奇跡の子   作:マロンと栗

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作者は曇らせ好きです。


プロローグ

《僕はね。こう見えてハッピーエンドが好きなんだ》

 

えっへん。と目の前のナニかが声高らかに宣言する。

人に見えるけど、人じゃないナニか。

 

彼の説明によれば、私は死んだらしい。

 

(あぁ……はいはい。今流行りの小説にある導入部分ね)

 

本当にこんな事があるんですね。

これから彼によって私はどっかの世界に転生させられるのでしょう。

話から察するにハッピーエンドの世界か……その逆か。

 

どちらにしても、聞いてもいない事をペラペラと喋る彼の性格からして、面倒くさいことになるのは確実です。

死んだ目を更に濁して彼の話を聞く。

どうせ拒否権なんてありませんからね。

 

《推しの子ってアニメ知ってる?僕はね……星野アイが死んだ事に納得がいかないんだ》

 

ん……?

 

《アニメの一期をやってたでしょ?見てない?まぁ、どうでもいいけどさー……僕は星野アイが死んだ事に納得いかないんだ》

 

ん……???

 

《ハピエン至上主義の僕からしたら悲しいんだ。確かに現実でも親を殺された子たちは沢山居る。もっとツラい思いをしている人たちだっている……悲しいよね。でも、フィクションの中くらい幸せで居て欲しいんだ》

 

まぁ……それはわかりますが。

 

《だからさ、僕は全てのフィクションに介入してハピエンにすることにしているんだ》

 

なんか、なんでしょう……彼が言うと洒落になりませんね。

 

《勿論、原作を変えるなんて愚行を侵すような真似はしないよ。これはあくまで可能性の話……数あるルートの中の一つでしかない》

 

それは良かったです。

あくまで二次創作で―――というのでしたら大歓迎ですよ。

 

《だから、その一つのルート……星野アイが復活したら?というルートを君に演じてもらいたい》

「何個か聞きたいのですが」

《なんだい?》

「仮に復活しても入っているのは私なんですよね?」

《そうだね。残念だけど、このルートは星野アイが死んで……》

「それ、私じゃなくて星野アイ本人にしてもらった方が良いですよね」

 

彼の話を遮る。

単純な話です。ガワが星野アイでも、中身が私。それはもうルビーちゃんとアクアくんの知っている星野アイではない。彼らを愛したアイではない。

なら、星野アイ本人を生き返らせる方がどうみても良い。ハピエンにしたいならむしろこれしかないでしょう。

 

しかし、私の意見はバッサリと切り捨てられた。

 

《無理。このルートは、星野アイが死んで悲しみに暮れる双子を笑顔に……そして、死ぬ間際に願った彼女の願いを叶える物》

「尚更、星野アイ本人に……」

《無理。死んだ人間は生き返らない。同じ器に、同じ魂を入れるのは僕でも至難の業なの……ましてや、彼女ほど天性の才能と美を持った子は不可能と言えるレベルだね》

 

それに……と付け加えた彼は、満面の笑みで言った。

 

《君も納得いってないでしょ?》

 

確かに納得してるかしてないかと問われれば「してない」と答えてしまうかもしれません。

アニメの推しの子第一話の衝撃展開を見て暫くは再起不能になりましたからね。

 

もしもあの場に介入できたらと何度妄想したでしょう。

 

もしも星野アイが生きていたらきっと―――アクアくんとルビーちゃんが大きくなって……学校の入学式にお忍びで出席するアイちゃん。アイちゃんとルビーちゃんの夢のアイドル共演。役者になったアクアくんの演劇を笑顔で見守るアイちゃん。

 

そんな妄想を何度もした。

 

勿論原作はとても好きです。何度も何度もアニメを見て、途中までだけど単行本も買いました。何時でも何処でも見れるように電子書籍版も買ってる。布教用に何セットか買ったのはいい思い出です。

 

出来る事なら……例え一つのルートの中でも幸せになって欲しいです。

しかし。

 

「私は星野アイじゃありません……そんな二人を騙すような……」

《嘘は愛だよ。バレなければ、それはもう本当なんだよ。勿論、君が苦しいなら辞めてもいい》

「……本物の星野アイはどう思っているんですか」

 

一番大事なことだ。

私たちがやろうとしている行為が、彼女の意思に反しているなら止めるべきだ。

私の問いかけに、彼はにやりと笑った。

 

《安心して。これはただ僕の自己満足でしかない。どうしようもない神が造った数多あるルートの一つでしかないんだ》

「じゃあ、本人の意思とかは……」

《ないよ。君が転生する世界は僕が造った世界の一つだからね。ご都合主義の塊……二次創作の世界版って感じかな》

 

何ともスケールの大きい二次創作ですね。

まぁ……でも、それなら。

 

「やります」

 

私の言葉に彼はニヤリと笑った。

 

《そうこなくっちゃ》

 

 

 

 

 

そうして私は星野アイに憑依転生した。

目を覚ました場所は都内にある高級マンションの一室。どうやら私はここに住んでいるらしい。

彼の言った通り、かなりご都合主義な部分があるみたいですね。

 

まぁ、そんなことはどうでも良いんですよ。

 

ベッドから起き上がった私は、姿見の前に立つ。

 

「私……きゃわわ~」

 

鏡の中には、星野アイがいた。紫がかった黒髪のロングヘアーは綺麗を通り越した美しさ。両目には星が宿っており、キラキラと輝いている。

 

紛れもなく星野アイだ。

 

転生初日は、自分があの星野アイになれたことに狂喜乱舞……一日中鏡を見て「私きゃわわ~」と何度も言い、ユーチューブでB小町の歌を流しながら歌い。踊った。

 

そして二日目。

 

私は今、絶望の中にいる。

 

理由は色々あります。

 

私の今の職業が「踊ってみた」を主にした段ボールを被った覆面系ユーチューバーなのは目を瞑りましょう。所属が苺プロダクションなのもとりあえずいいでしょう。アイドルじゃないの?とか登録者数が百万人以上いるとかこの際どうでもいいです。

 

一番の問題は、時系列がバグっている。これにつきます。

 

「どーして星野アイが死んで十年以上経ってるのかなーー」

 

未だに馴れない「きゃわわ」な声に一瞬どきりとする。

ベッドにゴロゴロと転がりながらスマホの画面を見れば、そこにはとある記事が載っていた。

 

『超有名アイドルの死から○○年!未だ残る不可解な謎とはっ!!』

 

よくあるゴシップ記事だ。見る価値もないし、見たこともなかった。

でも、見てしまった。

内容はノーコメント。でも、私を調べるキッカケにはなった。そこだけは感謝したい。

 

星野アイが死んでからかなりの時間が経過している。これはもう確定だ。

つまりそれは、彼女の子供であり私と同じように転生した二人が成長してしまっている。ということだ。

 

私の子供―――星野瑠美衣(るびい)と星野愛久愛海(あくあまりん)

二人は物語の主人公である。

タイトルの推しの子というのは、星野アイの子供に転生した二人の事を指している……と思う、私は原作者じゃないからね。わかんないや。

 

二人の共通点はどちらも生前星野アイを推していたこと。

 

ルビーちゃんの前世は元々難病持ちの女の子で、名前は確か『さりな』だったと思う。十二歳の時に亡くなっちゃったんだったかな?

アクアくんの前世は、産科医のお兄さんで名前は『ゴロー』。私が妊娠した時にお世話になった人だからよく覚えている。確かさりなちゃんの主治医でもあったんだよね。こっちは私を殺した人に殺されちゃったんだっけ?

 

とりあえず、私とは違う形で二人は転生している。

 

そして、二人とも子供の見た目とは裏腹にかなり頭がキレる。アクアくんは前世お医者さんだから単純に頭が良い。ルビーちゃんはアイのダンスやかっこいい姿を文字通り全て覚えている子だ。

 

二人の前で下手なことをすれば、直ぐに私が本物だけど偽物だって思われちゃう。

 

幸いなことに星野アイである私も、表情やダンスを見て覚えることが出来る天才だ。

 

凄いよね。いやぁ、凄いことは知ってたけど、アイちゃんになって改めて実感したよ。

そりゃ、踊ってみたで人気になるわけだ。顔は段ボールで隠してるけど、溢れ出るオーラ?魅力が段違いだからね。

 

話がそれました。

 

星野アイが死亡してから時間がかなり経過している。

それはつまり、アクアくんたちの幼少期に「実は生きてました~」って合流できないこと。

そして、二人の小学校入学式と卒業式―――多分中学も―――に参加できなかった。ということでもあります。

 

「二人のきゃわわな姿が見れなかったのは残念だなー……」

 

こうなれば得意の妄想で補完するしかないね。

 

きっとアクアはランドセルを背負っておめかしするのを恥ずかしがるだろうなぁ。頬を紅くして、嫌がって……でも、最後には素直になってさ。

ルビーは、私が買ったランドセルを嬉しそうに背負って元気に走り回りそう。それを見たアクアが「おい、あんまりはしゃぐな、あぶないぞ」って注意するんだ。そしたら、ルビーが「はぁ!?推しからのプレゼントに嬉しがらない方が失礼よ!」なんて言ってさ。

 

そんな二人を見た私は「うちの子きゃわわ♡♡」って言って……あれ?

 

何時の間にか私は、涙を流していた。

 

……昔から涙もろかったですが、妄想もここまでくると病気ですね。

涙を拭いた私は、ふるふると頭を振って考えをリセットする。

 

「時系列的には私が死んでプロローグが終わって、第二章の芸能界編が始まるくらいかな?」

 

そうであって欲しい。いや、そうじゃ無きゃイヤだ。

 

だって―――

 

(二人の入学式。真新しい制服を着たきゃわわな姿が見れないからね!待ってて私の天使たち!ママが直ぐ行くからねー!)

 

私は勢い良くベッドから起き上がると、そのまま外に行こうとして―――って落ち着け私!? 冷静になれ!

いくら二人の晴れ姿をこの目に焼き付けたくても、死んでる人間が突然現れたらどうなる?

 

(二人は話せば受け入れてくれそう……じゃあ、いっか♪)

 

―――じゃなくて!

 

ヤバい事になる。絶対の絶対にヤバい事になる……と思う。

 

それに、せっかく二人が夢に向かってスタートする―――アクアはちょっと微妙だけどさ―――時期に、それを邪魔するのは違う気がする。

 

「うん。きーめた!」

 

とりあえず二人の入学式は絶対に見る。二人揃って入学するのはきっとこれが最後だからね。勿論、こっそりと……あと、アクアのメンタルケアも出来ればしたい。役者応援してるって言いたい。

 

「うん、決まりだね」

 

当面の目標が決まったから、とりあえずそれに向かって頑張ろう。

 

(何を頑張れば良いんだろ?まぁ、いいか!頑張ろうー)

 

取り合えずなんかミヤコさんに会いたいから、行きますか。

 

いざ、苺プロダクションへ!!




ここまで読んで頂いた事に感謝します。
頭で妄想するのは得意ですが、それを文字に起こすのって難しいですね……

感想頂けるととても嬉しいです。
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