Blue Archive vol.AGITΩ 作:mukugawa
トリニティ総合学院。
キヴォトス有数の生徒数を持つマンモス校であり、ゲヘナ学園、ミレニアムサイエンススクールを含めて、『キヴォトス三大校』とも称されている。
その自治区もビル街や日本の住宅街など多種多様な街並みでできたアビドスとは異なり、その街並みはイギリスのような石材とレンガが使われた西洋建築で統一されている。
建物の色は白く、街行く生徒の制服も白い。
生徒の特長としては白鳥のような白い羽をもった生徒が多いことか。
たまに黒い羽をもった生徒もいるが、その多くは黒いセーラー服を着用している。
サンクトゥムタワーの一件で出会った羽川ハスミさんが同じ制服を着ていたことを思い出す。
きっとあれがトリニティの治安維持組織、『正義実現委員会』なのだろう。
「すごいとこに来ちゃったな……」
その景観に圧倒される俺は今、トリニティの阿慈谷さんを訪ねてやってきた。
阿慈谷ヒフミさん。
トリニティ総合学院の2年生にして、覆面水着団のリーダーである彼女に、俺たちアビドスは大きな恩を抱えている。
その恩返しとして、ある品を渡すべく俺はこの地に赴いた。
赴いたのだが……
「ねえ、あの人……」
「男の人だよね? 見たことのない制服を着てるけど……」
懐かしいなこの視線。
通りにいる生徒がみんなこっちを向いてるよ。
動物園の檻にいるライオンはこんな感じなのだろうか。
アビドスに来た時もこんな感じだった……いや、数はそれ以上か。
「いったいどこの学園の……」
なんか正義実現委員会の人もこっち見てる。
何も悪いことをしていないから捕まることはないだろうが、こっちとしても好き好んで治安部隊に目をつけられたくはない。
足早に大通りを抜けると、俺は阿慈谷さんの待つトリニティ総合学院へ向かった。
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「でけえ」
トリニティ総合学院の目の前まで来たが、その大きさに驚かされてしまった。
敷地面積は果てしなく、アビドスの校舎が何個入るのかわからない。
マンモス校とか呼ばれているからどんなものかと思いきや、その呼び名に反さない巨大さであった。
確か入り口で待っているとのことだったが。
視線を周囲に巡らせていると、阿慈谷さんがこちらに手を振っているのが見えた。
俺はゆっくりと近づき、手を振り返して話しかける。
「悪いな、呼び出したのはこっちなのに」
それを聞いた阿慈谷さんが笑顔で首を振りながら答えた。
「いえいえ、お気になさらず! それで、例の物は……」
「そうだったな」
俺はリュックサックの口を開き、阿慈谷さんへのお礼の品を取り出した。
お礼の品はペロロ様の人形である。
ただの人形ではない。
王冠を被ったキングペロロ様……今では入手が難しい、とあるイベントの限定品である。
この人形はアヤネとの学校探索の際、段ボール箱に収められていたモモフレンズグッズの一つだ。
本来は掘り出し物としてアヤネにより売却される予定だったが、ノノミさんがそこに待ったをかけたことで保管されていた。
それを今回、阿慈谷さんへのお礼の品として渡そうということになったのである。
「これが幻のキングペロロ様! まさかこの手にできる日が来るなんて……!」
嬉しそうで何よりである。
ちょこっと調べたところ、取引されている市場によっては20万ほどの値段がつくらしい。
こんな品がアビドスに埋もれていたのは僥倖であったが、この人の手に渡るのならば仕方あるまい。
その価値を俺たち以上にわかっている阿慈谷の手に渡ることは、キングペロロ様のためにもなるだろう。
「おお……ありがとうございます! こんな貴重な品を……」
「阿慈谷さんにはいろいろと世話になったからな。気にせずに受け取ってくれ」
阿慈谷さんは貴重な陶器を扱うようにキングペロロ様を抱えると、慎重に背負っていたリュックサックにしまった。
さて、もうここに用はなくなった。
早めにアビドスに帰るか、少しトリニティを見ていくか。
そう悩んでいた俺に阿慈谷さんが声をかけてきた。
「テツヤさんはこの後お時間ありますか?」
「ああ、せっかくだし、ちょっと町を見ていこうかなと」
それを聞いた阿慈谷さんは俺に一つの提案をした。
「では、私がトリニティを案内します!」
「え、いいのか?」
「もちろん。いつかテツヤさんに、トリニティを案内出来たらいいなと思っていたんですよ」
阿慈谷さんの提案は非常にありがたい。
行く当てもなくふらつくよりはマシだし、シロコたちに頼まれたお土産のお店についても聞けるだろう。
こっちとしては断らない理由はない。
「じゃあ、よろしく頼むよ。阿慈谷さん」
「はい! あの、テツヤさん」
「何?」
「その……阿慈谷さんじゃなく、名前で読んでもらえませんか? 私も名前で読んでいるので……」
「そうか。わかったよ、ヒフミさん」
「はい。じゃあ、行きましょう」
ヒフミさんの先導に従い、俺のトリニティ探索は始まった。
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イギリスに旅行しに行ったらこんな気分なのかなと思いながら街並みを眺める。
白い町並みは日差しを反射し、眩しく輝いているように見えた。
「きれいな町だな」
「そう言ってもらえると嬉しいです。トリニティの自治区はキヴォトスの観光地としても有名ですから」
俺の呟きにヒフミさんが反応する。
さっきは学校のほうに近づいて行ったからわからなかったが、学校の傍を離れてみると別の学校の生徒であろう生徒が多い気がする。
アビドスでも他校の生徒をまったく見かけないわけではないが、トリニティに比べればその数は歴然だ。
買い物袋や買い食いを楽しむ生徒たちをどこに行っても見かける。
これが栄えている学校の自治区なのだろう。
アビドスもいつか、こんな風景が見られるようになればいいのだが。
ヒフミさんはゆっくりと歩くと一つの建物の前で止まる。
看板よればケーキ屋さんらしい。
ヒフミさんは振り返り、俺に店の紹介を始める。
「ここはトリニティでも有名なケーキ屋さんです。お土産にはぴったりのお店ですよ!」
「なるほど……ヒフミさんのおすすめは?」
「ショートケーキですね。イチゴの酸味とクリーミーなケーキの組み合わせがベストマッチなんです」
早くもアビドスのお土産が決まった瞬間であった。
探索は始まったばかりだから、帰りにこのケーキ屋に寄ることにしよう。
「帰寄ってもいいかな?」
「はい。ぜひ、アビドスの皆さんと味わってください」
俺とヒフミさんはシュークリームとショートケーキを買った。
どうやら郵送でも届けてくれるらしく、アビドス高等学校あてにショートケーキは頼んでみた。
シュークリームもなかなかのうまさであった。
次にヒフミさんが案内してくれたのは学校並みの大きさを誇るゲームセンターだった。
「ここもでかいな。アビドスのものとは大違いだ」
「入ってみましょう」
中はさまざまな学校の学生が思い思いのゲームを楽しんでいる。
その広さに似合うゲームの種類の幅広さには脱帽するしかない。
「ヒフミさんは普段何をやる?」
「私はクレーンゲームですね。ペロロ様やMr.ニコライの救出を」
「救出て」
クレーンゲームの商品を救出と言い表わすヒフミさんのセンスはおもしろい。
せっかくなので、俺もモモフレンズのクレーンゲームをやってみるか。
そう決めた俺は一つの台の前に立つ。
ペロロ様のぬいぐるみが入った、オーソドックスなクレーンゲームだ。
「テツヤさんはクレーンゲーム得意なんですか?」
「まあまあかな。そこそこやる方だとは思う」
ヒフミさんの質問に答えながらもクレーンをペロロ様の上へと移動させる。
こういうのは少しずつ穴に寄せていくのがセオリーだが、初期位置なのか良い位置取りなので、ペロロ様の足に付いている大きなタグの穴を狙ってみよう。
「いけ」
クレーンがその口を広げながら徐々に下がる。
この瞬間が一番クレーンゲームの楽しいところだと思うのだ。
獲れるかどうかわからないハラハラを目一杯楽しむ。
ガシャンっという効果音と共にアームが閉じる。
閉じたアームの先は……タグの穴に挟まった!
「おお、今日は調子がいい日だ」
「すごいです!」
ウイーンと出口に運ばれていくペロロ様を無事に抱き上げる。
「救出成功」
俺の勝ちです。
勝因はセンスですね。
今日はなんていい日なんだ────
興奮する気持ちを外に出さず、心の中だけで消化する。
「では私も」
「お、やるのかい」
「はい! まだもう一方残っていらっしゃいますから!」
人形に敬語を使う辺りはさすがヒフミさんだ。
気合十分にクレーンゲームへと向き合ったヒフミさんの第一ゲームが始まる。
「いってください!」
降下するアームは俺のように引っ掛けるわけではなく、真正面から獲りに行くコースだ。
アームが閉じ、ペロロ様がガッチリと固定される。
「お、これは……」
アームが上昇を始める。
ペロロ様を掴んだアームが順調に上がっていき────
「ああ!」
上に到達すると同時にペロロ様は落下した。
ありがちな落下である。
「惜しかったな」
「もう一回です!」
おっと火が点いたか?
ヒフミさんは財布の口を開けて追加の100円を取り出した。
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そして数十分が経過した。
「うう……ご縁がなかったということなのでしょうか」
しょぼくれるヒフミさんが痛々しい。
つぎ込んだ金額も相当なものだ。
多分かけた金額を気にしてないあたりが本当に痛々しい。
ペロロ様と縁がないということはヒフミさんのメンタルに深い傷を残しそうだ。
見ていられなくなった俺はヒフミさんの元へと歩き出す。
「ヒフミさん。ちょっと待ってて」
「テツヤさん?」
取り出した100円玉を入れる。
明るいBGMと共に動き出したアームを運び、出口に寄っていたペロロ様をさらに寄せるようにアームを動かす。
一回目はダメだった。
「次」
2回目、少し離れた。
「次」
3回目……よし、良いところに動いたな。
「次。これなら……」
4回目のアームがペロロ様を出口へと押し込んだ。
ガタンと音を立てて落ちるペロロ様。
「はい、どうぞ」
「え!? いいんですか?」
「俺はもう一体持ってるし、ペロロ様もヒフミさんのところに行きたいってさ」
「……ありがとうございます!」
リュックサックにペロロ様をしまいこんだヒフミさん。
喜んでいたヒフミさんは突然、驚いた様子で自分の携帯を取り出した。
「こ、こんなに時間を消費してしまうとは……」
「まあ、楽しかったし」
「これでは全部は回り切れませんか……いえ、せめてあの場所は!」
なにやら考え込んでいたヒフミさんは俺に向きなおった。
「テツヤさん。次に行くところは少し時間がかかります。もしかしたら今日回れるところはそこで最後かもしれません」
「じゃあ、いってみよう。ヒフミさんの押しポイントに」
「わかりました。では行きましょう」
ヒフミさんの案内に従って今まで来た道を戻り、トリニティ総合学院の校舎までたどり着いた。
入り口もヒフミさんのおかげでなんなく通った俺は、やがて校舎の屋上へと辿り着いた。
そこに広がっていたのは────
「すげえな、これは……」
夕暮れに包まれたトリニティの街並みだった。
昼は眩しい白に包まれていた町は夕日の赤一色に染め上がっている。
思わず携帯のカメラで撮ってしまうほどの美しい光景だった。
「ここはトリニティ生だけが知る絶景ポイントなんです。ここにだけは来てほしかったんですよ」
「……俺、トリニティ生じゃないけど。入ってきて大丈夫か?」
「問題ありません。許可はもらいましたから」
……誰に?
ヒフミさんは時々、バックになにかついているような気がするのだが、気のせいだろうか。
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まだ猶予があったので、ヒフミさん激推しの飲食店に向かおうという話になったのだが、突然ヒフミさんの足が止まった。
立ち尽くすヒフミさんは何かを凝視しているようだ、
何を見ているのかとヒフミさんの視線を追っていくと、どうやらモモフレンズのショーが行われているようだった。
葛藤するような表情を浮かべるヒフミさん。
どうやら俺のトリニティ観光を優先したいが、ショーを見に行きたい衝動と戦っているらしい。
俺はヒフミさんに声をかけた。
「ヒフミさん」
「は、はい」
「俺もショーが見に行きたいんだ、案内してくれないか?」
俺の申し出にハッとした表情を浮かべたヒフミさんが答える。
「わかりました! ご案内します!」
「うん」
ヒフミさんは笑顔になるとショーが行われている方向に意気揚々と歩き出した。
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ショーの内容はわかりやすく簡潔だった。
悪党に洗脳された仲間たちをペロロ様が奮闘して正気に戻し、最終的には悪党を成敗する。
見に来ていた観客は幅広く、獣人やアンドロイド、生徒も大勢身に来ていた。
そこにモモフレンズのファン層の広さが伺える。
モモフレンズたちのショースーツも中々よくできていて、ペロロ様の舌が滑らかに動き出し、敵をペロペロと舐めて倒すシーンには度肝を抜かれてしまった。
どういう原理で動いてんだろ、あの舌。
ヒフミさんによればあれらのスーツはミレニアム製の特別品で、様々なギミックが内蔵された『コンプリートセレクションモディフィケーションモモフレンズ』だという。
とんでもない高額ではあるが受注生産で販売を受け付けているらしく、ヒフミさんもそのための貯金をしているとか。
あのレベルの発明品が作られて一般販売されているというのだから、俺の首輪も含めてミレニアムの技術力には驚くしかない。
ショーを見終わった俺は、駅前まで案内してくれたヒフミさんに礼をいった。
「ありがとう、ヒフミさん。今日は楽しかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです。最後はショーも楽しんでいただけたようで……」
「ああ、すごいよな、あのペロロ様のスーツ。舌の滑らかさがリアル過ぎてちょっと驚いた」
「ミレニアム製の『CSMM』ですね! 超高額ですが、マニアなら一つは揃えたい商品です」
モモフレンズ好きではない俺でも少し興味が出るくらいなのだ、ヒフミさんやノノミさんなら喉から手が出るほど欲しいのかもしれない。
……ノノミさんはもう全種揃えているような気もするが。
「今日は本当にありがとうな」
「私も今日は楽しかったです。次はアビドスの皆さんで来てくださいね」
「ああ、そのつもりだよ」
ヒフミさんに見送られながら、俺は帰りの電車へと乗った────
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『ナギサ様、本当に今日はありがとうございました!』
「いえいえ、このくらいなら大したことはありませんよ」
トリニティ総合学院のティーパーティーが所有する邸宅。
その一室で、ティーパーティーの桐藤ナギサはヒフミからの連絡を紅茶を飲みながら優雅に聞いていた。
『まさか正義活動委員会の力まで借りられるなんて、なんてお礼を言えばいいのか……』
トリニティ総合学院はキヴォトスの中では治安のよい部類に入る。
だが、1日に数回は戦闘がどこかで起こるものだ。
しかし、テツヤとヒフミのいるエリアには戦闘はおろか、その痕跡すら見当たらなかった。
当然である。
ティーパーティーのナギサが治安を維持する正義実現員会に手を回し、前もって不穏な動きをするものを取り押さえていたのだ。
ナギサはヒフミの謙遜した様子に笑顔を浮かべながら答える。
「ヒフミさん、あなたが気負う必要はないのです。新条テツヤさんはアビドスの治安部隊の所属。非公式ではありますがトリニティの賓客であることに違いはありませんから」
ナギサの視線の先にあるのはトリニティの諜報部が集めた新条テツヤに関する書類だった。
(……新条、テツヤ)
ヒフミの手前、言うことを躊躇われたが、ナギサにとって新条テツヤはアビドスに現れた2人目の危険分子であった。
1人目は3年生小鳥遊ホシノ。
かつてはアビドス有数の戦力の一つとして数えられたが最近まで同行が不明だったために危険分子認定を外れていた。
しかし、カイザーとの戦闘以降は再び危険分子として数えられる。
その理由は、単独での戦闘能力がトリニティが誇る最恐戦力、正義実現委員会の剣先ツルギに匹敵する可能性があったから。
そして新条テツヤ。
キヴォトス唯一の男子生徒であり、これまた唯一の変身能力を持つ存在。
戦闘経験は少ないながらも高いポテンシャルを兼ね備えた2年生。
「……願わくば、あなたがトリニティの敵ではないことを」
ヒフミの友人。
それを排斥する真似はさせないでほしいと、ナギサはまた一人、トリニティの未来について思考を飛ばした。
・コンプリートセレクションモディフィケーションモモフレンズ
通称『CSMM』
ミレニアムのモモフレンズ愛好家たちによって公式に提供された究極のモモフレンズグッズだ!
これ一つで家が建てられる値段がするぞ!