「エマさん、スイスのこと教えてくれませんか?」
「全然いいよぉ! でも、急にどうしたの?」
「急も何も、先日エマさんとスイスの話してたので少し調べたんですよ」
「そうなんだ、嬉しいな。それで、何を聞きたいの?」
勘助は前に考えていた事をエマに言った。それは日本とスイスの文化の違いであった。
「なんか、スイスって平和な感じなので、忙しない日本人より平和なのかなって」
「よく盗みとかあるよ」
「嘘でしょ!?」
スイスでは諸説あるが、カバンなど置いていたらすぐ盗まれるらしい。日本でも置き引きなどがあるが、スイスはそれ以上に盗まれるとの言葉に勘助も敬語が消えた。
「日本は平和だねぇ、果林ちゃんも荷物見ててねって言ったらちゃんと盗まないで見ててくれるし」
「親友になんて事言ってるんですか」
「流石に冗談だけどね。でも、スイスって色んな国から人が来るからそういうのが多いんだぁ」
「怖いですね……すみません、明るい話はありませんか?」
「明るい話はねぇ……日曜日がお休みだよ〜」
「日曜日が休み?」
「日曜日になるとお店も会社も全部お休みなの。家族と過ごすから基本的には何にもしないんだ〜」
日本人の勘助からすると、いや、日本人全員からするととても良い話である。勘助もかなり羨ましいと思った。因みに本当に必要なものがあれば駅に行くらしい。
「後はねぇ……お手洗いが有料とかレストランではフライドポテトがいつも出てくるとかあるよ」
「私にとっては信じられない話ですね」
「それと、歩きタ……」
その瞬間エマは少し真面目な顔をして自分の口を両手で押さえた。勘助は何事かとエマに訪ねてみるが、少し申し訳なさそうな顔をして言葉を発した。
「あ、あんまり良い話じゃないから……」
「あぁ……いや、別に良いですよ。良い話じゃなくても。教えて下さい、エマさんが話してる姿見るの楽しいんで」
「え、えっと……その……」
勘助の言葉にも歯切れが悪いエマ。何を言っても怒りはしないと勘助は言うが、少し黙ってしまった。勘助は少し悩んで、エマが言おうとしていた事を予測する。
「何でしたっけ? 歩き? えっと……歩きながらお酒でも飲むんです?」
「勘助君が嫌いな話だと思うよ……」
「タバコですか?」
勘助の発言にエマは申し訳なさそうに頷く。勘助や勘助の両親はタバコに関して良い思い出は無い。だからこそ、事情を知っているエマとしては失言だったと言ったが、勘助は少し笑いながら言った。
「別に放送禁止用語じゃないんですからタバコくらいいいですよ。私は嫌な思いはありますけど、もしかしたら同好会の誰か……果林さんがカッコつけて吸いそうですし」
「でも、勘助君は嫌いでしょ?」
「私は嫌いですけど、誰かが吸っちゃダメとかないでしょう?」
そう言った勘助は少しばかり肺がんで死んだ母親と、タバコを隠れて吸っていたという父親を思い浮かべるが、別に誰が悪いわけでもないと考えていた。
結局、こう言ってはなんだが、運が悪かったのだと考えてしまった。
「正直タバコを吸わなくても、タバコの匂いを嗅がなくても癌にはなりますしね。タバコの煙を吸ったら、そのリスクが上がるってだけで……まぁ、私はもう割り切ってますよ」
「勘助君は……ご両親がいなくて悲しくないの?」
「そりゃ悲しいですよ。でも、今はエマさん達がいるじゃないですか」
それだけで充分だと勘助は言うので、エマもエマで少しばかりホッとはしていた。
「勘助君は良い子だね」
そう言ってエマは勘助の頭を撫で出した。少し驚きながらも照れながら頭を撫でられ続ける。
「なんか、エマさんに撫でられたら安心しますね」
「そう?」
「お母さんとか言うつもりはないですけど、私に姉がいたらこんな感じなんでしょうか」
勘助の場合は姉でもやんちゃな方かも知れないと本人は言ったが、エマ自身はどうだろうと、返す。
「勘助君が良い子だから、きっとお姉さんも良い子だと思うよ?」
「少なくとも姉がいたら私の師匠は姉でしょうね。親父じゃなくて」
そんな会話をした後、勘助は少し考えて、本題が逸れたと詫びる。
「エマさん、引き続きスイスの話お願いします」
「え? あぁ、確かにそんな話してたよね。でも、今度はわたしが勘助君に教わりたいな」
「教える事なんて無いですけど、何が聞きたいんですか?」
「パリピってなに?」
ハッキリと言ったエマに頭を少し抱えながらも、勘助の日本語教室が、始まったのだった。
☆
「エマさんの方が大事なの!?」
「違うよ、私が考えてるのは、もっと先の事」
「私のファーストキスを大嫌いな幼馴染にあげる話なの?」
「菜々お前暴走がすぎるぞ!?」
「というかそのシーン私の前でする必要ある!?」
「侑さんと声が似ている声優が出ていましたので」
同好会のソファで勘助は菜々に押し倒されながらそれぞれそのセリフを言う。それを突っ込みながら見ていたのは元ネタの侑である。
「だって勘助さんがずっとエマさんと喋って私の事見てくれないんですよ!」
「昨日私とゲーセンのメダル競馬機で3連単当てたやつが何言ってやがる」
「菜々ちゃん当てたの!?」
「適当に99枚ベットしたら50,000枚出ました」
「またあのゲーセン行かなきゃなんねぇじゃん」
「というか普通にデートしてるんだね」
「勘助さんが私を振っても私は勘助さんが好きなので」
「まぁ、私も好きだけどな」
「幼馴染ってすごいね」
「侑さんも歩夢さんと絆ミュージックじゃん」
「あんな押し倒されるヤンデレミュージックなんていらない」
「侑ちゃん?」
「あ、BOSS。お疲れ様です」
「歩夢!? ちが、ご、誤解だよ!?」
「侑ちゃんにはお仕置きが必要だよね?」
「侑さん、ファイトです」
「頑張れ侑さん」
侑は歩夢に引き摺られて行った。どこかに。多分練習場所の屋上だと思うが。
「それで、どうしたんだ菜々」
「勘助さんが口を開けばエマさんからこんなスイスの事を聞いたと耳が千切れるほど聞いたので、私よりエマさんが大事なのかなって思いまして」
「エマさんと会話してたら疲れないから楽」
「私は疲れますか?」
「さぁ?」
勘助は自分の気分次第と言葉を抑えたが、菜々がテンション高い時はたまに疲れるのも事実である。エマはどれだけ話しても疲れるというのではなく、話しやすく落ち着ける。癒しのような感じである。
「そんなわけでエマさんと話してたら普通にちゃんと話してる感がすごい」
「それは理解しました。それで、エマさんの方が大切なんですか?」
「うん! 大好きなんだ!」
歩夢と侑ならバッドエンドである。
「ライブ中に凛々しくも美しいし、いざ話してみたら癒されるからときめいちゃった」
「侑さんの真似凄くお上手ですね、殺したいくらいに」
「ここまで恐ろしい倒置法初めて聞いたわ」
勘助は恐怖した。だが、もともと菜々は勘助の事を愛していた身なので、それを分かっていたのもあり深く突っ込めなかった。
「それで、告白とかするんですか?」
「しないよ」
「好きなんですよね?」
「姉さんみたいな感情」
「お母さんでは?」
「エママってみんな呼んでるけどお前と俺の一個上なだけだからな?」
勘助は菜々を諭すが、気にせずに菜々は勘助に言った。
「まぁ、勘助さんと並んだらさほど身長は変わらないので2人で歩いてる姿だけ見たらお似合いかと」
「だけって……なんかエマさんに恨みでもあんのか」
「嫉妬ならあります。恨みはないです」
勘助は項垂れて押し黙った。