「すやぁ」
「彼方さん最近勘助さんの膝で寝てますよね」
「恋人だからね、しょうがないね」
「なんか勘助さん堂々としてません?」
休憩中、勘助の膝で寝る彼方を撫でながら、菜々の質問に答える。
あの告白から付き合った2人だが、勘助の様子が少しばかりおかしい。
菜々が知っている勘助は男女の交際に対してあまり耐性が無く、女の子に対してもかなり耐性が無い。そんな勘助は今彼方という女の子が彼の膝に頭を乗せていても、あまり恥ずかしいと思っていない。
「そりゃ、恥ずかしいけどさ、それよりも落ち着くんだ。この人ゆるふわだから」
「まぁ、確かに彼方さんはふわふわしてますけど……」
「でも、彼方が最近勘助の腕に抱きついても勘助鼻血どころか顔も赤くならないわよね」
そんな場面を多々見ていたのは彼方の友達である果林。彼女の言葉に勘助は声を出そうとするが、寝たふりしていた彼方が答える。
「勘助君は彼方ちゃんの王子様だからねぇ」
「どういうこと?」
「彼方さんストップ……」
「勘助君が彼方ちゃんに俺のものになれって言ってくれた事、忘れないからね」
彼方の言葉に空気が止まる。そしてどこから湧いたのか赤リボン演劇部員が目を輝かせながら勘助のそばにいた。
「どんなシチュエーションでしたか?」
「しずくさん怖い」
「えっとね、勘助君が私の目を真っ直ぐ見て……」
「彼方さん正直に喋らんで下さい」
「気になるわね、それで、勘助はなんて言ったの?」
「迷子さんも黙っていただけると幸いです」
「彼方、俺のものになれって言ってくれたよ〜」
多少演技じみた声にしずくの明るい悲鳴が同好会を包んだ。大胆な事を言うものだと菜々と果林はニヤけながら言うが、勘助はその反動のせいで顔は真っ赤であった。
「だって彼方さんがうだうだしてたんですもん。両思いなのに付き合わないとかそんなのあります?」
「彼方ちゃんだって女の子だから引っ張ってくれる彼氏さんがいいんだよねぇ」
「本当に自由ですね貴方」
「勘助さん知ってます? 女の子って好きな人の前では我儘なんですよ」
「菜々は毎日我儘だよな」
「勘助君、浮気はダメだよ?」
「しませんよ」
そんなやりとりをしながらも、彼方と勘助の間にはどうにも菜々や果林、しずくの入れないような雰囲気がどことなく流れていた。
☆
「勘助君ありがとう」
「何がですか?」
「いつも送ってくれてだよぉ、勘助君は寮だから学校から近いでしょう?」
「本音言うと俺は彼方さんに死んでほしく無いんですよね」
「どういうこと!?」
「いや、よくあるじゃ無いですか。夕方とか夜とか女子高校生が襲われてとか、裸で男性が死んでいてとか。怖いんですよ普通に」
「あぁ……確かに最近そんなニュースばかりだもんねぇ」
「彼方さん……死なないで下さいね」
そう言った勘助の目を彼方は見たが、その目は少しばかり怯えていた。彼の両親はもうすでに死んでいる事を彼方含めて同好会のみんなは知っている。
彼方は勘助の頭を少しばかり撫でながら微笑んだ。
「人間いつかは死ぬものだよ。でも、勘助君が生きてる間は彼方ちゃんも頑張って生きるから安心してね」
彼方からすればその言葉を言う事だけで精一杯である。それも勘助には分かっていたが、少し涙が出ていた。
「彼方さんが死んだら遥さんが自殺するついでに俺も殺されますから」
「遥ちゃんはそんな事しないよ」
「この前、遥さんに俺が彼方さんとキスしたら俺にキスすると。そしたら彼方さんのファーストキスは私のものだと供述してましたよ」
「聞きたくなかったなぁ」
「因みに彼方さんに何かあれば真っ先に俺を殺してやると。その後、自分も死んであの世でも俺を殴り飛ばすと言ってました。笑顔で」
「笑顔かぁ」
彼方は正直妹にドン引きである。
「だから、俺は彼方さんを死なせるわけにはいかないんですよ」
「カッコいいんだけどその前の話聞いちゃったら怖いなぁ」
少し勘助は笑って彼方の言葉を聞いていた。そして、彼方と話しながら結局家まで送ったのだが……
「勘助さん、ご飯食べましょう! お母さんが勘助さんの分も用意してくれたので」
「勘助君、本当に遥ちゃんがそんな事言ったの?」
「この笑顔の裏にはダークマターが隠れているんですよね」
「お姉ちゃん何の話?」
「彼方ちゃんが死んじゃった時の話」
「勘助さん、殺しますよ?」
「遥さん殺気」
「わぁ、怖い」
「当たり前でしょ? お姉ちゃんは私のものなんだから」
「彼方ちゃんは勘助君のものだよぉ?」
「勘助さん? お姉ちゃん泣かせたら分かりますよね?」
「妹怖すぎだろ」
そんな会話をした3人だが、夕食を食べている時は普通にスクールアイドルの話などをして温かく勘助を迎えてくれた。
☆
「勘助さん、お姉ちゃんをお願いしますね」
「圧が強い」
「私のお姉ちゃんを奪ったのならそれ相応の覚悟を持ってください」
「大丈夫、告白前から持ってるから」
遥の言葉に、勘助はしっかりと頷いた。遥も遥で勘助なら大丈夫だとは思っている。それでも大切な姉を想う気持ちは捨てられない。
「そういえばお姉ちゃんとキスしたんですか?」
「恥ずかしいからしてない」
「じゃあ私がお姉ちゃんにキスしますね」
「別に大丈夫だと思うけど、一応君の想いを聞こうか?」
「そもそも妹というのは姉と一心同体です。つまり私とお姉ちゃんは一心同体。という事はもはや婚約者と言っても過言では無いのです」
「過言だね」
「私がお姉ちゃんに婚約指輪をあげれば過言は消えますかね?」
「消せないねぇ」
「とりあえず今日お姉ちゃんとキスして考えます」
「その目的でキスするなら俺がするわ」
「勘助君キスしてくれるの?」
「彼方さん!?」
勘助は遥と皿の片付けをしており、彼方はソファで休んでいたはずなのに、何故か勘助達の元にいた。
「遥ちゃんと勘助君が私を置いてイチャイチャしてたから嫉妬してこっち来ちゃった」
「お姉ちゃん、勘助さんがキスしたいってさ」
「遥さん!?」
「いいよぉ」
「軽くないですか!?」
恋人である勘助なら問題ないと彼方は言うが、勘助は顔を真っ赤にしてツッコミを入れる。
「勘助君は彼方ちゃんとキスしたくないのかなぁ?」
「いや……そんな事は……でも、恥ずかしいですよ」
「俺のものになれって言う方が恥ずかしくない?」
「勘助さんそんな事言ったんですか!?」
「言いました。はい」
勘助の言葉を遥が弄り倒す。
「でも、嬉しかったよ。勘助君と付き合って少し経ったけど、勘助君はずっと彼方ちゃんに優しく接してくれるんだ」
「モラハラ彼氏じゃないんですから付き合って攻撃じみた性格なんてしませんよ」
「そう言う事じゃなくてね……ほら、勘助君はせつ菜ちゃんと仲が良いし、もう少し活発的な女の子が好きなのかなぁって思ったんだ〜」
「菜々といたら疲れるんで毎日彼方さんの眠そうな雰囲気に癒してもらってます」
「お姉ちゃんどれだけ寝てるの……」
「勘助君の膝枕にお世話になってます〜」
「お世話してます。おかげで栞子さん並みに正座出来るようになった」
「その能力いります? 全くお姉ちゃんは……」
「えへへ」
「ははは」
「褒めてないよ」
そう言って笑う勘助と彼方。その2人に呆れる遥だが、勘助と彼方の笑う雰囲気に釣られて自分も笑ってしまうのであった。