Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
「…………」
俺は今、アビドスを離れたゲヘナの地に立っていた。
カイザーPMCを一時退けた俺たちは、先生が掴んだホシノ先輩の居場所───アビドス砂漠のカイザー基地へと向かう戦力を集めるためにここにいる。
「レロレロレロレロレロレロレロレロ」
かつてアビドスに攻め込んできたその兵力を見込んで、援軍を要請しに来たのだ。
「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ」
とはいえ、そう簡単にはいかない。
風紀委員会とは一戦を交えた身である。
元をたどればあちらの不手際が原因であったとはいえ、こちらから頼み込んだところで俺たちに手を貸してくれるとは到底思えなかった。
「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ」
そこで我らが先生の出番である。
連邦生徒会お墨付きの先生が直接嘆願することで、風紀委員会の助力を得ようということだ。
その場にアビドス生、しかも直接戦った俺が先生の護衛につくのはどうかと思われたが、先生を一人で行かせるわけにもいかない。
あくどいカイザーのことだ、今のアビドスに手を貸す先生の存在にもとっくに気づいているだろう。
既に瀕死のアビドスに構ってくるとは思いずらいが、万に一つの事態も避けなければならない。
ということで俺はゲヘナまでついてきたのである。
「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ……」
「う、うわあ!? や、止めろ、わかった! ただの冗談だったんだ! だからもう止めてくれーー!!」
今、自分と同学年の女生徒の足を舐めまわしている大人がいます。
さて、こういう場面に出くわしてしまった時、最もすべきことは何でしょうか?
答えは簡単だ。
携帯をポケットから取る。
「あー、もしもしポリスメン?」
「ま、待って! これには訳があって───」
どんな理由も聞きたくないです先生。
言い訳をするなら舐めまわす舌をいい加減に離してあげてください。
そのツインテールは特に親しいわけではないのですが、絵面があまりにもショッキングなうえに気の毒過ぎてちょっと同情して……いや、いいか。
こいつラーメン屋の看板に穴を開けやがったしな。
むしろいい気味まである。
「す、すごい冷たい目をしている……」
「あ! お、お前……いや、お前でもこの際いい! 何とかしろ、この大人はお前たちアビドスの────」
「アー、オソラガブルー……」
「見て見ぬふりをするなー!! いいのか、言ってしまうぞ!! 噂を流すぞ!! アビドスには女生徒の足を舐める変態の男がいると!」
「うわあああああ! 野生のおまわりさんだあああ!!」
「通報は止めてえええええ!!」
「お前はいつまで舐めているつもりだー!!」
「……なに、これ?」
「委員長! 助けてください!」
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ゲヘナ学園が出した結論は保留だった。
戦力が増えることが確定したわけではないが、その可能性があるだけで十分である。
先生はよく頑張ってくれた。
……頑張ってくれたと思います。
俺と先生はゲヘナ学園の帰り、電車に乗ってアビドスに帰る最中であった。
「阿慈谷さんもティーパーティーに話を通してくれるみたいです」
「そうか……やれることはやりきったね」
「はい。あとは明日、ですね。今のところ、カイザーの襲撃がないのは幸運ですけど」
カイザーPMCによる進軍は今のところ再開される様子はない。
立ち退きの強制についても住民には勧告されていないようだった。
攻めるなら今しかないだろう。
「……テツヤは、もっと素直になっていいと思うよ」
いきなり先生が声をかけてきた。
しかもよくわからない内容、素直にやる?
「どういうことですかね……?」
「テツヤはずっと気を遣ってるからね。アビドスのみんなにも、戦ってる相手にも」
「…………」
「私はアギトについてはあまり知らない。だから、偉そうなことは言えないけれど……テツヤは頑張っているよ、ずっとね」
……なんというか、変な人だなと思う。
俺がアギトとして変身した姿を見ても、対して驚いていなかったし。
というか、逆に目を輝かせていたような気もする。
変身して、あんな目で見られたのは初めてだった。
今もそうだ。
のほほんとした雰囲気をしているのに時々、人が隠している本音を言い当てて、欲しいと思っていた言葉を投げかける。
俺を拒絶しない、会ったことのないタイプの大人。
「……先生やみんなが頑張ってるんです。俺がサボるわけにはいかないでしょ」
「そういうところだよ」
「?」
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紫関ラーメン屋にて。
俺はお客さんのいない貸切状態にしたラーメン屋で呼び出した便利屋68を待っていた。
大将にはしばらく店を休むように頼み込み、この席を用意した。
「邪魔するわよ」
しばらく待っていると便利屋の4人がやってくる。
俺は厨房で麺のお湯を切りながら、
「いらっしゃいませ。どうぞ席についてくれ」
と言った。
席に着いた4人を確認すると完成したラーメンをどんぶりに乗せ、4人の前へと並べる。
「これは前金と思ってもらっていい。あなた達に依頼がある、便利屋68」
「それはアビドスからの正式な依頼?」
「いや、俺の個人的な依頼だ」
「……話を聞きましょうか」
俺は依頼の内容を簡潔に伝える。
それを聞いた陸八魔さんは考えるような仕草をすると、俺に問いを投げかけてくる。
「あなた、この話は仲間にしたの?」
「したよ。だから依頼してる」
「確かなの?」
「信頼性は高いな。ほとんど確定と思ってくれて構わない」
「……わかった。引き受けるわ、その依頼」
そう言った陸八魔さんは目の前のラーメンに手をつけ始める。
「アルちゃんいいのー? しくじったら私たちもお終いかもしれないけど」
「やるわよ。どんな依頼も達成するのが便利屋68のモットーだもの」
「カイザーの依頼をすっぽかして逃げる途中だったんだけどね」
「あれはカイザー側からのキャンセルでしょ! 私たちのモットーに反してはいないわ!」
「今日の社長は口が上手いね……」
「さすがアル様です…!」
陸八魔さんに続くように次々とラーメンに手をつける便利屋たち。
一蓮托生、リーダーが決めたことなら地獄の果てまで。
きっと彼女たちの繋がりを断ち切ることは誰にもできないのだろう。
……俺とアビドスの皆にもそんなつながりがあると、今は信じることができる。
着信のあったスマートフォンを取ると阿慈谷さんからモモトークで連絡が入っていた。
『成功しました』
その文字に思わず口元が緩む。
「……」
何を見てるんだ陸八魔さん。
「何か顔についてますか?」
「いいえ……その、笑った顔を始めてみたから」
「よく言われるんですけど……俺ってそんなに仏頂面に見えます?」
「うん! 常に怒ってるみたいな感じかな~」
「ちょっとムツキ! 失礼よ」
「…………」
「カヨコ課長? どうかしましたか?」
「……なんでもない
ーーーーーーーーーーーーーーー
かくして便利屋の協力を取り付けた俺は、安心して決戦の当日を迎えたのである。
学校には既に揃ったみんなの姿があった。
部室に入ってすぐにシロコが近づいてくる。
「遅い」
「悪かったって。準備に手間取ったんだ」
「……本当にそれだけ?」
「それだけ」
「………わかった」
聞きたいことは聞いたと言わんばかりにシロコは準備に戻っていく。
その姿を見た俺は、セリカたちの様子を伺った。
部室の机の上に広げられた地図にはアヤネが算出した砂漠への最短ルートが書かれており、セリカとアヤネはその付近にいる。
「おはよう」
「おはようございます、テツヤ先輩」
「おはようございます……怪我はもう大丈夫ですよね?」
「心配性だなアヤネは。大丈夫、もう影も形もないから」
「ならよかったですけど……次はあんなことになる前に人を呼んでください」
「そうですよ! 先輩は無茶ばかりするんだから……」
「耳が痛いね。わかったよ、今度は真っ先にみんなに連絡するから」
どうやら思っていた以上に心配をかけてしまったようだ。
この件が片付いたら、しばらくはおとなしくしていよう。
心配の表情をようやく崩した2人と今日のルートについて整理していると、ノノミさんが話しかけてきた。
「おはようございます。テツヤくん」
「おはよう、ノノミさん。いよいよだね」
「はい。必ずホシノ先輩と一緒にアビドスに帰りましょう」
互いに頷きあう。
そうだ、カイザーの壊滅など二の次の問題。
今日の目標はあくまでもホシノ先輩の救出。
どうせカイザーはろくな末路を辿らないし、最悪放っておいてもいいだろう。
そんなことを考えていると先生が全員そろったことを確認して、集合をかける。
「今日は正念場だ。みんな頑張ろう!」
「「「はい!」」」
「ん」
みんなの気合は十分だ。
俺たちは学校を出て、アヤネのルートに従って歩き出そうとした。
「いたぞ! 対策委員会だ!」
その叫びに振り返るとカイザーPMCの部隊が銃を構えてこちらへと向かってきた。
「こんな時に…!」
「邪魔をしないでください!」
応戦しようとするセリカとノノミさん。
学校が襲われてしまえば中にいるアヤネに危害が及ぶ。
カイザーへの殴り込みの前にあの兵士たちを片付けなければならない。
しかし銃を構えた2人の弾薬は消費されることはなかった。
今にも襲い掛かろうとした兵士たちはアビドスではない第三者に瞬く間に倒されてしまったからだ。
「お困りのようね! アビドスの諸君!」
そう、兵士たちを倒したのはほかでもない陸八魔さんをはじめとする便利屋68であった。
「便利屋68? なんでここに……」
「話は後よ! あなた達にはやらなきゃいけないことがあるんでしょ? ここは便利屋68が引き受けるわ!」
「ありがとう! みんな、先に行くよ!」
困惑するアビドス生を先生が先導し、先を急がせる。
俺はアビドスのみんなに見えないように陸八魔さんに向けて親指を立てた。
「……!」
それを見た陸八魔さんもまた親指を立てた。
これでアビドス高校の防衛は考えなくてもいい。
みんなは目の前の戦いに集中できる────
ーーーーーーーーーーーーーーー
砂漠への道はアヤネのナビゲートによってスムーズに進むことができた。
巡回しているであろうPMCの兵士やたむろする不良に出くわすこともなく、弾薬をできる限り節約することに成功した。
しかし、砂漠に入ってからが本番だ。
当たり前のことだが、敵の本陣に近づけば近づくほど警戒も強くなるし、既に学校に攻め入ろうとした兵士たちから俺たちが学校を出立したことカイザーには知られてしまっているだろう。
身を削って時間稼ぎをしてくれている陸八魔さんのためにも、一刻も早くホシノ先輩の救出を敢行しなければならない。
砂漠に吹きすさぶ風に耐えながら、俺たちはカイザーの基地を目指し進み続けた───そして。
「戻ってきたね……」
一度は逃げ帰ることになったあの採掘基地まで戻ることができた。
『先生が教えてくれたホシノ先輩が捕らえられているとされる地点は、元のアビドス本校舎です』
「みんな! 行くよ!」
先生の号令を合図に聳え立つ工場目掛けて走り出す。
基地の敷地内には予想通り、カイザーの兵士たちが待ち構えていた。
「どけーー!!」
敵が張る弾幕をものともせずにセリカが突撃。
その攻撃力によって道を切り開こうとする。
「ドローン、作動開始」
それを援護するようにミサイルを搭載したドローンを作動させたシロコが切り込んでいく。
セリカをハチの巣にしようと身を乗り出した兵士たちを次々とドローンが爆撃し、敵の防衛網を削り始めた。
「行きますよ!」
ノノミさんがその攻撃に追従するようにミニガンの砲身を作動させる。
単騎ではトップクラスの火力に曝された兵士たちはたまらず防衛網を崩し、撤退を選ぶものも出てきた。
「逃がさねえよ」
逃げようとした兵士たちを跳躍で一気に近づいて一人ずつ殴り飛ばしていく。
ノノミさんの射程から逃げようとした者には問答無用で射程の中へと蹴って帰す。
「「「うわああああああ!!」」」
敵の第一陣を殲滅した俺たちはアヤネのナビゲートに従い、第二陣の遭遇に備える。
やってきた第二陣を襲ったのは、第一陣が準備しようとしていたクレイモア地雷だった。
「くそっ! 撃て、撃てーー!!」
出鼻をくじかれた第二陣を迎え撃つ。
俺は敵陣と自陣のちょうど真ん中まで跳躍し、地面を渾身の力を込めてぶん殴った。
「な、なんだ!」
舞い散る砂塵がアビドスの姿を消していく。
砂にまぎれたアビドス生を見失った兵士たちとは逆に、戦場をフルタイムで監視する先生の指示が第二陣にその牙を剥く。
立ち上る砂煙の中から放たれた銃弾が次々と兵士たちの体を穿っていくのだ。
「敵はなんでこっちが見えてるんだ!?」
怖いだろう。
自分たちが一方的に打ち負かすはずが手も足も出ずに倒されていく。
自分の無力さが嫌というほどわかるだろう?
お前たちの感じるその痛みが、アビドスの耐えてきた苦痛の1ミリにも満たないと知れ。
「う、うわああああ!?」
恐慌にかられて逃げようとした敵を蹴り飛ばし、応戦しようと向かってきた敵の頭部を拳で粉砕する。
お前たち相手に手加減はいらない。
外の人間が恐れるアギトの力を思い知るが良い。
「なんでこいつには当たらない!?」
先生の射線管理は完璧だ。
たとえ俺が敵陣で暴れまわろうともフレンドリーファイアを起こさない位置にみんなを動かしている。
アビドスのみでは俺の動ける範囲は味方の射線を遮ってしまうために限られるが、先生の指揮があれば話は別だ。
アビドスの射線が通らない距離、遮蔽物に隠れた敵の位置を俺に示し撃破させることで、本来消費される弾薬の量はかなり保存できる。
そうしてアビドスの攻撃は続き、砂塵が消える頃には倒れ伏した敵の大群だけが残された────
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「ええい! たった5人に何をしているのだ役立たずめ!」
カイザー理事は焦っていた。
もはや失うもののないやけくその生徒たちによる特攻。
それを知った時さえくだらないと嘲笑った。
我々大人の都合のいい道具でしかない子供がたった5人で何ができると。
学校に差し向けた兵士たちが、なぜかその場にいた便利屋68に返り討ちにされたという報告からすべてが変わった。
幾度も幾度もチームを差し向けてもアビドスの破竹の進軍は止まらない。
今も目の前で、送り込んだ第三陣の連絡が途絶えた。
すぐに基地中の兵士を導入して、5人の特攻隊を踏みつぶしてやりたいところだった。
しかし、できない。
「なぜゲヘナの風紀委員が奴らに味方する!?」
基地に侵入していたのはアビドスだけではない。
あのゲヘナの風紀委員、しかもその手勢の中にはあのゲヘナ最強と名高い空埼ヒナまでもが参戦していた。
「よりによって空埼ヒナがなぜ……!?」
生徒を軽んじ、徹底的に見下すカイザー理事とはいえ、空埼ヒナの危険性は承知していた。
たった一人でゲヘナのすべての戦力に匹敵する怪物のような実力もそうだが、理事にとっては風紀委員になる以前、情報部の空埼ヒナに苦い思い出がある。
何度もその魔手をゲヘナに伸ばそうとし、そのたびに空埼ヒナに張り巡らせた計略を焼き払われた。
空埼ヒナを敵に回してはならないと、屈辱と共にそのメモリーに刻んだ。
最悪の敵が今、アビドスに味方する形でカイザーコーポレーションに弓を引いている。
その事実に戦慄していた理事の耳に管制官からまたしても凶報がもたらされる。
「カイザー理事!」
「今度はなんだ!」
「基地内に戦車を連れた部隊が侵入! 第四陣がやられました!」
「なんだと!?」
モニターに映るのは砲身から煙を上げる戦車と行進する部隊の姿。
その中でも特に目を引いたのはその部隊の先頭に立つ紙袋を被った少女の姿だった。
「いったいやつらはなんなんだ!?」
「あの紙袋……覆面水着団のファウストです!」
「ファウストだと!?」
理事は知っていた。
覆面水着団というイカレた名前にそぐわぬ凶行をやってのけた犯罪集団、そのリーダーファウスト。
自分たちの支配下にあるブラックマーケットの闇銀行を襲撃し、並み居るマーケットガードを退け、2億6千万もの金額を奪い取った忌々しい犯罪者。
そのファウストが、狙いすましたかのようなタイミングで襲撃に現れたのだ。
「まさか、ファウストはアビドスと協力関係に……? ふざけた真似を!!」
理事は怒りに任せてモニターの1枚を殴り砕いた────
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「待ってたぜ阿慈谷さん!」
「テツヤさ───だ、誰のことです!? 私は覆面水着団のファウスト!」
「わあ、ファウストさん! お久しぶりです!」
阿慈谷───いやファウストの援軍はありがたい。
敵の第四陣は砲撃によって沈黙した。
進むならば今しかない。
「私たちはトリニティ総合学院とは一切関係ありませんので! ……ごめんなさい。私にできることはこれぐらいしか……」
十分である。
というか戦車まで持ち出されたのは驚いた。
一部隊でも来てくれれば御の字と思ったのに、こんな立派なものを送ってくれた阿慈谷さんには頭が上がらない。
「ありがとうファウスト!」
「は、はい! みなさんもご武運を!」
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基地を進み続けると仮設テントすら見当たらないエリアに入る。
砂に埋もれ、二階部分だけが辛うじて見える家屋が並んだ、かつて大きな市街地があったエリアだ。
寂れながらも町としてはしっかり機能しているアビドスしか見たことのない自分にとって、この滅んだ町はポストアポカリプスものの映画を想起させる光景だった。
かつてのアビドス本校舎はこの町の中心に位置している。
本校舎も例に漏れず砂の下に埋もれているだろうが……そこにホシノ先輩は囚われている。
先生が黒服との交渉の末につかみ取った確かな情報だ。
しかし、カイザーどもにもこちらの狙いはバレているだろう。
兵隊をボコボコにされ続けているあっちのメンツは丸つぶれ、怒り心頭でアビドスを潰そうと攻撃してくるはずだ。
恐らく対策委員会史上最大の戦いが待っている。
本校舎へと向かって走り続ける途中で、みんなのコンディションを伺う。
「弾薬は十分か?」
「はい! テツヤくんと先生の指揮のおかげでまだまだ余裕がありますよ」
「問題ない」
「絶対に先輩を助けましょう!」
うん、元気そうで何より。
ここにくるまでも結構な戦いを潜り抜けてきたが、戦意は一向に衰えていないようだ。
「先生も大丈夫ですか? 俺たちの動きにずっとついてきてもらってますけど」
「……大丈夫! これでも体力には自信があるからね」
息が少し荒いようだが、無理をして言っているわけではない。
休憩を挟む必要もないようだ。
「よし……」
『本校舎はすぐそこです!』
走り続けた先にはアヤネの言った通り、砂に埋もれて一階部分が完全に砂に埋もれた建物が見えてきた。
あれがアビドス本校舎だろう。
……その前に陣取る兵隊と複数台の戦車も見えるが。
その先頭にはあの腹立たしいカイザー理事までいる。
「アイツ…!」
「よくぞここまで来たものだ、対策委員会」
「ホシノ先輩は返してもらいます!」
「返す……返すか……くくくくッ、フハハハハハ!!」
狂ったような笑いを浮かべる理事にシロコが問いかける。
「何がおかしい?」
「ハハハ……貴様らのせいで私の計画は台無しだ。兵力は削られ、この基地ももはや放棄せねばならん……だが忘れたか!」
カイザー理事が指を指しながら俺たちに向けて叫ぶ。
「貴様らはアビドスなどではない! ただの生徒の集まりが、今や犯罪組織だ! ここは我々の私有地! そこに大挙して襲撃をかけた貴様らには大義はない! ゲヘナも同じだ! 貴様らはカイザーにその首を差し出したも同然なのだからな!」
確かにそうだ。
非公認な組織が不法に押し掛けたら大義もくそもない。
連邦生徒会もアビドスとゲヘナにカイザーが行うであろう暴挙を追求することはできないかもしれない。
───だが、それについてはこう答えさせてもらおう。
「大義はあるぞ」
「笑わせるな! 貴様らになんの────」
「俺たちは
「………な、に?」
予想していない返答に唖然とするカイザー理事。
『せ、先輩? それはどういう───』
「いやー、よくもまあ学校に襲撃なんてかけたもんだ。ちょっと権力を持ったらすぐに天狗になっちゃってさ……うちの先生を見習えよ。ねえ、先生」
「ははは……あれは悪い大人の見本だから、反面教師にしてね」
「き、貴様ら! 何を笑っている!?」
笑うに決まってんだろうタコ野郎が。
ここまで予想通りなら笑いもこみ上げるわ。
「そもそも……そうだ! アビドス生徒会は副会長が退学することで消滅したはずだ!」
「それがそうじゃないんですよね~」
困惑するカイザー理事の言葉にいつの間にか隣に立っていた
「な、なんだ貴様は……」
「実は小鳥遊ホシノがサインする前の段階で、重大な不備があったようでして~」
特徴的な盾を持った小柄な兵士は、こちらへゆっくりと歩み寄る。
警戒するセリカ。
しかし、シロコとノノミさんの表情は驚愕に染まっていた。
その様子を気の毒に思った先生が、ホシノ先輩がサインしたであろうカイザーへの書類について語り始めた。
「ホシノのサインした書類はカイザーに所属するという内容だった。でも
「つまり、先生がホシノ先輩の退学、及び企業所属を認めない以上、たとえ本人がサインした書類であろうともその効力はない」
「ホシノは退学していないから、アビドス生徒会は存続。その副会長と連邦生徒会の認可により、アビドス対策委員会は公的に認められた委員会になったってわけさ」
「ま、待て! 副会長、それに連邦生徒会だと!?」
『その通りです』
凛とした声がその場に響き渡るとドローンによってある人物の映像が投影される。
連邦生徒会長代理の七神リンさんの姿だ。
『我々連邦生徒会としては、長期にわたって復興活動を続けてきたアビドス対策委員会をアビドスの公的な機関であると認めるのは当然のことです。こちらの不手際で遅れたことは申し訳ないと思っていますが……まさか認可されてすぐにあなた達カイザーコーポレーションが、アビドスを武力で制圧しようとするとは思いませんでした』
「ま、待て! それは……」
『あなた方の暴挙は数多の学園で構成されたキヴォトスを揺るがしかねません。ですので私はアビドス高等学校と協力を申し出たゲヘナ学園、トリニティ総合学院に緊急要請を出しました。不法な戦闘行為を行う兵士たちを鎮圧してほしいと』
「そんな、そんな暴論が通ってたまるか!!」
『暴論? 正論の間違いでは? あなた方の暴挙によってカイザーコーポレーション、しいてはカイザーグループのキヴォトス内での信用は大きく揺らぎつつあります。そのカイザーグループ代表からの伝言を伝えましょう』
『今回の暴挙はカイザーコーポレーション及びその理事の独断によって行われたもの。我々カイザーグループとは一切の関係はない』
『……とのことです』
このキヴォトスは学園都市である。
そこにある企業と学園の関係は対等なように見えて、実は学園の方が上だったりする。
当然だ、学園が許さなければその土地での経営が行えない。
ましてや学園への武力行使なんてもってのほかだ。
キヴォトス全体の信用を失えば、企業の寿命は驚くほどに短い。
さしものカイザーグループも、カイザーコーポレーションを切り離す選択を選ばざるをえないほど信用を失うことを恐れたようだ。
アビドス生徒会の健在、連邦生徒会からの正式な制圧要請、カイザーグループからの実質的な尻尾切り発言。
頭を抱えたカイザー理事は狼狽えながら呟いた。
「こ、こんな、こんなことがあってたまるか…!」
混乱の最中にあるカイザー理事を気遣うことなく、小柄な兵士がそのヘルメットとマスクを脱ぎ捨てた。
風になびくピンク色の長髪。
「ではカイザー理事。短い間ですがお世話になりました。今後、二度とその足をアビドスには踏ませませんが、今後のご健敗をお祈りいたします」
そう言い切ったホシノ先輩は、PMCの装備を脱ぎ捨てると元の制服姿へと戻る。
「「「『ホシノ先輩!』」」」
「みんな~、待たせちゃったね。小鳥遊ホシノはただいま帰りました~」
「ただいまじゃないですよ! これいったいどういうことなんですか!?」
「テーツーヤーくーん?」
「…………」
あとが怖い。
頼むからもうちょっと待ってくれ。
お説教はあとで聞くから。
「私を……嵌めた? 馬鹿な! お前たちはそんな計画などいつ────」
「そりゃあ、あんたら特製の盗聴グッズを外した後でだよ」
「ッ!」
最初に疑問に思ったのは最初の戦い。
俺がアビドスに来て初めて経験したヘルメット団との戦いだった。
それまではなかった、ヘルメット団の潜入作戦。
俺という書類上は普通の学生が転校するタイミングを狙った、あの人質狙いの襲撃。
どこか噛み合い過ぎていると思って、アヤネとの学校探索時に調べていたら出るわ、出るわ盗聴器の群れ。
通りで余裕ぶれるわけだ。
俺たちを文字通り手のひらの上に置いていたのだから。
ひっそりと夜襲のために差し向けていたであろう不良共が、ホシノ先輩に始末されていなかったらとっくに学校を占領されていただろう。
先生に相談し、夜間にこっそり外してダミーにすり替える作業は本当に大変だった。
「そんなこと聞いてない」
「シロコ、振りかぶったその銃器を収めてくれ。これには理由がある」
「どんな理由があるんですか~?」
「ノノミさんも拳を収めてくれ、マジで。急に決まった作戦だったから漏らすわけにはいかなかったんだよ……」
「ていうかホシノ先輩に倒されたっていうのも嘘ですよね!?」
『話してください。私はいま、冷静さを欠こうとしています……』
「あとでな。ちゃんと話すから……」
悪いが説明は後。
そろそろ敵の大将の堪忍袋の緒が切れる頃合いだ。
「……せ、潰せ! アイツらを黙らせろーー!!」
「オイオイ、血の気が多いな……ああ、赤いスーツ着てるからか?」
「殺せーーー!!」
理事の叫びと共にもはや帰る場所のなくなった兵士たちが死兵と化してやってくる。
しかし、やけっぱちの特攻攻撃。
ここにはアビドス全員が揃っているのだ───負けるわけにはいかない!
「さあ、行くぞ!」
「テツヤ、覚悟して」
「これはもうだめですね☆」
「後で覚えていてください…!」
『…………』
おい、敵は俺じゃないぞ。
変な所で一致団結するんじゃない!
「うへ。大変そうだね~、テツヤくん」
「ホシノ先輩もですよ──許しませんから」
「うへ!? ご、ごめんってば、ノノミちゃん……」
俺たちは襲い来るカイザーの兵士たちを迎え撃つ。
「主砲、放てーー!!」
ドン、と腹に響く敵の戦車の主砲。
喰らえばただでは済まない一撃が戦場のゴングを鳴らし、迫りくる。
「させないよ!」
その射線にホシノ先輩が飛び出し、
「フンッ!」
左手に携えた盾でその砲弾を弾き返した。
その様子に気圧された兵士たちの歩みが止まる。
「撃ちます!」
硬直した兵士たちを襲ったのはミニガンの一撃だ。
無防備な兵士たちはその火力の前になすすべなく倒れていく。
「みんな! ホシノの突撃に合わせて援護を!」
先生の指揮に応じて俺、シロコ、セリカが突っ込んでいくホシノ先輩の後ろに続く。
俺は敵の集中砲火に晒されながらも歩みを止めないホシノ先輩を追い越し、敵陣へと殴りかかる!
「ウオオオオ!!」
目の前の兵士に殴りかかり、その装甲を歪ませながら吹き飛ばす。
吹き飛んだ兵士を起点にドミノ倒しのように敵の防衛網が崩れた。
「ドローン突撃」
『爆破開始!』
「こんのおおおおおーー!!」
「行くよ──!」
シロコの駆るドローンがミサイルを放ち、アヤネのドローンが抱えた爆弾を投下する。
その爆発に敵陣が怯んだ隙を逃さず、ホシノ先輩、セリカ、シロコがその最中に突貫する。
数で抑え込もうと突っ込んでくる敵兵はホシノ先輩の盾が、俺の拳が迎え撃つ。
「ぐああ!!」
「ぬあああ!!」
「アヤネ! 爆弾一個くれ!」
『はい!』
空中に待機したアヤネのドローンから作動済みの爆弾を受け取り、次弾を発射しようとする戦車の砲身目掛けて投げ込んだ。
「ま、待て! 撃つ───」
戦場の兵士たちの警告は間に合わない。
一台の戦車は付近にいた兵士すら巻き込んだ大爆発を起こした。
「テツヤ! 2人を戦車の上に!」
「ホシノ先輩! シロコ!」
「「!」」
俺の言葉に応えてこちらにぶつかる勢いで走り込んできたホシノ先輩、シロコを俺がカタパルトのように投げ飛ばす。
目標は進んできた戦車の真上。
綺麗な放物線を描きながら、2人は戦車の上へと飛び乗った。
「取りついた!」
戦車の上に立ったホシノ先輩はその腕力に任せて戦車の入り口を引っぺがし、中にいる兵士たちに手榴弾を投げ込むことで無力化することに成功する。
「この戦車はもらっていく」
対してシロコは戦車の入り口を開けると中にスモークグレネードを投げ込み、たまらず外に出てきた敵を撃破したあと、戦車の中に乗り込んだ。
途端、勢いよく発進した戦車が兵士たちを今にも轢かんと動き出す。
「に、逃げろ!」
「ま、待て! 誰が引いていいと───」
その前に立ちはだかろうとしたもの、逃げようとしたものを区別なく、情け容赦なくシロコの駆る戦車が轢いていく。
戦車を攻撃しようとするものはノノミさん、セリカの援護射撃に打ちのめされた。
やがて激しかったはずの弾幕は止み、戦場の兵士たちは倒れ伏しているか、恐れをなして逃げ出すかの二種類に分かれた。
「き、貴様ら! どこへ行く! 私を守れ、守れーー!!」
「裸の王様とはこのことだなあー、カイザー理事サマよお!!」
「き、貴様ァ!!」
カイザー理事懐から取り出した拳銃で発砲するが誰にも当たりはしない。
虚しく明後日の方向に飛んでいく。
銃なんて撃ったこともないのだろう。
あれだけ偉ぶった態度を崩さなかった憎きカイザー理事の姿は実に哀れなものであった。
「ま、まだだ! まだ私にはこれがある!!」
そう言ったカイザー理事の取り出したものは大きなトランクケース状の物体であった。
それにカイザー理事が触れた直後、その物体はカイザー理事の体に取り付き、鎧のような形へと変化していった。
「フハハハハハ! 貴様のデータを元にして作らせたパワードスーツだ! データ上は貴様のスペックを超える! これさえあれば恐れるものなどないわァーーー!!」
振りかぶった拳を自信満々に俺にぶつけたカイザー理事は、追い打ちをかけんと膝蹴りを放ち、俺の頭に向かって拳を振るう。
その攻撃を受けながら思う。
確かに強い。
単純な力勝負ならば今の俺よりも上かもしれない。
「グハハハ! 手も足もでないかァーー!!」
トドメと言わんばかりにハイキック。
俺はその勢いに逆らわずに吹っ飛ばされた。
「テツヤ先輩!?」
「テツヤくん!?」
『早く! テツヤ先輩の援護に!』
「大丈夫だよ、みんな」
『先生!?』
慌てるセリカたちへと手を振る。
先生にシロコ、ホシノ先輩はわかっているようでなによりだ。
俺は地面からゆっくりと起き上がり、体にかかった砂を手で払い落す。
「じゃあ、行くぞ」
一歩で踏み込み、右の拳の全力でカイザー理事の胴体を打った。
「ぐうッ!?」
「左」
宣言通り、左の拳で再び胴を打つ。
俺の一撃は防ごうとしたカイザー理事の腕をひしゃげさせた。
「ぬおおお!?」
「右」
悶絶するカイザー理事の憎たらしい顔面に再び右の拳をふるった。
カイザー理事は叫び声をあげることすらできずに吹っ飛び、瓦礫を突き破って転がる。
「な、なぜだ……スペックではこちらが上のはず」
知るか。
俺は体中に迸る力の全てを右足へと収束させ、カイザー理事に向けて構えをとる。
「フゥ───」
「つ、角が6本…?」
「ハッ!」
空中へと飛び上がり、回転することで勢いをつけ、その一撃をカイザー理事へ叩きつけた。
「ハァアアアア!!」
渾身の飛び蹴りがカイザー理事を捉えた。
「ぬああああああああああ!?」
蹴り飛ばされたカイザー理事は廃墟となった家屋を次々と突き破り、何度も地面をバウンドする。
身に着けたパワードスーツは原型を留めないほど滅茶苦茶に、頭部の装甲が粉々にはじけ飛んだ末にカイザー理事の無様な大回転は終わりを見せた。
「こんな……こんなはずでは……ハハ、ハハハ……」
「──俺たちの、勝ちだ」