奇跡の子   作:マロンと栗

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お気に入り数が昨日の倍以上の数字になってて驚愕しています。
ありがとうございます。


※今回のお話で、独自解釈と独自設定が入ります。


第四話

ミヤコさんにこってりと絞られた私とルビーちゃんは、暗くなるからと半ば強制的に苺プロの事務所から追い出された。

 

「あはは、怒られちゃったね」と悪びれもなく言うルビーは、どこか楽しそうだった。

そんな彼女の様子を、一歩後ろで見守る。

 

ルビーはずっと笑顔で、楽しそうで、天真爛漫という言葉が似あう素敵な女の子に成長していた。

勿論、ルックスは私に似て美人だ。

つまり、きゃわわー!!!!!である。

 

何度「ルビーちゃんきゃわわーーー!!」と心の中で叫んだかわからない。

そりゃー、原作を知っている私からすれば、ルビーが可愛いのは知っている。無事?に大きくなってくれているのはわかっていた。

 

でも―――

 

(ありがとう。元気に成長してくれて)

 

あぁ、ダメだなぁ。また泣きそうになる。

ひと前で泣いた事なんてないのに、段ボールっていう仮面を被っているからかな。

今すぐ段ボールを取ってルビーを抱き締めたい。この気持ちをあの子に伝えたい。

でも、もう少しだけ……もう少しだけ待って欲しい。

 

私は握りこぶしを力強く握る。

 

「イエマデオクルヨー……チカクデショ?」

「えぇ!?良いんですか!!嬉しいですーー!」

 

そう言ってルビーは私の手を握る。私と同じ星の瞳が、キラキラと輝いていた。

家が事務所の近くと言っても、そこまでは徒歩で帰ることになる。

ルビーは美人だ。帰り道に何かあったら……そう考えるだけで眩暈がする。

 

何かあったら、私がルビーの代わりに―――。

 

「あっ!でも私の家って事務所の隣のココなんだよねー」

 

そう言ってルビーは、事務所の隣にある建物を指さす。

あ……うん。

 

「ソッカ」

 

それしか感想が出なかった。

まぁ、うん。ルビーたちの家が知れて良かったよ。ほんとに。

 

これならまぁ、安心だね。

私の帰りそうな素振りに気づいたのか、ルビーが口を開く。

 

「アクアもそろそろ帰ってくると思うので、良ければ一緒に待ちませんか……?」

 

ルビーがもじもじと申し訳なさそうに提案してきた。そのきゃわわな姿を脳に焼き付ける。このままだと私の容量が足りないね。

 

「ゴメンネー。ソロソロワタシもカエラナイト」

 

愛しのルビーの為に残りたい。アクアにも会いたい。

でも、今日はちょっとやることがあるからまた今度。

 

「そうですよねー……また、遊びに来てください!!アクアも喜ぶんで」

「ウン、アリガトー」

 

私はルビーに手を振ると、彼女も笑顔で手を振った。

 

……ポケットからスマホを取り出す。

 

「レンラクサキ、コウカンシヨー」

「えっ!?良いの!!するするー!!」

 

嬉々としてルビーはスマホを取りだす。

慣れた手つきでスマホを操作した彼女は、QRコードの画面を私に見せた。それをスマホで読み取ると、友達の欄に「星野ルビー」が追加された。

 

「うわー!推しと連絡先交換しちゃったー」

 

嬉しそうにはしゃぐルビーを見て、私も自然と笑顔になる。

私こそ嬉しいよ。

何時までも彼女の笑顔を見ていたいけど、今日はちょっとやることがあるからね。

 

本当に、ホントに残念だけど……

 

「ジャ、マタネー」

「うん!またねー!!」

 

私はルビーと笑顔で別れる。段ボールで顔は見えないけど。

 

外はもう真っ暗だ。

 

タクシーを捕まえると、この前と同じ運転手さんだった。向こうも私の段ボール姿を見て察したのか「先日はありがとね」と言って乗せてくれた。

タクシーが、先日と同じ目的地に向かって進む。

 

ルビーは夢に向かって進み始めた。アクアも……どうだろう?夢じゃないけど目的に向かって進んでいる。褒められた目的じゃないけど。

 

(手遅れになる前にアクアのメンタルケアしないとなー)

 

あの子は、私を救えなかった罪悪感と己の無力さ、喪失感で心を病んでしまった。普段はクールな物言いで大人ぶってる感じだけど、原作を見た私からすればルビーよりもアクアの方が心に深い傷を負っていると思う。

 

どうするべきか……正直かなり迷っている。

 

私の原作知識は八巻くらいまでだ。絶対にもっと出てたはずだけど、それ以降の巻の記憶がない。でも、社長とアクアの会話シーンや要所要所のシーンは断片的に覚えている。

星野アイの記憶も―――少しだけある。これはハピエン厨の彼の仕業かな。

 

話を戻そう。

 

アクアのことだけど……どっちに転ぶかわかんないんだよなーー。

息子の事もわかんないようじゃ母親失格だね。

でも、本当にわからない。

アクアならこういう選択をするんだろうなって思うルートはあるけど、間違えたらバッドエンド直行なんだよね。

慎重に行動するべきだって思う反面、逆にアクアには直球ど真ん中勝負で本気で語り合えばいけそうな気もする。

そもそも私が生きてるって知れば復讐は止めそう……いや、犯人探すまで止めないよなぁ。

 

とりあえず、アクアに会ってみないとわからないかな。

 

幸い、アクアが闇堕ちするのはまだ先だ。今は片鱗が見え隠れしている程度……ルビーの連絡先は知ってるから、会おうと思えば会えると思う。多分、きっと。

だから、当初の予定通り「二人の入学式」という超特大イベントに備えるべきかな。

 

私がスマホを見ると、ルビーから「今日はありがとうございました」という連絡が来ていた。

 

(ふふ、きゃわわ)

 

ルビーに返信をしていると、何時の間にか目的地に到着していた。急いで運転手さんに料金を払い、途中だった文字を打って返信を終えた。

 

スマホの時間を見る。

 

まだ慌てるような時間じゃないけど、急ごうかな。

私は少し早歩きでマンションに向かう。

 

自分の部屋に帰ってきた私は、被っていた段ボールを脱いでマスクとサングラス、帽子を深く被って一度部屋を出る。

エレベータ―に乗ってマンションの一階にやって来た私は、隅の方にポツンと置かれた公衆電話に向かった。

 

受話器を上げて、硬貨を入れる。

 

そして、私の覚えている数少ない電話番号の数字を押した。

 

プルルルル―――コール音が静かに響く。

一回、二回―――数回鳴って留守番電話に切り替わる。

 

呼ぶってことは、番号はあっている筈……だよね?

 

もう一度同じ番号に電話を掛ける。

でない。

もう一度掛けなおす。

でない。でないでないでない。

 

(おかしいな?まだ全然寝る時間じゃないから起きてると思うんだけどなぁ)

 

一応、周りを確認する。電話を使いたい人はいないね。っていうか人っ子一人いないけど。

 

私はゆっくりと番号を押して掛ける。

コール音が数回鳴った後……繋がった。

 

「―――どちら様ですか」

 

受話器からあの子の声が聞こえる。

 

「やほー!久しぶりだね……○○ちゃん」

 

私は受話器の向こう側にいる相手に、笑顔で話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

うす暗い一室。

辛うじて机に置かれたパソコンから漏れる光が、この部屋唯一の光源だ。画面にはB小町の衣装を着た星野アイが、笑顔で映っていた。

光によって照らされた部屋は、混沌とした汚部屋だ。捨てずに置かれたゴミ袋が無造作に置かれている。しかし、床にゴミは一つも落ちていない。

壁にはポスターのような物を貼り付け、破り捨て、貼り付け、破り捨てた跡が無数に残っていた。

一つだけ残ったひと際大きなポスターにはB小町のメンバーが写っており、星野アイを始めとする面々が笑顔で並んでいた。しかし、星野アイともう一人を除いたメンバーの顔は、黒いペンでぐちゃぐちゃに塗り潰されている。

そんな狂気じみたポスターに写る星野アイは、何時もと変わらない笑みを浮かべる。彼女に寄り添うような形で、この部屋の主である女が壁に寄りかかっていた。

女は、虚ろな瞳でパソコンの画面を見つめ、今ではめっきり見なくなったCDプレイヤーで、自身が所属していたB小町の曲を聞く。

近くには、星野アイの手描きサイン入りのCDジャケットが転がっていた。

 

「アイ、貴女は……どうしてそんなに眩しいのよ」

 

女は、うわ言のように呟きながら手を伸ばした。その手は、パソコンの画面に映る星野アイに真っ直ぐ伸びる。

女とパソコンの距離は遠い。手を伸ばしただけでは届かない。

それでも、彼女は手を伸ばす。届くはずがないのに精一杯伸ばして―――ガクリと項垂れる。

 

「はは……そうよね。貴女は一番星で、私は二番。同じ星でも、貴女と私では大きな差があるのよ」

 

虚ろな瞳の女は乾いた笑い声を上げる。女は、星野アイと同じB小町のメンバーであると同時に、彼女の初めての友達だった。ライバルだった。

 

(そうよ。あの子の隣に立てる人は誰もいなかったのよ……)

 

いや、女だけがそう思っていたのだろう。

彼女に追い付こうと努力して―――努力して―――努力した。

しかし、どんどん突き放されて、気づいたら手の届かない所まで行ってしまった。

 

女は、星野アイも努力をする人だと知っていた。ライブ終わりで他のメンバーは帰った後も、残ってライブ映像を見直して、ダンスの練習をしていた。新しい楽曲を貰った時も、ツラい練習終わりも、彼女は最後まで残って練習していた。

 

全部知ってる。あの子は努力していた。

全部見てきた。あの子は頑張ってた。

 

あんなに頑張っていたんだ。その結果が出て、報われて当然だ。

だから女も、負けないように頑張った。努力した。

あの子の隣に、堂々と胸を張って立てるように。輝けるように。

 

でも、無駄だった。星野アイは一番星だ。天才である。

二番星がどんなに早く輝いても、一番と二番の差は埋まらない。凡人が天才に並べる筈がなかった。

 

世間の評価も同じだった。

星野アイ以外はただのオマケ、盛り上げ役、引き立て役でしかない。隣に立つことを許さない。

グッズの販売数、チェキ、ファンの数が彼女に現実を突きつける。隣に立とうなど、おこがましいと。

 

理不尽だった。妬ましかった。悔しかった。憎かった。

 

女は一度だけ、その思いを星野アイにぶつけた。

きっかけは何でもない彼女の一言だったと思う。何時もなら女も一言二言嫌味を言って終わるつもりだった。

 

「―――ちゃんはいいな~」

 

星野アイが何でもないように言う。我慢の限界だった。

そこからは、女の中で溜まっていた物が溢れ出す。

相手の顔を見ずに、罵詈雑言を叩きつける。

メンバーから、友達からこんな言葉を投げ付けられて、彼女はどう思っているのか。

女だったら、それは悲しいし何でそんな酷い事言うんだと怒る。

しかし、星野アイは何も言わない。だから、わからない。

 

(なんで言い返さないのよ!ぶつかって来ないのよッ!!)

 

言い返して来ない彼女に腹が立った女は、言ってはいけない言葉を口にする。

 

「あんたなんて、死ねばいいのよ!!!」

 

女はそこで「しまった」と思った。

怒りが嘘のように収束する。

流石に言い過ぎたと彼女はその時初めて星野アイと目を合わせ―――星野アイが静かに笑っていた。

 

何でもないように。罪を懺悔する者を見守る聖母のような優しい笑みだった。

 

女は、彼女の隣に立つことを諦めた。

 

星野アイは一番星。誰も適う事が出来ない最強無敵のアイドルだ。

ただの人間では、彼女の心の内を覗く事は出来ない。

 

 

星野アイが妊娠した。それはアイドルとして致命的な弱点で―――弱点?アイは最強無敵のアイドルだ。弱点なんてない。あってはいけない。

 

失敗した。星野アイは子供を産んでしまった。

 

星野アイが、女だけに子供の写真を見せる。双子だった。内緒だよと言って話す彼女の顔には幸せが溢れていた。こんな顔、女は知らない。羨ましい。妬ましい。

 

星野アイは最強無敵のアイドルだ。弱点なんてない。

弱点なんて必要ない。

 

―――弱点だけが残ってしまった。

 

 

星野アイが死んで、数年後にB小町は解散した。

当たり前だ。星野アイの居ないB小町は、みんなが望むB小町じゃない。

女もそれはわかっていた。だから、解散するときも特に何も思わなかった。これは必然だと、自分に言い聞かせた。

 

それから十数年。

 

女は、未だに星野アイに囚われていた。

同期たちが皆幸せな家庭を築く中、彼女だけは星野アイをずっと見続けた。彼女の事を、一日たりとも忘れたことはない。見逃したことはない。

 

世間一般が星野アイを伝説のアイドルだったと語る中、彼女の中では今も「星野アイは最強無敵のアイドル」だった。

星野アイは最強なんだ。一番で、強くて、弱点も、弱音も、ましてや後悔なんてしない唯一無二な一番星なんだ。

 

そうじゃなきゃ、星野アイはアイじゃない。

 

だから、女はあのブログを消した。

あそこに書いてあったのは、女とメンバーに向けた星野アイの本心。

 

いや、違う。

 

女は頭を抱える。

要らぬ考えを頭から追い出すように、ガシガシと乱雑に髪の毛を搔きむしった。耳に付けていたイヤホンが、静かに落下する。

 

「違うのよ……アレはアイじゃない。あんなのアイじゃないのよ……アイはアイはアイはっ!!!」

 

女の知っている―――そうあれと願ったアイは、最強無敵のアイドルで一番星だ。

あんな年相応の思いと願いを綴ったモノが、アイな訳がない。

 

だから消した。

誰にも見られないように、誰にも知られないように。女の中の偶像が崩れないように。

 

―――でも、女は思ってしまう。たまらなく、思ってしまうのだ。

 

もしも、もしもあの時、アイが自分に本心をぶつけてくれていたら……。

 

「結局……貴女はあの時なにを思って笑顔だったの…………教えてよ。アイ」

 

女は、パソコンのアイに縋る。画面に映る彼女は答えない。

ただ、あの時と同じように、彼女に優しい笑みを向けるだけだった。

 

―――プルルルル。

 

女のスマホが鳴る。画面の光が、彼女を照らす。

鬱陶しい程眩しい光だ。

虚ろな瞳でスマホを見た女は、ふらふらとスマホを手に取る。

非通知からだ。出る価値もない。

そのままぼーっと画面を見ていると、電話が切れてふっと画面が暗くなる。

 

―――と、思ったらまた直ぐに光が女を照らす。スマホが鳴る。

 

女は虚ろな瞳でそれを眺め、また暗くなる。

これで終わりかとスマホから目を離そうとすると、またスマホが鳴った。

 

無視をする。

鳴る。

無視をする。

鳴る。

 

(……こいつ)

 

女の瞳に生気が宿る。

電話をかけてくる相手は、自分勝手な人間なのだろう。これだけ出ないって事は、相手は何かしら用事があるから出れないって事だと何故わからないのか。

一瞬、パソコンの画面に映る自由奔放な彼女と目が合う。

 

一言くらい嫌味を言ってやろう。

 

女は瞳に怒りを宿して、電話に出た。

 

「やほー!久しぶりだね……ニノちゃん」

 

死んだ筈のアイから電話がかかってきた。

 




本当はもう少しキリが良いところまで書きたかったのですが、長くなりそうなので一旦区切りました……

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