「お邪魔します」
「勘助さん! いらっしゃいませ!」
「お店か何かかな?」
「私の家だよぉ、ようこそ勘助君」
「彼方さん。お邪魔します」
山本勘助は同じ同好会で一つ上の先輩である近江彼方の家にいる。勘助がある日買い物をしていたらたまたま妹の遥と一緒に買い物をする近江姉妹がいた。
その際に、一人暮らしの話を聞いた姉妹は前回料理教室を勘助が開いたお礼として、たまになら家で食べて欲しいと言ってくれたのでお邪魔している。
「勘助さん。今日のお昼はチャーハンで良いですか?」
「チャーハンか懐かしいな。私は好きだ」
「懐かしいってどう言う事なの?」
「死んだ父親の得意料理です。今は叔父が使ってますけど、何故か家に中華鍋あってそれで作ってました」
「お父さん凄いねぇ、お母さんは何かあった?」
「えっと……1からスパイスをブレンドして麻婆豆腐を……」
「中華好きなんですかね?」
「私はもやしだから別にそうでもないと思うけど……ってか母さんは腐ってもロシアのクォーターだからロシア料理作って欲しかった」
勘助の嘆きに遥は少し苦笑い。それでも、やはり両親の事を話す勘助は2人から見ると楽しそうであった。
彼方と遥は勘助を席に座らせて、チャーハンをテーブルに出す。勘助は目を光らせながら、挨拶をして食べ始めた。
「美味い。これは本当に美味い」
「いっぱい作ったから食べてね」
「おかわりいいですか?」
そう言って勘助は彼方と遥が作ったチャーハンを食べまくるが、少しばかり自制する。不思議に思った彼方は勘助に聞いてみる事にした。
「勘助君、大丈夫?」
「え? ええ、ありがとうございました。ご馳走様です」
美味しかったと勘助は彼方達に言うが、彼方は違和感を感じていた。
「もしかして足りなかった?」
「い、いえ……そんなわけないじゃないですか。お腹いっぱいですよ」
「そう……なら良いんだけど……」
「勘助さん、デザートどうですか?」
「頂くよ、ありがとう」
そう言ってまた美味しそうに食べる勘助を見て、彼方は少し勘助を気にかけるのだった。
☆
「勘助さんの食べる量を知りたい?」
「うん、この前お礼でご飯食べてもらった時なんだか物足りない顔をしてたから」
「ええっと……」
彼方の話を聞いたせつ菜は少し悩む。その理由は色々あるが、同じ同好会の先輩に隠し事もよろしくないと思ったので答えた。
「確か、5合です」
「なるほど、5合かぁ……へ? 5合?」
「はい、なんならそれ以上食べられます」
「か、彼方ちゃんの聞き間違いかなぁ? す、炊飯器どうしてるの?」
「念のためと一升炊ける物を買ったそうですが、収録とかでご飯を食べなかった翌日など、本当にお腹が空いた時とかは1日で一升食べるとか」
「か、勘助君は怪物か何かなの?」
「食欲に関しては魔物ですよ、あの人」
せつ菜は下らない嘘はつかないという事は彼方でも分かっているのだが事実だと仮定しても信じられない。それでもたまに学食で大量の唐揚げや野菜、漫画盛りのようなご飯を見かけることもある以上信じるしかない。
なんなら女子達だけでなく虹ヶ咲に通う男子生徒でも勘助の食べっぷりにドン引きすると言う話も聞いているのでなおさらである。
「そっかぁ、足りなかったんだぁ、少し申し訳ない事したかも」
「彼方さんが悪いわけじゃないでしょう? 勘助さんが食べ過ぎなんです」
「確かにすごい量だと思うけど食べ盛りだから仕方ないよねぇ」
彼方のフォローにも食べ盛りの量ではないとツッコミを入れるせつ菜。
「とにかく、勘助の食べる量を甘く見たら破産しますよ。お礼をするのはいいですけど、あまり餌を与えないでください」
「勘助君は動物か何かなの?」
結局その日彼方は勘助の食べる量に驚いただけであった。
☆
「ねぇ、勘助君」
「どうしました彼方さん?」
「今度遥ちゃんと食べ放題行くんだけど一緒にどう?」
「食べ放題ですか?」
「うん。それならどれだけ食べても大丈夫でしょ?」
彼方の言葉に勘助は苦笑いしながら、バレてたんですねと言った。
「彼方ちゃん達の家計簿気にしてくれたんでしょ〜?」
「俺自身も本気で食い過ぎたら自宅が破産するので抑えてるだけです」
勘助の言葉に少し笑う彼方。彼方の家計だけでなく、勘助自身の家計も考えていた事に笑ってしまった。
「ねぇ、勘助君はさ、どれくらい毎日ご飯食べたい?」
「朝と夜は2合くらいです。昼だけ8合食べたいです」
「一升かぁ……そりゃ毎日はキツイよねぇ」
「かといって毎日食べ放題とかも出来ませんしね。私がもっと稼げたらいつか腹一杯食べますよ」
「凄い夢だねぇ、普通勘助君ならギターが上手くなるように願うと思ったのに」
「ギターとか歌に関しては私がやれば成長出来ることです。食欲に関してはどれだけ安い米を買っても、おかずを買っても値上がりなどで達成出来ないんですよ」
「今度彼方ちゃんのお弁当少しあげるねぇ」
「いいんですか? じゃあ弁当のおかず交換しましょうよ」
「良いねぇ。勘助君の作る料理彼方ちゃんも食べたいよぉ」
「私で良ければ」
そう話していると、不意に彼方が勘助の膝に寝転がった。勘助は驚きながらも少し顔を赤くして、彼方に行動の意図を聞いた。
「いつもエマちゃん達の膝で寝てたから、たまには勘助君の膝も良いかなって」
「セクハラかもしれませんけど、女性の膝より硬いですよ、私は」
「それもよきかなぁ」
全くと、呆れながらも勘助は彼方の頭を膝で迎えた。
「彼方さん髪フワッフワですね」
「結構伸ばしてるからねぇ」
「ポメラニアンみたいですね」
「先輩を犬扱いしちゃダメだよ」
「しずくさんがいつも言ってますよ。彼方さんはオフィーリアと似てるって」
「わふぅ」
「活発な動きがない分猫っぽいですけど」
「どちみち人間じゃないのかぁ」
そんな緩い会話をしながらも勘助と彼方は雑談をしていたのだが、部室に入るタイミングを逃したせつ菜が恐る恐るとドアを開けたのは別の話である。
「お邪魔……でしたか?」
「いや、別に。お疲れ様、菜々」
「せつ菜ちゃんお疲れ様ぁ」
「なんか彼方さんと勘助さんが2人が合わさると空間が緩いですね」
「気のせいだろ」
「気のせいだよぉ」