「すやぁ……」
「すぅ……」
「返事がない、ただの屍のようだ」
「いや、りな子寝てるだけでしょ」
「私も2人の事見てたら眠くなってきちゃった」
「部室は寝るところでは無いのですが……」
「そう言う栞子ちゃんもなんかニヤニヤしてる」
「こ、これは……その、お二人の眠っている姿が平和すぎてつい……」
同好会に顔を出した一年生組。かすみ、璃奈、しずく、栞子が見たのはソファで眠っている彼方と勘助だった。
3人が見るに、勘助が椅子に座って眠っていた所、彼方がソファに座り、勘助の膝で眠り出したのだろう。
練習前と言えども起こしにくい。この2人が眠っていると何故か微笑ましい雰囲気に包まれ、周りの人をリラックスさせるような気がする。
「しず子、そろそろ起こそうよみんな来ちゃうよ?」
「そうだね……彼方さん、起きてください!」
「勘助さん、起きてください」
「ううん、むにゃむにゃ後5分」
「ん……おう、お疲れ様。みんな来てたのか」
「寝てる時同じ雰囲気で寝てるのに起きる時は正反対って何なんですか。というか彼方先輩は起きてください!?」
「いつから彼方ちゃんが寝ていると錯覚していたんだい?」
「なん……だと?」
「りな子乗らなくていいよ。ってか起きてたんですか」
「貴方達が起こすか迷ってる間に目が覚めた」
「勘助君に同じ〜」
「それなら目を開けてもよろしかったのでは?」
「まどろんでる時に目を開けたらすぐ閉じちゃうからな。少し意識を覚醒させてた」
「勘助君に同じ〜」
「彼方さんはいつまで同じセリフ言ってるんですか」
彼方の言葉にツッコミを入れるしずく。勘助と彼方は少し伸びをして、ソファから立ち上がる。
「それじゃあ行ってくるね勘助君」
「いってらっしゃい彼方さん。ユニコーン、やるぞ」
彼方を見送るセリフを言うと、勘助は読んだら勝手に手元に寄ってくるエレキギターを手に取ると左手で適当に弦を弾く。
「本当そのギター何なんですか。勘助先輩が呼んだらゆっくり手元に来ましたよ」
「企業秘密です。というか私もよく分からないし」
「それ秘密って言わないです」
☆
「彼方さんって犬ですよね」
「髪型のこと?」
「雰囲気です。前も話しましたっけ?」
「私はゴールデンレトリバーじゃないよぉ」
「それじゃあポメラニアンだったのでは?」
「どっちも違うよぉ」
帰り道勘助は彼方と下校しながらたわいない話をする。勘助が彼方に手を出すと、その手の上に手を置く。
「いや、お手じゃなくてですね……付き合っているなら手くらい繋ぎましょうよ」
「なるほどぉ」
そう言って彼方は勘助の手を握る。勘助からすれば少しドキドキしながら彼方に提案したのだが、こうして躊躇いなく繋いでくれるので嫌われてないと安心する。
「別に彼方ちゃんは勘助君のこと嫌いじゃないよぉ」
「顔に出てました?」
「何となく不安そうな顔してたからねぇ」
「いえ……俺としては結構強引に告白したので、彼方さんは良かったのかなぁって」
「うーん、確かにいつもの勘助君じゃないから驚いたけど、それだけ彼方ちゃんを恋人にしたいって思ってくれたんでしょ? それなら彼方ちゃんは満足だよぉ」
そう言って勘助よりも低い身長の彼方は彼の頭を撫でる。勘助はされるがままに頭を撫でられながら、彼方の肩近くまで身体を近づけた。
「彼方さん、やっぱり俺は貴方が好きです」
「そう? ありがとう」
「もし俺を動物に例えるとなんだと思います?」
「えぇ……うーん……ウマかなぁ?」
「馬?」
「そこまで気性の荒い馬じゃなくて、温厚なお馬さん。勘助君は歩く姿勢も良いし、よくギターの名前鳴くし、足速いからねぇ」
「ギターの名前を鳴きたくて鳴いてる訳では無いんですけど。パフォーマンスの一種ですよ」
「でも、正直勘助君を例えられる動物はいないかなぁ。狼さんって言っても別にみんなの仲良くするのは苦手じゃ無いでしょう?」
「まぁ、菜々がいるのでそうですね」
「それに、勘助君はウブだから狼さんにはなれないから〜」
痛いところを突かれた勘助だが、告白の時の話をすると、彼方も黙った。結局のところ両者あの告白の事は恥ずかしいらしい。
「そ、そういえば、今日はどうする? 遥ちゃんがお夕飯作って待ってると思うけど……」
「流石に毎回行くわけにもいかないので遠慮します。寮に帰ってから仕事もあるので」
「そっかぁ、お仕事頑張ってね」
「彼方さんが応援してくれれば頑張れます。最近ミアさんに仕事増やされてギターでぶん殴ってやろうかと思ってたので」
「怖いよ」
冗談ですと、勘助は少し笑って答えた。彼方の家に着いて、2人が一言二言話をして別れる時間になる。
「それじゃあ、俺はこれで。遥さんには申し訳ないと言っておいて下さい」
「うん、そう伝えとくね」
「また、明日会いましょう」
そう言って彼方から視線を逸らして踵を返す勘助を、彼方は呼びかけた。
「勘助君、少しいい?」
「何かありました……」
「えい」
勘助が彼女の声に振り返ると、彼方は勘助の頬に一つキスを落とす。急にキスされた勘助は少し無言で、その後すぐに顔を赤くした。彼方も勘助ほどでは無いが、顔を赤くして答える。
「付き合ってるんだから、これくらいは……ね?」
「か、彼方さん……」
「そ、それじゃあまた明日ね」
「待ってください」
今度は勘助が彼方を呼び止めて、彼女の口に重ねた。本当は頬にする予定だったが、彼方が勢いよく振り返ってしまったのもあり、自身の唇は彼方の唇に触れた。
「あ……すみません! 頬にするつもりだったんですけど……」
「い……いや、ごめんね……私が振り向き過ぎちゃって……」
しばらく沈黙しながらお互い照れる。勘助から彼方に口を開いた。
「そ、その……もう一度、良いですか?」
「え!? えっ……と……うん。良いよ」
「それじゃあ……失礼して……」
そんなぎこちない会話から、勘助と彼方はもう一度キスをする。かなり恥ずかしがっていたが、どちらかというと幸せな思いが強かった。
「彼方さん……ありがとうございます。それじゃあ、また明日」
「うん……こちらこそありがとう」
そして、彼らは顔を赤くしながらもニヤニヤと笑みを浮かべて、別れたのだった。
「お姉ちゃんもっと長くキスしないとお互いの愛を感じないからダメだよ」
「遥ちゃん見てたの!?」
「今度はディープね。その後私もお姉ちゃんにするから」
妹の遥の言葉にかなり照れる彼方だが、勘助とならば、それくらいは、それ以上はと少しばかり考えた彼方である。