奇跡の子   作:マロンと栗

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第二話

苺プロを後にした私は、途中でタクシーを捕まえて乗る。

運転手のおじさんが一瞬だけ怪訝な表情をしたけど、私が苺プロダクションの名刺を出すと直ぐに態度を改めた。

なんか、私以外にも被り物を被っているタレントを乗せたことがある反応だった。

 

「お嬢ちゃん、どちらまで?」

 

運転手の問いに、私はぐーぐるマップを開いて目的地を指さす。

二つ返事で頷いた彼は、タクシーを発車させた。

 

(ミヤコさん綺麗な人だったなぁ)

 

ぼんやりと都会の景色を眺めながら、私はミヤコさんのことを思う。

 

私が死んだあと、母親の死という一番ツラい時期にルビーとアクアの母親として二人を支えてくれた心優しい人。

アニメや漫画では全然描写されてなかったけど、ミヤコさん自身もツラかったと思う。支えてくれる筈の夫が失踪して、突然苺プロの代表取締役になって……皆を安心させるために弱音なんて吐けなかったと思う。

 

(そんな大変な時期に、ミヤコさんは二人を育ててくれたんだ)

 

ズキリ―――心臓が痛む。胸が締め付けられる。

 

この痛みと苦しみの理由はわからない。

でも、あの時私が二人の様子を聞いた時に、「元気よ」と言ったミヤコさんのあの表情を見て……彼女がルビーとアクアを自分の子供のように大切にしているのはわかった。

 

(ミヤコさんのような人が母親で、二人は幸せだったのかな?)

 

それは二人に聞いてみないとわからない。

でもきっと―――うん、幸せなんだと思う。ちょっぴり嫉妬しちゃうけど、子供の幸せを願うのが母親だからね。

 

「……ん?」

 

そこで私は―――我に返る。

いえ、別に私は私なんですが、どうしようもない違和感に襲われる。でも、それが何かはわからない。

 

ミヤコさんに対する思い?

それとも、私の子供たちに対する思い?

 

どちらにも違和感がある。でも、そうじゃない気もする。

 

(あー、考えてもわかんないや)

 

こういう時は無理に考えても良いことがない。

 

とりあえず、私が星野アイちゃんの死ぬ間際に願った願いを、()()()()()()()()()()()叶える。ハッピーエンドを目指す。それを目標に頑張る!

 

(うん、転生した理由を覚えてるから大丈夫だね)

 

私は一度目を瞑り―――開く。

 

さてと、ルビーとアクアの幸せは絶対だけど、私は他の人も幸せになって欲しい。ミヤコさんはその内の一人だ。

 

全部私の勝手な想像だけど、大変な思いをしているミヤコさんには幸せになって欲しい。大変なことが幸せって言われなければ。

 

でも、ミヤコさんの幸せってなんだろう?

 

大切に思っている二人の幸せがミヤコさんの幸せ―――うん、そうだと思う。

 

「そういえば……」

 

そもそも、どうしてミヤコさんは苺プロの代表取締役をやってるんだろう?

私が死んで、社長が消えて、B小町は解散して……裏では二人の子育てとメンタルケア。精神的にも肉体的にもキツかったと思う。

 

それでも、彼女は苺プロを辞めずに今日まで来た。

 

(ルビーとアクアの将来の為に?)

 

あるかもしれない。

でも、子供の将来の夢なんてすぐに変わるものだ。変わらないと知っているのは、それは原作を読んで二人を知っている私だから思ったことだ。

 

ミヤコさんが苺プロに残った根本的な理由があるはず―――。

 

《ア・ナ・タ・は・ア・イ・ド・ル―――サインはB!》

 

良く知った曲が聞こえてきた。

 

「この曲……B小町の」

「おや、お嬢ちゃんも知ってるのかい……ってそうか。お嬢ちゃんは苺プロの子だったねぇ」

 

そう言ってタクシーの運転手さんは、ぽつりぽつりと話を始める。

 

「B小町……特にセンターを務めたアイって子は凄い人気でねぇ―――最後は夢半ばで死んじゃってさ」

 

知ってる。すべて私が原作を見て―――星野アイが体験した出来事だった。

そんなことは知らずに、運転手は最後にこう言った。

 

「その日はドームライブだったのに、本当に残念だよ」

 

苺プロダクションの夢だったドームライブ……社長はもちろん喜んでいたけど、ミヤコさんもあの時喜んでいた。

 

『ドームは皆の夢なのよ』

 

確か、ミヤコさんはそんなセリフを言っていた。

夢。そう、夢だって言っていた。

 

でも、星野アイが死んだから叶えられなかった―――夢。

 

(ミヤコさんが頑張る理由、分かった気がする)

 

ミヤコさんは夢を諦めていないんだ。

勿論、本人に聞いてみないとわからないけどそれなら辻褄が合う。

 

だって、どんなにツラくても夢のためなら頑張れるから。

 

その夢がミヤコさんの幸せの一つなら私は―――私に何ができるんだろ?

 

うーん。私の愛していたB小町は解散しちゃったからなぁ……なら、ルビーちゃんと一緒に新生B小町を結成するのも良いよね。

 

でも、それは違うよね。

 

私が願ったのは『親子で共演』することだから。それにあの子も……。

 

「はぁ……簡単に引き受けちゃったけど、これって大変かもなぁ」

 

運転手さんに聞こえないように呟く。

転生する前は、簡単な事だと思ってた。この世界はハピエン厨の彼が作った嘘の世界で、てきとーに過ごして良い感じのタイミングで「じゃじゃーん、私は星野アイでした!」ってバラしてドッキリ大成功~! みたいな? そんな感じで締めくくれば終わりだと思った。

 

でも、この世界は嘘なのに本当の世界だった。

 

二人に対するミヤコさんの気持ちは本当だった。

私の……星野アイじゃない私の気持ちも、これもきっと嘘じゃない。

 

なら、迷ってる暇はないよね。

 

そんな事を思っていると、何時の間にか目的地に着いていた。車内の明かりが付いて、運転手さんがこちらに顔を向ける。

 

「ありがとうね。料金は―――円だよ」

 

私は財布を取り出す。

時代はキャッシュレスだけど、今日は現金で払おう。別に拘りとかはないけど、一万円を渡して「お釣りはいらないよ」っていうのをやってみたくなったから。

 

一万円を取り出そうとして……中にある保険証が目についた。

 

うん。

確かめたいことが出来たけど、とりあえずお金を払ってからだね。

 

「お釣りはいりません」

「良いのかい嬢ちゃん……ありがとね」

 

タクシーを見送った私は足早にマンションに入る。

そのままエレベーターに乗って自分の部屋に入った私は、財布を開けて中にある保険証を手に取った。

 

恐る恐るそこに書かれている名前を見る。

 

「……読めない」

 

いや、読める? ううん、読めない?

読めるけど、理解できない。認識できない。って言った方が正しい気がする。

これはもしかして彼の言っていた「ご都合主義」なのかな。

 

この世界で星野アイは死んだ。

でも、復活した。さりなちゃんとゴロー先生がルビーとアクアに転生したように。

いや、違う。私の場合は文字通り復活だ。本当は憑依転生だけど、はたから見たら蘇ったと思われるよね。

 

そんな人間が今もこうして何事もなく生活できているのは、それはもう「ご都合主義」としか言えない。

 

この読めるけど読めない保険証のように、私が知らない所で彼の力が働いているんだと思う。

運転免許は持ってないけど、役所に行けば戸籍や住民票、印鑑証明その他諸々……私という人間が存在する証拠がある筈だ。

 

星野アイが生きている。という決定的な証拠が。

 

でも、世間の認識では私は死んでいる。

じゃあ、今言った物はどうなっているのか……それがきっと彼の言っていた「ご都合主義」なのだろう。

この先ソレがどう作用するのかわからないけど、私にはどうすることも出来ない。

 

だって「不可抗力な超常現象」だから。

 

それなら、難しいことを考えるのは止めて、私は私の夢を、彼の望むハッピーエンドを目指すのみ。

 

「そーいえば、あの子はこの世界だとどういう立ち位置なのかな」

 

ベッドに倒れこみ、ごろごろする。

ルビーとアクアが転生者だと知っている唯一の人間。人間だよね? 色々私のきゃわわな子たちに告げ口する不思議な子供……まぁ、用があれば向こうから会いに来るか。

 

「ふわぁ~……ねむ」

 

難しいことを考えすぎたから眠たくなっちゃった。

 

とりあえずシャワーと歯磨き、髪を乾かしてベッドに横になった私は、秒で眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

『苺プロが十数年ぶりにアイドルグループを立ち上げる』。

 

そんな知らせをミヤコさんから聞いたのは、私が事務所に行った次の日だった。

 

(ついにルビーちゃんがアイドルデビューかぁ……)

 

お披露目はもう少し先の話だけど、その日が待ち遠しい。

初ライブはJIFだったかな?それまではユーチューブで活動する感じだったから、ルビーちゃんのきゃわわな顔を何時でも見ることが出来るわけだ。

 

本当は直ぐに会いに行きたい。

「おめでとう!」って言って抱き締めたい。

でも、それはもう少し先……今はまだその時じゃない。

 

《ア・ナ・タ・の・ア・イ・ド・ル―――サインはB♡♡》

 

画面の中の私が、客席に向かってポーズをとる。湧き上がる会場、笑顔の私。

その表情と仕草を、脳裏と瞳に焼き付ける。

 

同じようにポーズをとる。

今の私は誰がどう見ても星野アイだ。アクアの得意な遺伝子検査をしてもそれは明らか。

 

でも、中身は違う。前世は一般人の女だ。

どんなに天性の才能があり、スペックがバケモノでも結局のところ中身が私では宝の持ち腐れ。

 

その証拠に。

 

「違う。今のとこは片腕をもう少し上げる……口角が一ミリ下にズレた。手の開き方が違う。ダメ、これじゃアイじゃない―――もう一度全部初めから」

 

鏡に映る私は、アイであってアイじゃない。今の私はダンスが上手なユーチューバーの奇跡の子でしかない。

こんな情けない姿で、あの子たちに会うことは出来ない。

 

私はB小町の曲を一番初めから流す。

鏡の前に立ち、画面のアイと一緒に踊る。

 

(これで、何回目だっけ……まぁ、いいか)

 

ツラい。汗が滝のように流れ落ちる。

身体が重たい。手足に鉄の塊が付いているみたいだった。

 

(無理は良くない。明日から頑張れば良いんじゃないの?)

 

私の甘えが私に語り掛ける。今日は休めと誘惑してくる。

もっともな意見だ。これ以上頑張った所で良いことない。

むしろ、これ以上やれば命の危険だってある。

 

(でも、私が完璧になればそれだけ二人に会える日が近づく)

 

うん。命を懸けるには十二分な理由だね。

ただでさえ、十年以上二人には辛い思いをさせちゃったから。

 

「待ってて二人とも……」

 

その後、私は五時間以上トライ&エラーを繰り返した。

今は地面に仰向けで倒れている。

身体がピクリとも動かない。いや、動かしたくない。今動いたら絶対につるね。

 

まさに疲労困憊。

 

でも、やっと星野アイと全く同じように歌って踊ることが出来た。

その仕上がりは自分で見てても気持ち悪いほど同じで―――私とアイを重ねても、数ミリのズレもない。と自信を持って言えた。

 

「ふふ、流石私……痛っ!?!?」

 

あまりの嬉しさにガッツポーズ。待ってましたと言わんばかりに全身の筋肉がつった。

 

きゃわわな悲鳴が、部屋に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「あ~~、酷い目にあった」

 

全身をつってから一時間後、シャワーやら着替えやらを終えた私はベッドに横になっていた。

スマホを持ちながらゴロゴロしようとして……筋肉の痙攣をいち早く感じ取り止める。

 

(危ない危ない……あと一秒でも遅れてたらまた叫ぶところだったよ)

 

なるべくゆっくり横になった私は、スマホで調べ物をする。

ルビーとアクアの通う高校「陽東高校」についてだ。

確か、日本でも珍しい芸能科がある学校だったかな?

場所はぐーぐるマップで調べれば一発でわかるから、知りたいのは入学式の日にちだ。

 

受験も終わってないのに気が早いって?うちの子に限って失敗はないよ。

 

「……四月五日」

 

直ぐにスマホの予定表に「アクア&ルビーの入学式♡」といれる。

幸い、その日に仕事は入っていない。入っていたとしても全てキャンセルにするつもりだった。

 

二人の入学式は絶対に出席する。

 

でも、一つ問題があった。

 

「芸能科があるような学校じゃ、他人は入れないよなぁ」

 

学生でも有名人がいる学校だ。警備もそんじょそこらのものじゃないだろう。

いや、私は二人の母親だから入れない訳がないけど……もう死んでる人間だ。それが突然現れたらどうなる?

 

パニックになる。絶対に!百パーセント!!

 

折角の入学式なんだから、主役は私じゃない。そんなハプニングで二人の晴れ舞台を台無しにしたくはない。

勿論、あの子たちの母親として出席したかった。したいよ。したくない訳がない。

でも、私は二人の晴れ姿が見れるならそれでいい。原作の星野アイが見れなかった景色を、私は見ることが出来るんだから。

焦って台無しにするよりも、出席できる方法を探すのが良い。そして、二人に「入学おめでとう」って言うんだ。

 

母親として出席できない代わりに、その二つは絶対に叶える……私は欲張りだからね。

 

「これで……よし」

 

ミヤコさんに個人的にある連絡をした私は、別のところにもメールを送った。

 

「ふふ、楽しみだなーー」

 

二人の晴れ姿を想像しながら、私は眠りに落ちた。

 




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そろそろ主人公をルビーちゃんとアクアくんに絡ませたいなぁ
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