ゲヘナ最強の双子の姉 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
とある建物の影、そこには一人の少女が己の身を隠していた。顔全体を覆うような狐のお面によって表情は分からないが、そわそわと動く体は何かを待ちわびているかのようである。そして聞こえる足音に男性の声。
その瞬間狐坂ワカモは姿勢を正し、平静を装ってその身を晒した。
「ああ、あなた様!まさか外で偶然にも出会うことができるなんて……!やはり、赤い糸は私たちを結びつけているのですね!」
"やぁ、こんにちはワカモ"
だが、わざわざ身を隠してまで待っていたワカモを嘲笑うかのように、先生の隣には何やら別の女が居たのである。
「こんにちは、ワカモちゃん」
「……は?」
「?」
ワカモは宇宙猫になった。
そも、先生以外居ないのならば先生の声が聞こえてくるはずがない。先生の声が聞こえた時点で誰かがいるか、通話などを行っている可能性を考えるべきであった。だが、先生に会えると期待を膨らませていたワカモにはそこまで冷静な頭は無かった。聞こえていた足音が二人分であったことにすら気付けないくらいに。
「あなた様、そこのくs……生徒さんとはいったいどのような関係で?二人きりで出かけるなんて……ま、まさか!?」
「ひっ!?」
"ちょっ!?ワカモ!?待って待って待って!ただの買い出しだから!シャーレの備品買ってるだけだから!銃を向けるんじゃない!"
バッと己の愛銃を向けたワカモの目に映るのは、咄嗟に
ワカモの脳は限界だった。
「くっ!この機に乗じてあなた様の背中にくっつくなど、なんて卑しい女!やはり今ここで排除しなくては!」
"全然聞いてくれない!……ワカモ!!"
銃のグリップからギリギリという本来聞こえない音が聞こえ始め、焦りを覚えた先生の選んだ選択は敢えてワカモに近付くことであった。
「あなた様!どいてください!今私は――」
射線を遮るように距離を詰めた先生は、銃を握っているワカモの手にそっと自分の手を添えた。
「っ!?ああああなた様!?あなた様が、わ、私の手を握って!?」
"ミツキと私はそういう関係じゃないからさ。銃を下ろしてくれるかい?"
「え、ええ!あなた様がそう仰るのなら!」
握っているわけではないが、そんな些細な事はワカモにとってどうでもよかった。愛する人の手が自身の手に触れている。たったこれだけで今まで感じていた怒りや悲しみはどこかへ行ってしまったのである。
愛する人の言う通りに銃を下ろし、至近距離にいる愛する人の顔をお面越しにマジマジと見つめていると、愛する人が優しくほほ笑んだ。
"ありがとう、ワカモ"
「〜〜〜っ!!!!」
その瞬間、先程とは異なる衝撃が脳を襲い、ワカモは逃げるようにその場を走り去っていった。
"あっ、行っちゃった……ミツキ、大丈夫かい?"
「は、はい、なんとか」
"うーん、ワカモも悪い子じゃないんだけど……いや、七囚人だから悪い子ではあるのか?事件も起こすし……うん、暴れさえしなければ悪い子じゃないよ"
「それってフォローになっていないような……」
"……そうかも"
「……」
"まあ、その……ね?"
「……」
"……帰ろっか"
「……はい」
なんとなく気まずい雰囲気になった二人は、気を取り直してシャーレへと歩みを進めていった。
その後シャーレにて仕事を始めていた先生とミツキだったが、突然扉が開いた。今日は特に来訪者等の話は無く、疑問符を浮かべている二人が扉の方へ視線を向ければ、そこには先程走り去っていったワカモの姿があった。
「ふふっ、このワカモ、あなた様にお会いするために参上しました」
"わ、ワカモ!?今は仕事してるんだけど……"
「そんなこと私たちの前では些細なことではありませんか。今こうして二人の時間を過ごすことのほうが大切なのです」
そう話しながら先生の元へ近付くワカモはゆったりと優雅に歩いている。
"いや、ミツキがそこにいるけど……?"
「あら、あのくs……生徒さんは別に気にする必要もございません。少々監視いたしましたが、あなた様と二人きりだというのに色目を使うことも自ら接触しにいくこともありませんでした。それにあなた様を見る目、特別な感情など抱えていないことくらい私が一番理解できます。私たちの恋の障害にならない存在など気にかける必要もございません」
"そ、そういうものなのかな……"
胸を張り堂々とした振る舞いで語るワカモだが、目の前にいる先生の口角はぴくぴくと痙攣し、納得はいっていないようである。そんな先生の姿が見えていないのか、はたまたそんなものは関係ないのか、ワカモは先生のデスクの前で仰々しく腕を広げて立ち止まった。
「さあ、あなた様!先程は突然の接触と至近距離からの柔らかな微笑みについ逃げ出してしまいましたが、今回は心の準備ができています!どうぞこちらへ!」
"いや、だから今は仕事中……"
「あぁ、お恥ずかしいのですか?うふふ、私と触れ合うことにそのような感情を持っていただけるなんて……嬉しい気持ちと寂しい気持ちが混ざり合って、不思議な感情が湧き出てきますわ」
"……"
「とはいえ、このまま我慢などできません!あなた様から来ていただけないのなら、私の方から――」
ワカモは一方的に喋り続け、一向に先生の話を聞いてくれる気配がない。それほどまでに先程の体験はワカモの脳を揺さぶってしまったらしい。だが、自身のデスクの上に積み上げられた書類を一瞥した先生は、ワカモと狐のお面越しにしっかり目と目を合わせてからハッキリとした口調で言い聞かせた。
"ワカモ、今は仕事中だからさ、後にしてね"
「……え?あ、後で、ですか?」
"うん、ちょっと私が見ないといけない書類が多くてさ。そこでミツキと仲良くしててね"
「……えっ!?私ですか!?」
まさか断られるとは思っていなかった上にしっかりとした口調で拒否されてしまったワカモと、遠くからワカモを眺めながらもちまちま仕事を進めていたミツキは先生の言葉に体が硬直し、先生の顔を見つめている。
"ああ、ミツキも一旦仕事中断していいからワカモと仲良くしてあげてね"
先生はそんな二人を見ても特に意見を変えることもなく、むしろ目の前で動かなくなったワカモに視線を送り続ける。
「あ、あなた様……?私は……」
"ほら、行っておいで"
「……」
頭の中が真っ白になりかけているワカモがそれ以上愛する人の言葉に異を唱えることなど出来るはずもなかった。
そうして、ワカモとミツキは仕事用のデスクから離れてソファに移動し座った。負のオーラを漂わせながら無言を貫くワカモの姿にどうしたものかと頭を悩ませていたミツキは、とりあえずコミュニケーションを図ることにした。
「こ、こんにちはワカモちゃん」
「……どうして?」
「ワカモちゃん……?」
だが、返ってきたのは挨拶ではなく、小さく呟いた疑問の言葉だった。
「どうして先生に会いに来たというのに貴方と隣り合って座っているのでしょう。本来なら今頃私と先生はお互いに愛を伝え合いながら熱い抱擁を交わしていたはずですのに」
「え、えっと……?」
自身の抱えていた疑問を言葉にして吐き出したワカモはある程度整理がついたのか、隣りに座るミツキの方へ顔を向けてからお面の下で睨みつけていた。
「チッ……どれもこれも貴方のせいです。どうしてここにいるのですか?」
「と、当番だから……」
いくら恨みがましく睨みつけたところで、返ってくるのは困惑した表情と声のみ。そんなミツキを前に、ワカモは諦めたように肩の力を抜いて溜め息を吐いた。
「はぁ……知っています。今日は貴方一人だけの当番でしたから来たというのに……」
「それは私が先生に恋愛感情を持ってないから?」
「ええ、当然です。他の女狐共が先生の周りを囲っている状況ではゆっくりと愛し合うことなどできようものですか。喧騒の中ではお互いだけを感じられないでしょうし、下手に先生の前で争いを起こせば万が一にも嫌われてしまうかもしれません」
「そ、そうなんだ」
「その点、貴方は評価してますよ。先生との適切な距離を保ち、先生に迷惑をかけず、騒ぐこともない。そして何より、貴方はあの空崎ミツキでしょう?圧倒的に弱いのでいつでもどうとでもできます」
「……」
「ああ、ご心配なく。すぐに貴方をどうこうしようとは思っておりません。言ったでしょう?評価していると。貴方が先生と二人きりの時、それすなわち私が先生と愛し合っても邪魔が入らない時間ということ。有効に利用させていただきますわ」
「う、うん。頑張ってね」
会話なのかすら怪しい一方的な言葉とその内容にミツキは短く返すことしかできなかった。勢いに圧倒されたというのもあるが、別に自分に被害がなさそうならいいやという考えと、下手に口答えをして敵判定されるのは避けたかったからである。
ただ、そんな保身的な理由をワカモが知るはずもなく、感心したようにミツキを見つめていた。
「あら、聞き分けもいいなんてずいぶん利口ではありませんか」
「ワカモちゃんは本当に先生のことが好きみたいだし、精一杯アピールして頑張ってるんだから応援してあげたいもん。私にできる範囲でしてほしいことがあったら協力するよ」
これはミツキの本心である。翻訳すると『恋する女の子は可愛いから近くで見させてください』というあまりに俗な言葉となるだけで。
嘘を吐いている様子もなく、その言葉を正面から受け止めたワカモは満足気に肩を揺らしていた。
「……ふふふ、貴方はとことん私に都合が良いのですね。いいでしょう、その言葉が嘘ではないのなら私は貴方に危害を加えないと約束しましょう」
「いいの?」
「ええ、残念ながら私と先生との恋路を邪魔する存在は数知れず……貴方という私の恋路におけるアドバンテージをみすみす逃がすなんて愚かな行為はしません」
「そっか。ねえねえ、それならさ、お友達になろ」
「は?笑わせないでください。私はあくまで貴方を利用しているだけに過ぎません。思い上がるのも大概にしなさい」
「う……ご、ごめんね」
「分かればいいのです。貴方はまだまだ利用価値がありますから許してあげますが、次はありませんよ」
そうしてミツキとワカモには奇妙な繋がりができたのであった。
それからというもの、毎回というわけではないが先生がミツキといる時にワカモが現れるようになった。それについて先生が問いかけても二人は答えず、ぼんやりと「何かあるんだろうな」程度の認識のまま日は過ぎていく。
「ふふっ、あなた様!ワカモが来ましたよ!」
「あ、こんにちはワカモちゃん」
「……あら?先生はどちらに?私の記憶では今日はここにいるはず……」
「先生ならミレニアムに行っちゃったよ?急に呼ばれたみたいで」
「な、なんということでしょう……このワカモ、今日という日を楽しみにしていましたのに……」
「あ、でもね、先生から伝言があるよ」
「それは本当ですか!?」
「うん、もしかしたら今日はワカモちゃんが来るかもしれないからって」
「早く!早く教えなさい!」
「えっとね、『もし私がいない間に来てしまったら、机に置いてある小箱を見てごらん。プレゼントだよ』、だって」*1
「ぷ、プレゼント!先生からの!……小箱!ありましたわ!これが先生からの愛の結晶!うふふふふふ」
「あ、帰っちゃった……」
「ワカモちゃんこんにちは」
「……また貴方ですか。毎回出迎えてくださるのが先生でしたらどれほど嬉しいか……」
「ふふ、ワカモちゃん、今がチャンスだよ」
「……?」
「先生、デスクで寝ちゃった」
「っ!!挨拶なんていいですからそれを早く言いなさい!!……まあ!まあ!!まあ!!!きゃー!!!!」
「あれ?帰っちゃった……後で写真でも送ってあげようかな」
「……貴方、何をしているのですか?」
「あっ……」
「私の尻尾に触っていいのは私が心を許した先生だけ……貴方のために毎日手入れをしているわけではありません」
「もふもふ……」
「……先生の前で貴方がそんな顔をしていると私が虐めていると勘違いされてしまいますからやめてください。少しなら触ってもいいですから」
「いいの!?ワカモちゃんありがとう!」
「……はぁ、貴方ってすごい単純ですわね」
"ふふ、二人とも仲良いんだね"
「……あなた様、それは何かの冗談ですか?」
"いや、ふとそう思っただけさ。気にしないで"
「〜〜♪」
"……ふふ"
「あなた様?どうかなされましたか?」
"いや、随分と懐かれてるみたいだね。横で尻尾を抱き締めてるけど、それはいいのかい?"
「あぁ、そのことですか。もう何度言っても聞かないので放置しています。毎回毎回引き剥がすのも面倒ですし」
"そっか。ミツキ、ワカモは好きかい?"
「はい!」
「ふっ、いい心がけですね」
"ワカモはどうだい?ミツキのことは好きかい?"
「あなた様は何を言っているのでしょうか。こんなのペットのようなものです。私はあなた様一筋ですから」
"ふふ、そうだね"
「あなた様、ごきげんよう」
"ああ、こんにちはワカモ"
「……あら?いつもいの一番に挨拶をしてくるあの方はいらっしゃらないのですか?」
"ミツキは遅れてくるみたいだよ。なんか今ゲヘナで温泉開発部が問題を起こしてるみたいで、遠回りしてくるんだって"
「そうなのですね……では、この時間は私があなた様を独り占めできるということですね!」
"は、はは……お手柔らかにね"
「すみません、遅れちゃって……」
"やあ、怪我とかはなかったかい?"
「はい、無事に……あ、ワカモちゃん来てたんだね」
「貴方……」
「ど、どうしたのワカモちゃん」
「……いえ、特に何も。貴方は仕事が溜まってますよ」
「あ……は、早くやらなきゃ!」
"そんな急がなくて大丈夫だよ。ミツキから連絡があった時点で仕事量は調整してるから"
「ありがとうございます!」
「こんな貧弱な体で……」
「わっ、ワカモちゃん?……えへへ、なでなでしてくれるの?ありがとう!」
「……ふん」
「わーっ!ちょっ!力強いよっ!」
「あっ!ワカモちゃん!こんにちは!」
「……貴方、所構わず抱き着いてくるのは止めなさいと何度言えば……邪魔です」
「だってワカモちゃんとたまにしか会えないんだもん!」
「歩きにくいのですが」
「じゃあ止まってくれてもいいんだよ」
「私が今移動中なのが見て分かりませんか?先生もいらっしゃらないのにこの場に留まる理由などあるはずがないでしょう。貴方はずいぶんおめでたい頭をしているようですね。もう一度言いますが、邪魔です」
「ご、ごめんね……」
「はぁ、まったく」
わしゃわしゃわしゃわしゃ
「わーっ!?わ、ワカモちゃん!?」
「ほら、離れなさい」
「うぅ……もう少し優しくしてくれても……」
「暴力を振るっていない時点でかなり優しくしていると思いますが?」
「あぅ……ま、またね」
初めて二人が出会ってから何日が経過しただろうか。何度顔を合わせただろうか。今日、ソファに隣り合って座るワカモとミツキの姿を眺めていた先生は出会ったばかりの二人を思い浮かべて穏やかな笑みを浮かべていた。
"二人とも、ずいぶん仲が良くなったんじゃない?"
「本当ですか?ねぇねぇワカモちゃん、私たち仲良くなれたかな!」
「まさか、あなた様の気のせいですよ」
「えぇ!?そんなぁ……」
先生の言葉に嬉しそうなミツキと、先生の方へ顔を向けてバッサリ切り捨てるワカモ。そんなワカモに対して縋るような視線を送るミツキだったが、ワカモはそれすらも切り捨てていく。
「ふっ、貴方が私と仲良くなろうなんて考えるのが間違っているのです。なれてペット辺りが妥当でしょう」
「ぺ、ペット……もー、ワカモちゃんのいじわるぅ……」
しょぼーんとして視線をわずかに落としたミツキをお面の下から見つめていたワカモは、そっと尻尾をミツキの視線の先へ持っていった。その状態で尻尾を右へ左へゆらゆらと揺らせば、ミツキの視線も右へ左へ釣られて動く。
「ほら、触ってもいいですよ」
ワカモがそう言うとミツキは目の前で揺れる尻尾に手を伸ばし、優しく揉んでもふもふとした感触を楽しんだり、手櫛のように指を通してサラサラとした感触を楽しんでいた。しょぼくれた表情はいつの間にか鳴りを潜めており、楽しそうに口が弧を描いている。
「えへへへ」
「……」
"……"
ワカモと先生は静かにその一部始終を見つめており、ワカモはお面があって分からないが先生は穏やかを通り越してだらしなく緩んだ表情になっている。
「……やはりペットが妥当でしょうね」
「ぁっ……!?」
"ふふふふふ"
初めて顔を合わせた頃とは打って変わって、終始穏やかなまま時間は過ぎていった。
ワカモ、君道端にいる猫とか可愛がってるよね。一目惚れもするし、案外普通の女の子としての価値観あるよね。
ふーん……へえ……ヨシ!(現場猫)
という考えのみで作られたお話でした。途中台詞だけなのはダイジェストだからです。別に面倒くさくなったわけじゃないです。本当です。本当ですからね。……ダイジェストにしないと多分一万字とかいっちゃいますし。
ミツキといる時のワカモは頑として仮面を外しません。なんでだろうね。