが勘助にとってはそれどころではなかった。

 

「勘助、ごめんね。私のせいで……勘助が……」

「何があったのかわからないけど俺はここにいるぞ?」

「うん……本当に夢で良かった」

 

 夢という言葉をオウム返しした勘助だが侑は何も言わないので謎のままである。それから少しして侑が勘助の元を離れた。

 

「侑……いいのか?」

「うん、授業始まっちゃうし……その代わり放課後音楽室に来てくれないかな?」

「それは構わないけど……」

「ありがとう勘助」

 

 そう言って侑は自分の席に戻って顔を伏せた。隣にいたミアから疑問の声が聞こえたが、勘助は全く分からないと答えるだけだった。

 

 ☆

 

 静かな音楽室にピアノの音が流れる。侑は勘助を待っている間手持ち無沙汰や今日の出来事もありピアノで心を落ち着かせていた。

 

「んんっ! 音楽室の使用許可は取りましたか? 高咲侑さん」

「あれ? せつ菜ちゃ……勘助!?」

 

 ドアが開くと同時に咳払いと共に発された声の主は約束していた勘助である。だが、声は彼の幼馴染である中川菜々兼せつ菜の声に似ていた。

 勘助は侑が驚いたのを見ると少し笑う。

 

「ふふっ、こういうことも出来るぞ」

「びっくりした、っていうか勘助男だよね? なんでせつ菜ちゃんの声が……」

「声真似しただけで同好会のみんなならすぐ気がつくよ。今のは少し不意をついただけだからな」

「えぇ……全然気が付かなかった……」

「菜々は半分似てないって言ってたけどな」

「半分?」

「声は似てないが振り付けは完璧ですねって」

「前は勘助踊れないって言ってなかった?」

「創作ダンスとかは無理だが、他者の振り付けなら踊れるぞ。特に菜々はな」

 

 勘助は菜々と幼馴染なのもあり、彼女がスクールアイドルを始めるために一緒に練習していた過去がある。当然今の菜々の……優木せつ菜の歌とダンスは完全コピーしているので、ダンスに関してはクオリティの面は多少大目に見てもほぼ優木せつ菜と瓜二つである。

 そんな話をしてから勘助は侑の座ってる椅子の隣に座り、侑を見た。

 

「はっきり聞く、今日の侑に何があった?」

 

 勘助の言葉に侑は少しだけ口を閉じながらもすぐに言葉を発した。

 

「夢を見たんだ」

「さっき言ってたな。どんな夢だ?」

「私がときめきを探して勘助を置いて外に出るの。そしたら可愛い女の子3人がいてね、その子達にときめいちゃって仲良くなったんだ」

「そしたらその子達は人魚でね、私は人魚の姿を見て呪われて私自身も人魚になっちゃうの」

「人魚と一緒に泳げた夢ならとても綺麗な夢だと思うけど?」

「うん。最初は私も喜んでたんだけど、勘助に私が人魚になって陸ではなく海の中で生活する事になったのがばれたんだ……夢の中では勘助が人魚を見ても男だから呪われなかった」

「その時……俺はなんて言ったんだ?」

「侑も俺を置いて行くのかって」

 

 ハッキリと侑が言った夢の中の自身の言葉に唾を飲んだ。

 

「とても悲しそうな顔だった。だから私は後悔したんだ。勘助は両親がいなくて、菜々ちゃんはいたけど、それでも家族は勘助君の1人だけでしょ?」

「夢ではね、私と勘助が家族……結婚してたの。だから俺を置いて行くのかって言われた時初めて自分に絶望した」

「せっかく勘助が家族を手にしたのに、私のわがままで勘助を1人にさせちゃったって思ったら凄く申し訳なくて……それが夢だったから良いけど、いつか現実で勘助を傷つけるかもしれない」

「だから朝はあんな行動を……」

「私のときめきの夢は、勘助を傷つけちゃうのかなぁ……」

「それは違う。現実では侑はときめいたから作詞作曲を始めただけなんだろ?」

 

 侑は頷き、ついでに勘助にどう会おうか考えていて遅刻ギリギリになったのも言った。

 勘助は少し考えて、慎重に言葉を紡ぐ。

 

「俺はな、侑さんの夢を応援したい。ときめいたとか自分のやりたい事があるとか、それを否定する気は無い」

「それでもやっぱり、人魚は……まぁ現実味はないけど、例えば侑がときめきを見つけて、飛び出して事故で亡くなったとかになると俺も止めておけばとは思う」

「勘助……」

「だから、侑の夢を俺にもくれよ」

「え? どういう事?」

「俺達は夫婦ではないけど……なんか夫婦って辛い事も楽しい事も半分こって聞いた事がある」

「侑の夢を半分くれたら俺も侑と一緒にときめきを一緒に見つけにいけるだろ? そうすれば片方がいなくなるんじゃなくて、2人で道連れだ」

「夢の話に戻るが、人魚は別に女の子だけじゃない。マーマンだったっけか? 夢ではなれなくても男にも人魚はいるんだ、侑が人魚になったならその姿を俺に見せてくれ。そしたら俺も呪われて人魚だ、見方を変えればハッピーエンドだろ?」

「だから……結論として成り立ってない気がするけど……とにかく、俺の半分くれてやるから侑の半分くれよ。夢でも人生でも身体でも何でもいいから。それが恋人だろ?」

 

 勘助が話している間侑はだんだんと泣き出した。最後の言葉で我慢できなくなったのか、勘助に抱きついてきた。

 ずっと泣きながら謝り続ける侑、頭を撫でて落ち着かせる勘助がそこにいた。しばらく続けて、感情が収まった侑は勘助に声をかける。

 

「勘助は……私のそばにいる?」

「いるよ、浮気もしないし侑を1人にしない」

「浮気したらこれで殴る」

「グランドピアノで殴る人聞いた事ないけど」

「比喩だよ比喩。許さないけど」

「侑さんもどっか行ったら許さないぞ」

「それじゃあ繋ぎ止めててよ」

「だからこの前リードつけるって言ったじゃん」

「勘助って変態?」

「そういう意味じゃない!」

 

 勘助がリードをつける発言をしたのは侑がときめきを見ると犬のように走っていってしまうので手綱が欲しいという思いで言っただけである。決して妖艶な侑の声を聞きたいからとかそういう話ではないのだと、侑に言い直す。

 

「とにかく、侑が良ければときめいた時は俺にも言ってくれ。お互いに相談してから一緒に行こうぜ」

「うん、そうする。ねぇ、さっそく勘助にお願いがあるんだけど」

「なんだ言ってみろよ、侑と俺の仲だろ」

「今日私の家に泊まらない? やっぱり寂しくてさ……」

「それくらいなら別に構わないけど、親は?」

「いるわけないじゃん。だから寂しいの」

「いいのか?」

「うん。元々勘助とイチャイチャするつもりだったし。歩夢もシャットアウトしておくし」

 

 侑の言葉に苦笑いしながらも着替えを持って行くと、そう言って了承した。その後に発した侑の言葉に石化することになるが、

 

「ねぇ勘助そろそろ私達もさ、一線超えない?」

 

 勘助は石化した。その後に侑とはキスした事を思い出し、その先を考えたら顔が真っ赤になった。侑はからかったように笑う。

 

「普通男の子が言うものだと思うけど?」

「侑さん、まだ早くないか? 付き合って数週間だこらもう少し段階を踏んで……」

「それ女の子のセリフだよ。第一、付き合う前から勘助の事あらかた知ってるし、付き合ってから手も繋いでキスもして、もうコレだけじゃん」

「い、いや、それは確かにそうなんだが……」

「別に女の子が恋バナを話してるから感化されたわけじゃないよ。言ったでしょ、私不安なの。こういうのしておけばやっぱ安心するかなぁって。私の心の問題だけどね」

 

 少し悲しそうに言う侑に勘助は何も言えず、青い左眼を少し抑える。ここで力任せに否定しても侑を悲しませるだけだ、ましてや勘助も男子高校生。恥ずかしさが増すがそう言うことに興味ないわけではない、ましてや恋人に誘われたら肯定するしかなかった。

 

「侑が痛かったら辞めるからな」

 

 コレを言うだけで精一杯であった。侑も少し笑いながら

 

「嫌だよ、最後までやる。半分こしよう、夢も身体もって言ったのは勘助なんだから、責任とってね」

「恥ずかしいな」

 

 そう言った勘助に抱きついて手に力を入れる侑。勘助も侑の背中に手を回して力を入れた。

 

「勘助、好きって言って」

「侑、愛してる」

「あはは……不意をつかれたよ、照れるねこれ」

 

 侑と勘助が抱き合っている間、音楽室から覗く二つの影に気が付かなかった。

 

「ええと、どうしますか歩夢さん?」

「本当はこのドアをぶっ壊したいけど幸せそうだからメッセージだけ打とうかな」

「わぁ、黒い笑顔……時間だから呼びに来ましたけどなんか邪魔できる感じじゃ無いですよね」

「せつ菜ちゃんは良いの? 好きだった人が違う女と抱き合ってるの」

「そうですね、本当はこのドアを破壊したいですけど、今回は侑さんが勘助さんに相談していると言うことにして大目に見ましょうか。ミアさんにも侑さんの様子がおかしいから勘助さんが慰めてると報告がありましたからね」

「それじゃあ、戻ろうか」

「そうですね」

 

 その後、勘助宛にせつ菜からは練習の始まりを告げるメッセージが、侑宛に歩夢からこんなメッセージが来た。

 

『侑ちゃん、嬌声を出しても良いけど私のクソゲーの邪魔しないでね』

 

 それを見た2人の顔の赤さは同好会が終わっても続いたらしい。

 翌朝、寝不足の歩夢をよそに勘助と侑が手を繋いで今までよりも距離が縮まって見えたのをせつ菜は知っているのだった。

 

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