ゲヘナ最強の双子の姉 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
ハナコさんとアズサさんが走り去り、私とミツキさんの二人はゆっくり歩いて聖堂の入口から離れるように奥へと進んでいく。
「みんな大丈夫かな……」
私の隣ではミツキさんが心配そうな表情で俯いており、見ている私も思わず表情が歪んでしまう。そんな顔をしてほしくなくて、見ていたくなくて、私はミツキさんの手を強く握って言葉を紡いだ。
「ミツキさん、大丈夫ですよ。あちらにはハナコさんもシャーレの先生もいますから」
「……うん」
なんとか気の利いた言葉を投げかけてあげたいと思うが、これ以上何を言えばいいのか分からない。口下手の私では、皆さんに距離を置かれてしまうような私では、ミツキさんを元気付けてあげられるような言葉が思いつかなかった。
もどかしい。ミツキさんの不安を和らげてあげることのできない私に不甲斐なさすら感じてしまう。不安そうな友人をこのままにしておくことなんてできず、私は勇気を振り絞ってミツキさんを引き寄せ抱きしめた。
「ミツキちゃん」
「わっ!?……サクラコちゃん?」
銃を持っているため片腕での抱擁にはなるが、それでもミツキさんの体は簡単に私の腕の中に収まった。私のことを見上げているミツキさんは私の行動に目を大きく見開いており、私は何とか伝えたいことを言葉に紡いでいく。
「大丈夫ですよ。皆さんを信じてあげてください。私たちも全力で協力しますから」
私がそう言えば、ミツキさんはゆっくりと俯いて私の背中に腕を回した。
「……うん」
「……」
「……」
(……ち、沈黙が辛い……いきなりハグは少し大胆すぎましたか!?なっ、何を話せば……くっ、私の口下手は分かっていたはずなのに……!)
結局私はそれ以上何かすることも話すこともできず、腕の中にいたミツキさんがそっと離れるまで固まったままだった。
「サクラコちゃんありがとう」
「い、いえ、むしろこれくらいしかできず……」
「ううん、サクラコちゃんのおかげで少し落ち着けたよ。ありがとう」
「それなら、よかったです」
そうして、私とミツキさんは手を繋いだまま聖堂の一番奥まで歩いて行った。
聖堂の入り口から一番離れている最前列の長椅子の端で二人大人しく座って待っていると、徐々にシスターたちが集まり始めた。私の呼びかけに応じてくれた皆さんは、私の姿を見かけたらぺこりと頭を下げてそれぞれ武器の手入れをしたり会話をしている。ゲヘナの外交官を匿うことも連絡済みであるため、ミツキさんを見て驚くような方もいなかった。
そして、ヒナタさんとマリーが現れた。
「こんばんは、サクラコ様、ミツキさん」
「こ、こんばんは……シスターサクラコ、ミツキさん」
「来てくださいましたか、マリー、シスターヒナタ」
「マリーちゃんとヒナタちゃん、久し振りだね」
ミツキさんはある程度自分の感情と現状に折り合いをつけたのか、もう暗い雰囲気は無くなって二人を見た瞬間にパッと明るい表情になった。
「それにしても……あのメッセージの内容は本当なのでしょうか」
マリーが不安気に尋ねているのは、私が皆さんを招集するために送ったメッセージについてだろう。アリウスによるナギサさんへの襲撃、そしてアリウスと手を組んだとされる裏切り者の存在……今まで目立った予兆もなく普通に過ごしていた私たちにとって、真実か疑わしいと感じるのは仕方のないことなのかもしれない。
「恐らくですが本当です」
「そう、ですか……」
「あまりに突然なお話ですが、あそこまで真剣なハナコさんを見るのは私にとって初めてのことでしたから。それに、本当なら私たちを頼る選択なんてしたくないはずですし……」
「は、ハナコさんがそうしないといけないくらい、状況がよくないということでしょうか……?」
ヒナタさんの言う通り、私たちの想像以上に状況はよくないのだろう。もし、ハナコさんの話していた裏切り者が本当だとするのなら、それこそ状況は最悪なのかもしれない。
「ええ、先ほど出会ったハナコさんは何やら急いでいた様子。ならば、間もなく……」
ドガーーンッ!!
「……始まりましたか」
外から爆発音が聞こえる。それと同時にこの場に集まっていた皆さんは自分たちが行っていた武器の手入れや会話を止め、私の方を向いた。私は皆さんの視線に応えるよう立ち上がり、中央まで行って指示を出す、つもりだった。
だが、私が口を開く瞬間に聖堂の扉がまた乱雑に開かれた。
「……ハナコさん」
入ってきたのはハナコさんで、その両腕にはぐったりとしたナギサさんが抱えられている。ヘイローも見受けられないため、恐らく気絶しているのだろう。
皆さんからの視線も気にすることなく中央にいる私の所まで歩いてきたハナコさんは、そっと近くの長椅子にナギサさんを寝かせた。誰もが言葉を発さず、物音すら立てず、ハナコさんの一挙手一投足に目を奪われている。
「サクラコさん、ナギサさんは無事に確保できました。……本当に招集してくださったんですね。時間が無いので私はもう行きますが、よろしくお願いします」
「ええ、任せてください」
ハナコさんは一瞬だけ離れた所にいるミツキさんの方を見たが、すぐにも背を向けて扉へと向かう。そして、銃声や爆発音の響く外の世界へ飛び出して行った。
私も、やるべきことをやらなくては。
「みなさん、私が送ったメッセージの通りのことが起こり始めています。ナギサさんがここにいることが何よりの証拠。ならば、私たちも動かなくてはなりません。皆さんの準備ができ次第出発します。相手の数や戦力は未知数、万全の準備をお願いします」
私がそう言ってから下がれば、固まっていた皆さんは慌ただしく準備をし始めた。この様子なら、そう長く時間はかからないだろう。長椅子に寝かせられたナギサさんを抱えてミツキさんとヒナタさんとマリーのいる場所に戻れば、マリーがおずおずと口を開いた。
「……ナギサさんはどうするのですか?」
「数名の方にここを守っていてもらいます。今回ここは狙われないでしょうし、5から10名ほどいれば間に合うかと。ミツキさんもそこで待機していてください」
そっと近くの長椅子にナギサさんを寝かせながらそう告げるが、ミツキさんからの返事がない。どうしたのかと改めてミツキさんの方を見れば、ミツキさんは真剣な表情で私の目を見ていた。
「サクラコちゃん、私も行かせて」
「……どうしてですか?ミツキさんは戦えないのでしょう?ミツキさんをここに避難させて守ると私はハナコさんに約束しました。破るわけにはいきません」
「でも……」
「それに、私は行ってほしくありません。友人として、危ない所には行ってほしくないのです」
友人であることを強調し、情に訴えかけるなんて汚いやり方かもしれない。でも、これは本心だ。私はミツキさんに安全な所で隠れていてほしいと思っている。無理に危険に身を晒す必要なんてない。
「ありがとう。でも、私も友達のために行きたいの。ここで大人しく待ってるなんてできないよ」
だけど、ミツキさんは怯むこともなく、弱気になることもなく、私を見つめている。
「……本気ですか?」
「うん。ハナコちゃんとサクラコちゃんには悪いけど……後で私が怒られるから。だからお願い」
「……」
ヒナタさんもマリーも何も言わず、ただ心配そうに私たちを見守っている。ミツキさんを連れて行くのか行かせないのか、言葉を肯定するも否定するも全て私の裁量一つで決まる。私が断固拒否すれば、いくらミツキさんが行きたいと言ってもここから出さないことはできるだろう。
できる、けど……。
「サクラコちゃん……」
「……分かりました。ミツキさんの同行を許可します」
「本当!?」
「ただし、絶対に私の後ろにいること。これを守ってください」
「うん!ありがとうサクラコちゃん!」
いつも笑顔で柔らかな雰囲気のミツキさんがここまで真剣に頼み込むなんて想像もしていなかった。私のお願いを突っぱねてしまうくらいには、ミツキさんにも譲れない何かがあったらしい。
行かせてあげたいと思ってしまうのは、私の意思が弱いからだろうか。この選択は間違っているのだろうか。後から連れて行かなければと、悔いるのだろうか。ミツキさんの気持ちを尊重するべきでは無かったのだろうか。むしろ、連れて行った方がよいことだってあるのかもしれない。……分からない。
……いや、私が守り抜く。私が連れて行くと判断したのだから、この身に代えてでも。
「ぐっ、あ……!!」
最後のアリウス生が倒れた。それぞれに指揮を行っていた様子から、恐らく指揮官やある程度上の立場なのだろう。他のアリウス生も倒れ、立っているのは私たちだけだ。
「全員戦闘不能、残党も無し」
「よ、よかった……先生の指揮があって助かりました……」
「ええ、ですがこれから増援が来るはずです」
「ハスミ先輩には連絡した!それに戦闘音も聞こえてるはずだからすぐに来てくれるはず!」
「ありがとうございます。なら、後は時間さえ稼げれば大丈夫でしょう」
アリウスの猛攻を凌いだ私たちは、これからのことを考えながらも息を整えていた。全員無事に突破できたし、この調子ならきっと……
そんな考えを嘲笑うかのように、突然入り口付近の体育館の壁が吹き飛んだ。
ドオオォォォンッ!!
「っ!?」
"みんな!気を付けて!"
カツカツと聞こえる足音は多く、壁が吹き飛んだ際に生じた煙に紛れながらもアリウスの生徒たちが姿を現していく。
「こんなにも到着が早いなんて……!」
「お、多すぎる。この数、まさかアリウスの半数近くがこの場に……」
「こ、これ……ハスミ先輩たちが来るまで耐えられるの……?」
「そんなの来ないよ」
「……え?」
聞き覚えのある声がして、思わず体が固まる。まさか自分の呟きに返事があって、それが否定されるなんて思ってもみなかったコハルもその場で固まっていた。
……煙が晴れてきた。
「だって私が待機命令を出したからさ」
自分たちの正面には先程とは比べ物にならない数のアリウス生が並んでいる。そしてその中央には、特徴的な背中の羽根を広げ、薄っすらと笑みを浮かべている生徒がいる。見間違いではない。あの時の姿と何一つ変わらない。
「ふふ、黒幕登場☆ってね」
"ミカ……!"
人差し指を立てた手を口元に近づけ、どこかお茶目な雰囲気を醸し出しながら、ミカが私たちの前に立ち塞がった。