ゲヘナ最強の双子の姉 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
今日は朝からミツキの様子がおかしかったんだ。なんだかそわそわしてて、手を開いたり閉じたりぎゅっとスカートを握ったりと落ち着かないようだった。
話を聞いて見れば、嫌な予感がするのだと、調印式を別日にできないかと、せめて参加しないでほしいと、しきりに私に訴えかけてきた。その姿はあまりに必死で……。
私はミツキを安心させてあげようとしたんだ。落ち着かせようと優しく寄り添って……言い訳をするのなら、二つの学園が関係してくる調印式はかなりの規模で、一個人の都合でどうこうできるものではないのだから。でも、きっとそれは間違いだったんだと思う。
ミツキがそこまで訴える何かを、深く考えるべきだったんだ。
「先生!大丈夫ですか!?」
"ああ、ありがとうヒナタ。ヒナタは大丈夫かい?"
「はい、なんとか大丈夫です」
あの爆発によって崩れた瓦礫の隙間に挟まっていた私は、近くにいたヒナタによって助けられた。先程まで見て回っていた古聖堂はそのほとんどが倒壊し、所々から火が出ている。
爆発の瞬間、アロナが全てのエネルギーを使い限界を迎える程の全力のバリアで私を守ってくれた。あの凄まじい威力の爆発から……おかげで私には傷一つ無い。逆に言えば、アロナが全力を出さないといけないくらいの威力だったんだ。アロナのバリアが無ければ私はいとも簡単に死んでいただろう。
もうアロナの声は聞こえない、完全な生身。ただの一般人の私では何かあったら避けることも耐えることもできない。
この破壊跡を前に、私のすぐ目の前には死が転がっているのだとそう強く実感する。……怖い。銃撃戦とは違う。一瞬だ。一瞬で全てが吹き飛ぶんだ。こんなものを撃ち込まれては、たとえヘイローのある皆でも無事では済まない。現に目の前のヒナタも全身に傷を作っている。
おそらく、この一撃で倒れた子も沢山いるだろう。古聖堂の外にも中にも多くの生徒が並んでいた。あの子達は……それに、ミツキも大丈夫だろうか。巻き込まれてはいないだろうか。朝の、さっきまでの、不安そうなミツキの表情が脳裏に浮かぶ。
こんなことなら、連れてこなければ……
「先生!ご無事でしたか!」
声のする方に顔を向ければ、駆け足でこちらに近付いてくるハスミとツルギの姿があった。この二人も全身に傷を負っている。
"ハスミ!ツルギ!無事だったんだね!……でも、ひどい怪我だ。大丈夫なのかい?"
「私達は大丈夫ですが、あの場にいた正義実現委員は全員戦闘不能になってしまいました。それに加えて私達以外の方の姿も見えなくなってしまい……」
"ナギサは、ナギサはどこにいるか分かるかい!?"
「な、ナギサさんですか?ナギサさんはあれから姿を見ていませんが……」
"そ、そんな……"
「いったいナギサさんになにが――」
「構えろッ!!」
私とハスミのやり取りは怒鳴りつけるようなツルギの声によって中断された。何事かとツルギを見ればいつの間にか臨戦態勢になっており、油断なく見据えているその視線の先には以前ミカと戦った時に見たアリウス兵達がずらりと並んでいた。最前列にはロケットランチャーのようなものを手に持った他とは明らかに違う雰囲気を漂わせている子が立っている。
「……正義実現委員会の委員長及び副委員長と接敵。こっちに兵力を回して」
"君達は……"
その頃、空崎ヒナは古聖堂の周りを駆けていた。
(どこ!?どこにいるの!?この辺りのはず!古聖堂の周囲にいるはず!なのに見当たらない!それらしき姿が見えない!まさか、二人揃って瓦礫の下敷きに……?この広い範囲で悠長に瓦礫を退かしてる余裕なんてないのに!)
二人の姿が見えず、焦りや苛立ちは徐々に大きくなっていく。そんな中でまだ自身が見ていない方向から銃声が聞こえてきた。その中には爆発音のようなものも紛れている。
(銃声?誰か戦ってるの?……行くしかない。姉さん、どうか無事でいて……!)
向かう先を変え、銃声の聞こえる方向に一目散に走る。未だ見つからない姉の安全を祈り、デストロイヤーを握る手に汗を滲ませて。
そうして見えてきたのは倒れ伏したアリウス兵達とさっきも見た青白い謎の存在にランチャーのようなものを持ったアリウス生、それらと戦っている正義実現委員会の委員長と副委員長、そしてシスターフッドの子と先生の姿だった。
(……姉さんはどこ!?先生といるはずじゃ……いや、先生がどこかに身を潜めさせたのかもしれない。とにかく今は先生達を助けないと!)
「そこから離れて!!」
"ヒナ!!"
ヒナの声に誰よりも早く反応した先生はバッと顔をヒナの方に向けて名を呼ぶ。その瞬間、この場にいる誰もが声のした方向へ視線を向けた。すると、ヒナはデストロイヤーを戦場に向けて構えており、その銃口からは淡い紫色の光が漏れていた。
「退け!!」
「くっ!」
「えっ……きゃっ!?」
ヒナが何をするのかを理解したツルギが他二人に声をかけながらも最前線から後ろへ跳び、ハスミも後退する。唯一反応が遅れたヒナタだったが、ツルギが後退しながらヒナタの腕を掴んで無理やり下がらせた。
「チッ……聖徒会!」
ダダダダダダダダッ!!!!
そうしてデストロイヤーから放たれる数多の弾丸は、聖徒会と呼ばれた謎の存在を蹴散らし指示を出していた生徒すらも巻き込んでいく。
「今のうちに早くこっちへ!」
「先生!急いでください!」
"あぁ!"
全員が己の近くまで到達するとヒナはデストロイヤーをわずかに下へ傾けた。すると、敵の足元に着弾した弾によって土煙や灰が巻き上げられて敵の周囲が視認できなくなっていく。
「一旦ここから離れましょう」
敵の姿が見えなくなったら撃つのを止め、ツルギ、ハスミ、ヒナタ、先生にヒナを加えた五人は古聖堂から離れていく。今の攻撃によるダメージと何も見えないであろう視界によるものか、後ろからアリウスや聖徒会は追ってきていないようだ。
「ゲヘナの風紀委員長、助かった」
「風紀委員長さん、ありがとうございます」
「いえ、気にしないで。貴方達もすぐに行動してくれて助かったわ」
「今はゲヘナやトリニティといった括りで物事を判断している場合じゃありませんから。先生を何としてでも守り抜かなくては……」
"……ごめんね、足手まといになっちゃって"
「そんな、足手まといだなんて……先生の指揮のおかげで無事に戦えたんです!」
ヒナタの励ましを受けて弱々しい笑みを浮かべた先生に、誰もそれ以上言葉はかけられなかった。先生のおかげで今もこうして立てていることは事実だが、本人はそれ以上に守られているという現実を気にかけているらしい。
「先生を安全な所まで連れて行かなくてはなりません。風紀委員長、協力していただけますか?」
「ええ、もちろん。セナ……救急医学部にも連絡して位置情報を送っておくわ。私達の動きに臨機応変に合わせてもらう」
「助かります。救護騎士団も動いてはいると思うのですが……いえ、ミネ団長が不在の今、戦力が足りずあまり動けていないかもしれません」
「あのミサイルの着弾地点から少し離れた位置で巻き込まれた怪我人が押し寄せていることもありえる。どちらにしろ逼迫していて余裕はないだろう」
「ゲヘナの救急医学部に任せた方が良いかもしれませんね」
そうして五人は先生を守るため、学園から出る方向へと向かいながら首や目を動かして周囲を警戒している。いつどこから襲われても対応できるように。
「……」
そんな中で、ついに意を決したヒナが口を開いた。
「先生、姉さんは……姉さんと一緒じゃないの?姉さんはどこにいるの?」
敵の姿は見えず、いつの間にか静かになっていた空間にヒナの声が鮮明に響き渡る。その言葉に思うところがあったのか、それとも同じような疑問を抱いていたのか、ツルギも、ハスミも、ヒナタも、先生へと視線を向けた。だが、先生の顔は変わらず弱々しいままであった。
"……私には分からない"
「分から、ない……?それは、ど、どういう……」
想定外の回答にヒナは言葉に詰まっていた。先生の言葉を理解しきれないのか詳細を求めて先生を見上げ、次の言葉を待っている。それを見つめている先生の顔は申し訳なさそうに歪んでいた。
"ミツキは今朝、私に嫌な予感がするから行かないでほしいって言ってたんだ。できることなら調印式そのものを中止、もしくは延期できないかって……"
「それで、姉さんはどうしたの?もしかして、避難してどこか別の場所に……」
そうであってほしいと自身の願望を多分に含んだその言葉とヒナの縋るような視線を真っ直ぐに受けながら、先生は瞼を閉じて首を横に振った。
"それも分からない"
「ぇ……」
"様子がおかしかったから聞いたんだよ。『今日は休むかい?』って。でもミツキは休まなかった。今度はナギサに、私と同じように訴えかけていたよ"
「じゃあ、姉さんは……」
"私がミツキについて把握していることはそこまでなんだ。そこから先は分からない。また後で会えるからと、ナギサにミツキを任せてしまったから……あの後もナギサと一緒にいたのかもしれないし、また別の誰かと会っていたのかもしれない"
「そんな……」
"ナギサなら何か知っているだろうけどナギサの姿も見えないらしいし……正直手詰まりなんだ。もしかしたら、あの爆発に巻き込まれてて、この瓦礫の山から見つけ出さないといけないかもしれない"
「……」
先生を見上げていた顔は下を向き、その場に呆然と立ち尽くすヒナの姿はとても小さく見える。そんなヒナを見かねたヒナタがヒナの隣に駆け寄った。
「だ、大丈夫です!私は今日ミツキさんを見ていません!あの古聖堂にはきっと居なかったんです!」
「確かに、私もミツキさんの姿を見ていませんね。ナギサさんが古聖堂に到着した時もナギサさんは一人でしたし……先生、ミツキさんはいつ頃ナギサさんと会話を?」
"朝トリニティに着いてからだよ。調印式直前で忙しいだろうに、ティーパーティーの集まる部屋に行ったら迎え入れてくれたんだ"
「では、先生はそこでミツキさんと別れたということですね。他に誰かいませんでしたか?」
"いや、他に誰かいた憶えはないよ。二人だけだったはずだ"
「なるほど……ミツキさんが古聖堂に来ていたのか、それとも別の場所にいたのか、知っているのはナギサさんのみということですか」
「で、でも、ナギサさんは……」
「……」
結局、考えても考えても「分からない」という結論にしか到達することはなく、もどかしい気持ちのまま時間だけが過ぎていく。そんな中で静かに周囲を観察していたツルギが口を開いた。
「先生、アレは聖徒会か?」
"なんだって?"
「あっ!あそこです!ふらふらと歩いていますが……」
"……いったいどこに向かっているんだ?"
ツルギとヒナタの指差す方へ顔を向ければ、聖徒会が武器を手にどこかへ向かっていくのが見える。そして、半分程が倒壊した校舎の方を向いたかと思えば、突然銃を構えた。
「なっ!?」
「キャーッ!!」
ダァンッダァンッダァンッ!
「あそこで誰か襲われてるのですか!?」
「先生!」
"ああ!急ぐよ!"
響き渡った銃声と悲鳴、それを聞いて黙っていられるような者はここにはおらず、我先にと駆け出していく。ただ一人、空崎ヒナを除いて。
(違う、今のは姉さんじゃない……姉さん、どこにいるの……?)
「風紀委員長!孤立するぞ!」
「っ!……ええ、大丈夫。私が殿を務めるわ」
ツルギに指摘されて漸く足を動かし始めたヒナは、先生達を助けた時のような勢いがなく、どこか上の空だった。
誰一人欠けず別ルートへ突入中。皆と合流できて良かったねヒナ。これも強くなったおかげだね。