「え!? やっぱり歩夢って勘助君の事好きなの!?」
「う……うん……それでね、侑ちゃん……」
「おめでとう歩夢! で、いつ告白するの? 私あまりいない方がいいよね……うーん、他の同好会のみんなと交流増やそうかなぁ」
「侑ちゃん!!」
歩夢が侑と一緒に帰りながら自分の想いを伝えた。あれだけ侑は自分のものだと言っていたのに他の人、ましてや男の子に惚れたなんて歩夢にとっては申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
だが、歩夢の話を聞くと、侑は嬉しそうだった。侑からすれば自分にベッタリだった幼馴染が違う人に取られるのは確かに悲しい話ではあるが。
「それでも、私は歩夢の幸せが1番だから」
「で、でも私、侑ちゃんを押し倒してまで……」
「あはは……それは歩夢を不安にさせちゃった私にも原因はあるから」
「そうだけど……」
「でも歩夢が勘助君と付き合ったところで私を捨てるの?」
「捨てないよ!」
「だよね、だから大丈夫。それに、勘助君なら歩夢を任せられるし」
そう言って歩夢に笑顔を向ける侑。同時に、ここまで自分の事を信頼してくれる侑に対して少しばかり安心してしまったのは、やはり歩夢が侑だけでなく勘助にも好意がある事を示しているのだろう。
少しばかり、歩夢が勘助を好きになった事情を侑が聞くことにしたのだが、話は思わぬ方向に進みかけた。
「えっと……勘助君って聞き上手でしょ?」
「うんうん! 確かに私が音楽科の課題で相談したら先に話を聞いて回答をくれるタイプだから話の腰を折られない分好きなだけ話出来るんだよね。何だか歳上のお兄さんに話しかけてる感じだよね!」
「か、勘助君は私達と同い年だよ……」
「それで、聞き上手だから何だっけ?」
「侑ちゃんと同じかな。私が相談して嫉妬や不安になっていたらいつも安心する言葉かけてくれるんだ」
「どんな相談してるのさ……」
侑の女たらし問題である。
「あ、あはは……と、とにかく話していて安心するのもあるし、勘助君の雰囲気が落ち着くんだよね」
「あぁ……なんかすごい分かるなぁ、せつ菜ちゃんも勘助君には家で主夫してもらって会社で疲れ果てたメンタルを癒して欲しいって、なんかせつ菜ちゃんは勘助君にバブみを感じたいんだって」
「菜々ちゃん怖い」
侑曰く、勘助の幼馴染である菜々は自分が会社で働き、勘助に専業主夫をして欲しいのが一つ、そして菜々が帰ってきたら思いっきり頭を撫でてデロデロに甘やかして欲しいとずっと言っていたそうだ。
歩夢は同好会のメンバーとしてだけでなく友達として菜々とどう接すればいいか悩まなければならなくなった。
「それで、話を戻すけど、歩夢にはしっかりしてもらわないと」
「どういうこと?」
「歩夢には私と勘助君への好意の区別をつけないとダメだよ」
「それって……?」
「例えば、勘助君と歩夢が付き合ったらデートするでしょ? その度に私を呼んで3人でなんてまさかしないよね?」
「ぎ、ギクッ……そ、そんな事……します」
「ダメだよ、偶にならいいけど勘助君と付き合う以上、歩夢は勘助君に寄り添ってあげないと」
侑の言葉に歩夢は少し俯きながらその通りです。はい分かりました。この二つの単語を羅列させることしか出来なかった。
ただ、侑の言う事は正しいと思った。どれだけ幼馴染LOVEな歩夢でも恋人(仮)を差し置いてしまうのならハッキリ言って恋なんてするなと怒られるだろう。菜々だけでなく、璃奈やしずくの2人にも責められる事は目に見えている。
だからこそ歩夢は決めなければいけない。侑が好きならこの恋を捨てる。だが、勘助への想いが本物だと言うのなら、幼馴染LOVEを抑えないといけない。
散々考えて、考えて、心の中で侑の事を考えまくった。その結果……
「歩夢……どうしたの?」
「やっぱり……ダメだなぁ、私。どっちも好きだぁ……」
「まぁ……一度惚れちゃったら難しいよね」
少しの沈黙。その後、決めたと、一言言ったのは歩夢。
「決めたって……?」
「私、勘助君に告白する。それで、侑ちゃんにも卒業する!」
「え? 出来るの?」
「侑ちゃん!!」
高咲侑、幼馴染の話の腰をへし折るのは得意だった。頬を膨らませた歩夢を落ち着かせながら言葉を発する。
「ごめんって! でも、歩夢が私を卒業かぁ……いや、なんか口で言ってて不思議な気分だね」
「侑ちゃん……」
「いや、歩夢のせいだからね? そもそも歩夢は過保護過ぎるんだよ、そんなところも可愛いけど……」
「だって侑ちゃん寝坊助だし、家事もあんまりだし、侑ちゃんが誰かと付き合ったら……とりあえず相手の人を刺して耐久値を調べてから侑ちゃんの能力を補えるか調べて許可を……いや、そもそも侑ちゃんが主婦とか向いてないよね? 侑ちゃん働かない?」
「歩夢!? 私だってやる時はやるんだよ!?」
「じゃあ私が勘助君に寄り添う事を練習する代わりに、侑ちゃんは自分の事やってね?」
「も……勿論……です」
この幼馴染にしてこの幼馴染ありだった。しばらく笑い合った後、侑は何かを思いついたように声を上げた。
「どうしたの? 侑ちゃん?」
「歩夢! 勘助君に間接的に告白出来て尚且つ私たちの関係をどうにかする方法思いついたよ!」
「どう言う事? そんな方法って……」
「勘助君に直接相談するんだよ!」
「侑ちゃん……バカなの?」
歩夢はバカな幼馴染の発言を聞いて、自分の恋路を無視してまでも、勘助にこの高咲侑という女の保護者依頼を先にした方がいいのではと考えた。
☆
翌日、勘助は侑と音楽科の教室に残っていた。侑が相談事を持ちかけてくるのはよくある事なので、勘助も一つ頷いて相談事を聞いてみる。
「勘助君お願い、歩夢を貰って」
「ナニソレイミワカンナイ」
急に出てきた勘助の想い人であり、侑の幼馴染である歩夢の名前を出された挙句、貰ってくれと言われた事に驚きと恥ずかしさなど色んな感情が混ざって片言になる。
「最近歩夢が私に構いすぎて、みんなから幼馴染通り越して付き合ってる疑惑が出てるんだよね」
「仲良すぎてって事か?」
「うん。確かに歩夢の事は好きだけど、恋人の意味じゃないからさ。この噂を少し抑えたいんだ。だから勘助が歩夢に話しかけ続ければ多少なりとも治るかなって」
実はこの話は歩夢も知っている。昨日、歩夢との帰り道で勘助に告白するための手段としてこの策を考えた。
侑と歩夢の関係がみんなから見ると行きすぎてるらしいので、勘助に歩夢が暴走しないように接して欲しい。
こんな相談をして勘助と歩夢が一緒にいる機会を増やす。一緒にいれば歩夢がもっと勘助の事を好きになるし上手くいけば告白ついでに幼馴染離れも出来るのではないかと、何とも簡単な策だが何もしないよりはいいと考えた。
ちなみ歩夢は教室にはいないが、侑が電話をスピーカーで繋いでこの会話を歩夢に聴かせている。盗聴ではない。今回は。
「それって例えば私が歩夢さんといて、侑さんが近寄ってきたらガードするとかでもいいだろ? 何で歩夢さんに話しかけ続ける必要が?」
「勘助君が最近歩夢と仲がいいの知ってるし、私としてはもっと仲良くなって欲しいなって。そうすれば私離れ出来るかなって。正直、勘助君くらいしかお願いできる人いないんだよね。まさか同好会メンバーに幼馴染のストーカー行為……じゃなかった、幼馴染の暴走を知られるわけにもいかないから」
「今本音出てなかった?」
「違うよ。でも、あの合宿の後に歩夢に私を押し倒せなんて、そう言ったの勘助君じゃん。これ知ってるの勘助君しかいないから、もう君にしか頼めないんだよね」
幼馴染の本音に電話越しで少し声を上げそうになった歩夢だが、何とか抑えた。勘助は侑の言葉も一理あるなと納得してくれたのだが、勘助は何だか腑に落ちない。
「それじゃあ私は……何だ? 歩夢さんが侑さんに用のない時は基本的に代わりに話しかけて交流を深めればいい……のか?」
「まぁ、難しい話ではないと思うけど。毎回犬みたいに私がきた瞬間突っ込んでくるのと、菜々ちゃん達と話してる時に刃物持って突っ込んでくる歩夢を止めてねって話だよ」
「歩夢さんや菜々から言葉を借りると無理ゲーってやつなんだが」
「大丈夫、勘助君の言う事なら聞くから。多分」
「侑さん?」
『侑ちゃん?』
「あれ? 今歩夢さんの声が……」
「気のせいじゃない?」
「私もとうとう幻聴が?」
危なかったと侑は少し息を吐いた。勘助に気づかれずに電話の入っているポケットを2回ほど叩き、歩夢に気をつけてと間接的に伝える。
しばらく悩んだ末に、難しいけどやってみると、返答を貰ってから今度は立場が変わった。
「それじゃあ、次は勘助君の番だね」
侑の言葉に勘助は頷く。実は侑が相談に乗って欲しいと言った時、勘助も侑に相談があると珍しい事を言っていたのだ。侑も侑でいつも相談に乗ってもらってるのもあり、喜んでその提案を受けた。
そんなわけで、今度は勘助が相談する番なのだが、少し言葉がぎこちない。ええと、とか、それじゃあ、とかそんな言葉を数回発していた。
「言いづらいこと?」
「まぁ、侑さんだからな」
「私に関係あるなら私以外にすればいいのに」
「いや、直接は関係ないんだ……けど」
「大丈夫だよ、勘助の事だし何か悪い事してても理由を言ってくれたら許せるかもしれないから」
「悪い事……うん、確かに私にとっては悪い事かもな」
「え? 本気で悪い事なの?」
侑の言葉に分からないと、言ってから数秒後、勘助は侑の名を呼んでから、真っ直ぐ侑の目を見てこう言った。
「侑さん……私、歩夢さんが好きなんだ。だから歩夢さんに告白しても、いいかな?」
「え……ええ!?」
『ゴツンッ!』
「あれ? なんか聞こえたんだけど……なんか落としたか?」
「い、いや大丈夫だよ。多分隣の教室だと思うよ?」
勘助の突然の歩夢への告白に侑だけでなく、携帯で繋いでた歩夢本人に丸聞こえだった。歩夢はびっくりして携帯を落とし、その音が侑の携帯越しから聞こえ怪しまれたが、何とかバレずに済む。咳払いをして侑は言葉を慎重に選ぶ。
「え、えっと……勘助君が歩夢の事を好きって本当?」
「ああ、最近歩夢さんと一緒にいるのが楽しいんだ、侑さんの話をされ続けるとちょい妬いてしまうからそうかなって。そもそものきっかけはそれに気づいた事なんだけど……栞子さんにも話をしてな」
「歩夢さんって家事も出来るし、よく後輩達の相談に乗ってるし、親しみやすいよな。侑さんと仲良くしてる時が1番可愛いんだけど、表情がコロコロ変わったりするとこも魅力た的に見えるんだ」
「分かる、分かるよ勘助君! 歩夢は可愛いよね!」
「うん。可愛い。だからかな、なんか侑さんだけじゃなくて、私にもその可愛い所見せてくれないかなって思った時には惚れてたんだ」
勘助の言葉にぴょんぴょん跳ねながら同意する侑。勘助も話し出したら止まらない。気づけば侑に対して歩夢に対する全ての感情をぶつけてていた。
「だから、告白したいんだが、まずは幼馴染の侑さんに許可をもらってからかなって。侑さんもなんやかんや歩夢さんLOVEだし、少し後ろめたかった」
「全然大丈夫だよ! むしろ……」
好都合と言いたかったが、一旦黙った。それよりも早くあの幼馴染の元に行って話をしなければならなくなった。
「むしろなんだ?」
「い、いや、むしろ私は歩夢に勘助君みたいな彼氏が出来たら嬉しいよ。歩夢の返答は置いといて、勘助君は想いを伝えるべきだと思う」
「そうだな、仮に返答が侑さんLOVEだから嫌だって言われてもその時は歩夢さんと一緒に侑さんを取り合えばいいもんな」
「そうだよ、諦めないで……ってあれ? 取り合いの対象私なの!?」
「ははっ、冗談だよ。そうだ……歩夢さんに伝えておいてくれないか?」
「何を?」
「今度ここの空き教室に来てくれってな……改めて面と向かって告白しないと格好がつかねぇから」
「空き教室ね、わかったよ。それじゃあ私は歩夢に伝えに行くね」
相談に乗ってくれてありがとうとお互い礼を言って侑は歩夢の元に向かったのだった。
「歩夢さん……悪いけどこの場だけで逃すわけにはいかないんだ。許せよ」
勘助のそんな言葉は誰にも届いていなかった。
「空き教室で告白かぁ、なんかロマンあるなぁ……あれ? 勘助君さっき改めてって言ってたけど、気のせいだよね?」
『侑ちゃん』
「あ、もしもし歩夢? 今そっち行くね」
『うん、分かったよ……それでね侑ちゃん』
「どうしたの?」
『多分……勘助君に電話繋がってるのバレてるよ……』
「え? 嘘でしょ?」
『だってバレてなかったら改めて告白するなんて言わないよね?』
「えぇ……じゃあ勘助君は……気づいてたの?」
『恐らくね……私達より上手だったね』
「そりゃ……歩夢も惚れるよ。知ってて改めて告白するなんて宣言できるんだもん」
『あはは……流石勘助君』
もはや言い逃れができない状況に追い詰められたのは、勘助ではなく私達自身だったのを知った侑は、改めて勘助の強さを知った。