Blue Archive vol.AGITΩ   作:mukugawa

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大決戦の裏側、そして後日談

 

 アビドス史上最大の決戦。

 カイザーに最初で最後の勝ち星を挙げた俺たちは意気揚々とアビドスへと帰還────できるはずもなかった。

 

「あの、そろそろ正座を解いても……」

 

「いいと思ってるんですか~?」

 

「ごめんなさい」

 

「ノノミちゃ~ん、許してよ~」

 

「駄目です☆」

 

「はい……」

 

 アビドス本校舎近くの開けた場所。

 俺とホシノ先輩は正座を強要され、ゲヘナ、トリニティの援軍が遠巻きに見守る中でアビドス生に詰められていた。

 

「どーいうことなんですかホシノ先輩!? なんで私たちに話してくれなかったんですか!? 全部作戦だったなんて!? どうして!?」

 

「止めて止めて揺らさないでセリカちゃん……」

 

「テツヤは首輪だけでは反省しないとよくわかった。更なる監視体制の強化を進言する」

 

「シロコ先輩の意見を採用します。加えてホシノ先輩の監視についても議論しましょう」

 

「待って待って、アヤネさん? これ以上何をする気なんですか? アビドスから一歩も出るなとか言わないよね…?」

 

「テツヤ先輩に発言権はありませんし、認めません」

 

「独裁政権かよ」

 

「何か言いましたか?」

 

「ヴェッ、マリモ!」

 

 頼むよみんな、他の学校もまだいるんだから詰めるのは後にしてって。

 ほら、阿慈谷さんが紙袋越しにわかるくらい気まずそうだぞ。

 ゲヘナの風紀委員会だって……なに笑ってんだあのツインテール!

 先生を差し向けられたいのか…!

 お前なんか先生のペロテクの前には俎板の鯉だというのに────

 

「先輩?」

 

「ハイ!」

 

「全部、話してください。テツヤ先輩とホシノ先輩、先生の3人の計画の全貌を」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 時は、ホシノ先輩が出奔する前に遡る。

 ホシノ先輩との戦いを制したあとのことだ。

 

「……どうしたの? みんなに連絡しないの?」

 

「まあ、話を聞いてくださいよ」

 

「悠長に話なんかしてる暇は───」

 

「朝まででいいです。この状況の解決策一緒に考えてください。もし、何も出てこなかったら……俺たちはホシノ先輩を止めません」

 

「俺たち?」

 

「出てきていいですよ、先生」

 

 暗い校舎の片隅から、隠れてもらっていた先生が駆け寄ってくる。

 

「先生……帰ってなかったんだね」

 

「いやあ、帰りはしたんだけどね。テツヤから呼び出されたんだ」

 

 電話した時も結構な遅い時間だったにもかかわらず、ワンコールで出てくれた。

 さすが俺たちの先生だ。

 その目の下に刻まれた隈は俺のせいです、本当にごめんなさい。

 

「先生には俺たちの戦いが終わるまで待ってもらいました」

 

「終わるまで、か。絶対に勝つって確信してたんだね」

 

「先輩は俺を絶対に守ってくれると思ったんで」

 

「二度とやらないで。絶対に」

 

 ホシノ先輩にマジ顔で睨まれた。

 

「やりませんよ。俺も死にたくないですし。苦肉の策というか……」

 

 一人でホシノ先輩から勝ちをもぎ取るには、その優しさにつけ込むしかなかった。

 攻守ともに完璧なホシノ先輩を切り崩す方法なんてそうないんだもの。

 むしろ途中まで戦いになっていたことを褒めてほしい気分だった。

 だからそう睨まないでください。

 俺だってこんな無茶な作戦やりたくてやったわけじゃないんですって。

 

「じゃあ、部室に戻りましょっか。ちょうど、全部の盗聴器を外したんで」

 

「……盗聴器?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 部室の電気を点ける。

 夜の学校って、なんか気分が高ぶるんだよな……

 まあ、そんな俺の感想はともかくとして。

 

「…………」

 

 未だに仏頂面な先輩の説得に入ろう。

 

「ホシノ先輩、そろそろ話し合いません?」

 

「なんで盗聴器のことを話さなかったの?」

 

「いや、その……なんというか」

 

「なんというか?」

 

 話したくない。

 すごーく話したくない。

 

「えっとですね。そもそも盗聴器に気づいたのはつい最近のことなんです」

 

「うん」

 

「俺ってなんか、無茶するヤツと思われてますよね」

 

「するでしょ」

 

「思われてますよね。で、なんなら首輪までつけられてるじゃないですか、だからその……みんなが仕掛けたのかなって」

 

「……ああ、なるほどね」

 

 最初に窓際に仕掛けられていたの見た時はゾッとした。

 プライバシー情報垂れ流しのこの首輪でなんとか許してもらえたんじゃないかと思ったら、盗聴器が学校内にあるんだもの。

 

「シロコなんかは俺の部屋にしょっちゅう来ますし、もしかしたらあるんじゃないかと思って、部屋中ひっくり返す勢いで調べたんですよ?」

 

「それは……うん。思っても仕方ないかも」

 

 首輪を承認した手前、先輩の顔は気まずそうだ。

 悪いと思っているならこっちを見てくださいよ。

 

「その相談を私にしてくれたことから、この調査は始まったんだよ。話が話だけにさ……みんなに言うのはちょっと憚られたし」

 

 本当に先生には頭が上がらない。

 「同じ学校の仲間に実は盗聴されているかもしれないんです」なんて相談を取り合ってくれるのだから。

 外の学校の先生だったら絶対に警察に行くことを薦められる案件だけど、自分を心配してのことだとわかっているからあまり大事にはしたくない。

 そんな俺の我儘に付き合ってくれたのだ。

 できた先生にもほどがある。

 今度、俺の持ってる限定の特撮フィギアを譲ろう。

 シャーレの私室に特撮ヒーローやロボットアニメのプラモデル飾ってるから、きっと気に入ってくれるだろう。

 感謝の気持ちに受け取ってほしい。

 

「で、まあ調べたらアビドスどころかカイザー製の代物だったんで、今日の帰りに先生の知恵を借りて、相手方にバレないようにダミーに取り換えてたんです」

 

「ちょっと待って? 今日?」

 

「カイザー製だってわかったのが今日で……というか、俺の先生への相談自体が遅かったんですよ」

 

 ギリギリまでどう言い出せばいいのか迷った結果、盗聴器の解析を遅らせる結果になってしまった。

 それに重なるように今日のカイザー理事との接触だ。

 あんな落ち込んだ様子のところに追い打ちをかける情報を言ったらどうなるかわかったものじゃない。

 セリカなんかは頭に血が上るのが速いからな……

 

「そこに重なるようにホシノ先輩の様子がおかしかったんで、念のために先生を呼び出して、俺が説得にきた……というのが、今までの流れです」

 

「そっか。ごめんね、テツヤくん。気を使わせちゃって……、首輪については私も責任あるし……」

 

「まあ、誰が悪いとかいう話はなしで。全部カイザーのせいです、マジで」

 

 そもそもカイザーさえいなければこんなことになってないし。

 さて、時間も惜しいのでそろそろ本題に入ろう。

 ホシノ先輩をどう思い留まらせるかではない。

 今、絶体絶命の状態のアビドスをどう救うか、だ。

 言葉をどれだけ尽くしてもホシノ先輩はもう止まらないだろう。

 それが罠だとわかっていたとしても、アビドスのためにカイザーへ身を売るつもりだ。

 アビドス逆転の策をここで捻り出すことが、結果としてホシノ先輩を思い留まらせることに繋がる。

 ……とは意気込んだものの、どうすればいいのだろう。

 今のアビドスに残されているものは何だ…?

 この校舎?

 僅かな自治区?

 対策委員会……

 

『さすがは副会長、君は賢そうだな』

 

 考えてんだから出てくんじゃねえよ屑鉄野郎が…!

 ……あのクソカイザー理事、ホシノ先輩を副会長って呼んでたっけ。

 対策委員会では委員長だから、生徒会の副会長ということか?

 そもそも、アビドスの生徒会はどうなっているんだ?

 

「先輩、アビドス生徒会って今どういう状況なんです? 対策委員会のことは説明してましたけど、生徒会については聞いたこともないんですけど。副会長なんですよね?」

 

「生徒会か……実質機能していないけど、名前だけは残っている、かな。私も一応、肩書は副会長のままだよ」

 

「対策委員会の委員長じゃなく?」

 

「……そういえば、アヤネちゃんにしか言ってないことがあったね。対策委員会は公的な認可を受けた組織じゃないんだ」

 

「はい?」

 

「副会長として認証することもできたけど、自治組織としてやっていくなら、連邦生徒会の認証が必要不可欠だからね。連邦生徒会に認められる=キヴォトス全体に認められる自治組織ってことだから」

 

 ……待てよ。

 それってまずいんじゃないのか。

 書類上、その存在を証明できるのは生徒会だけで、対策委員会は存在しない……?

 

「先輩。この話し合いで引き留めるように説得するつもりはなかったんですけど、そうもいかなくなりました」

 

「……それは、どうして?」

 

「先輩がいなくなったら、生徒会が消えるからです。アビドスに公的な機関がなくなってしまえば、俺たちはカイザーがどんなことをしてきても、止める大義名分を持つことができません───もしかしたら、それがアイツらの目的かも」

 

「なんだって!?」

 

「先生、公的な機関が存在しないうえに生徒数も、自治領もほとんどない学校がどうなるかわかりますか?」

 

「ちょっと待って、今聞いてみる……聞いてたかい、アロナ」

 

 件の敏腕助手の名前だろうか。

 先生はしばらく助手からの連絡を待っていたようだが、次第にその顔は曇っていく。

 

「今確認したよ……もし、テツヤが話した前提条件になってしまったらこの学校は存続不能と判断されかねない」

 

「そんな……それじゃあ、借金が半分になっても意味がない…!」

 

 自分ができる最大の一手を根底から覆す事実にホシノ先輩は打ちひしがれている。

 かける言葉もなかった。

 最後の手段すら、敵の都合のいいように運ばれるだけの無意味なものであったと突きつけられるなんて……

 先生は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら話を続ける。

 

「私の見立てでは、君たちに接触している黒服は自分の利益だけを追求するタイプだ。相手に利のある交渉をするとは到底思えない」

 

「でも、でも! ……それじゃあ、どうすれば……」

 

 知れば知るほど、アビドスが追い詰められている現実が殴りかかってくる。

 無力感と絶望が心の中に降り続ける。

 無理、なのか?

 俺たちにはもう、何もできないままなのか……

 

「ホシノ、テツヤ」

 

 言葉を失った俺たちに先生が口を開いた。

 

「判断を焦っちゃいけない。私たちができることは、まだあるはずだ」

 

「先生……」

 

「逆に考えてみるのもいいかもしれない。カイザーたちの都合のいいように展開が進めば、私たちはどうなるのか? 最悪の予想から逆算して、私たちがやってはいけない行動とやるべき行動を見つけ出すんだ」

 

「最悪の予想……」

 

 最悪の展開なんか、考えたくもない。

 だが、手詰まりな今の状況を打破するには先生の奇妙な提案も一考の余地がある。

 考えてみよう。

 もし、このままホシノ先輩を渡せば、連中の思い通りに事が進む。

 アビドスを守るものが何一つなくなった時、奴らはどんな手段を講じてくるのか。

 これまでと同じく借金や襲撃で圧力をかけてくる?

 ……いや、違う。

 奴らが今まで手をこまねいていたのはホシノ先輩が、生徒会が、アビドスに大義名分という最後の盾があったからだ。

 奴らは徹底的に俺たちを舐め腐っている。

 どうせなにもできやしない、無力な利用されるだけの存在でしかないと。

 そいつらが次に行うのは……

 

「「強引な手段を使っても、アビドスを占領しようとする」」

 

 俺とホシノ先輩の声が重なる。

 奴らはアビドス高等学校を見下しつつも、厄介に思っていた。

 絶好の機会が訪れれば俺たちを力ずくでも追い出し、その実権を奪い取ろうと手勢を差し向けるだろう。

 それこそ、「存続不能と判断した学校を土地の権利者が仕方なく引き取る」なんて大義名分を掲げて────

 

「「!」」

 

 ハッと顔を見合わせる。

 ホシノ先輩も同じことを考えていたようだ。

 そうだ、カイザーの起こす行動は大義名分を得たもの。

 しかし、それは一歩間違えればキヴォトス全体を揺るがしかねない不法行為に変わる。

 一つの学園を力づくで奪い取る。

 たとえ明確な理由があっても、キヴォトスのタブーともいえるアクションを起こすカイザーには最大のリスクが付き纏う。

 

「もし、もしも私が退学しないでカイザーが攻め込んできたら───」

 

「俺たちはキヴォトス全体を味方につけて、カイザーに攻め込むことができる!」

 

 逆転の一手。

 どうにか生み出したそれに興奮を抑えきれない。

 これなら、戦力提供を保留しているゲヘナ、トリニティも首を縦に振ってくれるかもしれない。

 先生の手助けがあれば、連邦生徒会をバックにつけることだって────

 

「先生、まさかこれを───」

 

 気づかせるために、と聞きそうになったが、苦悶の表情を浮かべるその顔を見るとそんなことはできなかった。

 そうだ、この作戦はホシノ先輩がカイザーに一度身柄を拘束されなければ成立しない。

 ホシノ先輩が退学したと判断しなければ、カイザーも強硬策を取りはしないだろう。

 生徒を危険な場所だとわかって送り込むような作戦を嬉々として提案するような先生ではないのだ。

 

「書類関係については、ホシノがシャーレに所属してくれればどうにかなる。所属生徒の退学に関する裁量は私にあるから」

 

「先生……」

 

「2人は、どう思う?」

 

 俺たちの答えは決まっていた。

 こうして、3人だけの反攻作戦は始まった────

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 キヴォトス某所にて。

 

「…………」

 

 建物を見つめる男がいた。

 彼は先生。

 キヴォトスすべての生徒の味方であり、頼れる大人であろうとする者。

 ホシノがカイザーに行くのを見守った彼は、予定通りに起きたカイザーによるアビドス侵攻を生徒たちと共に阻止した後、カイザーに力を貸す黒服の元に単身で乗り込むために来たのだ。

 

「行こうか」

 

 入った建物の中は清潔感のあるオフィスビル、そのエントランスになっていた。

 先生は受付に向かい、アポイントなしの来訪を伝えると、あっさりと黒服の元へと通された。

 訪問を予想されていたことに先生は驚かない。

 黒服の狙いに既に予測をつけていた先生は、生徒を自分の目的のためだけに追い詰める黒服への怒りを堪えていた。

 エレベーターに乗り込み、専用の階層へと上がっていく。

 そしてしばらく待っていると、エレベーターのドアが開く。

 視界の先にはテーブルの上で手を組み、悠然と待ち受ける黒服の姿があった。

 

「お待ちしておりました、先生。あなたとは一度こうして、顔を合わせてお話ししてみたかったのですよ」

 

「………」

 

「あなたのことは知っています、連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。あのオーパーツ『シッテムの箱』の主であり、連邦捜査部『シャーレ』の先生」

 

「あなたは何者?」

 

 先生の問いかけに対して黒服はこう返した。

 

「黒服……あなたと同じ、大人ですよ。このキヴォトスの『不可解な存在』という点でもね」

 

「同じ?」

 

「ええ。だからこそ、協力できることもある。どうでしょうか、ゲマトリア(私たち)と協力するつもりはございませんか?」

 

「断る」

 

「……私たちはあなたと敵対するつもりはありません。私たちにとってアビドスという小さな学校は、アギトを含めても大した問題ではない。しかし、あなたと敵対することはどうしても避けたいのです」

 

「知らないね、そんなことは」

 

 黒服の提案に耳を貸す気など先生には毛頭なかった。

 目の前の人物は大切で、先生が守るべき2人の生徒を私利私欲のために操ろうとしたのだ。

 その時点で、既に先生にとって黒服は不俱戴天の敵であった。

 生徒の前では出さない、『敵』に対する鋭い目を先生は隠そうともしない。

 

「先生、あなたの行動は著しく正統性を欠いていることに気が付いていますか? 小鳥遊ホシノは既にアビドスを去った身です。もはやあなたの生徒ではない」

 

「正統性はあるよ」

 

 懐から取り出したのはホシノがアビドス高等学校に置いて行った直筆の退学届だ。

 この書類は、まだ退学届としては不完全である。

 

「私は対策委員会の顧問で、ホシノの先生だ。これに私のサインが入らない限り、ホシノは退学にはならない」

 

「対策委員会は書類上、存在しない委員会ですが」

 

「『シャーレ』は存在する」

 

「……なるほど、小鳥遊ホシノをシャーレに所属させたのですね?」

 

「シャーレのホシノは、私が監督する生徒だ。退学は私が許可を出さない限りできない───そしてもう一つ、アビドス廃校対策委員会はアビドス生徒会と連邦生徒会によって認可された公的な組織だ」

 

「────」

 

 黒服が押し黙る。

 今まで余裕の雰囲気を崩さなかった黒服は、僅かに身じろいだ。

 

「連邦生徒会を使うとは……予想外でした」

 

「使ったんじゃない。お願いしたんだ。ちゃんと実績をまとめた書類を送ってね」

 

 書類製作にかかった時間は4時間弱。

 テツヤと共に寝る間も惜しんでの作業は2人の体力を大きく削ったが、そのかいあってか連邦生徒会長代理は書類を正式に受理し、対策委員会は連邦生徒会に認められた委員会となったのだ。

 

「その熱意はどこからくるのです? アビドスに対してあなたがとるべき責任など────」

 

「あるよ」

 

 先生は黒服の言葉に割り込んで否定する。

 

「私は、大人だから。子供たちの責任は、私がとるべき責任だよ」

 

「先生、それは間違いだ。大人とは『決定する者』です。法も規則も、常識も非常識も望む通りに書き換える。権力を、知識を、力を持った者のことです」

 

「力には責任が伴うものだよ。だから大人は『繋げる者』なんだ。いつか自分がそうしてもらったように、今度は大人になった者たちがいずれ大人になる子供を守る。そして社会は作られるんだ」

 

「あなたは……だから、手放したのですか。キヴォトスの全権を。全てを思うままにできる力を」

 

「当たり前でしょ────」

 

 ───未来はいつだって、子供のためにあるんだから。

 

「……小鳥遊ホシノはかつてのアビドス本校舎、その地下にある実験室にいます」

 

「そう」

 

 先生は目当ての情報を手にし、その場を立ち去った。

 大人の戦いの軍配は先生に上がったのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 先生がホシノ先輩の居場所を黒服から聞き出したことによって、合流もスムーズになった。

 俺は連邦生徒会の要請をゲヘナ、トリニティに伝え、カイザーの襲撃に備えて便利屋68を雇った。

 そこからはみんなと行動を共にして、カイザーを攻撃。

 ホシノ先輩を助けるという手筈だったのだが、まさか自力で脱出するとは思わなかった。

 聞くところによれば、拘束されていたホシノ先輩が本気を出した結果、黒服が用意していた神秘を無力化する拘束道具は跡形もなく消え去ったらしい。

 

「つまりなんですか。私たちを除け者にして自分たちだけでカイザーに一芝居打ったと。私たちを除け者にして」

 

 まあ、怒るよなアヤネ。

 でも言い訳をするならばすべてが急で、満足な打ち合わせをする時間が取れなかったというのが理由になる。

 朝の時点で話すこともできたが、カイザーが攻めてくるタイミングがちょっと早すぎたのだ。

 まあ、砂漠にいる間に話すこともできたが……

 

「チームワークを乱すかもな~、って考えたら言い出しづらくって……まあ、はい」

 

「はいじゃありません! セリカちゃん、Go!」  

 

「やーー!!」

 

「痛い痛い! 折れる! 腕が折れるって!」

 

 腕挫十字固めはまずい!

 本当に折れる、折れる!

 ホシノ先輩、黙ってないで助けて!

 俺の無言の訴えが届いたのか、ホシノ先輩が恐る恐る口にする。

 

「あ、あの~、もうその辺にしてあげたら……」

 

「ホシノ先輩?」

 

「ごめんなさい……」

 

 駄目だ!

 この人役に立たねえ!

 もう腕の感覚がないんですけど!

 限界が近いって!

 

「セリカ、テツヤを離して」

 

「シロコ!?」

 

 予想外の角度から助けが来た。

 シロコに言われて渋々ながらセリカは俺を解放した。

 

「仕方がない、とは言わない。2人が私たちを頼ってくれなかったことは本当に怒ってる」

 

「シロコちゃん……」

 

「ホシノ先輩も首輪装着。2人はしばらくの間、外出の時はアビドスの生徒と一緒にいることを義務付ける。これで閉廷」

 

 パンッと手を叩くシロコ。

 というか裁判だったのかこれは……?

 恐る恐るだが、アヤネ様に許可を求めてみよう。

 

「立っていいですか?」

 

「……ふぅ。わかりました。アビドスに帰りましょう」

 

 やったぜ!

 正座の姿勢を解こうとしたら足が痛い。

 めちゃくちゃ痺れて動けない……これ、俺帰れるかな。

 ……おい、何を近づいてくるんだシロコ、ノノミさん。

 そのワキワキさせた手はなんだ。俺の足に手を伸ばすな!

 俺の恐れていたことが起こってしまった。

 痺れて動かなくなった俺の足を2人はすごい勢いでつつき始める。

 

「いってえ!?」

 

「ん。いい反応」

 

「可愛いですよ、テツヤくん☆」

 

「や、ヤメロォオオーー!!」

 

「ふふふ。じゃあ、帰ろうか」

 

「うへ……テツヤくん。ごめんね」

 

「先生! ホシノ先輩! 笑ってないで助けて!」

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 後日談。

 ちょっと肩身の狭い思いをすることになった俺とホシノ先輩を除き、アビドスは早くも通常運転に戻りつつある。

 廃業の危機にあった紫関ラーメン屋は何とかその営業を再開した。

 地上げを行っていたカイザーコーポレーションが事実上の機能停止状態に追い込まれたことで、去っていった住人が戻りつつあることが原因なのか、客足はさらに増えつつある。

 3人で回すにはちょっと忙しくなりすぎたため、今度新しいバイトを募集するらしい。

 

「「「いらっしゃいませ!」」」

 

 カイザーは、アビドスの事業から完全に退くことになった。

 カイザー理事を含めたカイザーローンの多くの人員は解雇されたようだ。

 カイザーローンに借りた借金自体は不正のないものだから、アビドスが抱える9億の借金がなくなるわけではないが、理事が増やした法外な利子や保証金の話はなかったことになった。

 というか、その増やした利子が問題視されたおかげで、利子は以前よりも少ない額に落ち着いている。

 

「今月の利子分はクリアですね」

 

「まさかあのカイザー理事の暴挙が良い形になって帰ってくるとはな……」

 

「正義は勝つ!ってことですよ☆」

 

 そういえば、先生が殴りこんだ黒服の根城は既に引き払われていた。

 その痕跡を残さず、すべてをカイザーに押し付けたらしい。

 その実情を知る俺たちからすれば少しやり切れないが、今は脅威が去ったことを喜ぼう。

 そして、俺たちは────

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「似合ってるじゃないですか、ホシノ先輩」

 

「……ほんとに?」

 

 目立たない黒い首輪をつけたホシノ先輩はとても恥ずかしそうだ。

 うん、かつての自分を見ているようだな。

 大丈夫だぞ、先輩。

 

「着け続けたら気にならなくなるんで、頑張ってください」

 

「う~、恥ずかしいな……」

 

「2人とも似合ってますね☆ ペアルックみたいです!」

 

「「こんなペアルックがあってたまるか」」

 

「うわ、息もバッチリじゃないですか。さすが共犯者」

 

「セリカ、その共犯者って呼び方止めない?」

 

「駄目です! しばらくは反省してもらわないといけないんですから! ね、アヤネちゃん」

 

「その通りです! もう2人に無茶な真似はさせませんから!」

 

 困ったな。

 後輩2人の怒りを収めるにはまだ少し時間がかかりそうだ。

 どうしたものかと頭を悩ませているとシロコが部室の扉を開いて現れる。

 

「おはよう」

 

「おはよう、シロコ」

 

「……部屋に置いてった」

 

「人のベッドに上がって、いきなり寝始めるやつにどう対応しろと?」

 

「ん!」

 

 痛い痛い。

 俺の頭は木魚じゃないんだからそんなポカポカ叩くな。

 

「じゃあ、みなさん揃ったので、今日の定例会議を始めたいと思います」

 

 いつもどおり、アヤネの進行で進んでいく会議。

 マルチ商法に騙されかけたセリカ。

 アイドルを推すノノミさん。

 銀行強盗を真顔で提案するシロコ。

 そんな日常の風景を眺めながら笑う先輩。

 そんな5人の姿を見る俺。

 やがてその視線に気づいたホシノ先輩が話しかけてきた。

 

「ねえ、テツヤくん」

 

「なんです?」

 

「アビドスにきて、楽しい?」

 

「……はい。とても」

 

 諦観と共にやってきた新天地で見つけたかけがえのない仲間たち。

 ───この風景を、俺はずっと守っていく。

 

 

 

 

 

 




・テツヤの校章
 テツヤのブレザーに縫い付けられた校章だ!
 アビドスの一員の証で、テツヤの大切なお守りだぞ!
 どんな相手にも立ち向かう勇気を与えてくれるぞ!
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