ゲヘナ最強の双子の姉   作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。

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平穏が壊れる音がした

「今日はどこに行ってもエデン条約の話ばかりだ」

 

「そうですね。学校も休校になるくらいですし、みなさん注目してるみたいです」

 

「ええ、街も活気付いてお祭り騒ぎですし、とても賑やかですね。いろいろ回るのも楽しそうです。先生やミツキさんも来られたらよかったのですが……」

 

「仕方ないじゃない。先生は先生で立場があるだろうし、ミツキはあんな感じでも外交官だし」

 

とあるカフェで寛ぎながら世間話を続ける補習授業部の面々は、調印式を目前として賑わいを見せている街を眺めていた。スマホを開けばニュースはそれ一色で、今もクロノス報道部の生中継が続いてる。

 

まったりと目の前に置かれたパフェに手を付けていたヒフミがスマホを開いてなんとはなしに生中継を覗くと、いつも通りのうるさい司会が声を張り上げており、その背後には古聖堂の現在の様子が映っていた。ヒフミはみんなが見やすいようにスマホを机に置き、四人全員がその画面に視線を向ける。古聖堂の正面ではずらりと並んだトリニティとゲヘナの生徒たちが睨み合って険悪な雰囲気を作り出しており、調印式が始まる前から空気が張り詰めていた。

 

「なんか雰囲気悪くない?」

 

「昨日の今日ではい仲良くしましょうなんて難しいですからね。こればかりは仕方のないことなのかもしれません」

 

「ああ、だからこそこの条約に意味がある」

 

「そうですね、条約が締結すれば表立って争い合うこともできなくなりますし、少しずつお互いを理解する時間もできますから」

 

そうして画面を見ながら会話を続けていた四人だが、気になることがあったのか画面をジッと見ていたヒフミが疑問を口にした。

 

「あれ?お二人の姿がどこにも見えないですね」

 

「今はまだ調印式が始まっていませんから、今映るような場所に役職のある方などは並んでいないと思いますよ?」

 

「あ、たしかにそうですね。もうこの古聖堂の中にいたりするんでしょうか」

 

「そうなんじゃない?たしかハスミ先輩とツルギ先輩もそこにいるはずだし……」

 

「式が始まれば二人の姿も見れるかもしれないな」

 

「ふふ、そうですね。きっとアーカイブが残ると思いますから後でお二人にも見せてあげましょう」

 

すると画面が切り替わり、巨大な飛行船に乗り込む万魔殿の姿が映し出された。その映像を背景に、クロノス報道部のアナウンサーによって万魔殿がトリニティに向かって出発すること、風紀委員会の委員長が到着すること、ティーパーティーの桐藤ナギサが到着したことが語られている。

 

「ナギサ様も着いたみたいですね」

 

「今回はシスターフッドも参加しているようですし、本当に首脳陣といいますか、それぞれのトップの方々があの場に集まっているみたいですね」

 

「これって本当にすごいことなんじゃない?私たちが学生の間にこんなことがあるなんて……」

 

「ああ、学園間の平和条約なんて、それこそ歴史が――っ!?」

 

「あ、アズサちゃんっ!?」

 

話している最中に突然ガタンッと音を立てながら立ち上がったアズサは隣に置いていた自身の荷物を勢いよく掴み、そのままヒフミの呼びかける声を背に店の外へ走り去って行く。立ち上がった瞬間に見えた表情は酷く焦燥しており、先程まで浮かべていた穏やかな笑みは完全に消え去っていた。

 

取り残された三人は誰もがアズサの背を目で追っており、その行動に困惑するしかなかった。そしてしばしの沈黙の後、ヒフミの口から絞り出された戸惑いの声は最後まで発することすらできなかった。

 

「な、何が

 

ヒュオオォォォォン!!!!

 

――え?」

 

思わず近くの窓から外を見れば、そこには空へと続く放物線上の煙と太陽光を反射しながら今も空を高速で突き進む謎の物体が存在感を放っている。

 

「なに、あれ……」

 

「あれは……」

 

三人が呆然と空を見上げていると、その物体は空中でその角度を変えた。

 

先端が、斜め下へと向いたのだ。

 

「お、落ち……」

 

「早く机の下へ!!」

 

「っ!!」

 

「ひっ……!!」

 

ハナコの叫ぶような呼びかけにヒフミとコハルは急ぎ机の下へ隠れ、その場にいた他の客もハナコの声に弾かれたかのように机の下へ避難した。

 

机の下では机自体を掴み支えるハナコと自身の頭を抱えるコハル、そしていつの間にか手にしていた自身のスマホをジッと見続けるヒフミの姿があった。

 

「ま、まさか……」

 

謎の飛行物体と目の前に映る調印式の様子。これがなぜだか無関係には思えなくて、嫌な予感は広がるばかりで、既にスマホを持つ手は小刻みに震えていた。

 

「そ、そんなはずは……だって、あそこにはみなさんが……」

 

ドカアアアァァァァン!!!!!!

 

「きゃあっ!?」

 

「うっ!?二人とも大丈夫ですか!?」

 

グワングワンと地面が揺れる程の衝撃に体は吹き飛びそうになり、頭を抱えていたコハルはよろけて先程まで座っていたソファにぶつかる。ヒフミもスマホを手に持ったままぺたんと尻もちをつき、唯一机を支えていたハナコだけが姿勢も変わらぬまま二人に声をかけていた。

 

今の揺れと吹き荒れる暴風によってカフェの窓ガラスはいとも簡単に割れ、室内に散乱している。あのままソファに座っていたらと考えるだけでもゾッとしてしまう。ハナコに感謝を伝えようとしたコハルだったが、尻もちをついた状態で呆然としているヒフミが目に入った。

 

「あ……」

 

「ヒフミ!?あんた大丈夫!?」

 

「どこか怪我でもしましたか!?」

 

「……」

 

ヒフミは二人の呼びかけにも応じず、ただ手にしたスマホを見つめ続けている。その様子に痺れを切らしたコハルがヒフミの腕を掴んで引き寄せ、スマホの画面を覗き込んだ。

 

「いったい何を見て……真っ暗?」

 

だが、その画面にはもう何も映っていなかった。

 

「真っ暗?そんなはずは……っ!?まさか、今のミサイルは……!」

 

「み、ミサイル!?」

 

先程まで調印式の様子が映し出されていたその画面。突然のミサイルの飛来に着弾。今はもう真っ暗な画面。そこから導き出される真実。

 

聡明なハナコにとって、今何が起こったのかを理解するには簡単すぎる程に状況証拠が揃っている。だが、信じたくはない。そんなはずはない。冷静な頭はもう答えを出しているはずなのに、感情的な部分がそれを否定する。

 

「……み、みなさんが……」

 

「っ……」

 

それでも、現実は甘くないらしい。ようやく口を開いたヒフミの声は震え、顔を上に上げようともしない。

 

「……一旦机の下から出ましょう。いつまでもこうしているわけにもいきませんし」

 

そう言いながらハナコは机の下から出て、ハナコに続いて二人も机の下から出てくる。割れた窓の外には今の衝撃によるものか、火の手が上がっている場所や崩壊した建物、ヒビ割れた地面などが見える。

 

「な、なにこれ、ひどい……は、ハナコ!ミサイルってどういうこと!?」

 

「……今の爆発の規模、あの高度の低い状態での水平飛行……おそらく巡航ミサイルだと思われます。ですが、トリニティには探知機も迎撃用の設備もあるはず。それなのに――」

 

「そうじゃない!!なんでミサイルなんかがトリニティに!?それに、あれの向かった先って……二人とも何が起こってるのか分かってるんでしょ!?何があったのよ!!」

 

「……」

 

薄々何が起こっているのかを理解しているのだろう。わずかに顔を歪ませながら掴みかかってくるコハルに真実を伝えていいものか、ハナコは口を噤みながら狼狽えていた。すると、その後ろからヒフミが口を開く。

 

「トリニティが、古聖堂が狙われたんです。あのミサイルは、古聖堂に直撃して、それで……見てください。別のカメラに視点を移したみたいです」

 

ヒフミが二人に向けたスマホは真っ暗ではなくなっていたが、先程とは画角が異なり画面の半分近くが黒い煙で覆われていてあまり鮮明には状態が分からない。それでも爆発の威力を示すかのように火が付き倒壊している古聖堂の様子が映し出されていた。

 

「そ、そんな……!先輩たちが!それに先生もミツキもここにいるんでしょ!?早く行かないと!」

 

「ですが下手に動き回るのは得策とは言えません。コハルちゃん、落ち着いてください」

 

「ハナコちゃん、アズサちゃんも探しに行かないと……走っていったのには、多分理由が……」

 

「……分かりました。私も色々気になることはありますし、固まって動きましょう。何があるか分かりませんし、絶対にはぐれないように気をつけてくださいね」

 

そうして、三人は混乱の渦中にあるトリニティを歩き始めた。それぞれの胸の中に大きな不安と心配を抱えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……風切り音に、爆発。辺りは火の海、それに瓦礫の山……ミサイル?……いったい誰が……状況は……姉さんの言っていた嫌な予感は、これのこと……?)

 

羽根を広げ、頭から血を流しながらも立ち上がる。燃え盛る火ともくもくと上がる煙、そして建物の倒壊による土煙。視界は最悪で周囲の情報も掴めない。

 

(っ、そうだ、姉さんはどこ!?ここに到着してから姉さんを見ていない……近くにいなかったのなら爆発に巻き込まれては……それとも……)

 

地獄のような辺りの風景を見渡し、最悪を想像する。想像できてしまう。焦る心に鼓動はバクバクと早まり、その手はデストロイヤーを強く握りしめている。

 

(違う!そんなはずはない!あり得ない!姉さんが、そんなこと……早く、早く見つけ出さないと……!!)

 

「……アコ、起きてる?」

 

「……い、委員長……何が……」

 

今も地に伏せたままのアコは首から上だけを動かし、ヒナの姿を捉える。今の爆発のダメージによるものか、それ以上動けない。そんなアコとは対照的に、ヒナはアコから離れて歩みを進めていく。

 

「アコは動けるようになったら部隊を好きに使っていいから事態の収拾に向かって。おそらくこれはトリニティがやったことじゃない。自分たちの敷地内でトップを巻き込んでもろとも自爆なんて、流石に考えにくいもの。嫌かもしれないけれど、トリニティと協力する必要があるわ」

 

「……それでは、委員長は……どこへ……」

 

「先生のところに行ってくる」

 

(姉さんがいるとしたら先生の近くのはず。基本的に二人が離れることはない。それに先生の身だって危ない。二人はどこに……)

 

先生の無事の確認及び保護を、そして常に一緒にいたであろうミツキもそこにいると信じて。

 

(大丈夫、大丈夫、二人はトリニティにも馴染んでいたし周りに人がいるはず。万が一なんて起こり得ないはず。そうに決まってる。大丈夫、きっと無事に逃げ延びてる。きっと……)

 

そうしてヒナが駆け出そうとした瞬間、前方から見覚えのない生徒達が姿を現した。ガスマスクを着けた集団とその最前列に一人、巨大な鞄を背に担いだ人物がヒナの姿を前にして狼狽えている。

 

「ひ、ヒナさん……動けるんですか……?走れるんですか……?どうして……さっきの直撃したはずですよね……痛いはずですよね……」

 

(彼女は……それに、後ろの集団は……アリウス?こんなときに……!)

 

「えへへっ……ヒナさんは、ここで足止めしないといけないんです……これも命令なので、大人しくしていただけると……」

 

「邪魔!」

 

ダダダダダダダダッ!!!!

 

「ひえぇっ!?」

 

逸る心を抑えきれず、前動作も無しに問答無用でデストロイヤーの引き金を引いた。紫色の弾が絶えず発射されている状態でデストロイヤーを横に薙ぎ払えば、障害物のないこの場では避けることも叶わず突然の範囲攻撃にアリウス兵は為す術もなく倒れていく。

 

唯一、背負っていた巨大な鞄を盾にした一人の少女だけがその場に立っていた。

 

「な、なんでこんな簡単に……!?ホントにミサイル当たったんですよね!?ぞ、増援!増援お願いしますぅ!!私じゃ止められません!!」

 

(誰に言って……なっ!?)

 

すると、目の前の少女の叫びに応じたように、ガスマスクを着けて真っ黒のレオタードのようなものを着た青白い人型のナニカが出現した。

 

(どこから現れたの?今、無から出てきたような……)

 

「あ、あはは……すみません、でもヒナさん元気すぎるんですよぉ……というか私後方からの援護がメインなのにどうしてヒナさんの対応なんですかぁ……私なんかじゃ止められないですって……」

 

(……あの増援を求める声に反応してこの謎の存在が現れた。そして今も誰かに言い訳のようなものを……命令とも言っていたし、他に誰かいるのね。それも、この謎の存在を呼び出せるような誰かが)

 

(なら、ここ以外でも似たようなことが起こってると考えるのが妥当。じゃあ姉さんや先生は……)

 

そこまで考えて、ヒナは口を開いた。その声色は冷静で、まるで日常会話でもするかのように自然体である。

 

「そこの貴方」

 

「ふぇ……?わ、私ですか……?」

 

「ええ、私今急いでるの。多分、これまで生きてきた中で一番ね」

 

「そ、そう、ですか……?」

 

「だから、押し通させてもらうわ。最速で」

 

そう言うが早いか、ヒナはゆらりと体を揺らしてから駆け出した。デストロイヤーを手に持ったまま。

 

「えっ!?せ、聖徒かドパァンッ!……へ?」

 

全速力で接近してくるヒナの姿に狼狽えた少女が動くよりも早く、言葉を発するよりも早く、少女の右隣に立っていた人型のナニカが少女の視界から溶けるように消えた。少女が顔を右に向けると、そこには人が一人居たような空間だけがあった。

 

「1」

 

ドパァンッ!ドパァンッ!

 

「2、3」

 

少女の周りに現れたはずの者たちは、最初からいなかったかのようにその数を減らしていく。

 

「4、5、6、7……」

 

「ヒッ……!?」

 

焦った少女が近付いて来る空崎ヒナに視線を戻せば、自身を貫くような鋭い視線とかち合った。その目は少女だけを見つめて少女の一挙手一投足に注目している。自分から視線が離れることが無い。だというのに、なぜか少女の周りに顕現した存在は一発も銃を撃つことなく蹴散らされていく。いや、違う。動き始めた者から消えていく。

 

駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。止まらない。止められない。姿勢を低くし、視線で己を捉えながら高速で近付いてくる姿は獲物を狩る肉食獣のようで……

 

「こ、来ないでください!」

 

恐怖心に突き動かされて銃を構えた少女が見たものは、視界いっぱいに広がる紫色だった。

 

「ぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、どこにいるの……?」

 

ゲヘナ最強は速度を落とさずに駆けていた。




うちのヒナちゃはどこかの誰かのために努力してきたので原作よりも強いです。なのでそこそこ元気です。やったね。
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