「最近果林ちゃんとどうなの?」
「とりあえずまだ継続中です。案外しぶといですね」
「勘助君は果林ちゃんにどうなって欲しいの?」
「果林さんがしっかりとご飯食べてくれれば良いです」
「よくよく考えたら勘助君がご飯作り続けてたらそれ無理じゃない? 果林ちゃん料理しなくなるじゃん」
「あ……」
衝撃の事実に気がついたのはとある日の昼休み。勘助がいつものように果林に弁当を渡した後、果林と同じ三年生の近江彼方に誘われて昼ごはんを食べている時である。
果林は課題が終わらずエマに教えてもらっているのもあり、珍しい組み合わせではあるが彼方と勘助の2人で昼を食べる。
「何も考えてなかったの?」
「果林さんが少しでも栄養バランスを取れるようにしか……確かに果林さん自身が料理しないと意味無いですね」
「なんだ、わざとじゃなかったんだね」
「わざと?」
「ほら、勘助君が手料理で果林ちゃんの胃袋を掴んでしまおうとか考えてるのかなぁって」
「なるほど、その手がありましたね」
「そうそう、てっきり果林ちゃんが好きだからそういう作戦なのかと……え?」
「まぁ、私が果林さんを好きなのは……アレ?」
彼方と勘助の少しばかり間抜けな声が聞こえた。少し沈黙して、先に声を出したのは勘助。
「いつから……気が付いてたんです?」
「え? えっと……最近果林ちゃんと距離が近いなぁって思ってたくらいだけど、勘助君が果林ちゃんにお料理作るって言った時好きなんだなぁって。というか勘助君はもしかして何も考えて無かったの?」
「は、はい。果林さんの食生活が本気で不安だったので私で良ければって気持ち程度だったんですけど……確かにそのまま胃袋掴んでしまえば少しばかり意識してくれるって今気づいて……」
「勘助君ってさぁ……本当に良い子だねぇ」
そう言ってテーブルから少し身を乗り出して勘助の頭を撫でる彼方と顔を少し赤くしながら撫でられる勘助。
「と、とりあえずですね……まぁ、彼方さんのいうとおり私は果林さんが好きですよ。私って実は我儘でイタズラ好きなので果林さんを揶揄ってたら楽しいんです。果林さんもダメな時はダメって言いますけど、それ以外なら同じ皮肉で返してくれるので最初はお姉さんって感じだったんですけどね」
「お姉さんだった?」
「はい。でも、果林さんは私の姉じゃないので、そう考えたら今感じてる感情って何なのかなって……選ばれたのは恋でした。果林さんが私を頼ってくれるのは嬉しいので」
「そっかぁ……勘助君は優しいし素直だねぇ」
「みんなの事も好きですけど、この前果林さんとご飯食べてたら恋愛的では無くても好きって言われたんですよ」
「果林ちゃんが好きって言ったの?」
「はい。恋愛では無いですけどね。でもそれを聞いた時、胸が高鳴って、気分が高揚して、全身が熱かったんです」
「あぁ、私果林さんの事好きなんだなぁって本気で気づいたのはその時です」
勘助の想いを聞いて彼方は微笑ましくも少しばかり苦笑いした。勘助の言ってる恋の感情がまるで少女漫画の主人公のような甘いセリフで表現されたからである。
「勘助君、まごころ系スクールアイドル第二号になれるよ」
「歩夢さんになれるって何ですか? 少なくとも、幼馴染を押し倒したり、ストーカーしたりはしませんよ」
「勘助君は歩夢ちゃんの事なんだと思っているの?」
「侑さんの……身体の一部ですかねぇ」
「怖いよ」
勘助のセリフに恐怖を覚えながら弁当を食べるが、勘助は大真面目である。勘助も弁当を食べて行くが、ほんのりと顔は赤い。彼方はそれを見て微笑みながら勘助に声をかける。
「勘助君は果林ちゃんとお似合いだと思うよぉ」
「同じ事務所だからですか?」
「別にお仕事が似ているからじゃないよ。ほら、果林ちゃんってダメ人間でしょ?」
「彼方さん意外と毒吐きますね。まぁ、否定は出来ませんが」
そう言って勘助は思い返す。果林は確かに仕事中やスクールアイドルの時はカッコよく時にセクシーで真面目で見た目だけなら大人気の人間だ。
だが、その反面、重度の方向音痴に加え、勉強も赤点ギリギリで朝も弱くエマに起こされ、料理もほぼ適当に済ませるというだらしない人間でもある。着替えもたまにエマに任せている時点でもはや完璧なダメ人間だ。
「みんなね果林ちゃんに夢を見るの。でも、勘助君は違うでしょ? 良くも悪くも果林ちゃんの事を知っているからね」
「この前仕事で衣装着替えた後、楽屋一緒なので2人でいたんですけどスカートの中ノーパンだからって私の前で急にスカート脱ぎ出したのは殴ってやろうかと思いました」
「果林ちゃん本当何してんの?」
「出て行けと怒られた方がまだマシですよ。何とか止めて私が楽屋から出ましたけど、よく考えてたらスカート脱ぐ必要無くねって思いました」
「確かに横着だけど直に履けばいいからね」
「後、道迷ったからって私の名前呼びながら泣きそうになるのマジでやめてほしいです。見つけた後、私が悪い事したみたいになってるので」
「前言撤回したいなぁ、果林ちゃんが勘助君に釣り合うとは思わないって意味で」
流石の彼方も庇えない。彼方としては、勘助は朝香果林という人間に良くも悪くも夢を見ないので対等な関係で付き合える唯一の男性としてお似合いだと言いたかったのだが、そもそも果林がダメ人間過ぎて勘助が可哀想に思えてきた。
「でも、好きなんですよね。そんなだらしないところも私が何とかしないとなぁって」
「勘助君その考え持ち続けたらいつかダメな女の子に騙されるよ」
「騙されて渡せるほどのお金は無いので大丈夫です」
「でも、事務所のお仕事やってるなら少しはマシな生活になったんじゃないの? まえは貧乏だって言ってたじゃん」
「叔父に金渡しすぎて金欠です。貯金残高69円なんで」
「困るし引くんだけど……」
勘助曰く、寮家賃や光熱費を銀行で引き落とされた為今はこうなっていると言っており、実際普通の時は10万入っていると言ったのだが、どのみちまたそれで引き落とされて69円になるなら貯金すら出来てない。
「最近叔父から鬼電来るんですよ。送ってくる金が多すぎるって、黙って受け取れよと思いますけど」
そう言った勘助に対して自分も似た境遇があるので深く言えない彼方である。
「とにかく、彼方さんの意見参考にします。もっと美味しい物作って、果林さんに振り向いてもらいます」
「うーん……恐らく果林ちゃんはもう勘助君に胃袋掴まれてると思うけど……」
「料理とギターは俺の華なんで」
「あ、うん。頑張れ勘助君」
勘助の目は本気だった。
☆
「最近勘助君とはどう?」
「別に何も無いわよ。ただ、勘助に何かお礼がしたいわ」
「お弁当作ってもらってるもんねぇ」
場面変わって果林とエマ組は勘助の話をしている。果林は勘助に料理を作ってもらっているのもあり何かしらのお礼がしたいと言い出した。
「でも、勘助の欲しい物分からないわ」
「確かに勘助君が何かをお願いした事無いもんね」
「仮にしたとしても基本同好会のためじゃない。自分のためじゃないから勘助のために何かしたという感じでもないのよね」
勘助がお願いするのは基本的にスクールアイドル同好会での問題解決や仕事を任せる事くらいである。だからこそ勘助自身が自分のために喜ぶ事を何かしたいと思っていた。
「そういえば勘助君前に言ってたけど生活苦しいんだよね?」
「ええ、そうね。たまにみんなでお揃いの物を買うってなった時よく財布の中真剣に見てるし、この前少し聞いてみたら貯金が69円って言ってたわ」
「勘助君……もしかして浪費家ってやつなの?」
「叔父さんのライブハウスが潰れて欲しくないからって仕事のお給料をほとんど仕送りしてるらしいわよ」
「勘助君偉いねぇ」
ふと果林がお金の件で勘助を問いただした時を思い出した。
『貴方仕事のお金ってどうしてるの?』
『叔父さんに殆ど渡してますよ、流石に生活費は抜きますけど』
『でも、貴方の叔父さん役所の職員でしょう? お金に困ってる訳ではないなら勘助がもう少し使えば良いじゃない。自分のお金なんだから多少少なめに仕送り渡しても文句はないと思うのだけど』
『真面目な話して良いですか?』
『何よ?』
『俺叔父さんのライブハウス潰したくないんですよね』
そう真剣に答えた勘助は話す。叔父のライブハウスは基本夜しかやっていないので客が少ない事、そのせいで多少なりとも赤字を出してる事を伝え、自分も利用してる恩も兼ねてライブハウスを潰したく無いと伝えた。
『後は、まぁ、唯一無二の俺の家族の生き残りですから。血は繋がって無くても、ここに俺がいるのは叔父の信繁さんのおかげですし』
『だから恩返しってやつです。金で解決なんて真似はあまりしたくないですけど、今の俺に出来るのはこれと、生き延びる事くらいなんで』
その言葉に果林は改めて勘助の人間性を見た。
「本当に……勘助は良い子なのよ」
「フフッ、果林ちゃん勘助君の事になると嬉しそうだね」
「凄く生意気だけどね、それでもやっぱり勘助の優しさに甘えちゃうのよ」
「果林ちゃんは、勘助君の事好き?」
「ええ、好きよ」
「だよねぇ、わたしも好きだもん」
「え?」
「わたしだけじゃない。彼方ちゃんもミアちゃんも勘助君が好き」
そしてエマは1人ずつ同好会のメンバーの名前を言って、最後にはスクールアイドル同好会全員が勘助の事を形は違えど好きなんだと言った。果林は少し悩んでからゆっくり言う。
「でも、勘助が生意気な口を聞くのも私だけ。一緒に仕事をしていいのも私だけ、ご飯を作ってくれるのも私だけ、そうね……これだけは譲れないわね」
「それって恋じゃないかなぁ? 勘助君を独り占めしたいんでしょ?」
「まぁ、確かにご飯に関しては勘助にずっと作って欲しいけど、そんな事で恋愛感情なんてあるのかしら?」
「誰かに取られたくないって感じるようになったらそれは恋だよ。独占欲ってやつなんじゃないかなぁ」
独占欲という言葉をどこで覚えたのか聞いた果林だが、サラッと少女漫画だと答えられた。
果林は少し考えるふりをしながら勘助との出会いや話した内容などを思い出す。
『ただのシンガーソングライターみたいなものですよ』
『ガラじゃない、は違いますよ。俺は、本気で果林さんがスクールアイドル似合ってると思います』
『果林さんの後ろには俺や同好会のみんなが付いているって信じてください』
最初はただのシンガーソングライターと名乗った彼は幼馴染のためにギター2本で立ち向かい、幼馴染との練習技術で同好会のメンバーのマネージャーをしながら持ち前の頭の回転で同好会のトラブルを解決してきた。時には本心を突き厳しい言葉を発した時もあったが、必ず勘助はその人の個性を褒めながらみんなを奮い立たせてきた。
そんな彼が過去の経験で舞台に立つ事を諦めたと言った時、果林は思わず抱きしめてあげたくなった。だが、それは出来ない。自分もあの時はステージに立つ事を怖がっていたからだ。外ではしっかりしていても内心だけは臆病者同士だった。
勘助と果林は似ている。しっかり見えていても心のどこかで芯が脆いのだ。だからこそ惹かれあった。だが、
『これで、俺が果林さんとみんなの橋渡し出来ますよね』
卒業を寂しく感じた果林を慰めたのはまたも勘助だった。その時果林はただ心から嬉しかった、みんながいると、勘助が言ってくれて安心できた。
「勘助……私が同好会に入ったのも、みんなと何かをする事が楽しくなったのも、あの子のおかげなの」
「うん」
「勘助はいつも優しく見守ってくれてたのよ、自分の事もしっかりとやりながらみんなの事を気にかけて……完璧人間よね」
「たまに菜々ちゃんに甘えてるけどね」
「あれはただ一緒に叫んでるだけじゃない……でも、結局勘助は私とは釣り合わないわよ。道も迷うし、寝相も悪いし、成績だって勘助の数倍違うし、料理もあまりしなくて洗濯機の使い方だって危うい……あれ? 私女としてどころか人間としてダメじゃない?」
「それが果林ちゃんの魅力だよ」
全く嬉しくないと果林は頭を抱えるが、エマは優しく果林に言った。
「でも、いくら勘助君でも限界はあるでしょう? 本当に果林ちゃんが釣り合わないとか嫌いになるならあそこまで懐かないんじゃないかな?」
「果林ちゃんの本当の姿もきっと勘助君は受け入れてるんだよ」
「そう、なのかしらね?」
「きっとそうだよ」
少しだけ、ほんの少しだけだが気分が良い方向になった果林は聞く。
「勘助は私の事好きかしら?」
「聞いてみたら? 勘助君ならちゃんと答えてくれるよ」
「勘助は私と一緒にいても嫌じゃないかしら?」
「それも聞いてみるといいよ、勘助君は果林ちゃんを嫌う事無いと思うから」
「何でそう言い切れるのよ?」
「だって、果林ちゃんと話してる勘助君、凄くぽかぽかしてるもん」
「ぽかぽか?」
「楽しそうってことだよ」
エマの言葉に本当かと思いながらも、一つだけ策を考えた果林はエマに聞いて貰うことにした。
「エマ、勘助のお礼考えたわ」
「何するの?」
「ホテルに泊まるのよ。2人きりでね」
「え?」
果林の提案にエマは疑問にしか思わなかったが、話を聞いてからすぐ笑顔になった。