Blue Archive vol.AGITΩ   作:mukugawa

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これも全部、便利屋68ってやつらの仕業なんだ……

 

 本日も快晴、天日干した洗濯物を取り込んでたたみ、登校の準備に取り掛かる。

 あれからセリカと先生の関係は良い感じだ。

 具体的に言えば、セリカのデレ率が20%増しになった。

 0%からの大きな飛躍である。

 先生は50%くらいまで頑張ってくれるとうれしい。

 ……よし、あとはYシャツにブレザーを羽織れば準備完了だ。

 

「ご飯はまだ?」

 

「人の部屋に上がり込んでの第一声がそれとはいい度胸だなデブシロコ」

 

 お前の食費は高いんじゃ。

 ノノミさんとこ行け。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 アビドス高等学校の対策委員会の部室にて。

 

「本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが……」

 

 心配そうな顔でそう話す司会役を務めるアヤネ。

 アビドス対策委員会の定例会議はまともに進んだためしがない。

 もちろん全員がふざけているわけではない。

 真面目に突拍子のない提案を出すから、まともに進行できないのである。

 

「では議題に入ります。私たちが最優先で取り組むべき重要な課題……学校の負債の返済方法について。ご意見のある方は挙手をお願いします」

 

「はい! はい!」

 

 我先にと手と挙げたのはセリカだった。

 

「はい。では1年の黒見さん、お願いします」

 

「うん、わかったけどさ……その名字呼び、やっぱり止めない? ぎこちないし」

 

「会議ですから。こういう時こそ気を引き締めないと」

 

「おカタイ感じも悪くないんじゃなーい? 今日は先生もいることだしさ」

 

「ん。始めは肝心」

 

「こういうのなんだか委員会っぽくていいじゃないですか! 引き続き継続ということで☆」

 

 俺とセリカ、先生以外の賛成を持って『会議中は真面目にやる』という議題は可決された。

 なお、定例会議参加者の出す案の内容までは変わらないので、特に意味はない。

 本当に雰囲気作りだけである。

 

「……とにかく! 対策委員会の会計担当としては、破産寸前の財政状況の迅速な解決が求められるわっ! 毎月の返済額は、利息だけで788万! テツヤ先輩が入ってくれたおかげで利息分の返済まではギリギリ届くこともあるけど、正直、今までのようにアルバイトや指名手配犯を捕まえたりするだけじゃ足りない! でっかい一撃が必要なのよ!」

 

 ホワイトボードに俺たちの抱える現状を書きなぐったセリカがバンとボードを叩く。

 実に的を射ている発言なのだが、俺はもう『一撃』の時点で嫌な予感がしていた。

 

「一撃……というと?」

 

 わが意を得たりというような笑みを浮かべたセリカは、カバンからある紙を取り出し、全員へと配った。

 

「これは……」

 

「どれどれ……『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……かあ」

 

 セリカは真面目である。

 本当に彼女はいたって真面目だし、この見るからに胡散臭く、聞くだけで詐欺を疑うチラシの内容がアビドスの危機を救うと信じている。

 ふざけているわけではない……ないから毎回困るのだ。

 

「そうっ! これがアビドスの財政を救うのよ!」

 

 ああ、なんと哀れなセリカ。

 本当にこの後に真実を突き付けることが心苦しい。

 マジでこの世からマルチ商法の類は消えてくれ、頼むから。

 毎度毎度騙されるセリカが本当にかわいそうだ。

 

「この前に説明会に行ってね! 運気を上げるゲルマニウムブレスレットの話を聞いたのっ!」

 

「……」

 

 シロコの沈黙が一番重い。

 後輩思いのアイツの腸は今、煮えくり返っている最中だろう。

 セリカはあまりにも純心が過ぎる。

 そのせいでカモにされているという事実に気づかないのである。

 

「却下~」

 

 ホシノ先輩のゆるく、しかしはっきりとしたNOがセリカの案を打ち落とした。

 

「え!? な、なんで」

 

「セリカちゃん、これは完全にマルチ商法の手口だよ……」

 

「絶対に儲からない。こっちが損を被るだけ」

 

「そもそもゲルマニウムと運気アップが結びつくのかな……こんな怪しいところから提案されるビジネスなんてまともとは思えないよ」

 

 アヤネとシロコの言うとおりである。

 というか、ゲルマニウムは半導体の一つで、電子部品とかに使われるのが主だ。

 医薬品に用いられることもあるらしいが、運気アップなんて話は聞いたこともない。

 運気アップならパワーストーンとかそっちじゃないのか?

 兎にも角にも状況確認である。

 

「セリカ。買ってないよな?」

 

「は、はい。先輩の意見を聞いた後にと思って……」

 

 よしきた!

 アビドス生にガッツポーズの輪が広がる。 

 度重なる被害の対策として、押し売りの類は買う前に誰かに相談するように強く言い聞かせたかいがあった。

 

「成長しましたね、セリカちゃん……」

 

「は、はあ……?」

 

 ノノミさんが涙をハンカチで拭う。

 くたばれマルチ商法。

 お前らの魔の手はセリカに届く前に俺たちが防ぐ。

 ゆくゆくはセリカ自身でマルチ商法を撃退できるようになってもらおう。

 

「気を取り直していきましょう。他に意見のある方はいますか?」

 

「は~い」

 

 と、次に手を挙げたのはホシノ先輩だった。

 

「えっと……はい、3年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますが……」

 

「フフフ。大丈夫、現実的な案だから」

 

 アヤネの懸念をよそにえっへんと勿体つける仕草をした先輩が語り始める。

 アヤネ、多分君の懸念は正しい。

 

「我が校の一番の問題は、全校生徒の少なさが問題ってことはみんなも知ってるよね? 生徒の数=学校の力。実際、テツヤくん一人が増えただけでも、先月の利息分に届いたわけだしさ~、私たちもトリニティやゲヘナみたいに生徒数を桁違いに増やせれば、毎月の満額返済も夢じゃないはず~」

 

 正論である。

 実際、大手の学校の予算ならばアビドスが抱える負債は1年どころか1か月もあれば払い切れるだろう。

 生徒数を増やすとは、予算を増やすことと同義だ。

 ……まあ、ここまではいい。

 

「そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会の発言権も与えられるしね」

 

「鋭いご指摘ですが……でもどうやって……」

 

 その方法をアヤネが問う。

 

「簡単だよー、他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」

 

「はい!?」

 

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。どう? 名案じゃない?」

 

 だと思った。

 ホシノ先輩も相当の変人である。

 これは突っ込み待ちのボケなのだろうが……でもまあ、この案はボツだ。

 

「ホシノ先輩」

 

「何かなテツヤくん」

 

「それ、転入させるまではいいですけど、その後に定住してくれないとだめじゃないですか? ただ脅して入れるだけじゃあ、転入早々に元の学校に再転入しちゃいますよ」

 

 ほぼ確実に転入させることができるまでは悪くない案といえる、しかし将来性がない。

 転入させたうえでアビドスから離れられないようにしないと。

 まあ、それは如何にキヴォトスといえど倫理的にアウトだ。

 というか、こんな方法を試したら間違いなく他校の恨みを買う。

 

「う~ん。それじゃあ駄目だね~」

 

 ホシノ先輩は嬉しそうだ。

 なんというか、ホシノ先輩はかまってちゃんなところがある。

 定例会議でもよくこういうボケをかますのだ、この人は。

 

「いい考えがある」

 

 キリっとした顔でシロコが手を挙げた。

 

「……はい、2年の砂狼シロコさん……」

 

「銀行を───」

 

「「「却下」」」

 

 俺とアヤネ、セリカの声が重なった。

 こんなことで重なってもうれしくないけど。

 

「銀行を、襲うの」

 

「2回言っても駄目だぞ」

 

「衝動的に言ったこの前とは違う。ちゃんと計画を考えた。ターゲットは市街地にある第一中央銀行」

 

 衝動的に言ったとか爆弾発言をかますんじゃねえよ。

 お前は今の先生の姿が見えないのか?

 見ろ、あのおいたわしい姿を、洪水のように次々流れる意見のインパクトのせいで、宇宙を感じた猫みたいな顔をしているじゃないか。

 もうちょっと労わってやれ。

 

「金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」

 

「さっきから一生懸命見てたのは、それですか!?」

 

 本気過ぎて草も生えない。

 ……いや、頭ごなしに否定するのもあれなのか?

 

「5分で1億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」

 

 シロコがスッとカバンから取り出したのはそれぞれにナンバー振られた、実にカラフルな目出し帽だった。

 完全に犯罪者のそれ、犯罪者マスクである。

 テレビ以外で見ることあんのか、コレ。

 シロコは早速青い目出し帽を被っている。

 

「いつの間にこんなものまで……」

 

「うわー、これシロコちゃんの手作り?」

 

「わあ、見てください! レスラー見たいです!」

 

 自らも目出し帽を被るノノミさんと興味深そうに手に取って眺めるホシノ先輩は満更でもなさそうだ。

 

「そんなわけあるか! 却下よ、却下ー!」

 

「そうです! 犯罪はいけません! ですよね、テツヤ先輩!」

 

「…………」

 

「て、テツヤ先輩?」

 

 ……アリ、かもしれない。

 足がつくリスクは考え物だが、正直悪くはないと思った自分がいる。

 そうだよな、ここはキヴォトスだ。

 外の常識なんて通じない世紀末。

 試しに白い目出し帽を手に取って被ってみよう。

 ……うん、アリかも。

 

「ん」

 

 グッと親指を立てるシロコ。

 元々がまともに返せる目途の立たない途方もない金額なのだ。

 このシロコはこういうときの頭のキレは冴えている。

 賭けてみる価値はあるか……

 

「先輩!? 駄目です! 絶対だめですから!」

 

「でもなアヤネ。もうそれくらいやるべき切羽詰まった状況で……」

 

「思い出してください! 犯罪ですよ! シロコ先輩に毒されすぎです! 如何にキヴォトスであっても犯罪はいけないことなんです!」

 

「そう、だよな。犯罪はだめだ……」

 

「ちっ。もう少しだったのに」

 

 ……危ない危ない。

 危うくシロコに持っていかれるところだった。

 とにかく、目出し帽を脱ごう。

 

「あのー! はい! 次は私が!」

 

 そうこうしているとノノミさんまで手を挙げ始めた。

 いい加減にしとかないとそろそろアヤネのちゃぶ台返しが炸裂しそうだな……

 

「はい……2年の十六夜ノノミさん。ご意見をお願いします……犯罪と詐称は抜きで」

 

「はい! 犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法、それはズバリ───スクールアイドルです!」

 

 ババンと効果音が付きそうな大げさな手振りでノノミさんが言い放った。

 

「あ、アイドルですか……?」

 

「そうです! アニメで見ましたが、廃校寸前の学校を復興する定番の方法はアイドル! 私たち全員がアイドルとしてデビューすれば……」

 

「却下」

 

 珍しくホシノ先輩が言い切った。

 

「あら……いい案だと思うんですけど」

 

「なんで? ホシノ先輩なら、特定のマニアに大うけしそうだけど」

 

「うへーこんな貧相な体が好きとか言っちゃうなんて人なんて、人間としてダメでしょー。ないわー、ないない」

 

 セリカの発言を否定するホシノ先輩。

 そうだろうか?

 特殊性癖でなくとも、ホシノ先輩は人気を得そうな性格をしていると思うけれど。

 アイドルにさっぱり興味がない俺にはわからないが。

 

「決めポーズも考えてあるんですよ」

 

 席を立ったノノミさんくるっと一回転すると、キラッと効果音が付きそうなポーズを決めて、

 

「水着少女団のクリスティーナで~す♧」

 

 と言った。

 

「何が「で~す♧」よ! それに「水着少女団」って! だっさい!」

 

 言いたいことを全部言ってくれてありがとう、セリカ。

 しかしネーミングセンスはともかくとして、今のところ一番現実的な案である。

 もっとも、俺には関係のない話だが。

 

「そんな「自分は関係ない」って顔をしないでくださいよ、テツヤくん。このアイドル活動の要はあなたなんですから☆」

 

「は?」

 

「今こそ! アビドスが持ちうる最大のアドバンテージ! 男子生徒を活用するときがきたのですよ! テツヤくん!」

 

 何を言っていらっしゃるのだこのお嬢。

 まるで俺がアイドル活動をするみたいなことを言わないでほしい。

 第一、俺は水着少女団には絶対になれないわけで……

 

「水着少女団とは別です。テツヤくんにはソロアイドル、キヴォトスで唯一の存在としてデビューしてもらいます!」

 

「ちょくちょく俺の脳内を読むの止めてくれるかな、ノノミさん。ていうか、ありえねえ! 需要がないので却下です!」

 

「「先輩がアイドル……」」

 

「悪くない」

 

「いいんじゃないかな」

 

 嘘だろ……何で俺以外がやる気なんだよ!

 俺の顔はイケメンでもなんでもないんだぞ!

 勘違いしてデビューしたイタいヤツ扱いなんて、公開処刑もいいところじゃないか!

 インターネットなんて俺が死んだ後も残るかもしれないんだぞ!

 黒歴史を放出したまま、俺は死にたくねえ!

 

「落ち着け、セリカ! アヤネ! 俺のアイドルデビューを承認するってことは、お前らのデビューも受け入れることになるんだぞ!」

 

「「うっ、それは……」」

 

「ホシノ先輩も! いいんですか、アイドルになったら気楽に居眠りなんてできる環境はなくなりますよ! 労働が増えるんですよ!」

 

「う~ん。それは困るかな~」

 

「シロコ! お前は……いいや」

 

「ん!」

 

 何か抗議したげなシロコは放っておくとして。

 どうだ、ノノミさん。

 きみが作り上げた包囲網は既にズタズタだ。

 俺の将来のために、アビドスアイドル計画は断固として阻止させてもらうぞ!

 

「くっ、やりますね、テツヤくん……仕方ありません、アイドル計画はまたの機会に」

 

 後日にまた、ってやりたいんだろうが、そうはさせんぞ。

 

「……えっと、他にご意見はありますか? ないなら決議に入らなきゃいけないんですけど……」

 

 そんな目で見るなアヤネ。

 わかっている。

 俺も否定するばかりではない、しっかりとした案を持ってここにいるのだ。

 

「はい」

 

「…! では2年の新条テツヤさん。お願いします」

 

「俺は不良狩りを提案したい」

 

「……はい?」

 

「みんなも知っての通り、ヘルメット団を始めとして不良どもがアビドスにのさばり、しまいには拠点まで作っている。そういう連中を一斉に摘発! そいつらの物資を接収し、借金返済に役立てるって寸法だ」

 

「な、なるほど! 確かにそれなら犯罪ではなく、正規の治安活動……」

 

「善は急げだ。この案が決まり次第、俺は2日学校を休む」

 

「それはなんで~?」

 

「まず不良共の根城を暴き、その戦力を調べる。これで1日」

 

「はい」

 

「そして後日、一気に敵拠点を襲撃し、撃滅する。これで1日」

 

「……念のために聞きますけど、それは全部テツヤ先輩がやるんですね?」

 

「その通り。俺は頑丈だからな」

 

 変身したままなら、3日くらいは飲まず食わずでも動き続けられる。

 動員する人数は1人。

 所要日数2日。

 人的資源を最適な形で、最短で作戦をこなす。

 非の打ちどころのない素晴らしい計画だろう、アヤネ!

 

「と、いうわけだ。もちろんみんなは────」

 

『却下』

 

 室内の俺以外、全員の声が揃った。

 

「は?」

 

 却下?

 却下される理由がないだろ!

 この完璧な提案にどんなケチのつけようがあるっていうんだ!

 

「おい、待て。却下するならそれ相応の────」

 

「ねえ、先生? これまでの意見で、やるならどれがいいかな?」

 

「え!? これまでの意見の中から選ぶんですか!?」

 

「大丈夫だよー。先生が選んだものなら、間違いないって」

 

「ちょっと」

 

「まさかアイドルをやれなんて言わないよね?」

 

「アイドルで☆お願いします♧」

 

 無言で目出し帽を被るシロコ。

 ていうか、ねえ。

 

「話を」

 

「よし。私がプロデューサーをやるよ。みんなでアイドルだ」

 

 先生はなんでよりによってそれを選んだ!?

 

「よーし。がんばろっか~」

 

「きゃあ~☆ 楽しそうですね!」

 

「え、嘘でしょ? 本気でやる気?」

 

「計画は大胆な方がいい。でしょ、アヤネ」

 

 そのシロコの言葉にアヤネは────

 

「いいわけないじゃないですかぁ!!」

 

 部屋の中央に置かれたテーブルを投げ飛ばした。

 ……あと、長期的ではあるが、俺の案も保留ということになったらしい。

 役割は全員で分担することを約束されたが。

 ……ほんと、何が気に食わなかったんだろう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 放課後、紫関ラーメン屋にて。

 ブちぎれたアヤネを何とか宥めながら、俺たちはホシノ先輩の提案で紫関ラーメンで一息つくことになった。

 

「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん。おじさんがラーメン奢るからさ、怒らないで、ねっ?」

 

「私は赤ちゃんじゃありません……」

 

「……なんでもいいけどさ、なんでまたウチに?」

 

「アヤネ、チャーシューあげる。口開けて」

 

「ふぁい」

 

 厨房でやり取りを聞きながら仕事をする。

 アヤネの腹の虫も何とか収まりそうでなによりだ。

 

「まさかテツヤくんまでここでバイトをしていたなんて……どうりでセリカちゃんのバイト先を知っていたわけですね」

 

 別に隠していたわけではない。

 バイトをしていることは教えていたが、セリカの口止めがあってその内容までは言うことができなかったのだ。

 そんなことを考えていると新しい客さんが扉を潜ってきたらしい。

 団体の……学生のお客様のようだ。

 何はともあれ挨拶は大事。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

 

 セリカの声掛けに黒い帽子を被った生徒が答えた。

 

「……こ、ここで一番安いメニューは、お、おいくらですか?」

 

 紫関ラーメンで一番安いラーメンは看板商品でもある紫関ラーメンだ。

 580円の安さと美味さを両立した、大将の自慢の一品である。

 それを聞いた黒い帽子の生徒は何度か頭を下げると後ろに待つ3人の生徒の元へ駆け寄った。

 1人は白い髪を後ろ手に結んだと目つきの鋭い生徒。

 1人は小柄でこれまた白い髪をツインテールにしたお転婆そうな雰囲気。

 最後の一人は不敵な笑みを浮かべた赤い髪の生徒だ。

 4人は何か話していたが、それを終えるとセリカに注文を頼んだ。

 

「えっ? 一杯だけ?」

 

「はい?」

 

 何かを問い正したい衝動に駆られたが、相手はお客様である。

 そのニーズには幅広くお答えし、満足していただくことが紫関ラーメンのモットー。

 

「箸を4膳ですか?」

 

 俺は黙って、一人分のどんぶりを用意する。

 

「先輩」

 

「わかってる。大将」

 

 頷いた大将を確認すると、俺は一杯に盛れる最大の量をどんぶりの中に入れた。

 麺、チャーシュー、メンマ、ネギ……盛れるだけ盛ったどんぶりを受け取ったセリカがお客様のテーブルへと配膳する。

 

「お待たせしました! お熱いのでお気をつけて!」

 

「わお! 超特盛じゃん!」

 

「い、いいんでしょうか。こんなに頂いてしまって……」

 

 いいんです。

 貴方たちはお客様なのです。

 どんな懐事情を抱えていようが、最後に満足してお帰り頂くことが、紫関ラーメンの誇りなのですから。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 後日。

 なんか見覚えのある連中が、ヘルメット団の代わりにやってきた。

 ていうか、昨日の4人とそれに引き連れられた傭兵部隊だった。

 

「まさかこんな所で会うなんてねっ! ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」

 

 セリカの怒号が飛ぶ。

 赤い髪の人は冷や汗を垂らしているようだ。

 少なくともヘルメット団のように偉そうな態度ではない。

 やってるのは敵対行為だが、どうも悪い連中には思えないんだよな。

 この数か月で質の悪い奴らを見過ぎた弊害だろうか。

 

「いやあ、その件はありがと。でもこっちも仕事でね」

 

「残念だけど、公私はハッキリ区別する主義だから」

 

 小柄な人と目つきの鋭い人はセリカの怒号を受け流す。

 仕事、と言ったのか。

 いったい、誰に雇われてアビドスを襲うのか。

 聞いてみたいことが増えてきたが、話してはくれないだろう。

 特にあの2人は。

 

「学生ならもっと健全なアルバイトがあるでしょ! 便利屋なんて……」

 

「あ、アルバイトじゃないわ! 私たちはビジネスでやってるの!」

 

 とんだビジネスもあったもんだ。

 ……便利屋アビドスか。

 武力を売りにしていくのもありかもしれないな。

 これは新たな収入源になるかもしれない。

 

「総員! 攻撃!」

 

 そんなことを考えていると、赤髪の人の号令で敵が襲い掛かってきた。

 数はヘルメット団に比べれば少ないが、それでもかなりの人数を揃えてきている。

 ここは俺も……

 

「先輩は救援物資の用意をしてください。くれぐれも戦闘には参加しないように」

 

「はい」

 

 アヤネに釘を刺された。

 うーん、仕方がないか。

 せっせとアヤネのドローンに救援物資を持たせる。

 

「前進です!」

 

 ミニガンを持ったノノミさんがやってきた敵グループを迎え撃つ。

 相変わらず、人に持たせる火力ではないその攻撃でグループがあっという間に全滅した。

 

「やるわね!」

 

「メッタメタにしてやるんだから!」

 

 とはいえ、相手も傭兵集団。

 粗削りではあるが、ヘルメット団とはまた違った強さを持った連中である。

 連携はそこそこだが、その代わりに個人の練度が高いようだ。

 ノノミさんの持つ火力を警戒して、遮蔽物に隠れながら撃つ攻撃に変えてきている。

 これは長引きそうだ───その予感は的中した。

 あっという間に30分が経ち、それでも敵は全滅していない。

 流石は傭兵といったところか。

 

「アヤネ」

 

「先輩は……」

 

「物資にも限界がある。余裕があるうちに決めるべきだ」

 

 アビドスの物資は、先生が持ち込んでくれた救援物資を入れても心もとない。

 できる限り、浪費は避けるべきだろう。

 それでも迷うアヤネに痺れを切らした俺は、指揮を続ける先生に向かって言った。

 

「先生、俺も出ます」

 

「……うん。わか───」

 

 先生がそう答えようとした時だった。

 ちょうど12時を回り、学校のチャイムが流れる。

 すると、傭兵の連中が急に撤退し始めた。

 

「定時じゃん」

 

「みんな、帰ろー」

 

「え!? ちょ、ちょっと……」

 

 すげーな傭兵。

 定時できっかり帰ってくんだ。

 赤髪の人が迅速に撤収の準備を始める傭兵たちを何とか止めようとするが、時すでに遅し。

 便利屋を名乗る4人だけが残された。

 

「どうするの、社長」

 

「う……お、覚えてらっしゃい!」

 

「三下の小悪党みたいなこと言ってる……」

 

「だだだ、誰が三下ですってーー!?」

 

 やべ、声がスピーカーに入ってた。

 沸騰する赤髪の人を連れて、残りの3人は足早に去っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 次の日。

 アヤネの調べによれば彼女たち……便利屋68はゲヘナの部活動であるという。

 社長である赤髪の人、陸八魔アル。

 室長、小柄な人、浅黄ムツキ。

 課長、目の鋭い人、鬼方カヨコ。

 役職なし、帽子の人、伊草ハルカ。

 ゲヘナの問題児筆頭……らしいが、今のところヘルメット団と比較するとかわいいものだ。

 何者かの依頼でアビドスを襲った便利屋68は、キヴォトスの外れ者たちの巣窟であるブラックマーケットで活動しているらしい。

 傭兵集団が使用していた兵器の型番も、どうやらブラックマーケット経由のものだったようだ。

 俺たちは彼女たちの情報を得るため、ブラックマーケットへの潜入捜査を試みることになった。

 

 

 

 

 

 

 




・ゲルマニウム麦飯ブレスレット
 産業廃棄物だ!
 特に何の効果もないぞ!
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