空き教室の中で、1人の男が椅子に座っていた。男は深呼吸を繰り返して、ただ一つの目的を果たすために気を入れる。
「お、お待たせ。勘助君……」
「お疲れ様、歩夢さん。待ってないから大丈夫だ」
勘助と呼ばれた男は歩夢という女の子に近くに来るよう促して自分も椅子から立つ。
「もう、分かってると思うけど、私は歩夢さんに伝えたい事がある」
「や、やっぱり気付いてたんだね……」
「なんかごめんな。侑さんの携帯が通話中ってなってたのほんの少し見ちゃって」
「ううん。提案したのは私だから……それじゃあ、勘助君からどうぞ。私も言いたい事あるから」
歩夢にそう言われた勘助はそうかと、一言言って歩夢に目を合わせて口を出す。
「歩夢さん、此処からは私の本心を伝える。聞いてくれ」
「うん」
最終確認を終えて、勘助は一つ深呼吸をしてゆっくりと……
「私は歩夢さんが好きだ。付き合って欲しい」
そう、口にした。沈黙が流れる。数秒経ってから、沈黙は歩夢が破ってくれた。
「その告白の返事の前に、どうして私が侑ちゃんの携帯に繋いでいたか、そこから説明してもいいかな?」
「え? 別に……構わないけど」
「実はね、侑ちゃんを卒業しようと思ったのは私なんだ」
「歩夢さんが?」
歩夢は勘助に話を続ける、最近自分自身侑の事ばかり心配しすぎて侑に怒られたこと、勘助にも侑の人生があると聞いて、考えを改めてこれからは侑LOVEを抑えようと思ったというきっかけ。
そして、そのきっかけに至った最大の理由……
「私もね、勘助君の事好きになっちゃったの」
「え……嘘でしょ?」
「勘助君?」
「だ、だって歩夢さん侑さんLOVEじゃ……それに、り、両想いだったとか……あり得ないから……驚いて……」
「勘助君は私の事を何だと思っているの?」
「侑さんの……婚約者?」
「だから侑ちゃん離れしたいんだよ?」
「わ、私のせい……」
「そんなわけないでしょ」
勘助が歩夢の告白を聞いたセリフはこれである。歩夢は一回勘助を殴っていい。
とうの言いたい放題された歩夢はまぁ事実だと、少し溜息を吐いて、勘助に向き合った。
「それで……勘助君の返事は?」
「私は……歩夢さんと付き合いたい。たとえ侑さんにしか興味がなくても、侑さんと3人でデートしないとダメだと言われても、それでも、俺は侑さんLOVEの歩夢さんが好きだから」
「それじゃあ、私と付き合ってくれる? 確かにみんなから言われるくらい侑ちゃんLOVEだけど、勘助君と付き合ったら少しはマシになるよ」
「マシにならなくてもいいよ。歩夢さんは歩夢さんなんだから」
「それじゃあ私が嫌なの。侑ちゃんばかり構って恋人に構えない女の子は勘助君も嫌でしょ?」
「幸せならそれでOKです」
「ダメだよ」
まるでショートコントの勢い。告白した男女とは思えないほどフランクな話し合いだった。勘助が歩夢の必死な説得(侑LOVE卒業宣言)のおかげで笑いが止められなくなったせいで話し合いは落ち着きを取り戻した。
「それじゃあ……えっと、私と付き合って下さい」
「うん。宜しくね、勘助君」
最終的に改めて告白した勘助に対して、肯定の意を込めで頷いた歩夢がいたことにより試合はハッピーエンドで終了した。
☆
「勘助君……侑ちゃんがせつ菜々ちゃんと……」
「おいこら高咲、たまにはせつ菜々だけじゃなくて歩夢にも構ってやれよ」
「勘助君の嫁でしょ? 私の事くらい大目に見てよ」
「ていうかキャラ混ざってませんか!? 確かにせつ菜でもあり菜々でもありますから否定はしませんけどせつ菜々じゃ無いですよ!」
「せつ菜々、歩夢が嫉妬で侑さんを押し倒す前に逃げるんだ。刺されるぞ」
「勘助君やっぱり私の事、ヤンデレかなにかと勘違いしてるよね?」
「そもそも侑さんが歩夢差し置いて他の女とイチャイチャしてんのが悪いのでは?」
「いや、どう見ても勘助君が歩夢の彼氏として止めないから歩夢が暴走してるんだよ」
「侑ちゃん?」
「私は別に歩夢が侑さんLOVEでも問題は無いんだけどな、そうだろう菜々?」
「侑さんと私の胃が死にそうなので程々の方がいいです」
「そうだよ! 私だってせつ菜ちゃんや彼方さんや色んな女の子と遊びたいもん!」
「歩夢、侑さんはもう手遅れだ。修羅場製造機主人公だ」
「侑ちゃん……信じてたのに……いいもん、勘助君寂しいから抱きしめて」
「歩夢ちょっと待って、ここでは恥ずかしい」
「じゃあ膝借りるね」
会話のてんやわんやが行われたのは同好会の休憩中であった。付き合ってから勘助は歩夢の相談に乗りながら侑が暴走するのを防ぎ(ほぼ無駄だけど)歩夢も歩夢で侑に振り向いてくれなかったら勘助に泣きつくという、付き合っている男女とは思えない三角関係……いや、菜々や同好会のみんなも入れて十四角関係になっていた。
それでも、勘助はこうして侑と歩夢がイチャイチャしているのを見る事が好きであった。歩夢も歩夢で口では侑の事を言っているが、デートの時は勘助と2人きりだし、たまにこうして勘助に膝枕してもらったりと恋人らしいことはしている。
「勘助君って凄いよね、こんなヤンデレな……まぁ、私に対してだけど……ちょっと面倒な女の子でも平気で付き合ってるんだもん」
「侑ちゃん本当に私の事何だと思ってるの?」
「面倒な訳あるか、付き合う前から侑さんと歩夢が仲良いのは知ってんだ。それを恋人になったからと言って、辞めさせるなんて彼氏のする事じゃ無いだろ。歩夢の趣味は受け入れる」
「侑さんへのストーカー行為を趣味って言える勘助さんとんでも無いですね」
「せつ菜ちゃん、もう私達あっち行こう、2人は少し休んだら練習に戻ってね」
「ゆ、侑ちゃん待ってよ……!」
「行ってこい歩夢、私の膝から降りて捕まえて来い」
「いや、勘助君はそのまま歩夢を抑えて!?」
「勘助さんの前では歩夢さんもダメ人間になっちゃうんですね、侑さんの名前出してる割には頭よけようとしませんもん」
「なんか気持ちいいんだよねぇ、勘助君の膝」
「ありがとう、というか歩夢、侑さんは良いのか?」
「あんな浮気者もう知らない」
「だってよ侑さん」
「浮気者って……ああ、もう行けばいいんでしょ!」
「ミイラ取りがミイラになるってこういう事を言うんですね」
「せつ菜」
「勘助さん? 何ですか?」
「私も歩夢と付き合ってるけどせつ菜LOVEだからな」
「ふ……不意打ちは卑怯ですよ」
「勘助君浮気はダメだよ?」
「大丈夫、歩夢と気持ちや考えは同じだから。幼馴染LOVEだぜ」
「それなら良いけど」
歩夢の言葉に良いのかよと、侑とせつ菜が突っ込んだ。それでも、歩夢と勘助はなんやかんや上手く付き合えるんだろうなと思ったのは、お互いに大切な幼馴染がいて、幼馴染LOVE同盟としてしっかりと見えない何かで繋がっている感じがしたからなのは侑とせつ菜の気のせいでは無いと思っている。
勘助と歩夢は眼では幼馴染を追ってはいるが、心ではお互いに大切な恋人として想っているのは分かっていると言わんばかりに幼馴染LOVEをかまして、幼馴染を追いかけて……こいつら幼馴染しか見てねぇ。
「侑ちゃん、大好き!」
「菜々、大好きだぞ」
「うーん、照れるんだけど……」
「嬉しいし照れますけど……」
「幼馴染って怖い」
「幼馴染って怖いですね」
「えへへ」
幼馴染のことになれば出来ないことは何もない歩夢と勘助であった。侑とせつ菜は想ってくれるのはありがたいが、お互いの事も忘れずに仲良くして欲しいと、膝枕している勘助と膝枕されている歩夢に願ったのだった。
「歩夢」
「勘助君?」
「愛してる」
「……ふふっ、私もだよ」
「そうしてたら普通の恋人なのに……」
高咲侑は呆れてる。一方せつ菜は……
「まぁ、そんな勘助さんも好きですけど」
「せつ菜ちゃん……凄いね」
優木せつ菜は拗らせてる。