狼畜生だってヒーローになりたい! 作:個性「投稿」
俺、ケンスケが自身を認識した時には、俺は既に狭いケージの中に閉じ込められる存在だった。周りに白衣を着た研究者らしき人間がドテドテと足音を立てて道を歩いている。
俺を
それから俺は檻の中に入れられ、閉じ込められる存在となった。きっと、ここはあの男の研究施設か何かなのだろう。
周りの檻には他にも動物がいた……纏めて身体がぐちゃぐちゃに変形した、生きているのか死んでいるのかもわからない生物になっていたが。元がどんな生き物かさえ計り知ることはできない。
俺の食事は、毎日決まった時間に与えられる……同じ時間に同じ飯を食べて、後はずっと放置されていた。いくら鳴いても喚いても、誰も見向きもしない。
初めは俺も声を荒げて助けを求めた。必死に檻へと噛みついて、その場所から出ようとした。
何度も、何度も、何度も出ようとした。その度に叶わないことを知って……だけど諦めきれなくて、俺は必死に檻へと食らいついた。
だけど、それも最初の頃だけだ。何度食らいついても、何度鉄の冷たい檻に牙を掛けても、一切届かなかった。
時が経つにつれて、俺の体は徐々に衰弱していった。やがて心まで折れて、檻から出ようとする心意気まで失った。敵わないことを悟ったからだ。
その頃になれば、俺はだだ只管に与えられた餌を貪る狼畜生へと成り下がっていた。抵抗と言う二文字を失い、されるがまま……それだけの存在だ。
このまま、檻の中で朽ち果てるものだと俺は悟っていたのだが……そんな俺の人生が変わったのは、金髪の屈強な男が、施設の壁をぶち抜いて俺の元にきた時だ。
屈強な男の他にも、何人かのコスチューム的な物を纏った人間がいた……俺は、既に枯れ果てた喉をなんとか動かして、男達へ声を掛ける。
こう言う時になんて言葉を出せばいいのか……周りの人間から俺は勉強していた。
「たす……けて……」
俺がその言葉を呟いた瞬間。あたりに衝撃のようなものが疾走った。空気が変わるのを感じた……
「おいおい……マジかよ……!!」
そう言った金髪の屈強な男の顔は、恐怖を感じるほどの怒りを見せていた……しかし、次には優しげな、目元を隠した笑顔となり、俺の檻を力でこじ開けた。
そして、その屈強な男は優しげな声で言葉をかける。
「大丈夫かい?」
その言葉を聞いた俺はゆっくりと檻の中から出ると、こういう時に言うべき言葉を言葉にする。
「ありが、とう。」
「礼には及ばないさ!」
そう言って屈強な男は笑顔を見せる。ふと周りを改めていると……酷い有様だ。
それからその施設はあれよあれよという間に制圧されていた。後で聞いた所によると、ここはオール・フォー・ワンと言うヴィランの実験施設だったらしい。
詳しい事は、俺は知らない……いや、知るタイミングを失ったと言ったほうが正しい。
俺はあの日から怒涛の毎日だったからだ。保健所と孤児院を行ったり来たりして、俺を保護してくれる人間を探すことになった。それはそれは行ったり来たりして忙しい毎日だった。詳しいことを聞くヒマがないほどに。
俺のように喋る動物と言うのは非常に扱いに困ることのようで……皆俺を腫れ物のような目で見ていた。人間なのか動物なのかわからない中途半端な俺を見るあの目は、どうにもなれることが出来ない。
いっそあのまま檻の中で朽ち果てたほうが楽だったかも……そんなことさえ頭によぎってしまった俺。いっそこのまま抜け出して野生に帰ることさえ考えたほどだ。
しかし、そんな俺に手を差し伸べてくれる人が居たたんだ。その人は、俺の話を聞きつけると他の国から態々俺のいる日本へ飛び立って俺へ顔を合わせてくれた。
「やぁやぁはじめまして!ネズミか犬か熊か!その正体は……僕!根津なのさ!」
「……あ、どうも。」
「うーん!ファーストコンタクトにしては羽目を外しすぎたかな?」
そう、根津さんだ。彼もまた、経緯は違えど俺と同じ動物が個性を持って人間の様になった例の一つ。はじめは何なんだこの人はと思ったが……そんな思いは彼とともに過ごす間に消し飛んだ。
あの人は俺を同じ仲間、同胞だとして俺を迎え入れてれた。そこからは今までのまごまごが嘘みたいに話が進んでいった。
まず、俺は名前を手に入れた……ケンスケと言う名前だ。根津さんが考えてくれた。名前の由来を聞いたら……
「犬といえばこの名前なのさ!シンプルで格好いいだろう!?」
と答えた。いや格好いいか……?それに俺はオオカミなんだけど。俺がそう言うと根津さんはハハハ!と笑ってごまかした。何なんだこの人。
まぁ、名付けてくれた名前に文句はない。シンプルで分かり易い……そんな名前も悪い気はしない。下手に凝った名前よりかはずっと良い。
そして、名前を手に入れたら次は戸籍……それは、根津さんが各地で手配してくれたのか、スムーズに進んだ。まさに今まで各地を連れ回されていたのが何だったんだというレベルでだ。
因みに、俺の姿は一般の人々にはそう言う異形型の個性と説明されている。下手に俺がオオカミだって事がバレると、色々面倒くさいことになるからだ。
サーカス団の動物のように見世物にされるのだけはゴメンだ。俺がそんな風な話をすれば、根津さんもウンウンとかつてないほど深く頷いて同意してくれた。彼も、過去に似たようなことがあったのだろう。
「まぁ、ケンスケを玩具にしようとするマスメディアはただ置かないから安心するのさ!ハハハハハハ!!!」
「怖いです根津さん。」
根津さんの個性はハイスペック……きっと俺を玩具や感動ポルノの道具にしようとしたマスメディアをどう調理するか瞬く間に計算しているのだろう。悪い顔になっている……正直怖い。
やがて俺は根津さんの家に引き取られた。一戸建ての立派な家だ。そんな場所で俺は根津さんからこの世界について教えてもらった……今世界がどの様な状況なのかや、一般常識、etc。
俺はこの世界に学ぶうちに、オレの心の中にある想いが生まれたのに気づいた……それは、ヒーローへの憧れだ。
この世界は理不尽で成り立っている。
災害やヴィランによって無慈悲に奪われる命、巨悪によって俺の様に玩具にされる命、誰も悪くないのに奪われる命が数多くある。そして、それを救うのがヒーロー。
俺もそんなヒーローに救われた。
……俺を救ってくれた金髪屈強な男――ナチュラルボーンヒーロー、オールマイト。俺を囲っていた折を破ってくれたその姿は、今でも俺の瞳にこびりついている。
俺は救われたが……もしかしたら、何処かの世界に他にも
俺は救いたい。
俺のような奴を増やさない為に、他にいるであろう俺と同じ同胞を救うために、俺はヒーローという存在を志すようになった。
そして、それから幾年かの月日が流れ…………俺は今、ヒーロー養成学校の名門、雄英高校の門の前へと足を踏み入れていた。
「ここが……雄英高校。」
派手にデカい門を見上げて、俺は呟いた。
俺は制服は着れないので、代わりに校章をあしらえたスカーフを足に巻いて、雄英の学校指定のバックを首からぶら下げている。
周りからは「犬!?」「なんでここに!?」と言わんばかりの目を向けられている。
(俺、オオカミなんだけど)そんな思いを常にしまい込んで、校舎へと足を踏み入れる……ここからはじまるのだ。
俺のヒーローアカデミアは、ここからはじまる。