「勘助君、ちょっといいかな?」
「歩夢さん、どうした?」
「また侑ちゃんが浮気して……」
「またかよ。相変わらず節操ねぇな」
最近になって勘助は同好会メンバーの歩夢と話す機会が増えていた。そもそもの発端は1回目から遡るが……
「勘助君、侑ちゃんがまたせつ菜ちゃんと話してて、とっても仲が良さそうだから付き合ってるのかなぁ?」
このなんとも言えない相談に乗ったのが最初。スクールアイドル同好会のマネージャーとして勘助と共に手腕を振るう高咲侑。ここにいる上原歩夢の幼馴染であり、親友以上恋人未満と言っても過言では無いほど仲が良い。
そんな侑は八方美人と言えば聞こえは悪いが、同好会メンバーを口説いたりするようなセリフを言うので、歩夢は誰かに自分の幼馴染が取られないか心配でならないのだ。
だからこそそんな不安を解決して欲しいと頼ったのが山本勘助だったのだが、勘助は幼馴染の仲が悪くならなければ良いのではと考えた結果、侑には歩夢を困らせるなと、歩夢には侑が歩夢を捨てるわけがないと、自分の幼馴染である優木せつ菜を掛け合いにして不安を和らげたりしている。
そしてこれはもう何回目か分からないが、侑が同好会メンバーに対してまた何かしていると言う相談だった。
「勘助君、大丈夫だよね?」
「侑さんには私からも伝えておくよ。歩夢さんは少し心配しすぎだよ」
「それは分かってるんだけどね……」
「確かに私もせつ菜が他の男と話してるならそう思うのも無理はないけどな」
「それでも、私の一存で止めるわけにはいかないよ。アイツの人生もあるしな」
「侑ちゃんの人生かぁ……」
「納得は出来ないと思うけどな。侑さんにも自分が関わりたい人や関わりたくない人、大好きな人、好きな人、普通の人、嫌いな人、地獄に落ちて欲しい人はいるだろう?」
「そこまで恨みがある人はいないけどね」
「最後のは確かにな。ただ、侑さんも1人の人間なんだよ」
「難しいと思うが、たまには侑さんじゃなくて他の女の子と歩夢さんも話したらどうだ? 歩夢さんは侑さんが関わらなければ、可愛いし優しいし真面目だし健気で良い子なんだから」
「可愛いって……もう! 勘助君ったら侑ちゃんみたいな事を言って!」
「事実だろ」
勘助の本心に顔を赤らめながらも歩夢は言葉を捻り出す。
「なんか……勘助君に相談すると落ち着いた答えが返ってくるよね」
「毎日のように相談事聞いてたらそれくらいの回答にはなるさ。まぁ、後はあなたが決める事だけど」
「本当に勘助君って高校生?」
「ただのシンガーソン軍師だよ」
歩夢の問いにそう笑いながら答えると勘助は立ち上がり目の前の自販機でお茶を三つ買い、その二つを歩夢に渡した。
「礼はいいよ、私があげたかっただけだから」
歩夢がお礼を言う前に勘助は侑と仲直りしろよと、そう言って愛用しているギターを背負って去っていった。
「勘助君って……やっぱり凄いなぁ」
何だか勘助の後ろ姿が毎回頼もしく見えるのは一体どう言う事か、少し考えた歩夢だったがすぐに侑の元に向かった。
☆
「ねぇ、歩夢」
「どうしたの侑ちゃん?」
侑と歩夢が仲直り(喧嘩しているわけではないけど)という名の話し合いをした日、侑は幼馴染の歩夢に疑問を投げた。
「璃奈ちゃん達から聞いてるんだけどさ、歩夢が勘助君とよく一緒にいるって本当?」
「あぁ……それは本当だよ。それがどうかしたの?」
そして、次に侑が言った言葉は歩夢を慌てさせるのに充分だった。
「同好会メンバーだけだけど、歩夢と勘助君が付き合ってるって噂されてるよ?」
「え? そ……そそそそんな事ないよ!」
「じゃあ何で最近一緒にいるのさ?」
「え、ええっとぉ……それは……」
侑の言葉に何かいい策が無いかと考える歩夢。
まさか幼馴染である貴方が他の女の子と話すので、嫉妬で気が狂いそうです。だから勘助に侑があまり他の女の子と仲良くなり過ぎないように、自分自身嫉妬の回数を抑えられるように、対策を考えてもらってます。
そんな事は口が裂けても言えないわけで。かと言って大切な幼馴染に嘘をつくのも気が苦しい。
そんな事を考えて唸っていると侑が少し笑いながら言った。
「ふふっ、でもあの歩夢が勘助君と仲良くしてるのは私も嬉しいよ」
「え?」
「だって歩夢、口を開けば私の名前ばかりじゃん。そんな歩夢が他の女の子だけじゃなくて一番頼りになって、一番信頼できる男の子と一緒にいるんだもん。私としては嬉しいったらないよね!」
「あ、あはは……あれ……?」
勘助とはそんな仲ではない。そうハッキリ告げたかったのだが、少し躊躇ってしまった。それはきっと侑が笑顔で私の事を思ってくれている事に対して、嬉しかったからだろうと心の中で思う事にした。
「帰ろうか、歩夢。勘助君の事私も知りたいし、どんな話をしたかくらい教えてね」
「それは嫌」
「え?」
少しばかり揶揄いながら言葉を発した侑に対して、歩夢は一瞬真剣な顔で嫌だと、否定した。瞬間すぐにいつもの歩夢の顔に戻り、侑に対して一言ごめんと返した。
「きょ、今日は調子悪いから帰るね。そ、それじゃあまたね、侑ちゃん」
「あ、歩夢!?」
気まずくなった歩夢は侑よりも先にマンションに戻っていった。部屋に戻るとすぐに鍵を閉めて玄関で膝をついた。
「私、どうしたんだろう……?」
☆
その翌日、勘助は歩夢に侑との件を聞こうと思っていた。いつもは侑と話した翌日は、大体歩夢から勘助の元に出向いて話すことが出来たと報告を貰うのだが、今日は来なかったからだ。
忙しいのかと頭に入れながらも、侑関連以外なら真面目で優しくて素直な女の子である歩夢が、今日だけ報告をしない事に疑問があったのだ。
廊下を歩くと歩夢の姿を見かけた。どうやらちょうど侑といるみたいなので、軽く挨拶しながら様子を見れば結果は口に出されなくても分かると思った勘助。早速すれ違ってみようと2人に挨拶をした瞬間だった。
「おはよう、歩夢さん、侑さん」
「おはよう、かん……」
「か、かか勘助君!?」
挨拶を返そうとした侑が全部言い切る前に歩夢が勘助を見た瞬間大慌てで勘介の名を叫んだ。
「お、おう。おはよう歩夢さん」
「お、おはよう……私、さ、先に行ってるね!」
「え、ちょっと歩夢!?」
「あれ? どうしたんだろう歩夢さん」
「私にも分からないよ、勘助君の名前呼んで行っちゃったから……勘助君何か知らないの?」
「昨日までは普通だったから何にも知らないぞ。侑さんは?」
「私は……なんか勘助君の話しをしたら逃げられたかな」
「はい?」
急に先に行ってしまった歩夢に対して何も知らない勘助と侑。歩夢に何があったのか、文字通り知る由もなかった2人だった。