奇跡の子   作:マロンと栗

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お気に入り登録者数が60人……まさかこんなに多くの人が!と驚いています。
誤字脱字報告もありがとうございます。助かります。



第三話

ミヤコさんから昨日の件で許可を貰った。あとは向こうの連絡待ちだけど、多分大丈夫だと思う。

だって私はこれでも苺プロ所属の登録者数百万人以上のユーチューバーだからね。芸能科がある学校なら大歓迎でしょ。

 

「噂をすれば……かな」

 

私のスマホが鳴る。通知を見れば差出人は陽東高校だった。

直ぐに確認すると、概ね私の思っていた通りの内容でホッとする。あとはお偉いさんの許可待ちって感じかな。

まぁ、実質オッケーみたいなもんでしょ。

これで、ルビーとアクアの入学式に堂々と出席できる。

 

(あー、良かった)

 

この気持ちを誰かと共有したい。

でも、私にそんな人は……あぁ、一人いたなぁ。

一昨日会ったばっかりだけど、別にまた会いに行ってもいいよね。だって私は苺プロ所属だし。

 

善は急げ?

 

直ぐに出掛ける準備をした私は、タクシーを呼んで苺プロへと向かった。

何もかも今のところ上手くいっている。

ただ誤算があるとすれば、ミヤコさんの予定を聞いていなかったこと。

 

苺プロに着いたけど、肝心のミヤコさんが居なかった。スタッフさんに聞いたらどうやら仕事で出掛けているらしい。その人も、今から仕事があるといって部屋に籠ってしまった。

 

この前と同じ部屋―――原作の登場人物が良く集まる部屋―――に通された私は、一人ぽつんと椅子に座る。

家に帰っても良かったけど、帰った所で何もすることがないからね。

 

椅子から立ち上がった私は、適当に部屋を物色する。

ぴえヨンのサイン色紙が飾られていたから、棚にあった色紙に奇跡の子のサインを書いて置いておく。

勝手に書いて怒られないよね?まぁ、怒られたら謝ればいいんだけど。

 

ふと別の場所を見れば……私の写真が飾られていた。その横の花瓶には、花が添えられている。

 

「……良い笑顔」

 

この笑顔のパターンは知らなかったけど……うん、覚えた。

私は確認の意味も込めて鏡の前に立つ。

そして、被っていた段ボールを脱ごうとして―――。

 

「うぇー!? きっき奇跡ちゃんがいるー!!」

 

後ろから聞こえてきた声に、慌てて段ボールを被りなおす。

 

そこには、私の子供……星野ルビーが立っていた。

 

 

 

 

 

 

星野ルビーは、前世の記憶を持つ転生者である。

前世は難病を患った少女であり、若くしてこの世を去った。そして、何の因果か前世で推していたアイドルの、双子の子供の一人として生を受ける。

生まれて数年間は推しの子供という幸せな生活を送っていた―――しかし、母親である星野アイがストーカーに刺殺されてルビーの幸せな生活は終わりを迎える。

 

それから十数年。

 

星野ルビーは、アイドルを夢見る少女に成長していた。あの日の事件はルビーたちの心に大きな傷を付け、今なおそれが癒えることはない。

しかし、母親である星野アイが亡くなる寸前に願った言葉が、ルビーの心の支えになっていた。

 

『ルビーは将来アイドルになってさ……なんか上手くいったら親子共演みたいな……』

 

その言葉を胸に秘め、ルビーは今日まで生きてきた。

そして昨日、その夢の第一歩を踏み出した。母親と同じ苺プロダクション所属のアイドル(自称)になることが出来た。

まだメンバーもグループ名も何も決まっていない状態だが、それでもルビーにとっては大きな一歩だった。

 

(見ててねママ……私もママみたいなアイドルになるから)

 

スマホの待ち受け画面に映る星野アイに、にへらと笑ったルビーは、苺プロのドアを開ける。

今は高校受験という大事な時期。

もう少しで陽東高校の入試だが、一般科志望のアクアとは違いルビーの志望は芸能科である。そちらは学力よりも面接を重視しているので、ルビーは受験勉強を二の次にしていた。

 

「勉強は良いのか」と口うるさい双子のアクアも、今日は彼が子役時代からお世話になっている監督の所に行っている。だから家で怠惰な一日を過ごしても良かったが、苺プロへとやって来た。

 

理由は特にない。前は代表取締役のミヤコさんの養子という立場で来ていたが、今は所属タレントである。

そう、所属タレント。

まだ誰にも認知されていないが、所属タレントである。

 

(ふふ~ん、嬉しいな!)

 

仕事のないルビーが苺プロに来る必要はないが、強いて言えば「嬉しいから来ちゃった♡」である。

そして、廊下を進んだ先の部屋に入ったルビーが目にしたのは―――段ボールを被った不審人物だった。ジャージ姿だが、線の細さと身長で女性だとわかる。段ボールの後ろ姿しか見えないが、そこにはカラフルに描かれた星が描かれていた。それを見たルビーは、彼女が同じ苺プロ所属のタレントである奇跡ちゃんだと直ぐに気づいた。

 

「うぇー!? きっき奇跡ちゃんがいるー!!」

 

星野アイを頂点とするルビーの推しの中で、今一番熱い人物だった。見間違えるはずがない。

自分でも思った以上に声が出たなと思いながら、ルビーは驚きの声を上げる。

 

ルビーの声に反応した奇跡ちゃんが、物凄い速さで振り向く。

綺麗なターンステップだった。まるで羽のように軽く、それなのに刃物のように鋭い動き。

 

(……ママ?)

 

一瞬だけ、彼女の姿が母親と重なる。彼女が持っていた写真立て―――その中に写る星野アイと目があった気がした。

 

ペコリ―――段ボールを被った不審者もとい奇跡ちゃんが、ルビーに頭を下げる。

 

「あ、どうも……」

 

ルビーも釣られて頭を下げる。いそいそと写真立てを元の場所に戻した彼女は、そのまま動かない。

いや、よく見ればびみょーに動いている気がする。震えているのかもしれない。

 

「―――、―――。――――――――」

 

なにやらボソボソと聞き取れない声で言っているようだが聞こえない。ルビーはその内容が気になって近づく。

 

「――――っ!?」

 

あと少しで聞こえるか、聞こえないかという所でルビーに気づいた彼女が振り向いた。

 

「わっ! バレちゃった」

 

ルビーは、悪戯が成功した子供のように無邪気に舌を出して見せる。その時も何やら奇跡ちゃんはボソボソと震えながら呟いていた。

 

「初めまして奇跡ちゃん!私は星野ルビー、昨日から苺プロに所属することになりました!」

 

そう言ってルビーは手を差し出す。

一瞬迷う素振りを見せた奇跡ちゃんだったが、彼女の手を握り返した。

 

「うわっ!奇跡ちゃんの手めっちゃやわらかー!」

「!?!?」

 

ガシリと奇跡ちゃんの手を両手で握りしめたルビーは、彼女の手を余すことなく堪能する。

 

(ナニコレ指ほっそ!? 肌がぷにもちでずっと触ってたい。それに……なんか)

 

「奇跡ちゃんの手握ってると安心する―……何でだろ?」

「……」

 

首を傾げなら、ルビーは彼女の手を触りまくる。その答えを探すように。

もう少し―――もう少しで答えにたどり着けそうなのに、決定的なナニかが足りない。

うーんと考えるルビー。その間も、彼女の手は奇跡ちゃんの手をまさぐり続けた。

 

「あっ……ごめんね」

 

流石にこれ以上は触りすぎだと思ったルビーは、奇跡ちゃんの手を放す。手に残った彼女の温かさが、瞬く間に失われた。

途端に名残惜しくなったが、また握る訳にもいかない。

ルビーは誤魔化すように椅子に座ると、ずっと立っている奇跡ちゃんに話しかけた。

 

「奇跡ちゃんは今日お仕事できたの―――って声出しNG?」

「ダイジョウブー」

「うぇ!?声たっか!!ぴえヨンみたいー」

 

突然聞こえた高い声に、ルビーは驚く。

初めて聞いた奇跡ちゃんの声。流石にこれが本当の声じゃないとルビーはすぐわかった。どうして声をかえているのかはわからないが、誰も聞いたことがない彼女の声を聞けたのだ。それ以上は望まない。

とりあえず、奇跡ちゃんのファンであるアクアに自慢することは確定した。

 

「キョウハ、ヒマダカラキタカンジカナー」

「私と一緒だね!」

「ウン、イッショダネー」

 

奇跡ちゃんが、ルビーの体面に座る。段ボールの顔が、ルビーをジッと見つめてくる。視線を確保するために開けられた二つの穴は、真っ暗で何も見えない。どうにかして素顔が見えないかと、ルビーは左右前後に角度を変えてみたが駄目だった。

 

「ミタイ?」

「うーん……いいかなー」

「ソッカ」

 

見たくないと言えば嘘になるが、無理してみたいわけじゃない。とルビーは思う。奇跡ちゃんは覆面系でやっているユーチューバーだ。推しの素顔は気になるけど、そのアイデンティティーを破ってまで見たいとは思わなかった。

 

ただ、スキがあれば見るつもりではあるが。

 

そう奇跡ちゃんに伝えると。

 

「あはは」

 

奇跡ちゃんが笑った。素の声で。

彼女の楽しそうな笑い声を聞いただけで、ルビーもなんだか楽しい気持ちになる。一緒に笑いたくなる衝動に駆られる。

奇跡ちゃんの声には、人を魅了する力があるとルビーは感じた。ずっとこの子の声を聴いていたいと思えてしまう。

 

(ママみたいな……)

 

ルビーは自身の母親を思い浮かべる。

最推しである星野アイも人を魅了するカリスマ性があった。前世の「天童寺さりな」の闘病生活中に、何度彼女の笑顔に励まされ、何度彼女の笑い声で笑顔になっただろう。主治医であり初恋の先生と星野アイのおかげで、「さりな」は最後の最後まで幸せでいれた。

そして、初恋の先生が言った言葉と母親が亡くなる寸前で言った言葉を夢に今日まで走ってきた。

 

その第一歩を踏み出せた。

嬉しさがあふれ出す。

 

「ねぇ奇跡ちゃん!私ね―――アイみたいなアイドルになりたいんだ!!ううん、絶対なる!!」

 

キラキラと片目に一番星を輝かせて、星野ルビーは奇跡ちゃん(星野アイ)に宣言した。

ルビーの熱量に、彼女は少し呆気にとられる。その間にも彼女の最愛の娘は「アイって知ってる?知ってるよね!!前に奇跡ちゃんが踊ってみたで踊ったこの曲が―――」と、若干鼻息荒く嬉しそうにスマホを操作した。

 

そんなルビーを見た彼女は、笑顔で囁く。

 

「ルビーなら絶対になれるよ」

 

しかし、スマホに夢中になっていたルビーは気づかない。

 

「うん?今何か言った?」

「ナンデモナイヨー」

「そう? それでね!この曲を踊っている時のアイちゃんが―――」

 

楽しそうに話すルビーを見る彼女の瞳は、少しだけ湿っていた。

 

それから暫くルビーは、彼女に星野アイのどこが素晴らしいのかを身振り手振りで、時には動画を見せながら伝えた。その熱とオタク特有の言い回しに、若干娘の頭が心配になるアイだった。既に涙は引いていた。

 

―――それから二時間後。

 

「―――貴女たち、何してるの」

 

仕事から帰ってきたミヤコが見た光景は、何処からかパクってきたプロジェクターでB小町のライブ映像を流して盛り上がっているルビーと奇跡ちゃん。手にはサイリウムと『アイLOVE』のウチワ。

 

ミヤコは、大きなため息一つ。固まる二人と、映像のアイがポーズをとった。

 

「とりあえず、貴女たちそこに正座ね」

 

ミヤコの静かな怒りが、彼女たちに落ちた。

 




暫く主人公はルビーちゃんとミヤコさんと絡む予定。
アクアくん?彼は監督のとこでバイトしてるから中々ね……
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