あの……ここに集まんないでもらいます?え?モーセ?違いますけど? 作:今日和
あの……今日おはガチャ引いたんですよ。そしたら出たんですよ。シンジくんが。
久々だ。ここまで怒りが込み上がるのは。
俺には生まれつき感情がない。この歳になるまで喜怒哀楽を感じたことはなく、ただ空虚な灰色の人生を歩んでいた。
「言ってること矛盾してます。怒りが来ちゃってるので充分感情ありますよね」
だがまさか……ここに我が感情を揺さぶるモノが現れようとは思いもしなかったぞ。
「感情揺さぶられてるじゃないですか。自分で否定しておいていきなり認めてるじゃないですか」
さあ!覚悟はできているな!俺の
この俺に喧嘩を売ったことを死んで後悔するのだな!!あーっはっはっは!!
「高笑いまで始めちゃいましたよ。もう感情抑える気ゼロですよこの人」
「人がせっかく
せっかく頑張って厨二病になってるのに……清姫と違ってニトちゃんはノリが悪いな。
「でもそれって貴方の現実逃避ですよね?」
おっと、草むらから野生のひろ⚪︎きが飛び出してきた。ニトちゃんって2ちゃん創設者だった?
ちなみに現実逃避はガチです。なぜならめちゃくちゃゲームでイラついてるから。
まじでこのイカ野郎くっそムカつくんだが?急に後ろから出てくるしキルされたら煽ってくるしよ。しかも俺のエイムだけ全然当たらんのなんなん?ほんとチーターやんチーター。
「でもさニトちゃん。俺よりあの2人に言った方がいい気がするよ?」
「ええ……まあ…そうなんですけど…」
俺がそう言うと、ニトちゃんは苦虫を潰したような表情でテレビの前に座る2人を見た。
「もう!!なんなんですかこのお相手は!!ほんと燃やしますよ!?三昧しちゃいますよ!?良いですか安珍様!!?」
「良くねーよ。あとモッセです」
清姫はそれはまあ怒り狂っていた。俺と同じようにエイムが当たらず相手に煽られ試合には負ける。そして清姫激おこぷんぷん丸の負のループ状態の完成だ。
清姫は見るからにゲーム下手だしな。元々そういうのに疎いだろうし。若干仕方のない部分があるなこれは。
まあ清姫はあまり問題ない。ただ怒りで口から火を吹くから室温が高くなるのはやめて欲しいけれども。
冬ならいいのよ?でも今夏だから。妖精たちが刺激する季節だから。
「……」
問題はもう1人の方……オジマンさんである。
もうめっちゃ無言になってる。いつも喧しいほどの声量が今は見る影もない。只々じっとコントローラーを手に持ち画面と睨めっこ状態だ。
最初の方はオジマンさんも荒れていた。
『このファラオたる余を愚弄するか!!この愚か者めが!!』
とか
『愚者め!!このファラオの玉座に傷を与えようとするなど!!貴様ら羽虫風情が叶うと思うな!!』
とか言ってたんだけどさ。次第にそれも言わなくなって今では完全に沈黙してしまった。
この人の場合な……下手になんでもこなせるからこうなってる節あるよな。ゲームも大抵はこなせるけどその分強敵に当たりやすくてこうなるんよな。悲しき運命よ。
「ああファラオよ……なんと悲惨な姿に……」
なんかあれよね。いつもうるさい人が静かになると気持ち悪いよね。ニトちゃんもそりゃ涙目になっちゃうよね。わかるわかる。そんなニトちゃんも可愛いよね。わかるわかる。
◆
このままでは不味いと思った俺はニトちゃんにあの2人を押し付けてこっそりと部屋を出た。
薄く錆びた鉄格子の階段を上り、アパートの屋上の扉を開ける。外は完全に曇っていて太陽光が差し込む隙間すらなかった。
んー……微妙な天気だ。洗濯物乾くかこれ。後でオジマンさんにラム*1ってもらうか?いやでもあの状態だしなぁ…
「ん……お久しぶり」
「おー…徐っちゃんじゃん。珍しいな」
彼女の名前は徐福、通称徐ちゃんだ。俺の部屋の隣人でありこのアパートと契約している唯一の住人だ。
普段は家に引きこもっていて回覧板とか家賃の受け渡しをする時以外あまり会うことはないんだが……まさか屋上にいるとは……
「万年引きこもりが外にいるなんてな。こりゃ一雨降りそうだ」
「失礼な。私だって外に出ることくらいある。今は軽いストレッチをしに来ただけ」
そりゃそうか。買い物とかなんだかんだで外に出ないとできないしな。最近はウーバーイーツなるものがあるけど徐っちゃん絶対に他人を家に入れたがらないし。
俺の予想だけど多分部屋にエロ本めっちゃ溢れてるんだと思う。だから人を家に入れたがらないパティーンですな。
「あ、溢れてないから!!ぐっさm──モッセさんのエロ本とか描いてないから!!」
「ん?俺?」
「な、何でもない!」
おいおいおい。何をそんなにテンパってるんだか。そんなに焦って否定しちゃうと余計に怪しまれちゃうぜ?地味にエロ本持ってるじゃなくて描いてるのを否定したのが気になるけども。
ま、気にしなくていっか。徐っちゃんに限ってそんなことナイチンゲールプレッジ。
「そ、そういえばぐっさm─モッセさんはここに何を?」
「ちょいとゲームの気晴らしにな」
あー……思い出しただけでも心がイライラするんじゃぁ!!あの侵略イカ娘共め!!特に⭐︎英雄王⭐︎って名前のユーザーまじで許さん!!!倒した毎に煽り散らかしやがって!!!何が『雑種風情が王たる俺の前に立つな』だ!!!
「まああれだけ怒ってたしね」
「まあなー」
……なんで知ってるん?
「ここのアパート壁薄いから」
「あー…」
そういえばそうだったわ。そりゃ聞こえちゃうよね。
いやー焦ったわ……どこぞの燃え盛る蛇姫様パターンかと思ったナス。
「最近はよく聞こえるよ。モッセさん以外の人の声やゲーム音やモッセさんのオカズASMRがね」
「あははそうかそうか──リアリー?」
「リアリー」
「ASMR?」
「ASMR」
「『低音イケボ執事が今夜も寝かせてくれないって話』が?」
「『低音イケボ執事が今夜も寝かせてくれないって話』が」
………オージーザス。
「多分イヤホンの充電が切れてそのまま流れちゃったんだろうね。モッセさんは寝落ちして気付かなかったんじゃない?」
まじまじまじですか?ええまじですねオッケー。こっち見てー見れねえよ。顔真っ赤すぎて見れねえよ。
「その後に『私の安珍様をたぶらかしますか!!』とか『モ、モーセよ……貴様にそのような性癖があったとは……良い!!ファラオは寛大である!!』とか聞こえたよ」
「空が……あんなにも青い……」
「灰色だけど」
うるせえ黙れ犯すぞ。
「とにかく最近は結構うるさいよ。もう少しだけ静かにしてくれると助かる」
「それはすまん」
と言っても無理だろうな。なんか言ってもどーせオジマンさんが大声出して清姫がくっついてきて俺とニトちゃんが辟易するだけだ。
部屋から出てけって言っても言うこと聞かんしな。
「そうだ。良ければ私がゲーム教えてあげようか?」
「徐っちゃんが?」
「これでも結構ゲームには精通している方でね。ぐっさm──モッセさんがやってるゲームのエイムの上達方法も知ってるし、立ち回りもわかるよ?なんなら⭐︎英雄王⭐︎にウイルス送ることもできるしさ」
「おなしゃすセンセンシャル」
ラッキーハッピースマイルイェーイ!!こんな棚ぼたなことがあるとは!!
これで⭐︎英雄王⭐︎は終わったな!!ざまあみろカスが!!てめえのゲーム機はこれで終わりだ!!ふはははははは!!!
「おっ?」
高笑いをしていると口元に冷たい雫が入り込んできた。
「徐っちゃんのせいで雨が降ってきたな」
「私のせいにしないで」
さて……そろそろ戻りますか。気分転換もできたし外に洗濯物も干してあるからの中に取り込まないと。
「じゃ、俺は戻るわ。ゲームのことはまたおいおいな」
「ん……またね」
俺は軽く手を振りながら屋上を後にした。
………そういや俺⭐︎英雄王⭐︎の話って徐っちゃんにしたっけ?
◆
「あっぶねぇ……ギリギリセーフ」
本降りになってきたな。洗濯物がびしょ濡れになる前に入れられて良かった。
「すみません……まさか雨に気付かないとは……」
「気にしなさんな」
ニトちゃんが頭を下げながら誤り倒してくる。そしてそれを受け止め器の広さを見せつける俺様。ふふふこれでニトちゃんポイント1ゲットだ。ふふふ……ふふふふ……ふふふのふ。
それにニトちゃんが気づかないのも無理はないしな。だってあの2人が爆音でゲームやり続けてるから。そのせいで雨音がかき消されちまったんだろうなきっと。
「ふ……ふふふ……ふはははははは!!!!」
そんなことを考えながらニトちゃんと洗濯物を畳んでいる最中、オジマンさんの笑い声が聞こえてきた。
「如何されましたかファラオよ」
「これを見るが良い!!モーセ!!ニトクリスよ!!」
テレビの画面を見るとWINという文字がデカデカと画面に映っていた。そして次の画面には戦績が掲示されており、そこにはあの憎たらしい名前も載っていた。
「これは…もしかしてオジマンさん……⭐︎英雄王⭐︎に勝ったんですか?あとモッセです」
「うむ!!長らく時間がかかってしまったが……最後に余が上に立てればそれで良い!!」
「おー!おめでとうござます!」
「感無量ですね!!ファラオオジマンディアス!!」
これは凄い。⭐︎英雄王⭐︎は確かトップ層の中でもかなりのユーザーだったはず。それ初めて数週間足らずのオジマンさんが勝ってしまうとは……これはマジで凄スンギだわ。この木何の木凄スンギだわ。
「ふっ……そう我ばかりを立てるでない。そこの蛇姫の助けがあってこその勝利である」
「」
……こいつ。真っ白に燃え尽きてやがる。
「頑張ったんだな清姫」
「あぁ……安珍様……」
清姫が俺を呼ぶ声はか細く弱々しかった。きっと今までのストレスが祟ったのだろう。
俺は清姫の手をそっと握り締めた。
「安珍様……私はどうやらここまでのようです」
「清姫……あとモッセです」
「せめて……せめて最後に………熱い抱擁と接吻と更に向こうへプルスウルトラを……」
「そろそろ夕飯の支度すっか」
「そうですね」
「あ、ちょっと!消えちゃいますよ!ほら私の身体光っちゃってますよ!安珍様あああああ!!」
ゲームも大事だけどメリハリも大事よね。あとモッセです。
◆
「ふぅ……」
今日は疲れた。久しぶりにぐっ様と話をしすぎてテンパっちゃったからかも。
でもそれ以上に楽しかった。なぜならぐっ様と6分51.42秒も話すことができたから。
「ふふふ……」
これはこっちの世界に来てからの新記録だ。ちゃんとメモ帳に記入しておかないとね。
それに何よりゲームを教えるっていう約束を取り付けることができた。これは大きな進歩だ。
これで私の頼り甲斐のある部分を見せて如何に私ができるか、そしていかにアイツらができない奴等なのかを教えるんだ。そうすればぐっ様は私の所に戻ってくるに違いない。
「おっと…これも忘れちゃいけない」
私は懐から茶髪の髪の毛を数本取り出し、小さめのジップロックの中に入れる。
「今日の日付……8月○日っと……」
これで完璧だ。私のぐっ様毛髪集のNo.241からNo.243の保管完了。夢の千本まではまだまだ長いけど……なんとか頑張らなくちゃ。
髪の保管が終わったあとはいよいよお待ちかねのぐっ様タイムだ。デスクに座りヘッドホンを付け、パソコンに電源を入れる。
電源を入れてから数秒後、画面に映るのはぐっ様が普段過ごしている部屋の内部だ。
「あぁ……ぐっ様♡」
いつ見ても尊いお姿……洗濯物を取り入れる姿も実に美しい。背筋は伸び雨に濡れた髪と服は大人の色気を醸し出している。
「しゅきぃ……♡」
私がモッセさん──ぐっ様と再会したのは私がここのアパートの契約をする前日のことだった。
それまでは何故かこの世界に召喚され適当に散歩をしていた。だからこのアパートの契約をする気は全くなかったし、モッセさんがいることすらも知らなかった。
だが街中で何故か女装姿でビラを配っているモッセさんを見てしまい、私の身体には電流が駆け巡った。モッセさんの姿と気配が生前のぐっ様と瓜二つだったからだ。
私はすぐさまアパートのビラを貰い翌日には契約。晴れてこのアパートの住人になった。
あの頃は幸せだった。私しか住人がいなくて実質私とぐっ様の2人暮らし……なのに最近になってアイツらがぐっ様の部屋に雪崩れ込んできた。
そんなの許せない!!今はぐっ様は私のこと覚えてないみたいだけど……いつかは思い出させてアイツらを追っ払って2人だけの愛の巣を取り戻さないと!!
「あ、そういえば……」
ぐっ様を煽ったあの⭐︎英雄王⭐︎にはちゃんとウイルスを送り込んどかないとね。ぐっ様を愚弄した者にはそれ相応の罰を与えなきゃ。
えへへへ……これでぐっ様も喜んでくれるかな。
「ずっとずーっと見てるからね♡ぐっ様♡」
◆
「ぐっ様じゃなくてモッセです」
「どうしました?唐突に」
「いや……なんか言わないといけない気がして」
「ふはははは!!!雑種風情が!!この