奇跡の子   作:マロンと栗

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第七話

アイ()にとってB小町のメンバーは大切な存在だ。その中でも新野冬子―――ニノちゃんは私にとって特別な存在だった。友達だったと思う。

 

当たり前だけど、原作を知っている私はニノちゃんの犯した罪を全部知っている。

 

(全部……うーん、あの子の心の中を知ってる訳じゃないから全部じゃないかも)

 

まぁ、知ったうえで私は彼女に連絡をした。泣いて謝る彼女を許した。会う約束までしちゃった。

 

たぶん、私はバカなんだと思う。

ニノちゃんはアイの殺人に関与していた人間だ。生きていると知ったら殺されるかもしれない。私が生きているとバラすかもしれない。

それに、自分を殺した人間を許す人はいない。それ以前の問題かもしれないけどね。

 

でも、アイが死んだ日。自分を刺したストーカーに対してアイは言った。

「嘘は愛―――何時かそれが本当になることを願ってる」自分を刺した相手の事ですら愛そうとした彼女の願い()を、アイ()が否定する訳にはいかない。

 

だから私はニノちゃんを許す。それが何時か本当になることを願って。

私は彼女に「()」を囁くんだ。

 

「ニノちゃんに会えるの楽しみだなぁー」

 

私は本当に楽しみだという感情を溢れさせる。そうすると、色々話したいことが浮かんでくる。「今どこに住んでるの?」とか「彼氏は?結婚してる?子供いるの?」とか……でも、事件の事は絶対に話さない。

なんでって? 折角十数年ぶりに仲直りした友達と会えるんだよ。楽しい話題の方が良いに決まっている。

勿論、向こうが話したいなら別だ。でも、私からは言わない。

 

だってもう許したから。

 

でも、ニノちゃんの犯した罪は、当事者の私が許しても法律は赦してくれないだろう。「ごめんで済んだら警察はいらねーよ」ってヤツだ。それは仕方ない。彼女が罪を償う日が必ずやってくる……と思う。

 

でも、その前にニノちゃんには絶対の絶対にやってもらうことがある。

だから私はニノちゃんに会ったらその話をするんだ。絶対に嫌がると思うけど、私も絶対に譲らない。

 

(ふふ、本当に楽しみだなー)

 

ニノちゃんに会う日までに、色々準備しておくものがある。お店の予約もそうだし、お願いの為にミヤコさんに言って借りる物もある。

あとは……そうだね。別件だけどアクアのメンタルケアの準備もしないといけない。

 

やることが山積みだ。でも、全然苦じゃない。

 

(とりあえず今日はお店の予約をするとして……あれ?)

 

部屋に戻る途中。

マンション一階のエントランスを歩いていると、出入り口付近で言い争う影が二つ。一人は大人で、もう一人は小さな子供。大人の方はこのマンションの警備の人で、なんだか困り顔で子供に言っている。

 

(迷子かな?まぁ、警備の人がいるからいいか)

 

私はそのまま通り過ぎようとして―――。

 

「あっ、お姉ちゃん!!」

 

そんな声が聞こえた。こちらに向かってくる小さな足音が聞こえる。

 

ガバ―――と誰かに抱き着かれた。

 

痛っ……ちょっとまだそこら辺痛いんだよね。

 

びっくりして腰のあたりを見てみると、小さな腕が私をがっちりとホールドしている。

白髪の少女が、私を見ていた。

 

「頼む。合わせてくれ」

 

可愛い声でそう言った彼女の元に、先程の警備の人が慌ててやってくる。

 

「もしかしてこの子の親族か何かですか?」

「……」

 

無言を貫く私に、白髪の少女が慌てて口を開く。

 

「お姉ちゃん口下手で極度の人見知りなんだー……ねぇ、お姉ちゃん」

 

ニコリと花が咲いたように微笑む少女。遠巻きから見る分には可愛らしい花だけど、ぐりぐりと顔に押し付けられている気分……空気読めよって。

 

「お姉ちゃんと私を間違えちゃったかなー」って知らんぷりしても良いけど、彼女の事は原作で知っている。まさかこんなに早く会うことになるとは思わなかったけどね。

 

(貸し一つね)

 

私はサングラス越しに少女に目で訴える。

小さく頷いて了承した彼女を見た私は、警備の人の前で少女を抱き締めた。不器用ながらも頭を撫でて、いかに少女が私にとって大事な子なのかを精一杯身体で表現する。

その様子を見ていた警備の人の顔が、安堵に包まれるのがわかった。

 

「ふぅ、良かったです……でも、一人で夜に出歩いちゃダメだよ」

「はーい」

 

警備の人がそう言うと、少女は元気に返事をする。全く、とんだ役者だね。

私と少女は手を振って彼を見送る。

 

「ふぅ……助かったよ。まさかマンションに入るのに鍵が必要だとはね。流石に焦ったよ」

 

そんなことを言いながら、少女はエレベーターに向かう。わざわざ背伸びをして上のボタンを押した彼女は、図々しく言った。

 

「では、立ち話もなんだ……君の部屋で話そうか」

 

チン―――と、エレベーターがタイミングよく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「良いところに住んでるね」

 

少女が適当に部屋を見回った後、ベッドに飛び乗る。弾力がお気に召したのか、「おぉー」と座りながら跳ねる彼女は年相応の子に見えた。

勿論、そんな訳がない。

彼女の名前は……記憶にない。でも、芸名でツクヨミを名乗っていたのは覚えてる。

 

(記憶が混濁してるなぁー。私が知ってる原作知識は八巻までだと思ったけど、これは絶対違うよね)

 

まぁ、今気にするのはソコじゃない。ツクヨミちゃんが私の所に来た理由だ。

 

私はベッドではしゃぐ彼女を一旦スルーして、キッチンへと向かう。その途中でマスクとサングラス、帽子を取った。

 

ツクヨミちゃんはどーみても普通の子じゃない。アクアとルビーが転生者だと知っているし、描写はなかったけどアクアになにかしら吹き込んでいるのは確かだ。

言い回しも何処か偉そうだし、私の予想ではハピエン厨の彼や、それに近い存在だと思ってる。

 

だから、慎重にならないといけない。

 

私はどデカい冷蔵庫の前に立つ。ツクヨミちゃんなら余裕で入っちゃう大きさだ。その横の流し台には、何時使ったのかわからない包丁が置いてあった。

冷蔵庫の中を確認する。調味料があるだけで、ほとんど何も入っていない状態だった。

次に冷凍庫を確認する。こちらはギュウギュウに入っている。

 

とりあえず、あの子の話を聞かないとね―――。

 

 

 

 

 

 

「……行ったか」

 

少女―――ツクヨミはベッドではしゃぐのをやめて、座り直す。

マスクとサングラスで顔は良く見えなかったが、雰囲気は星野アイそのままだ。抱き着いた時に体温と心音が聞こえたから、死体が動いている訳でもない。

つまり、生きていると言える。

問題は、彼女の顔を見れなかったことだろう。もしかしたら、万に一つも雰囲気が似てるだけの他人かもしれない。ただ、頼んで素直に顔を見せてくれるかは不明だ。最悪このまま頑なに隠され続けたら、身長差のあるツクヨミではどうすることも出来ない。

 

しかし、そんなツクヨミの心配は杞憂に終わる。

 

こちらに向かってくる足音が聞こえる。ツクヨミは、入り口に視線を向けた。

彼女が部屋に入ってくる。その素顔を見たツクヨミは静かに目を細めた。

 

(なるほど、本物か)

 

彼女は星野アイだった。紫がかった黒髪に、美人過ぎる顔。特徴的な星の瞳が、キラキラと輝いていた。

これでただのソックリさんだったら笑えるが、そうじゃないから笑えない。

 

ツクヨミはアイに疑問を投げかけようとして―――。

 

「ねぇ!ハーゲン〇ッツはどの味が好き?」

「―――は?」

 

先を越された。

ツクヨミが視線を下に向ける。アイの顔ばかり見ていたので気づかなかったが、彼女はお盆を持っていた。その上には、アイスのハーゲンダ〇ッツがこれでもかと乗っている。

 

この中から選べということだろうが正直今出す意味が分からなかった。

 

(流石に、私の財布の残高がこれ一個も買えない……と見抜いての嫌味ではないか)

 

山のように積まれたお高いアイスを見ながら「これだけあればタクシー乗れたな」なんてツクヨミは思ってしまう。

 

(……違う。彼女のペースに呑まれてはダメだ)

 

ベッドの上で立ち上がった彼女は、アイを睨んだ。

 

「星野アイ、何故君は生きている?」

 

彼女の質問をとりあえず無視した。

今はアイスよりも話すべきことがあるだろうとツクヨミは目で訴える。

 

「えー、今は私が質問してるんだよ?好きなハーゲン〇ッツはどれ?」

 

どうやら譲らないらしい。

ぐいっとお盆を近づけられたツクヨミは、バランスを崩して倒れそうになる。寸前で持ちこたえた彼女は、抗議の視線をアイに送った。

しかし、当の本人は何も思っていないようで「溶けちゃうから早く選んでね」と笑顔で言った。

 

渋々、適当に―――ストロベリー味を選んだ。というか殆ど同じ味しかない。

 

「おっ、お嬢さんお目が高いねー。私と一緒!」

 

「にへへ」と笑ったアイが、アイスの包装紙を取ってスプーンと一緒にツクヨミに渡す。

 

「……ありがとう」

 

それを受け取ったツクヨミは、お行儀よくベッドに腰掛ける。理由はわからないが、居心地が悪かった。

多分、フカフカなベッドのせいだ。

食べ物を溢すことはありえないが、万が一もある。ベッドを汚してはいけないとツクヨミが「リビングで食べようか」とアイに言ったが、そこで大丈夫だと言われてしまった。

 

「いらないアイス置いてくるねー」

 

ツクヨミの返答を待たずにアイは部屋から消えていった。

残された彼女は、まだ凍っているアイスをチビチビと削りながら食べるしかなかった。

 

「お待たせ」

 

片手にアイスを持ったアイが戻ってくる。ツクヨミの隣に座った彼女は、アイスを一口食べた。

 

「うん、やっぱりハーゲン〇ッツは美味しいね」

 

ツクヨミに笑顔を向けて、アイは美味しそうにアイスを食べる。そんな彼女を見て、ツクヨミは目を丸くした。

 

(どういうことだ?アイの魂は確かに消えたはず……)

 

目の前でアイスを美味しそうに頬張るアイは、ツクヨミから見ても本物だった。

一口アイスを食べる。ツクヨミの口に苺の風味とアイスの甘さが広がる。

ルビーやアクアのように、前世の魂を空っぽの器に移して転生させる術は知っている。

アイスを食べる。シャリシャリとした苺の触感が心地よい。

しかし、肉体と魂を復活させる術など存在する筈がない。じゃあ、目の前にいる星野アイは死んだのになぜ生きているのか。

 

(いや、待て……何時から私は彼女が生きていると思い始めた?)

 

記憶にない。ありえない事だった。

ゾッとした。ツクヨミの知らない所で、この世界の理が書き換えられている。そんなバカげた事が出来る存在を、彼女は知らない。

仮に存在を知った所で、ツクヨミにはどうすることも出来なかった。己の記憶ですら弄られているのに、どう立ち向かえというのだ。

 

アイスは何時の間にかない。気づかない内に食べ終わったのだろう。

 

ツクヨミが隣を見れば、同じくアイスを食べ終わっていた星野アイがこちらに笑顔を向けていた。彼女の特徴的な瞳が、星のように輝いている。ただ笑顔を浮かべているだけなのに、人を惹きつける力があった。

だが、ツクヨミはアイの笑顔がたまらなく恐ろしかった。この恐怖心は、彼女を知らないからくるものだと直ぐにわかる。

だからこそ、目の前の存在を知らなければいけない。

ツクヨミは、今度こそ彼女に答えて貰うために口を開く。

 

「私の質問に答えて貰おうか。星野アイ」

「えーと、なんだっけ?」

 

アイが顎に人差し指を当てて考える。人受けを狙ったような動きだ。その仕草一つで、大抵の男は落とせるだろう。

普通の人間がやればワザとらしい仕草も、アイがやれば絵になる。まさに天性の才能、彼女がアイである紛れもない証拠だ。

しかし、ツクヨミは問いかける。

 

「死んだ君が、何故生きている?」

「あー、そうだったね!」

 

アイの笑顔が深まる。

 

「奇跡だよ」

 

自信満々に、彼女は言った。

確かに死者が生き返るなんて現象は奇跡以外にはありえない。

納得のいく答えだとツクヨミは思い―――。

 

「そんな訳ねーだろ!」

 

否定した。

 

「えぇ、本当なのに」

「嘘つけ、転生ならまだしも、死者の復活なんてありえない。不可能だ」

「うん、だから奇跡なんだって」

「だから、死者の復活は絶対にありえないんだよ」

「……うん?だから奇跡なんだって」

 

「どーしてわからないかなー」と首を傾げるアイに、ツクヨミは頭を抱える。それはこっちのセリフだと。

仮に、これからツクヨミが、彼女に一から順番に死者の復活がありえない説明を、優しく、丁寧に、手取り足取り、サルでもわかるように説明したところで、待っている答えは同じだと安易に想像できた。

こう言っては何だが、星野アイは何処か抜けているところがある。悪く言えばバカということだ。

そのバカにわかるように説明したところで、バカはバカなのだ。バカな答えしか返ってこない。

 

だからツクヨミは諦めた。

これ以上粘っても、堂々巡りをするだけなのは明白だからだ。

 

「はぁあああ……」

 

調子が狂う。

子供らしからぬ大きなため息をついたツクヨミは、気持ちを切り替えて次の質問に移る。

どちらかと言えば、こちらの方が本命だ。

ツクヨミがアイを真剣な眼差しで見つめれば、それに気づいた彼女も目を合わせる。相変わらず笑顔ではあるが。

 

「アイ、君は復活して何をするんだい?」

「そんなの決まってるよ。それはね―――――」

 

星野アイがツクヨミに語る。彼女の夢を、諦めていた願いを、双子への想いを、笑顔で語る彼女の瞳に嘘はない。嘘がない。

 

だからツクヨミは気づいた。

 

彼女は、星野アイであって星野アイではない。

いや、目の前で嬉しそうに話すアイは、紛れもない本物だ。それは認めよう。実の子供であるルビーとアクアですら、彼女を本物だと疑わないだろう。なぜなら、二人を愛するアイの気持ちに嘘がないから―――それこそが、アイの中の彼女が付いた、ただ一つの(本音)なのだ。

 

アイを復活させた存在は、相当イイ性格をしているらしい。アイの器にふさわしい魂を見つけるだけでも不可能なのに、更にそれにプラスで色々な条件に見合った者を探してきたのだろう。でなければ、目の前の星野アイは何処かで破綻している筈だ。

 

確かにコレをやってのけた存在なら、世界を創造することは容易だ。不可能を可能にすることだって片手で出来るだろう。ツクヨミでは、敵うことすらできない。

 

だからツクヨミは安堵する。

星野アイが、星野アイであることに。

彼女の願いは双子の母親として至極真っ当な物だ。そこに害意は微塵もない―――前世で二人に救われた一匹のカラスが抱く想いと、同じ願いなのだから。

 

「わかったよアイ」

 

いまだ双子の事を嬉しそうに話す彼女を見て、ツクヨミは微笑む。

アイの登場でツクヨミが描く結末からだいぶ逸れたが、最後の最後に二人が笑顔ならそれでいい。彼女は他の人間も幸せにしたいらしいが、それは強欲だ。実にアイらしいとも言える。

 

(君の選んだ結末がどんなものになるのか、見届けさせてもらうよ)

 

勿論、あの二人の進む道が分からなくなった時は、ツクヨミは彼らの道を優しく照らし導くだろう。その役目は、アイがいてもいなくても変わらない。

これから先は、彼女の行動次第で忙しくもなるしれないが、それはそれで良いのかもしれないとツクヨミは思うのだった。

 

突然、アイが「忘れてた!」と言ってツクヨミの方を向いた。

 

「君の名前はなんていうのかな?」

「……ツクヨミとでも名乗っておこう」

「へぇー、長いからツクちゃんって呼ぶね」

「……」

 

ツクヨミは、何となくアクアが自身に抱く気持ちがわかったような気がした。いや、決してアイとツクヨミが同類ではないが、次に会った時は、もう少し彼に寄り添って会話をするべきだろう。と心に決めた。

 

「ツクちゃんってさ、カラスとお話できるよね?」

「……何故それを知っている?」

「秘密」

 

アイは口に人差し指を当てた。これ以上は話す気はないらしい。

色々思うことはあるが、一先ずツクヨミは彼女の話を聞くことにした。

 

「ちょっとお願いしたいことがあるんだよね」

 

「少し長くなるけど待ってて」と言った彼女は、ばたばたと部屋を後にした。

 

―――ツクヨミがベッドに横になり、ウトウトし始めた頃にアイが帰ってきた。目を擦りながら起き上がり、あくびを一つ。

うるんだ視界に映るアイの手には、なにやら厳重に包まれた小包があった。

 

「これを苺プロに届けて欲しいんだけど―――」

 

そう言いながらアイは、ツクヨミに注文の多いお願いをする。正直かなり面倒くさい。タイミングはアクアかルビーが帰ってくる時だし、監視カメラに映ってもいけない、他の人に拾われてもだめ。箱の中身を壊してもダメ。

「もう自分で届けろよ」とツクヨミは言いたいが、いや実際には言ったが、「貸し一つあるよね」と言われてしまったらどうすることも出来なかった。

 

「はぁ……わかったよ」

 

ツクヨミは渋々頷くしかなかった。

小包を受け取り、横で嬉しそうにしているアイを尻目にベッドから立ち上がる。これ以上追加でお願いをされたらたまったもんじゃない。早々に帰る必要があった。

 

「それじゃあ、また―――」

 

アイに手を振ったツクヨミだったが、突然の浮遊感に襲われる。

アイに抱っこされた彼女は、目線の高さまで持ち上げられた。彼女の特徴的な瞳が、キラリと光る。嫌な予感がした。

 

「もう遅いからウチに泊っていきなよ」

「いヤ―――はい」

 

ツクヨミは、全てを諦めた目でそういうしかなかった。

 

ただ、ツクヨミが想像していたような騒がしい出来事は特に起こらなかった。

強いて言えば、一緒にお風呂に入るか入らないかで一悶着あったくらいだ。勿論、ツクヨミは断固拒否した。「一人で入れてえらいね~」とアイに笑顔で言われた時は、流石の彼女も本気でイラついた。ムスッとした顔で髪をアイに乾かしてもらっていたら、「ツクちゃんきゃわわー」と言われて更にイラついたのは言うまでもない。

 

そうしてツクヨミは寝るまでの間、アイに感情をかき回され続けた。そして、寝る時には何もかもを諦めたツクヨミが、彼女になすがなされるままになっていた。

 

幸いなことに、一緒のベッドに入って明かりを消してからは静かなものだった。

ツクヨミは朝までぐっすりと眠ることが出来た。頭はすっきりしており、身体も嘘のように―――ガッチリとアイにホールドされていた。

 

(こいつ……私を何だと思ってるんだ)

 

身動き一つ取れない。

ツクヨミが解放されたのは、彼女が目覚める一時間後の事だった。

 

 

 

 

 

「また来てね」

「誰が来るか!……と言いたいが、また会うことにはなるだろう」

 

誰が見ても不審者の恰好をしたアイに見送られながら、ツクヨミは帰路につく。知り合いだと思われたくないので、手は振り返さない。

 

とりあえずアイに渡された小包を届けに行こう―――ツクヨミは、条件の多い配達にげんなりする。

しかし、これも全てあの二人の幸せに繋がるなら、少しも苦ではなかった。

 

 




そろそろ本格的に主人公を動かしていきたいところ。。。

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