ゲヘナ最強の双子の姉 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
五人は聖徒会に向かって走るが、聖徒会は銃を構えたまま校内へ足を踏み入れようとしている。それを確認した途端ツルギは一人姿勢を低くして加速し、聖徒会がこちらを振り返るよりも早く駆けつけた勢いそのままに無防備な背中へ右足を伸ばした。
「ギヒヒヒヒィィッ!!」
全速力のツルギのスピードに体重が乗ったエネルギーを衰えさせることなく足裏全てを押し当て、力を入れるベクトルを正面ではなく斜め下に向ける。『蹴り飛ばす』のではなく『踏み潰す』要領でその足に力を入れることで聖徒会は前方に吹き飛ぶことなく前方へ倒れていく。その瞬間、ツルギは軸足だった左足で地面を蹴った。
それによってツルギと聖徒会は前方へ更に加速し、聖徒会はその背をツルギに踏みつけられたまま地面を滑っていった。そうして2、3m程先で止まった二人だったが、ツルギは一切の容赦もなく右手に持っていたショットガンを頭部目掛けて発砲するのであった。
ドパァンッ!
着弾と同時にツルギの踏みつけていた聖徒会の体は煙のように消え、いつの間にかツルギの足は地に着いていた。聖徒会が完全に消え去ったことを確認したツルギは体を校舎へ向け、落ち着いた声色で語りかける。
「……もう大丈夫だ。今の奴は私が倒した」
すると、校舎の中からは正義実現委員会の制服を着た生徒が一人、ツルギの前に姿を表した。その目には涙が浮かんでおり、わたわたとツルギの元へ駆け寄ってくる。
「い、委員長!ありがとうございます!」
「一人か?」
「い、いえ!その、先程の攻撃で一人が負傷してしまい、もう一人と一緒に隠れています!」
「なら三人か」
そうして二人が話している間に先生達がツルギに追いついた。
"ツルギも君も大丈夫だったかい?"
「は、はい!」
「ギヒッ、私も問題ない。だが、負傷者がいるらしい」
"そっか、どうにか安全な場所まで連れて行ってあげたいけど……"
そうしてツルギと先生が会話をしている間、自分はどうすればいいのか分からずおどおどとしている正義実現委員会の生徒を見たハスミが思わず声を上げた。
「貴方は確か、古聖堂の警備ではありませんよね」
「え、あ、はい!私は少し離れた校舎側に配置されていました。そうしたら、爆発が……そ、それで、私や周りにいた子たちは離れていたので運よく軽傷で……」
「なるほど、そのような方は他にも居そうですね。先程の存在に襲われたのはこれが初めてですか?」
「そ、そうです。突然爆発して、どうすればよいか分からなくて、銃声も聞こえて、怖くて三人で固まっていたらさっきの青白い人?のようなものが襲ってきたんです。それで、一人が被弾して……」
そう語る生徒は余程怖かったのか、自身の肩を抱きしめて震えている。その言葉を聞いていたヒナタとヒナは顔を歪めていた。ヒナタは聖職者として目の前で震える生徒の痛みを深く理解していたからであり、ヒナは目の前のか弱い存在に自身の姉を重ねていたのである。
「先生、私が彼女達を――
ダァンッダァンッダァンッ!
「避難させます」と、そう告げようとしたハスミだったが最後まで言い終えることもできず、再度どこかから銃声が聞こえてきた。
"くっ、まあここだけじゃないよね……"
そう吐き捨てた先生からはどこか悔しそうな、現状に対する苛立ちのようなものすらも感じ取れる。体の向きを銃声が聞こえてきた方向に変えた先生だったが、これまで無言で後ろに着いてきていたヒナが咎めるように制止した。
「先生、駄目よ」
"なんだって?"
先生が振り返って見えたのは、鋭い視線で自身の目を見つめているヒナの姿だった。
「先生を安全な場所へ連れて行く。それが今しなくちゃいけない最大の目的のはずよ。先生がここにいればいるだけそれは達成できない」
"で、でも、他にも襲われている子がいるのにそれを無視するなんて……「下がって!」うわっ!?"
突然、ヒナが先生の腕を引っ張った。その顔に焦りの感情を浮かばせて。周りにいるツルギやハスミ、ヒナタも武器のグリップを握りしめいつでも引き金を引けるようにしており、唯一正義実現委員会の一人の生徒だけがハスミの後ろに隠れている。
「まさかこんな簡単に釣れるとは思ってもみなかった」
そうして聞こえた声にヒナの後ろで庇われている先生が振り返ると、どこかメカメカしいマスクを着けて真っ黒のキャップを被った一人の生徒が姿を現した。その後ろには先程逃れたはずのロケットランチャーを持った子とヒナが退けた大きなバッグを背負った子もおり、そしてもう一人、見たことのないフルフェイスのマスクをした子もいた。
「聖徒会を適当にばら撒けばいつか姿を現すと思っていたが、どうやら貴様らは私の想像以上に馬鹿で単純らしい。そんな雑魚のために己を危険に晒すとは……」
ジロリと睨みつけるような視線を受けて正義実現委員会の生徒は体を震わせており、ハスミが視線を遮るようにその子の前に立つ。
"っ!!その言い方、まるで君が聖徒会を……"
「そうだ。我々アリウススクワッドが貴様らトリニティとゲヘナに代わり、
そう言うが早いかアリウススクワッドの周囲に突如として聖徒会が現れ、その数はどんどんと増えていく。まるで軍隊のようにアリウススクワッドの横から後ろにずらりと並び、本当に聖徒会とやらを制御できているのだと言わなくても理解させられる。
「……人の褌で相撲を取って偉そうね」
「黙れ。これはそもそも第一回公議の時点で私達が行使すべき当然の権利。トリニティに踏みにじられたそれを奪い返したに過ぎない。トリニティを滅ぼした後、ゲヘナも滅ぼすつもりだということを憶えておけ」
「そう簡単に滅ぼすことなどできるはずがない。お前はトリニティを舐めすぎだ」
「できるさ。今ここで両学園の主要人物を一斉に片付けることができるのだからな」
ヒナやツルギの言葉も聞き流し、先頭に立つキャップを被った少女がここにきて初めて銃を構えた。
"来るよ!ヒナ!"
「任せて」
先生の呼びかけに一歩前へと踏み出したヒナがデストロイヤーを構え、目の前の敵を一掃するべく引き金を引いた。
辺りを紫色が支配する。ヒナがデストロイヤーを構えた瞬間にアリウススクワッドの前に大量に現れた聖徒会は肉壁として攻撃を受け止めた後、即座に煙となって消えていく。そして消えたら消えた分だけまた無から聖徒会が生み出され、攻撃がアリウススクワッドに届くことはない。
「面倒な……」
デストロイヤーの弾が切れた瞬間から戦いは激化するだろう。それを理解している皆は次の行動のために意識を集中させて待機していた。そんな中で、正義実現委員会の子とハスミが向かい合っている。
「貴方は隠れている他二人を連れてどこか遠くに離れなさい」
「わ、私も戦います!皆さんに比べたら弱いですけど、す、少しくらいは役に立ちたい!」
ぎゅっと両手を握って己を見上げる姿にハスミはゆっくりと瞼を閉じた。そして、右手をその頬に添えてから優しく語りかける。
「……ええ、貴方の気持ちはありがたく受け取ります。正義実現委員会として、その心を大切にしてください」
「な、なら――
「ですが、私達の役に立ちたいのなら、私達が不要な心配をしなくてもいいよう安全な場所に離れていてください」
「……っ」
一度は喜びかけた。絶対的な悪を前にして、憧れの先輩達の隣で戦えるのだと思った。その直後のハスミの言葉を聞くまでは。
ハスミの持つ明確な拒絶の意志がその力強い声色と目付きから感じ取れ、突然突き放されたかのような感覚に陥る。自分は必要とされていないのだと、むしろ心配をかけてしまうような足手まといであると。
「カナメさん、私達はここで戦います。貴方が隠れている他の二人を守るのです」
「……」
分かっている。
自分のすぐ目の前の人達は、自分がどれだけ背伸びをしてもその足元にすら届かないことを。あのアリウススクワッドと名乗った人達はおろか、無から生み出された謎の存在一人にだって勝てやしないことを。
現状が怖くて今にも震えそうな自分を。
「もう弾が切れる!」
"分かった!みんな準備はいいね!"
ヒナのデストロイヤーから降り注ぐ紫色の雨が止んだ途端、ツルギとヒナタの二人が駆け出した。ハスミと自分を置いて。
自分がハスミをここに縛り付けている。皆の足を引っ張っている。
「カナメさん」
分かっている。言われなくても分かっている。
……いや、直接言ってくれないことが、あくまで気を遣われているという現実が、自分と先輩達の間に存在する絶対的な差を実感させる。こんな状況でも自分みたいな下っ端を気遣ってくれるハスミの優しさが、カナメにとっては辛かった。
だが、実際ハスミの言う通り近くに隠れている仲間二人をここから離れさせないといけない。巻き添えで更に怪我してしまうなんて、そんなの許容できない。先輩に助けてもらった意味がない。それでも、一緒に戦いたい。
揺れ動く感情はどれも本物で、でもどれかを選ぶことなんてできなくて。結局、カナメは震える声で了承するしかなかった。
「……わ、かり……ました……」
「ありがとうございます」
「ご、ご武運を!」
そうして、自分の言葉にハスミが軽く頭を下げたことにすら気付かず、カナメは一目散に駆け出した。いつまでもハスミの時間を奪う訳にはいかなかった。いつまでも足を引っ張りたくなかった。早くこの場所から離れたかった。
半壊した校舎に隠れている仲間達をできる限り遠くに離れさせる。自分が出来ることはそれだけなんだと自分に言い聞かせて。
「お待たせしました」
"もう大丈夫なのかい?"
「ええ、あの子の分も私が戦います」
"分かった。ハスミはツルギとヒナタの援護をお願い"
「了解」
わずかながらに参戦するのが遅れたハスミだが、戦況はそこまで酷くはない。最前線をツルギが張り、その援護にヒナタが、その二人をハスミが援護し、周囲に現れる大量の聖徒会は先生の前に陣取ったヒナが固定砲台のように弾を撃ち込み消し飛ばしていく。前衛も後衛も存在し、実力も申し分無い。
だが、
「きゃっ!?」
"ヒナタ!"
この戦場で最初に倒れたのはヒナタだった。正義実現委員会の委員長と副委員長を務める二人や風紀委員長とは違い、普段からシスターとして荒事には参加せず三人程戦闘に慣れていないヒナタには無理があった。そこに最初のミサイルによるダメージがあれば尚の事。
(これは……マズい……!)
そしてヒナタが倒れた事により、ツルギの被弾が増えた。たった一人で四人の実力者を相手取るのは流石に無理があったらしい。それでもツルギは倒れることなくアリウススクワッドに食らいつき、二丁のショットガンを振り回していく。
(このままだといずれ剣先ツルギも倒れる。その後は羽川ハスミも……私だってミサイルのダメージが無いわけではないし、それにこの聖徒会の数……これにアリウススクワッドも合わせたら私一人じゃ……どうする……どうすれば先生を安全な場所に……)
聖徒会を蹴散らしながらも脳味噌をフル回転させて先生を守り抜く案を考え込むヒナだったが、その思考を横から遮る声があった。
「風紀委員長、先生を頼めますか」
「え?」
「私とツルギなら少しは時間を稼げます。それこそほんの少しかもしれませんが」
"そ、そんなこと……"
「先生、ナギサさんは見つからず、シスターフッドもどうなっているか分からない状況で我々正義実現委員会が倒れればトリニティは支えを失います!……頼る先などもう無いのです!指揮系統は機能せず、それこそアリウスに滅ぼされるのを待つしかありません!今は貴方だけが希望なのです!この地獄のような状況で希望の灯火を絶やしてはならないのです!」
"……!"
「くっ、これがトリニティの戦略兵器か……!」
「ハァ……ハァ……きひっ、まだまだァ!」
「チッ、しぶとい奴め……こうなったら、アレを
ドゴォォォンッッ!!!!
「っ!?」
"なっ、なんだ!?"
突然先生達の近く、先程カナメが現れた半壊した校舎から爆発音のようなものが響き、一部の壁が内側から吹き飛んだ。それによって校舎の壁だったであろう瓦礫が散乱し、大量の土煙が巻き上がる。この場にいる誰にとっても予想外のあまりの爆音に誰もが戦いの手を止めて音源に意識を向けていた。
突如として訪れる静寂、その中に鳴り響くコツコツとした足音。鬼が出るか蛇がでるか、辺りに緊張が走る。
土煙は風に流されて少しずつ晴れていき、その奥からは人のような影が見える。視線を集めていることを知ってか知らずか、歩みを止めないその人物の薄っすらと浮かび上がるシルエットは何かを抱えてはいるがいつか見たことのある姿で。
そうして見えてきたのは――
「ふふ、私登場☆……なんてね」
横抱きにミツキを抱えたミカの姿だった。
"ミカ!!"
「姉さん!!」
ミカ、参戦。
イカした戦闘描写なんてモンはねぇですよ。いつも通りです。
正実モブちゃんの名前はお話でも出てきましたがカナメちゃんです。オリジナルです。ビジュは正実モブちゃんと変わりません。ぱっつん目隠れおどおど系です。かわいいね。名前とかちゃんと出てるってことはそういうことです。