ゲヘナ最強の双子の姉 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
とある教室で一人、マリーは椅子に座っていた。窓から見える外の景色は見慣れたトリニティ総合学園の中庭で、外は茜色の光で満ちている。どうやら夕暮れ時らしい。
「ここは、教室ですか……?どうして私はここに?誰も居ませんし、少し体に違和感がありますね」
キョロキョロと周りを見渡しても人の気配は無く、体の感覚もふわふわとしている。それに思考も上手く纏まらない。どこかボーッとする頭を押さえて記憶を探るも、意識が戻る以前の記憶は何も思い出せなかった。
「うーん、何も思い出せません。あ、もしかしてシスターフッドでの活動を無断で休んでしまいましたか?迷惑やいらぬ心配をかけてしまっているかも……うぅ、サクラコ様に一言連絡をしておかないと……あれ?」
無い。普段使っているスマホが無い。ポケットも、目の前の机に置いてある鞄にも、どこにも見当たらなかった。
「ど、どうしましょう……スマホをどこかに落としてしまいました……これでは連絡も……」
そうして焦るマリーだったが、黒いベールに包まれたマリーの耳は、ガラガラとスライド式の扉が開く音を拾い上げる。
「あ、マリーちゃんこんなところにいたんだね」
「え……?」
本来聞こえてくる筈のない声が聞こえ、マリーは思わず顔を上げた。
「探したんだよ?連絡しても全然出てくれなくて」
「あ、その、スマホをどこかに落としてしまったようで……ではなく!な、なんでミツキさんがここに!?」
マリーの視線の先では、朗らかな表情をしながらマリーのもとへ近付いてくるミツキの姿があった。だが、マリーの言葉を聞いたミツキはどこか不思議そうに小首を傾げていた。
「えー?マリーちゃん何言ってるの?私はずっとトリニティにいるよ?」
「あ、あれ……?そうでしたっけ……?」
「そうそう。なに?そんなことも忘れちゃったの?マリーちゃんは寝坊助さんだね」
「す、すみません……」
目の前で当たり前のように語るミツキの姿に、そういえばそうだったのかもしれないと謎の納得感がマリーを支配する。むしろ、何で忘れていたのだろうと数秒前の自分を疑い始めていた。
「それで、ミツキさんはどうしてここに?」
「マリーちゃんが全然来ないんだもん。電話も繋がらないし。だから心配して探してたんだよ?」
「そ、それは、すみません……寝てしまっていたのかもしれないです」
「かも?自分で寝てたかも分からないの?」
「すこし、記憶が曖昧で……」
「そっか。マリーちゃん最近ボランティア活動をすごい頑張ってたから疲れちゃってるのかもね」
そういえば、そう、なのだろうか。確かに用事のない日は毎日シスターフッドでボランティア活動をしていた記憶はある。体調管理を怠ってしまったのかもしれない。己のミスで周囲に迷惑をかけてしまったという事実に辿り着いたマリーの胸に罪悪感がこみ上げる。
すると、マリーの目の前に来ていたミツキはそっと手のひらをマリーの頬に添えた。
「もう、そんな顔したら駄目だよ」
「っ、み、ミツキさん?」
スリスリと優しく頬を撫でる手のひらの感触が心地良い。じんわりと伝わるミツキの体温と、その手から伝わる思いやりの心が、マリーの心をぽかぽかと温めていく。
思わず頬が緩み、目を細めて自身の顔を僅かに上へ向けていた。目の前に立つミツキが己の頬を撫でやすいように。もっとやって欲しいと差し出すように。
「ふふ、マリーちゃん本当に疲れてるのかもね」
「……?そ、そうですか?」
言葉の真意が分からず細めていた目をパチリと開き、目の前で微笑むミツキに問いかける。マリーに向けられたその微笑みはとても柔らかい。負の感情など欠片も混じらず、ただ己を慈しむ心だけが伝わってきていた。
「気付いてないの?いつもなら恥ずかしがって避けちゃうのに」
「え?……っ!!」
その言葉に含まれた意味を理解するやいなや、マリーの頬には朱が差していく。キョトンとしていた表情は羞恥心にかられ、ベールに包まれた頭上の耳はピコピコと忙しなく動き、マリーの心情を表していた。
「こっ、これはっ……!そのっ、あのっ……!」
耳だけでなく両腕を使い、ワタワタと慌てながらも弁明しようとするが、何も言葉は浮かんでこない。弁明するような何かがここにある訳ではなく、ただ己の先程までの態度に対して覚えた羞恥心を誤魔化したかったのかもしれない。
そんな慌てっぷりも、ただ温かな目で見られるだけなのだが。
「まあ、あんまりここでゆっくりしててもしょうがないよね。サクラコちゃんも心配してたし、顔を見せに行こうか。ほら、マリーちゃん、行こ?」
「は、はい」
いまだ胸の中で暴れる感情は収まらないが、それでも言われるがままにスッと立ち上がる。……いや、立ち上がろうとした。
「あ、あれ?」
だが、謎の浮遊感によって体が上手く動かせず、椅子から立ち上がることが出来なかった。普通に動かせる腕を机に置いて支えようとも、足が言うことを聞かない。
ゾッとした。動けない感覚なんて知らない。足が思うように動かないなんて、まさか、何かしらの欠陥を抱えて動けなくなってしまったのでは。そう思い至ると、マリーの心の中は冷や水を浴びせられたように焦りと不安で埋め尽くされていった。
「マリーちゃん?」
「その、た、立てません……」
「えー、変なの」
「あ、足が……」
心底不思議そうなミツキは己の足の異常に四苦八苦しながらも頑張って立ち上がろうとしているマリーの姿を見つめている。
「ねえ、マリーちゃん」
「なんです……か……」
ふわりと、マリーの鼻腔に嗅いだことのある甘い香りが漂ってくる。声をかけられ顔を上げたマリーの目の前には、ミツキの顔があった。わざわざ前屈みになって、視線を合わせたミツキの顔が。いつの間にか目と鼻の先にいるミツキは、普段見せないような悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
思わず息を呑み、視線が奪われる。不意に視界いっぱいにミツキの顔が広がっているからか、それともその表情に心が揺さぶられたからか、動かない足の事など忘れ、マリーは身動ぎもできずにドクドクと脈打つ自身の鼓動を強く感じ取っていた。
すると、ゆっくりとミツキの口が言葉を紡ぐ。
「もしかして、そうまでして私と二人っきりがいいの?」
「ぇ……あ……」
口はパクパクと言葉にならない声を発し、朱は頬だけでなく顔と首にまで広がっていく。今すぐにでも真っ赤な顔を隠したいのに、視線を逸らすことができない。腕は動くはずなのに、まるで石になってしまったかのように動かない。
今にも心臓が破裂してしまいそうな感覚に陥る。シーンと静まり返った教室の中、鳴り響く鼓動が目の前にいるミツキにも聞こえているかもしれないなんて、そんな錯覚すらしてしまう程に。
「ふふ、なーんてね。マリーちゃんは相変わらず恥ずかしがり屋さんだなぁ」
「……っ」
ふっ、と空気が軽くなった。少し茶化したように顔を離したミツキのおかげで、強制的に意識が引き戻される。マリーはいつの間にか忘れていた呼吸を再開させていた。
胸の鼓動は収まらない。
「でも、上手く動けないのはちょっと怖いね。セリナちゃんとか呼ぶ?診てもらおっか?」
ズキリと、胸が痛くなった。どうしてだろう。心配してもらっているのに。ただ、なんとなく、本当になんとなく、目の前の人が自分以外の人に意識を向けていることに耐えられなかった。動けないことへの恐怖よりも、無性に。
故に、マリーはいまだ自身のすぐ目の前にいるミツキの袖を引っ張った。
「マリーちゃん?どうしたの?」
そして、心配そうに自分を見つめるミツキに対し、
「わ、私の足……う、動きます、から……」
「本当?良かったぁ」
分からない。何故、突然動くようになったのだろう。何故、今なら動くと分かったのだろう。何故、それをミツキに見せつけようとしたのだろう。
マリーはその答えを知っているのか、それとも知らないのか。それは本人すらも分からない。だが、そんなものは関係なかった。マリーの認識の差なんて、考えたって意味はない。
なぜなら、それはきっと――
「……へぇ、もしかして、本当に演技だったの?」
「っ!!」
目の前で微笑むミツキには、全てバレているだろうから。
「私、マリーちゃんが本当に動けなくなっちゃったらどうしようって心配してたんだよ?」
目の前にあった机を退かされた。
「さっきは記憶も曖昧だって言ってたから、何かあったんじゃないかって」
一歩、距離を詰められた。
「マリーちゃんのことが大切だから」
また体が言うことを聞かなくなった。
「ねえ、マリーちゃん」
両頬に添えられた手で、視線を合わされる。
「マリーちゃんは、どうしたい?」
既に、逃げ場は無い。
「ゎ……ゎた、わたしは……」
沸騰しているかのような頭では、ロクに思考もできない。この状況の打開策なんて思いつかない。逃げることも、隠れることも、誤魔化すことも、体は既に放棄している。
答えを手にしたハズのミツキは、それでも答えを教えてくれない。マリーが話すのを待ち続けている。その意図は先程の悪戯な笑みに起因するものか、もしくはマリーの回答を以て答え合わせをしようとしているのかもしれない。
マリーの視界には、ミツキの顔しか映らなかった。そんなミツキの瞳には、上気し潤んだ瞳をした一人の少女が映っていた。
「み……み、つきさん、が――――
勢いに呑まれて、熱に浮かされて、マリーは何を言ったのだろうか。マリー自身にも分からない。その答えに対し、ミツキはどんな反応をしたのだろうか。それも分からない。何もかもがぐちゃぐちゃで、もう何も分からない。
悪戯な笑みではなく、いつも通りの穏やかで優しい笑みを浮かべていたような気がする。ふんわりと嬉しそうな笑みを浮かべていたような気もする。
今はただ、優しく抱擁してくれているミツキの感触に夢中になっていた。顔を上げることもなくその背中に腕を回してしがみつき、ポンポンと優しく叩かれる肩と、ゆっくりと撫でられる頭、顔中を覆うミツキの体温と匂いに全ての感覚を集中させて。
この幸福がいつまでも続けばいいな、なんて浮ついたことを思ってしまうのは、胸を満たすこの感情が原因なのだろうか。この感情の名前はきっと、マリーも分かっているだろう。
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「はっ!?……あ、れ……?ここは……」
荒い呼吸をしながら辺りを見渡す。そこは茜色が差し込む誰もいない教室ではなく、明るい朝日の差し込む見慣れた部屋。マリー以外は誰も居らず、時を刻む秒針の音しか聞こえない。
「ゆ、め……?」
バクバクとした心臓の鼓動は鳴り止まず、握りしめられた手にはじっとりとした汗が滲んでいる。頭の中では、つい先程まで体験していた夢の内容がフラッシュバックしていた。
「……っ、〜〜〜〜〜っっ!!?!???!?」
ボッ、という音と共に顔から首から肩まで真っ赤に染まったマリーは勢いよく布団の中に潜り込む。耳はペタンと倒れ、瞳はグルグルと焦点も合わず、手足をバタバタと動かして荒れ狂う感情を外に吐き出していた。
そうしてギシギシとベッドが軋むのもお構いなしにひとしきり暴れたマリーは、少しは落ち着いてきたのか、それとも疲れからか、ピタリと止まった。だが、その頭の中は今も爆発寸前だろう。
「ぅあ……」
情けない声を上げてから、フラフラと立ち上がりベッドから離れる。乱れた寝間着も整えずに椅子に腰掛け、背中を預けながら両手で顔を覆ってしまった。
「わ、私、なんて夢を……っ」
思い返せば思い返すほど、形容しがたい感情が胸の中で暴れ回る。ジッとしていられなくなるような、冷静でいられなくなるような、そんな感情が。
それがどんな感情だなんて、今のマリーには何も分からない。
唯一分かるのは、今の自分はまともに外出すらできないということだけだ。
夢オチ☆
初めて夢オチ書いたかもしれませんね。でもなんか、うーん、マリーを書こうとすると雰囲気が違くなる気がする。なんか、毎回しっとりしてない?私の気のせい?
まあ、ええか。(適当)